事業承継で経営権の争いとなった場合の弁護士対応 株式、代表権及び役員を一体で整理する

先代の社長が亡くなった直後の取締役会で、後継者として指名されていたはずの長男ではなく、専務が代表取締役に選定されていました。長男が株主名簿の写しを求めても、会社は応じません。数週間後に法務局で登記事項証明書を取得すると、取締役の構成まで入れ替わっていました。当事務所には、事業承継の局面でこうした御相談が繰り返し寄せられています。

経営権は、単一の権利ではありません。議決権を有する株式、会社を代表する権限、取締役の地位という三つの層から成り立っており、それぞれ根拠となる条文も、争うための手続も異なります。先代の死亡によってこの三つが同時に空白となるため、先に動いた側が既成事実を積み上げやすい構造にあります。

結論から申し上げます。経営権の争いは、議決権の所在の確定、代表権の帰属、役員の構成という三つを一体の計画として組み立てなければ決着しません。いずれか一つだけを争っても、残る二つで巻き返されます。以下、順に御説明します。

本記事が扱う場面と、扱わない場面

事業承継の局面で生ずる紛争は、時点と立場によって採るべき手続が全く異なります。本記事が対象とする範囲を先に明らかにします。

目次

争いは、株式、代表権、役員の三つが同時に動きます

第一の層は株式です。議決権をどれだけ握るかによって、役員の選任も解任も決まります。第二の層は代表権です。会社法第349条第4項は、代表取締役が会社の業務に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有すると定めており、銀行取引、契約の締結、従業員への指揮命令は、この権限を持つ者が事実上独占します。第三の層は役員の地位です。会社法第339条第1項は、役員及び会計監査人はいつでも株主総会の決議によって解任することができると定めています。

この三つは連動していますが、動く速さが違います。代表権は取締役会の一回の決議で移り、役員の構成は株主総会の一回の決議で入れ替わります。これに対し、株式の帰属は遺産の分割が終わるまで確定しません。速く動く層から先に押さえた側が、遅い層の結論が出るまでの数か月から数年の間、会社を実際に動かすことになります。

まず、議決権の所在を確定します

被相続人が保有していた株式は、民法第896条の原則により相続人へ承継されますが、相続人が複数いる場合には、民法第898条第1項により相続財産は共同相続人の共有に属します。民法第899条は、各共同相続人がその相続分に応じて被相続人の権利義務を承継すると定めていますので、遺産の分割が終わるまでの間、株式は各人の相続分に応じた準共有の状態に置かれます。

ここで決定的に効いてくるのが会社法第106条です。同条は、株式が二以上の者の共有に属するときは、共有者は当該株式についての権利を行使する者一人を定め、会社に対してその者の氏名又は名称を通知しなければ、当該株式についての権利を行使することができないと定めています。ただし書により、会社が権利の行使に同意した場合は例外となります。つまり、権利行使者の指定と通知が済んでいない限り、相続人は誰も議決権を行使できないのが原則です。

この構造は、対立する側にとって好都合に働きます。相続人の間で権利行使者が決まらなければ、被相続人が保有していた議決権はすべて凍結され、残りの少数の株主だけで株主総会の決議が成立してしまうためです。したがって、経営権を争う側が最初に行うべき作業は、権利行使者の指定に必要な頭数と持分割合の把握と、会社に対する通知の実行です。会社が同意しない場合に備え、通知の日付が残る方法で行ってください。

代表取締役の地位をめぐる攻防の型

代表取締役の交代は、取締役会設置会社では取締役会の決議により、取締役会を置かない会社では定款、取締役の互選又は株主総会の決議により行われます。争いの局面で頻繁に生ずるのは、招集の通知を一部の取締役に送らないまま決議を成立させる手口と、実際には開催していない取締役会の議事録を作成して登記だけを変更する手口です。前者は決議の効力そのものを争うことになり、後者は議事録の成立の真正が争点となります。

代表取締役が欠けた場合の処理も押さえておく必要があります。会社法第351条第2項は、代表取締役が欠けた場合等において、裁判所は必要があると認めるときは、利害関係人の申立てにより、一時代表取締役の職務を行うべき者を選任することができると定めています。当事者の一方に代表権を握らせたままでは会社の財産が散逸するおそれがある場合に、中立の第三者へ職務を委ねる手段として機能します。

もう一つ注意を要するのが会社法第354条です。同条は、代表取締役以外の取締役に社長、副社長その他会社を代表する権限を有すると認められる名称を付した場合には、その取締役がした行為について、会社が善意の第三者に対して責任を負うと定めています。争いの最中に「社長」を名乗る者が対外的な契約を締結すると、後に内部の決議を覆しても、取引の相手方に対する責任は残ります。

株主総会を開く側と、開かせない側

株主総会の招集は、会社法第298条第1項により、取締役が日時及び場所、目的である事項その他の事項を定めて行います。取締役の側が握っている以上、経営権を争う相続人が総会の開催を待っていても、いつまでも招集されないという事態が生じます。

これに対応する条文が会社法第297条第1項です。同項は、総株主の議決権の100分の3以上の議決権を6か月前から引き続き有する株主は、取締役に対し、株主総会の目的である事項及び招集の理由を示して、株主総会の招集を請求することができると定めています。同条第2項により、公開会社でない株式会社については、6か月の保有期間の要件は適用されません。非上場の同族会社の多くは公開会社ではありませんので、相続によって株式を取得した直後であっても、この請求が可能です。請求の後、遅滞なく招集の手続が行われない場合等には、同条第4項により、裁判所の許可を得て株主自ら招集することができます。

逆に、相手方が開催した株主総会の効力を否定する場面では、会社法第831条第1項が働きます。同項は、招集の手続又は決議の方法が法令若しくは定款に違反し、又は著しく不公正なとき等に、株主等が決議の日から3か月以内に、訴えをもって決議の取消しを請求することができると定めています。この3か月は極めて短い期間です。議事録の存在を知った時点ではなく決議の日が起算点ですので、登記の変更に気付いた時点で既に残り時間がわずかであることが少なくありません。

遺産の分割が済んでいない株式の権利の行使

民法第907条第1項は、共同相続人が、遺言による分割の禁止等の場合を除き、いつでも、その協議で遺産の全部又は一部の分割をすることができると定めています。協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、同条第2項により、各共同相続人は家庭裁判所に分割を請求することができます。

経営権の争いにおいては、遺産の分割の手続と会社法上の手続とを並行させる判断が必要になります。家庭裁判所の手続は、株式以外の遺産の評価や特別受益の主張が絡むため、結論まで年単位を要することが通例です。その間、会社は動き続けます。したがって、分割の帰趨を待たずに、株式の一部について先行して分割の合意を取り付け、議決権を確保するという組立てが有効な場合があります。

権利行使者の指定は、共有者の持分の価格に従いその過半数で決するという運用が実務上採られています。相続分の合計が過半に達する側が指定を主導できますので、誰と誰が組めば過半に達するかを最初に計算してください。この計算を怠り、感情の対立のまま時間が経過すると、会社法第106条の壁によって議決権が凍結された状態が固定化します。

仮処分によって時間を止める場面

本案の訴訟や家庭裁判所の手続には時間がかかります。その間に、争いの相手方が会社の財産を処分し、あるいは新たな役員を選任して既成事実を積み重ねると、後から勝訴しても回復が困難になります。そこで用いられるのが、民事保全法に基づく仮処分です。

経営権の争いで用いられる典型は、取締役又は代表取締役の職務の執行を停止し、併せて職務代行者を選任する旨の仮処分です。これが認められると、対象となった役員は会社を動かせなくなり、裁判所が選任した職務代行者が日常の業務を行います。会社法第351条第2項の一時代表取締役が、代表取締役が欠けた場合の補充の制度であるのに対し、職務執行停止の仮処分は、現に地位にある者の権限を奪う点で性質が異なります。

仮処分は、被保全権利と保全の必要性の疎明を要し、担保金の供託を求められるのが通常です。申立ての準備には、決議の瑕疵を示す資料、財産の処分が現に進行していることを示す資料が必要となります。申立てを検討するのであれば、資料の収集は争いが表面化した直後から始めてください。時間が経つほど、社内の資料へ接近する手段は失われます。

三つを一体で解決するための順序

実務上、着手の順序は次のとおりとなります。第一に、権利行使者の指定に必要な相続分の計算と、指定に協力する相続人の確保です。ここが固まらなければ、以後のすべての手続が空回りします。第二に、会社に対する権利行使者の通知と、株主名簿の記載の是正の要求です。第三に、会社法第297条第1項による招集の請求です。第四に、必要に応じた仮処分の申立てです。第五に、決議の取消しの訴えその他の本案の手続です。

この順序を守るべき理由は、後の手続が前の手続の成果を前提とするからです。議決権を確保しないまま招集を請求しても、総会で否決されるだけです。招集の請求をしないまま仮処分を申し立てても、他に採るべき手段があるとして保全の必要性が否定されやすくなります。順序を飛ばした手続は、費用と時間を費やしたうえで相手方に対応の準備をさせる結果に終わります。

並行して、遺産の分割の手続における株式の取扱いを設計します。後継者が株式を単独で取得して他の相続人には代償金を渡すのか、株式を分割して保有することを前提に株主間の取決めで運営を安定させるのか。途中で変更すると一貫性を失いますので、早い段階で方針を決めてください。

なぜ話合いだけでは決着しないのか

親族の間の話合いで解決しない理由は、感情の対立だけではありません。話合いの席では、会社を現に支配している側に時間の利益があるためです。代表権を握る側は、話合いが長引けば長引くほど、役員報酬を受け取り、取引先との関係を固め、従業員の支持を得ていきます。合意しないことのコストが、双方で全く異なります。

もう一つの理由は、資料の偏在です。決算書類、株主名簿、取締役会議事録は、いずれも会社の側にあります。資料を持たない側は、何を主張すべきかを判断できないまま交渉の席に着くことになり、提示された条件の当否を検証できません。この状態で成立した合意は、後日、前提を欠いていたことが判明する例が少なくありません。

弁護士に任せられる範囲と、依頼の時期

当事務所では、相続分の計算と権利行使者の指定の設計、会社に対する通知及び株主名簿の記載の是正の要求、株主総会の招集の請求、裁判所の許可を得た招集の申立て、決議の取消しの訴えの提起、職務執行停止及び職務代行者選任の仮処分の申立て、遺産の分割の協議及び調停における株式の取扱いの設計まで、御依頼者の側の代理人としてお引き受けいたします。同一の案件について、会社の側と相続人の側の双方を代理することはありません。

御依頼の時期として最も適切なのは、登記の変更や取締役会の開催を知った直後です。会社法第831条第1項の3か月の期間、会社法第297条第1項の請求から招集までの期間、仮処分における保全の必要性の判断は、いずれも時間の経過に強く影響されます。相続の開始から半年以上が経過し、既に相手方が複数回の株主総会を成立させた後では、採り得る手段が大きく狭まります。

  • 電話番号 03-6435-8418
  • 御相談は事前予約制です

御相談の際に、会社の履歴事項全部証明書、定款の写し、株主名簿の写し、直近の計算書類、被相続人の戸籍関係の書類、遺言書がある場合はその写しを御用意いただけますと、検討が早く進みます。

いま確認していただきたいこと

次の各点は、御相談の前に御自身で確認できます。確認の結果によって、採るべき手続の順序が変わります。

  • 履歴事項全部証明書を取得し、代表取締役及び取締役の変更の登記が、いつ、どの決議に基づいて行われたかを確認する。
  • 被相続人の相続人が誰であるかを戸籍で確定し、各人の相続分を計算して、誰と誰が組めば持分の価格の過半に達するかを算出する。
  • 会社に対し、株主名簿の記載事項を証明した書面の交付を書面で求め、その日付を残す。
  • 直近の株主総会の開催日を確認し、決議の日から3か月の期間がどれだけ残っているかを数える。
  • 代表権を有しない者が社長等の名称を用いて対外的な行為をしていないかを、取引先への通知や請求書の名義から確認する。
  • 会社の財産の処分、多額の借入れ、役員報酬の改定が進行していないかを、把握できる範囲で記録する。

よくあるご質問

権利行使者を決められない場合、議決権は完全に行使できないのですか

会社法第106条ただし書により、会社が権利の行使に同意した場合には、権利行使者の指定と通知がなくても権利を行使することができます。もっとも、経営権を争っている局面で会社が同意することは期待できません。持分の価格の過半を確保して指定を行うことが、現実的な唯一の道筋となります。

相続の開始から6か月経っていませんが、株主総会の招集を請求できますか

非上場の同族会社の多くは公開会社ではありません。会社法第297条第2項により、公開会社でない株式会社については6か月の保有期間の要件が適用されませんので、相続によって株式を取得した直後であっても請求することができます。定款で保有期間の定めが置かれていないかは確認してください。

決議の日から3か月を過ぎてしまった場合、争う方法はありませんか

会社法第831条第1項の訴えは提起できなくなりますが、決議が存在しない場合や、決議の内容が法令に違反する場合には、期間の制限のない別の訴えによって争う余地があります。いずれに当たるかは、招集の手続と決議の経過を資料に基づいて確認しなければ判断できません。

職務執行停止の仮処分が認められると、会社の業務は止まってしまいますか

止まりません。裁判所が職務代行者を選任し、その者が常務に属する行為を行います。常務に属しない行為については裁判所の許可を要しますので、大きな処分は抑制されます。争いが続く間、会社を中立の状態に置くための制度です。

代表取締役を解任すれば、経営権の争いは終わりますか

終わりません。会社法第339条第1項による解任は株主総会の決議によりますので、そもそも議決権を確保していなければ実行できません。また、解任された者が株式を保有していれば株主として残り、次の総会で巻き返しを図ります。株式の帰属を確定させない限り、争いは形を変えて続きます。

おわりに

事業承継の局面における経営権の争いは、先に動いた側が有利になる構造を持っています。しかし、構造が分かっていれば、後から動く側にも採るべき手順があります。議決権の所在を確定し、会社法上の手続を現実に採り得る状態を作り、必要な範囲で保全の手段を用いることが、遠回りに見えて最も速い道です。

本記事の記載は一般的な説明であり、個別の事案における結論を保証するものではありません。定款の定め、株主の構成、決議の経過によって、採るべき手続は変わります。

必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。

事業承継における経営権の争いに関する御相談
弁護士法人M&A総合法律事務所 電話番号 03-6435-8418
受付時間 8:00-21:00(土日祝含む)

出典

  • 会社法(平成17年法律第86号)第106条、第297条第1項、第298条第1項、第339条第1項、第349条第4項、第351条第2項、第354条、第831条第1項
  • 民法(明治29年法律第89号)第896条、第898条第1項、第899条、第907条第1項及び第2項
  • e-Gov法令検索(デジタル庁) 法令の条文の確認に用いています。

具体的な御相談をお考えの皆様へ

本ページの主題に関し、当事務所の取扱内容、対応の進め方及び費用の考え方は、次の御案内のページに整理しています。あわせて御覧ください。

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