事業承継のトラブルを弁護士に相談するとき 依頼するかどうかの判断基準と、相談の前に整える資料

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事業承継のトラブルの相談に関するメインのページです。本ページは、事業承継で対立が生じた方が依頼を決める目安と、相談の前に整える資料をご説明します。トラブルの全体像は別のページをご参照ください。
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本記事が扱う場面と、扱わない場面
本記事は、事業承継のトラブルについて、弁護士に依頼するかどうかをどのように判断し、相談の場に何を持参するかという実務の入口を扱います。関連する主題は、次のページに整理しています。
- 依頼の要否の判断と、相談の前の準備……本記事
- 弁護士に何を頼めるかという総論……事業承継を弁護士に相談を検討中の皆様へ
- 事業承継のトラブルの全体像及び類型……事業承継に生じやすいトラブルと問題が起きる原因及び対策
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- 非上場株式の評価方法の詳細……相続した株式の評価を弁護士に依頼して争うとき
- 遺留分侵害額請求の手続の詳細……遺留分に関する解説の総合案内
事業承継の場面で身内や共同経営者との間に食い違いが生じたとき、多くの経営者の方が最初に迷われるのは、法律論そのものではなく、これは弁護士に相談するような話なのかという一点です。まだ話合いの段階にすぎない、身内の問題を他人に持ち込むのは大袈裟だ、費用がどれほどかかるか分からない。そうした逡巡のうちに時間が過ぎ、気付いたときには法律上の期間の制限を過ぎていて、採り得た手段が失われていたという事例は、決して少なくありません。
本記事は、事業承継のトラブルについて、どの段階で弁護士に相談すべきか、自ら交渉する場合と弁護士に依頼する場合とで何がどう変わるか、そして相談に臨む前に何を用意し、何を整理しておくべきかを、実務の順序に沿って整理するものです。依頼を一律に勧めることを目的とはしません。弁護士に依頼することが有効でない局面についても、率直に記載します。
事業承継のトラブルを弁護士に相談すべき場面 五つの類型
事業承継のトラブルという言葉は広い意味を持ちますが、ご相談の内容は、次の五つの類型のいずれかに収まることがほとんどです。まず、ご自身の状況がどれに当たるかを確かめていただきます。
第一の類型は、後継者と後継者以外の相続人との対立です。会社を継ぐ子に株式が集中し、他の子には見合う財産が残らないという構図です。争点は、遺留分侵害額の請求、特別受益の持戻し、代償金の額に及びます。資料としては、遺言書、贈与の記録、会社の決算書類が必要となります。
第二の類型は、経営権そのものの争いです。株式の議決権、代表取締役の地位、役員の構成が同時に動きます。株主総会の招集、決議の効力、登記の是正が争点となります。時間の制約が厳しく、決議の取消しの訴えには決議の日から3箇月という期間の制限があります。
第三の類型は、株式の評価をめぐる争いです。後継者が示す株価が低すぎるというご相談と、買取りを求められた価格が不当であるというご相談とがあります。相続税の課税のための評価額、遺産の分割のための評価額、会社法上の価格は、それぞれ別の考え方によりますので、どの場面の価格を論じているかを最初に整理します。
第四の類型は、会社が資料を開示しない場面です。決算書類、株主名簿、議事録が示されないため、株価も遺産の範囲も確かめられないという状態です。会社法第442条第3項による計算書類等の閲覧の請求、会社法第433条第1項による会計帳簿の閲覧謄写の請求により、順序を追って開示を求めます。
第五の類型は、従業員又は第三者への承継に伴う資金と保証の問題です。後継者に株式の買取りの資金がない場合、個人保証を引き継ぐ必要がある場合に、どのような枠組みを用いるかが問題となります。
いずれの類型であっても、共通して必要となるのは、会社の資料と、期限の把握です。以下、相談の前に整えていただきたい事項を順にご説明します。
事業承継のトラブルを弁護士に相談すべき段階
事業承継に関する紛争は、突然発生するものではなく、多くの場合、相当に長い前史を持ちます。弁護士が果たし得る役割は、相談を受ける時期によって大きく異なります。ここでは、承継の前、承継の最中、承継の後という3つの段階に分けて整理します。
承継の前 設計の段階
先代の経営者が健在で、後継者も定まっておらず、株式の移転もまだ始まっていない段階です。この段階では、そもそも紛争が存在しません。したがって、弁護士の役割は紛争の解決ではなく、将来生じ得る紛争の芽をあらかじめ摘んでおくことにあります。
具体的には、株主名簿と実際の出資の経緯とが一致しているかの確認、名義株の整理、定款における譲渡制限の定めの点検、後継者以外の相続人に対する遺留分への配慮を織り込んだ遺言書の作成、株主間契約による議決権行使の取決め、種類株式の設計といった作業です。この段階での作業は、いずれも当事者間に対立がない状態で行われますので、合意の形成が容易であり、費用も紛争が生じた後に比べて格段に低く収まります。
この段階で相談されないまま承継が進んだ場合に失われるものは、選択肢の幅そのものです。対立が生じてしまえば、相手方の同意を要する手段は事実上採り得なくなります。定款の変更にせよ、株式の集約にせよ、対立の後では株主総会の特別決議を要する場面で頓挫します。
承継の最中 合意形成の段階
後継者は定まったものの、株式の移転、代表者の変更、金融機関の個人保証の引継ぎ、他の相続人への配慮といった課題が同時に進行している段階です。すでに関係者の間で温度差が生じており、明確な紛争には至っていないものの、話合いが停滞している状態が典型です。
この段階における弁護士の役割は、合意の内容を法的に成り立つ形に落とし込み、後日の蒸し返しを封ずることにあります。口頭の了解や覚書の水準にとどまっている合意は、当事者の記憶や感情の変化によって容易に崩れます。株式譲渡契約書、株主間契約書、役員退職慰労金の支給に関する株主総会の決議、金融機関との保証契約の切替えの手当てを、相互に矛盾のない形で組み上げる必要があります。
この段階で相談が遅れた場合に失われるものは、合意が成立していた事実の証明手段です。当時は誰もが当然と考えていた事柄が、数年後に争われたときに、これを裏付ける書面が存在しないという事態が生じます。
承継の後 紛争が顕在化した段階
株式の帰属、株式の価格、代表権、役員報酬、会社財産の使途といった事項について、明確な対立が生じている段階です。相手方に代理人が就いている場合や、株主総会の招集、会計帳簿の閲覧謄写の請求、裁判上の手続が現に問題となっている場合が含まれます。
この段階における弁護士の役割は、採り得る法的手段を選別し、期間の制限を徒過しないうちに着手することにあります。ここで最も注意を要するのが、次に述べる期間の制限です。
相談が遅れることで失われるもの 法律上の期間の制限
事業承継の紛争において、相談の時期が決定的に重要となる理由は、関係する法律上の期間の制限が、いずれも短いという点にあります。これらの期間を徒過した場合、権利そのものが消滅し、又は訴えを提起することができなくなります。事後に事情を説明しても、原則として救済されません。主要なものを次に整理します。
| 場面 | 期間 | 根拠条文 | 徒過した場合に失われるもの |
|---|---|---|---|
| 譲渡制限株式について会社が買い取る旨の通知を受けた後、売買価格の決定を裁判所に求める場合 | 通知があった日から20日以内 | 会社法第144条第2項 | 価格を争う手段が失われ、会社が提示した1株当たりの純資産額を基準とする額が売買価格として確定します |
| 指定買取人が買い取る旨の通知をした場合の売買価格の決定の申立て | 通知があった日から20日以内 | 会社法第144条第7項において準用する同条第2項 | 同上です |
| 遺留分侵害額の請求 | 相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間。相続開始の時から10年を経過したときも同様です | 民法第1048条 | 後継者に株式が集中したことに対して金銭の支払を求める権利が消滅します |
| 株主総会の決議の取消しの訴え | 決議の日から3箇月以内 | 会社法第831条第1項 | 招集手続又は決議の方法に瑕疵があっても、決議の効力を争えなくなります |
| 役員の解任の訴え | 株主総会において解任の議案が否決された日から30日以内 | 会社法第854条第1項 | 裁判所を通じて役員の解任を求める手段が失われます |
| 株主代表訴訟の提起 | 会社に対する提訴の請求の日から60日以内に会社が訴えを提起しないとき | 会社法第847条第3項 | 前提として、6箇月前から引き続き株式を有することを要します |
| 相続の放棄又は限定承認 | 自己のために相続の開始があったことを知った時から3箇月以内 | 民法第915条第1項 | 単純承認したものとみなされ、会社の債務に係る個人保証を承継する結果となる場合があります |
| 遺産分割における特別受益及び寄与分の主張 | 相続開始の時から10年を経過するまで | 民法第904条の3 | 生前に後継者へ贈与された株式を特別受益として持ち戻す主張が制限されます |
この表のうち、実務上とりわけ相談の遅れが致命的となるのは、会社法第144条第2項の20日です。譲渡制限株式の譲渡を承認するよう請求したところ、会社がこれを承認せず、会社自らが買い取る旨を通知してきた場合、この通知の日から20日以内に裁判所へ売買価格の決定を申し立てなければなりません。この20日を過ぎますと、会社法第144条第5項により、1株当たりの純資産額に株式の数を乗じた額が売買価格となります。非上場の同族会社では、この額が実質的な企業価値を大きく下回ることが通常です。20日という期間は、書面を受け取ってから資料を集め、弁護士を探し、方針を決めるには、極めて短い期間です。
遺留分侵害額請求についても同様です。1年という期間は、相続の開始と、遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から進行します。先代の経営者が後継者に対して生前に株式を贈与していた事案では、他の相続人がその事実を知った時点が起算点となりますので、遺産分割の協議の場で初めて贈与の事実が明らかになった場合、その時から1年の経過に注意を払う必要があります。
株主総会の決議の取消しの訴えにおける3箇月も、実務では頻繁に問題となります。招集通知を受け取っていない株主総会で後継者が代表取締役に選定されていた、といった事案において、決議の日から3箇月を経過した後に相談を受けた場合、決議の効力を正面から争う手段は失われています。
自ら交渉する場合と弁護士に依頼する場合の比較
弁護士への依頼は、あらゆる場面で有効というわけではありません。費用と時間を投じるに値する局面と、そうでない局面とがあります。ここでは、両者を率直に書き分けます。
弁護士に依頼することが有効な局面
第1に、相手方に代理人が就いた場合です。相手方に弁護士が就いた時点で、交渉は法的な枠組みの上で進行します。相手方の主張は法律構成を伴って提示され、こちらの発言は将来の裁判における主張及び証拠として位置付けられます。この状態で当事者本人のみが対応することは、率直に申し上げて不利です。とりわけ、相手方から示された和解案について、その提案が法的にどの程度の水準にあるのかを判断する材料を持たないまま応諾することは、避けるべきです。
第2に、株主総会の招集や裁判上の手続が必要となった場合です。会社法第297条に基づく株主総会の招集の請求、会社法第433条に基づく会計帳簿の閲覧謄写の請求、株主総会の決議の取消しの訴え、売買価格の決定の申立てといった手続は、いずれも要件と手順が厳格に定められています。持株比率の要件、保有期間の要件、請求の理由を具体的に記載すべき要請といった点で、形式の不備により請求そのものが退けられる例が現実に生じています。これらは、書面の作成の段階から弁護士が関与すべき領域です。
第3に、株式の価格が争点となった場合です。非上場株式には市場価格が存在しませんので、価格は評価によって定まります。相続税評価額、純資産価額、類似業種比準価額、収益還元、DCF法(ディスカウンテッド・キャッシュ・フロー法)といった複数の考え方があり、いずれを採るかによって結論が大きく変動します。相手方から相続税評価額を前提とする金額を提示され、それが唯一の正しい数値であるかのように説明される場面は頻繁に生じますが、裁判所が売買価格を決定する場面で用いられる評価の考え方は、相続税の課税のための評価とは別のものです。この点を争うには、評価に関する主張と、それを裏付ける会計の資料の双方が必要となります。
第4に、親族間の感情的な対立が激しい場合です。これは法律上の理由ではなく、実務上の理由です。当事者同士が直接に交渉を続けますと、過去の経緯に関する応酬に終始し、解決すべき論点に到達しないまま関係のみが悪化します。代理人を介在させることにより、交渉の対象を、株式の数、価格、支払の時期、代表権の帰属といった処理可能な事項に限定することができます。当事者が直接に顔を合わせなくてよくなること自体に、実務上の意義があります。
弁護士に依頼することが有効とは限らない局面
他方で、次のような場面では、弁護士に依頼する実益が乏しいか、又は依頼の内容を限定すべきです。
第1に、当事者間で既に実質的な合意が成立しており、書面化のみが残っている場合です。誰が何株をいくらで取得するか、支払はいつ行うか、代表者はいつ交代するかについて、関係者全員の認識が一致しているのであれば、必要な作業は契約書等の作成に限られます。この場合、交渉の代理を委任する必要はなく、書面の作成及び点検のみを依頼することで足ります。全面的な委任と比較して、費用の水準は大きく異なります。合意が成立しているにもかかわらず代理人を立てますと、かえって相手方が身構え、成立していた合意が動揺する例もあります。
第2に、争点が税務に限られる場合です。株式の評価額をめぐる争いが、相続税又は贈与税の課税の当否に関するものであり、当事者間の民事上の争いを含まないのであれば、税理士に相談すべき事項です。事業承継税制の適用の可否、納税猶予の要件の充足といった論点も同様です。もっとも、当事者間で株式の帰属自体が争われている場合には、税務と民事の双方が関係しますので、後述のとおり連携が必要となります。
第3に、金額の規模に照らして費用の均衡を欠く場合です。争いの対象となる株式の価値が、想定される弁護士費用に照らして著しく小さい場合、経済的な合理性は失われます。この判断は、相談の段階で率直に申し上げるべき事柄です。当事務所においても、依頼を受けることが依頼者の利益にならないと判断する場合には、その旨を申し上げます。
第4に、事実関係の調査が全く行われていない段階です。誰が株主であるかすら判然としない、決算書を見たことがない、といった段階では、方針を立てる前提が欠けています。この場合、まず後述の資料を整えることが先決であり、資料が整うまでは相談の実りが乏しくなります。もっとも、資料を自ら取得することが困難な場合には、その取得自体を弁護士に依頼することができます。
相談の前に整えておく資料
相談の実りは、持参された資料の量によって大きく変わります。事業承継の紛争は、当事者の記憶ではなく、書面に残された事実によって判断されるためです。以下に、事業承継のトラブルに関する相談において基本となる資料を、取得先及びそこから読み取れる事項とともに整理します。すべてを揃えてから相談されるべきという趣旨ではありません。手元にあるものを持参し、不足するものは相談の場で取得の方法を確認するという進め方で差し支えありません。
| 資料 | 取得先 | 読み取れる事項 |
|---|---|---|
| 定款 | 会社の本店に備え置かれています。公証役場で認証された原始定款の謄本を請求できる場合もあります。株主は、会社法第31条第2項により閲覧謄写を請求できます | 株式の譲渡制限の有無と承認機関、株主総会の決議要件、取締役の員数と任期、種類株式の内容、相続人等に対する売渡しの請求(会社法第174条)の定めの有無 |
| 履歴事項全部証明書 | 法務局の窓口、郵送又は登記情報提供サービスにより、誰でも取得できます | 発行済株式総数、資本金の額、役員の氏名と就任及び退任の年月日、代表取締役の変更の時期、本店の移転、目的の変更の経緯 |
| 株主名簿 | 会社の本店に備え置かれています。株主及び債権者は、会社法第125条第2項により閲覧謄写を請求できます | 誰が何株を保有しているとされているか、名義の変更の履歴、名義株の疑いの有無、議決権の分布と特別決議の可否 |
| 直近3期の決算書 | 会社の経理部門又は顧問税理士が保管しています。株主は、会社法第442条第3項により計算書類等の閲覧謄写を請求できます | 純資産の額、利益の推移、役員報酬の水準、借入金の残高、株式の評価の出発点となる数値 |
| 勘定科目内訳明細書 | 法人税の確定申告書に添付されており、顧問税理士が保管しています | 貸付金及び借入金の相手方、役員に対する貸付けの有無、不動産及び有価証券の明細、実質的な資産の内容。決算書のみでは見えない資産の流出の端緒 |
| 遺言書 | 公正証書遺言は公証役場の遺言検索により有無を確認できます。自筆証書遺言は法務局の保管制度により保管されている場合があります | 株式を誰に承継させる意思であったか、遺留分に対する配慮の有無、遺言執行者の指定、付言事項に示された先代の経営者の意向 |
| 遺産分割協議書 | 相続人各自が保管しています。不動産の登記に用いられた場合は、法務局で登記原因証明情報として確認できる場合があります | 株式の帰属について既に合意が成立しているか、合意の範囲、代償金の定めの有無、後日の紛争が蒸し返しに当たるかどうかの判断材料 |
| 株主間契約書 | 締結の当事者が各自保管しています | 議決権の行使に関する取決め、株式の譲渡の制限、先買権、共同売却権、役員の指名権、契約に違反した場合の効果 |
| 金融機関との保証契約書 | 取引金融機関に写しの交付を求めることができます。会社の経理部門にも保管されていることが通常です | 誰が個人保証を負っているか、保証の範囲と限度額、根保証の元本確定の事由、代表者の交代に伴う保証の解除の可否 |
| これまでのやり取りの記録 | ご自身の手元にあります。電子メール、書面、通話の記録、当時の手帳や日誌 | 合意の成否と成立の時期、相手方の認識、いつから対立が生じたか、期間の制限の起算点となる事実を知った時期 |
これらのうち、履歴事項全部証明書は誰でも取得することができますので、相談の前に必ず取得されることをお勧めします。発行済株式総数と役員の異動の経緯という、事案の骨格に当たる事実がこれ一通で判明します。
他方、株主名簿、決算書及び勘定科目内訳明細書については、会社が開示に応じない場合があります。開示を拒まれている状態そのものが、紛争の存在を示す重要な事実です。この場合、会社法第433条に基づく会計帳簿の閲覧謄写の請求により取得を図ることになりますが、この請求には総株主の議決権の100分の3以上又は発行済株式の100分の3以上を有することという要件があり、また請求の理由を具体的に明らかにすることを要します。会社は、会社法第433条第2項各号に該当する場合には請求を拒むことができますので、請求の理由の記載の仕方が結論を左右します。開示を受けられていない段階でこそ、早期に相談される意義があります。
なお、資料が全く手元にない場合であっても、相談を控える必要はありません。資料がないという事実自体が、事案の性質を示す情報です。
相談の申込みから受任までの進み方と、初回の相談で確認する事項
申込みから初回の相談まで
ご相談の申込みは、電話又は問合せの書式により承ります。受付時間は 8:00-21:00(土日祝含む) です。申込みの際に、会社の名称、ご自身の立場(後継者、他の相続人、株主、役員のいずれであるか)、相手方となる方の氏名、及び現在の状況の概要をお伝えいただきます。相手方となる方の氏名を先に確認するのは、当事務所が既に相手方からご依頼を受けている場合にご相談をお受けすることができないためです。
初回の相談までに資料を送っていただけますと、当日の時間を検討に充てることができます。送っていただく資料は、前の大見出しに掲げたもののうち、手元にあるものだけで差し支えありません。資料が揃うまで相談を待つ必要はありません。資料の不足そのものが争点となる事案が多いためです。
初回の相談で確認する事項
初回の相談では、次の順序で確認します。第一に、事実関係の時系列です。相続の開始の日、遺言書の有無、株式の異動の時期、株主総会の開催の状況を並べます。第二に、期限です。相続の放棄の3箇月、相続税の申告の10箇月、決議の取消しの訴えの3箇月、売渡しの請求の1年のうち、どれが進行しているかを確定します。第三に、資料の所在です。手元にあるもの、会社にあるもの、法務局又は税務署から取得できるものに分けます。第四に、望まれる結果です。会社の経営を継続したいのか、株式を換価したいのか、公平な分配を求めるのかによって、採るべき手段が変わります。
そのうえで、採り得る手段と、それぞれの見込み及び要する期間をご説明します。結果を保証する説明は行いません。会社の資料の状況、相手方の対応、他の株主の動きによって結論が変わるためです。ご説明する内容は、現在確認できる事実を前提とした見通しに限られます。
受任の判断と、その後の進み方
受任をお決めいただいた場合には、委任契約書を作成し、費用の内容を書面により明示します。費用の考え方は、後の大見出しに整理しています。着手の後は、まず相手方及び会社に対する書面の送付から始まります。書面の内容と送付の時期は、期限の管理と併せて設計します。
その後の進み方は、交渉、調停又は訴訟という順序をたどることが多くありますが、事案によっては、仮処分の申立てを先行させる場合、又は株主総会の招集の請求を先行させる場合があります。いずれの段階においても、次に何を行うか、何を待っているのかをご報告します。
関連する記事として、事業承継に生じやすいトラブルと問題が起きる原因及び対策、事業承継で経営権の争いとなった場合の弁護士対応 株式、代表権及び役員を一体で整理する及び従業員に会社を承継させるときに生じるトラブルと対処 株式の買取資金、個人保証、親族株主との調整をご覧ください。
相談の前に整理しておくべき事項
資料と並んで重要なのが、ご自身の認識の整理です。相談の場で最初に確認されるのは、次の4点です。あらかじめ整理しておかれますと、限られた相談の時間を方針の検討に充てることができます。
誰が何株を保有しているか
株主の構成は、採り得る手段を決定する最も基本的な事実です。議決権の3分の2以上を確保できるかによって定款の変更が可能かどうかが決まり、過半数によって役員の選任及び解任の可否が決まり、100分の3以上によって会計帳簿の閲覧謄写の請求及び株主総会の招集の請求の可否が決まり、100分の1以上によって株主提案の可否が決まります。
ここで注意を要するのが、株主名簿上の記載と実質とが一致しない場合です。会社の設立当時、発起人の員数を満たすために親族や従業員の名義を借りていた例は、古い同族会社では珍しくありません。名義株の帰属は、出資金を実際に拠出したのが誰かによって判断されますので、当時の払込みの記録が残っているかが要点となります。名義人とされている方が既に亡くなり、その相続人が株主としての権利を主張してきたという相談は、実務上しばしば生じます。
いつから対立が生じているか
対立の起点を時系列で整理してください。先代の経営者の入院、代表者の交代、役員報酬の改定、株主総会の欠席、決算書の開示の拒絶といった出来事を、年月とともに並べます。この作業は、期間の制限の起算点を特定するために不可欠です。前述のとおり、遺留分侵害額請求の1年、株主総会の決議の取消しの訴えの3箇月、売買価格の決定の申立ての20日は、いずれも特定の日から起算されます。
何を実現したいか
目的を明確にしていただくことが、最も重要です。事業承継の紛争における目的は、概ね次の3つに整理されます。
金銭を得ることが目的である場合。保有する株式を適正な価格で買い取らせること、又は遺留分侵害額に相当する金銭の支払を受けることが中心となります。この場合、会社の経営に関与し続ける必要はありませんので、株式の価格の評価が主戦場となります。
経営権を確保することが目的である場合。株式の集約、役員の構成の是正、代表権の回復が中心となります。この場合、資金の手当てと、株主総会における議決権の確保が要点となります。
関係の維持が目的である場合。親族としての関係を将来にわたって保ちたいというご意向がある場合、裁判上の手続は必ずしも適切ではありません。この場合、交渉又は調停による解決を優先し、訴訟を最後の手段として位置付けます。
これらは両立しない場合があります。経営権の確保と関係の維持とを同時に達成することは、相手方が経営から退くことを受け入れない限り困難です。優先順位を定めていただくことが、方針の決定そのものです。
譲れない点は何か
交渉である以上、すべての要求が通ることはありません。株式の価格、支払の時期と方法、代表権の帰属、役員としての処遇、個人保証の解除、本社建物等の会社が使用する不動産の取扱いといった論点のうち、絶対に譲れない点と、条件次第で譲り得る点とを、あらかじめ区別しておいてください。この区別が明確であるほど、交渉の進行は速くなります。
弁護士に相談する際の費用の考え方
費用は、相談を躊躇される最大の理由です。ここでは、具体的な金額ではなく、費用がどのような費目から成り、何によって変動するかという考え方を説明します。実際の金額は、事案の内容に応じてご提示します。
費目の意味
着手金は、事件の依頼を受ける際にお支払いいただくもので、結果の成否にかかわらず返還されないことを原則とします。これは、結果が出るまでの間の活動に対する対価です。
報酬金は、事件が終了した際に、得られた結果に応じてお支払いいただくものです。事業承継の紛争では、株式の買取価格として得られた金額、支払を免れた金額、確保した株式の価値といったものが算定の基礎となります。
実費は、収入印紙代、郵便切手代、登記事項証明書等の取得の費用、記録の謄写の費用、鑑定を要する場合の鑑定人の費用等、事件の処理に現実に支出される費用です。株式の価格が争点となる事案では、裁判所が鑑定を実施することがあり、この鑑定の費用は相当の額に及ぶ場合があります。
日当は、遠方の裁判所への出頭等、弁護士が事務所を離れて活動する場合の拘束に対する対価です。
費用が変動する要素
事業承継の紛争において、費用の水準を左右する主な要素は次のとおりです。
- 争いの対象となる経済的な利益の大きさ。株式の価値が大きいほど、着手金及び報酬金の算定の基礎が大きくなります。
- 手続の種類と数。交渉のみで終了する場合と、売買価格の決定の申立て、株主総会の決議の取消しの訴え、遺産分割の調停といった手続を複数併行して進める場合とでは、要する労力が大きく異なります。
- 相手方の数。相続人が多数に及ぶ事案では、それぞれとの調整を要しますので、労力が増加します。
- 評価に関する主張の要否。株式の価格を正面から争う場合、会計の資料の分析と評価に関する主張の構築を要しますので、専門家との連携の費用を含めて考える必要があります。
- 期間。裁判上の手続は、年単位の期間を要することがあります。
当事務所の費用の考え方については、弁護士費用のページに整理しています。相談の進め方については、相談の流れのページをご覧ください。
弁護士を選ぶ際の着眼点
弁護士は、いずれの分野の事件も取り扱うことができます。もっとも、事業承継の紛争は、会社法、相続法、株式の評価という3つの領域が交錯する分野ですので、依頼を検討される際には、次の点を確認されることをお勧めします。以下は、依頼者の立場から確認すべき事項を述べるものであり、特定の事務所の優劣を論ずるものではありません。
会社法上の紛争の取扱いの経験
事業承継の紛争は、相続の問題であると同時に、会社をめぐる紛争です。株主総会の招集及び運営、決議の瑕疵を争う訴え、取締役の責任の追及、会計帳簿の閲覧謄写の請求、株式の譲渡の承認の請求といった手続を実際に取り扱った経験があるかどうかを確認してください。相続の分野のみを取り扱う場合、遺産分割の枠内での解決に議論が収束し、会社法上の手段が検討されないことがあります。逆に、会社法の分野のみを取り扱う場合、遺留分及び特別受益に関する検討が手薄となることがあります。双方を併せて扱えるかどうかが要点です。
非上場株式の価格をめぐる争いの経験
前述のとおり、非上場株式の価格は評価によって定まります。相手方が提示する相続税評価額に対して、収益還元やDCF法を用いた反論を組み立てた経験があるか、裁判所が選任する鑑定人の鑑定に対して意見を述べた経験があるかを確認してください。価格が争点となる事案において、この経験の有無は結論に直結します。
税理士及び公認会計士との連携の有無
株式の評価、事業承継税制の適用、役員退職慰労金の損金算入、株式の移転に伴う課税といった論点は、法律上の判断と税務上の判断とが不可分に結び付いています。弁護士のみで完結する事案はむしろ少数です。日常的に税理士及び公認会計士と連携して事件を処理しているかどうかを確認してください。とりわけ、株式の価格を争う場面では、会計の専門家による分析を前提として法律上の主張を構築します。
説明の内容
相談の場において、見込みの乏しい点についても率直に説明がされるかどうかをご確認ください。事業承継の紛争では、望ましい結論が法律上得られない場面が現に存在します。期間の制限を既に徒過している、持株比率の要件を満たさない、主張を裏付ける資料が存在しないといった事情がある場合、それを明確に伝えることが、依頼者の利益に適います。
よくあるご質問
まだ話合いの段階ですが、相談してよいものでしょうか
差し支えありません。むしろ、話合いの段階での相談が最も有効です。前述のとおり、期間の制限の多くは、相手方から書面が届いた時点や株主総会が開催された時点から起算されます。書面が届いてから相談されますと、検討の時間が残されていない場合があります。相談は、依頼を前提とするものではありません。方針を確認し、ご自身で交渉を続けられるという結論に至る場合もあります。
相手方は親族です。弁護士を立てると関係が決定的に壊れませんか
このご懸念は理解できます。もっとも、弁護士に依頼することと、直ちに裁判上の手続に移行することとは別です。まず代理人として交渉に当たり、合意による解決を目指すという進め方が可能です。実務上は、当事者が直接に対立を続けるよりも、代理人を介した方が感情的な応酬が収まり、結果として関係が保たれる例が多く見られます。ご意向として関係の維持を重視される旨をお伝えいただければ、それを前提とした進め方を採ります。
会社が決算書を見せてくれません。どうすればよいでしょうか
株主であれば、会社法第442条第3項により計算書類等の閲覧謄写を請求することができ、また会社法第433条により会計帳簿の閲覧謄写を請求することができます。後者には持株比率の要件があります。任意の開示に応じない場合、これらの請求を書面で行い、なお応じないときは訴えを提起することになります。開示の拒絶が続いている場合、その間に会社の資産が流出している可能性もありますので、早期の着手をお勧めします。
個人保証を外したいのですが、可能でしょうか
先代の経営者が会社の債務について個人保証を負ったまま引退される場合、又は後継者が新たに保証を求められる場合の取扱いです。保証契約は金融機関との間の契約ですので、解除には金融機関の同意を要します。この点について、経営者保証に関するガイドラインが公表されています。もっとも、これは法令ではなく、関係者による自主的な準則ですので、法的な強制力を有するものではありません。実務上は、これを踏まえた交渉が行われており、法人と経営者個人の資産及び経理が明確に分離されていること、法人のみの資産及び収益力で返済が可能であること、金融機関に対して適時適切に財務情報が開示されていることといった事情が整っている場合には、保証の解除又は新たな保証を求めないことについて協議が調う例があります。会社の実態を整えることが交渉の前提となりますので、承継の前の段階からの準備が有効です。
相談の際、何を持参すればよいでしょうか
前記の表に掲げた資料のうち、手元にあるものをご持参ください。すべてが揃っていなくても構いません。とりわけ、履歴事項全部証明書と、相手方から届いた書面があれば、初回の相談としては十分に方針を検討できます。
他の専門家に既に相談しています。改めて相談してよいでしょうか
差し支えありません。事業承継は複数の専門分野にまたがりますので、税務は税理士に、法律上の紛争は弁護士にというように、役割を分けて相談されることは適切な進め方です。専門家の役割分担については、事業承継及び会社の相続における専門家の役割分担のページに整理しています。
まとめ
事業承継のトラブルについて弁護士に相談すべきかどうかの判断は、次のように整理できます。
第1に、時期です。承継の前の段階であれば紛争の予防として、承継の最中であれば合意の書面化として、承継の後であれば法的手段の選別として、それぞれ弁護士が果たし得る役割があります。いずれの段階であっても、相談が早いことによる不利益は生じません。
第2に、期間の制限です。売買価格の決定の申立ての20日、株主総会の決議の取消しの訴えの3箇月、遺留分侵害額請求の1年及び10年をはじめとして、事業承継に関係する期間の制限は短く、これを徒過すれば採り得る手段が失われます。相手方から書面が届いた場合、株主総会が開催された場合、相続が開始した場合には、日を置かずにご確認ください。
第3に、依頼の要否です。相手方に代理人が就いた場合、裁判上の手続を要する場合、価格が争点となる場合、感情的な対立が激しい場合には、依頼の実益が大きいといえます。他方、既に合意が成立し書面化のみが残る場合や、争点が税務に限られる場合には、依頼の範囲を限定するか、他の専門家に相談されることが適切です。
第4に、準備です。定款、履歴事項全部証明書、株主名簿、直近3期の決算書及び勘定科目内訳明細書、遺言書、遺産分割協議書、株主間契約書、金融機関との保証契約書、これまでのやり取りの記録を、可能な範囲で整えてください。あわせて、誰が何株を持つか、いつから対立しているか、何を実現したいか、譲れない点は何かを整理してください。
当事務所は、非上場株式の相続及び事業承継に関する紛争を継続的に取り扱っております。株式の帰属、価格、経営権をめぐる争いについて、会社法と相続法の双方の観点から方針を検討いたします。ご相談をお考えの場合は、上記の資料のうち手元にあるものをご用意のうえ、お問い合わせください。
具体的なご相談をお考えの皆様へ
本頁の主題に関し、当事務所の取扱内容、対応の進め方及び費用の考え方は、次のご案内の頁に整理しています。あわせてご覧ください。
