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死因贈与契約で自社株式を後継者に承継させる場合 撤回の可否、遺言との違い、譲渡制限株式の承認及び遺留分

公開 2026年10月26日更新 2026年10月30日

▶ 生前贈与及び遺言により後継者へ株式を承継させる場合の手続と留意点

父は生前、会社を継ぐ私との間で「父が死亡したときは、父の持つ会社の株式すべてを私に贈与する」という契約書を作っていました。父が亡くなった後、弟は「遺言ではないから無効だ」と言い、会社の他の役員は「株式の譲渡には会社の承認が必要だ」と言います。私は株主として認められるのでしょうか。当事務所には、このようなご相談が寄せられています。

オーナー経営者が後継者に自社株式を承継させる方法には、生前の贈与、遺言のほかに、死因贈与契約があります。死因贈与は、遺言と同じく死亡の時に財産が移る点で似ていますが、契約であるため、遺言とは異なる扱いを受ける場面があります。自社株式の場合は、会社の承認や遺留分との関係で特有の問題が生じます。

結論から申し上げます。死因贈与は、贈与者の死亡によって効力を生ずる贈与契約であり、遺言の方式によらなくても成立しますが、遺贈に関する規定が準用されるため、贈与者は原則として撤回できます。自社株式が譲渡制限株式であれば、相続による取得とは異なり、会社の承認を受けなければ会社に株主として扱われないと解されています。遺留分の計算では、死因贈与された株式も算入され、相続開始の時の時価で評価されます。以下、順を追ってご説明します。

死因贈与とは

贈与者の死亡によって効力を生ずる贈与です

贈与は、当事者の一方がある財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって効力を生じます(民法第549条)。死因贈与は、贈与者の死亡によって効力を生ずる贈与であり、その性質に反しない限り、遺贈に関する規定が準用されます(民法第554条)。

受贈者の承諾が必要な契約です

遺言は遺言者が1人でする行為ですが、死因贈与は贈与者と受贈者の合意による契約です。受贈者となる後継者が内容を承諾していなければ、死因贈与は成立しません。

書面で作成しておくべきです

死因贈与は契約であり、遺言の方式(民法第960条以下)に従う必要はないと解されています。しかし、口頭の約束では、贈与者の死亡後に契約の存在そのものが争われます。書面によらない贈与は、履行の終わった部分を除き各当事者が解除できるとされています(民法第550条)。贈与の対象となる会社と株式の数、効力が生ずる時期を明記した契約書を作成し、公正証書とすることも検討します。

遺言との違い

項目 死因贈与 遺言(遺贈・特定財産承継遺言)
性質 贈与者と受贈者の契約 遺言者が1人でする行為
方式 法律上の方式の定めはない(書面化が望ましい) 民法の定める方式に従う必要がある(民法第960条)
撤回 原則として撤回できる(民法第1022条を方式を除いて準用) いつでも撤回できる(民法第1022条)
受け取る側の放棄 遺贈の放棄の規定は準用されない 受遺者は遺贈を放棄できる(民法第986条)
譲渡制限株式の承認 必要と解されている(会社法第134条、第137条) 相続人が特定財産承継遺言で取得する場合は不要と解されている(会社法第134条第4号)
相続税 相続税の対象(相続税法第1条の3) 相続税の対象
遺留分 算入される 算入される

受贈者は一方的に放棄できません

受遺者は、遺言者の死亡後、いつでも遺贈を放棄できます(民法第986条第1項)。これに対し、最高裁判所第一小法廷昭和43年6月6日判決は、遺贈の承認及び放棄に関する規定は死因贈与に準用されないとしました。死因贈与は受贈者が承諾した契約であるため、受贈者が後から一方的に放棄することは予定されていません。

死因贈与は撤回できるか

原則として撤回できます

最高裁判所第一小法廷昭和47年5月25日判決(民集第26巻4号805頁)は、死因贈与の取消し(撤回)については、民法第1022条がその方式に関する部分を除いて準用されると判断しました。贈与者は、死因贈与の後に気が変わった場合、原則としていつでも撤回できます。遺言の撤回は遺言の方式に従ってしなければなりませんが(民法第1022条)、死因贈与の撤回には、遺言の方式によることは求められません。契約であるからといって、承継の安定という点で死因贈与が遺言より強いとは限りません。

後の遺言や生前の処分との関係

死因贈与の後に、贈与者が同じ株式を別の相続人に承継させる遺言をした場合や、生前に株式を第三者に譲渡した場合には、死因贈与がどこまで効力を保つかが争われます。遺言が複数ある場合の撤回の考え方は、内容の異なる遺言が複数見つかった場合の自社株式の帰属 撤回とみなされる部分と生前の株式の譲渡でご説明しています。死因贈与の契約書と、その後の遺言書、株式の譲渡の記録を時系列で照らし合わせます。

撤回が制限される場合

受贈者が贈与者の生前に一定の義務(負担)を履行することを内容とする死因贈与で、受贈者がすでにその負担を履行している場合には、撤回が制限されることがあると解されています。後継者が経営の承継に向けて負担を果たしてきた事情があれば、その内容を具体的に確かめます。

承継を安定させたい場合

撤回されるおそれを避けたい場合は、生前に株式を贈与する方法や、事業承継の計画を家族と共有する方法を併せて検討します。生前贈与と遺言による承継の手続は、生前贈与及び遺言により後継者へ株式を承継させる場合の手続と留意点をご参照ください。

自社株式を特定の相続人に承継させる遺言に納得できない方は、次のページを御覧ください。

譲渡制限株式の承認

相続による取得とは扱いが異なります

譲渡制限株式を取得した者は、会社の承認を受けていなければ、原則として会社に株主名簿の名義書換を請求できません(会社法第134条)。ただし、相続その他の一般承継により取得した者は、承認を要しません(同条第4号)。死因贈与は、贈与者の死亡によって特定の株式を受贈者に移す契約であり、相続その他の一般承継には当たらないと解されています。そのため、受贈者が会社に株主として扱われるには、会社の承認を受ける必要があると考えられています。

承認の請求と相続人の協力

譲渡制限株式を取得した者は、会社に対し、取得を承認するかどうかの決定を請求できます(会社法第137条第1項)。この請求は、法務省令で定める場合を除き、株主名簿上の株主又はその相続人その他の一般承継人と共同してしなければなりません(同条第2項)。死因贈与では、株主名簿上の株主は亡くなった贈与者であるため、その相続人の協力が必要となる場面があります。承認するかどうかは、定款に別段の定めがない限り、株主総会(取締役会設置会社では取締役会)の決議で決定します(会社法第139条第1項)。

生前に準備できること

贈与者が会社を支配している間に、受贈者が株式を取得することについて会社の承認を得ておくことが考えられます(会社法第136条)。また、定款で、一定の場合には会社が承認をしたものとみなす旨を定めることもできます(会社法第107条第2項第1号ロ)。贈与者の死亡後に、他の相続人が取締役会や株主総会の多数を占める場合には、承認が得られないおそれがあるため、生前の準備が重要です。

売渡しの請求との関係

相続人等に対する売渡しの請求(会社法第174条)は、相続その他の一般承継により譲渡制限株式を取得した者を対象とする制度です。相続人が特定財産承継遺言により株式を取得した場合は対象となり得ますが、死因贈与による取得は、一般承継に当たらないと解されることから、この制度の対象とはならないと考えられています。遺言と死因贈与のどちらを選ぶかで、相続の後の会社との関係が変わります。

遺留分の計算における扱い

遺留分を算定するための財産に含まれます

遺留分を算定するための財産の価額は、相続開始の時において有した財産の価額に贈与した財産の価額を加え、債務の全額を控除して算定します(民法第1043条第1項)。死因贈与された株式も、遺留分の計算に含まれます。後継者が死因贈与で自社株式のすべてを取得し、他の相続人の取り分が遺留分に満たない場合は、遺留分侵害額の請求の対象となります(民法第1046条第1項)。

負担の順序

受遺者と受贈者とがあるときは、受遺者が先に遺留分侵害額を負担します(民法第1047条第1項第1号)。死因贈与をこの順序のどこに置くかについて、東京高等裁判所平成12年3月8日判決(平成11年(ネ)第4965号)は、改正前の遺留分減殺の事案において、死因贈与は遺贈に次いで、生前贈与より先に減殺の対象とすべきであるとしました。遺贈、死因贈与、生前贈与が混在する場合は、誰がどれだけ負担するかを個別に検討します。

株式は相続開始の時の時価で評価します

死因贈与は贈与者の死亡の時に効力を生じますので、株式の価額は相続開始の時を基準として評価します。非上場株式の時価は、相続税の申告に用いる相続税評価額とは別のものです。計算の方法と株式の評価は、自社株式を後継者に集中させた場合の遺留分侵害額請求と株式の評価で詳しくご説明しています。

遺留分の放棄を併せて検討する場合

後継者に株式を集中させるために、他の推定相続人に生前に遺留分を放棄してもらう方法もあります。手続と注意点は、遺留分の放棄と自社株式の承継 家庭裁判所の許可と除外合意・固定合意の使い分けでご説明しています。

自社株式をめぐって、遺留分侵害額の請求を受け、又は請求を検討している方は、次のページを御覧ください。

お手元の資料と経緯をお聞きし、進め方の順序をお示しします。

相続税の扱い

死因贈与により取得した財産は、贈与税ではなく相続税の対象となります。相続税法は、相続税の納税義務者を定める規定で、遺贈に「贈与をした者の死亡により効力を生ずる贈与」を含めています(相続税法第1条の3第1項第1号)。相続財産に係る非上場株式を発行会社に譲渡した場合の特例(租税特別措置法第9条の7)なども、死因贈与による取得を含めて定められています。具体的な税額や特例の適用は、税理士にご確認ください。

いま確認していただきたいこと

  • 死因贈与の契約書の有無と、作成の日付、対象となる会社と株式の数
  • 契約書の作成の後に、遺言書の作成や株式の譲渡がなかったか
  • 会社の定款の譲渡制限の定めと、承認したものとみなす旨の定めの有無
  • 贈与者の生前に会社の承認を得ていたか(取締役会議事録又は株主総会議事録)
  • 受贈者が負担を履行する内容の契約か、その履行の状況
  • 相続の開始と死因贈与の内容を知った日(遺留分侵害額の請求の1年の起算点に関わります)

よくあるご質問

死因贈与の契約書は、遺言の方式を満たしていなくても有効ですか。

死因贈与は契約であり、遺言の方式に従う必要はないと解されています。ただし、契約の成立や内容が争われることが多いため、契約書の作成の経緯や当事者の署名押印を確かめます。

父は、私との死因贈与契約を撤回できたのですか。

原則として撤回できます。最高裁判所第一小法廷昭和47年5月25日判決は、死因贈与の撤回について民法第1022条が方式に関する部分を除いて準用されるとしています。負担付きの死因贈与で負担の履行が済んでいる場合などは、撤回が制限されることがあります。

死因贈与で取得した株式について、会社の承認は必要ですか。

譲渡制限株式であれば、必要と解されています。相続による取得と異なり、死因贈与は一般承継に当たらないと考えられているためです(会社法第134条)。承認の請求は、原則として株主名簿上の株主の相続人と共同してする必要があります(会社法第137条第2項)。

死因贈与された株式は、遺留分の計算に入りますか。

入ります。死因贈与された株式も遺留分を算定するための財産に含まれ、相続開始の時の時価で評価されます。遺留分侵害額の請求は金銭の支払を求めるものです(民法第1046条第1項)。

後継者に決まった私が、死因贈与を断ることはできますか。

死因贈与は受贈者が承諾した契約であり、最高裁判所第一小法廷昭和43年6月6日判決は、遺贈の放棄に関する規定は死因贈与に準用されないとしています。断りたい事情がある場合は、贈与者の生前に合意で契約を解消することを検討します。

出典

  • 民法(明治29年法律第89号)第549条、第550条、第554条、第960条、第986条第1項、第1022条、第1043条第1項、第1046条第1項、第1047条第1項第1号
  • 会社法(平成17年法律第86号)第107条第2項第1号ロ、第134条、第136条、第137条、第139条第1項、第174条
  • 相続税法(昭和25年法律第73号)第1条の3第1項第1号
  • 租税特別措置法(昭和32年法律第26号)第9条の7
  • 最高裁判所第一小法廷昭和43年6月6日判決(集民第91号219頁)(裁判所ウェブサイト 裁判例検索)
  • 最高裁判所第一小法廷昭和47年5月25日判決(民集第26巻4号805頁)(裁判所ウェブサイト 裁判例検索)
  • 東京高等裁判所平成12年3月8日判決(平成11年(ネ)第4965号)(裁判所ウェブサイト 裁判例検索)
  • e-Gov法令検索(デジタル庁) 法令の条文の確認に用いています。

弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談

弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)は、非上場株式の相続に注力し、死因贈与契約による自社株式の承継について、契約の効力と撤回の検討、会社の承認の手続、名義書換の交渉、遺留分侵害額の請求の調停及び訴訟まで、ご依頼者の代理人としてご相談をお受けしています。同一の案件について、利害の対立する双方を代理することはありません。

株式についての遺言や死因贈与でお困りの方は、株式の遺言をめぐるトラブルに関するご案内のページをご覧ください。

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ご相談の際に、死因贈与の契約書の写し、遺言書の写し、会社の定款、履歴事項全部証明書、株主名簿をご用意いただけば、検討が早く進みます。これらがお手元にないことを理由にご相談をお断りすることはありません。なお、税務上の取扱いについては税理士にご確認ください。

本記事は一般的な制度の説明であり、結論は事案ごとに異なります。同種の事案において同じ結果となることを保証するものではありません。個別の事情については、弁護士にご相談ください。

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執筆者

弁護士法人M&A総合法律事務所 代表弁護士 土屋勝裕(東京弁護士会所属 登録番号26775)

2024年(令和6年)10月に最高裁判所において株式買取請求権に関する逆転判決を得た弁護士です。長島・大野・常松法律事務所に在籍した後、慶應義塾大学ビジネス・スクール及びペンシルベニア大学ウォートン校に留学し、ファイナンス理論並びにM&A及び不動産を専攻しました。不動産投資信託(J-REIT)の上場案件にも関与しています。

主として取り扱う分野 M&A、株式買取請求権、非上場株式の価格の決定、企業価値評価、事業承継及び企業法務

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本記事の記載は一般的な法律情報であり、個別の事案に関する法律上の助言ではありません。記載した経歴は事実の記述であり、個別の事件の結果を保証するものではありません。

著書

非上場会社における少数株主対策の手法と実務
『非上場会社における少数株主対策の手法と実務』(日本法令)
中堅・中小企業のためのM&Aトラブル事例と実務対策
『中堅・中小企業のためのM&Aトラブル事例と実務対策』(清文社)
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