相続で少数株主となった方が弁護士に依頼するとき 会社と他の相続人の双方に向き合う手順

親御様が亡くなられ、遺産の中に同族会社の株式があったために、御自身が望んだわけでもないのに、その会社の少数株主になってしまった。本記事は、そのような立場に置かれた相続人の方に向けたものです。会社の経営には関与しておらず、経営を担っているのは他の相続人(多くの場合は御兄弟)であり、その方が会社の代表者でもある、という場面を想定しています。

この場面が難しいのは、向き合わなければならない相手が2つあるからです。1つは会社です。決算の内容を見せてもらう、株式を買い取ってもらう。これらは会社に対する話です。もう1つは他の相続人です。遺産分割の協議を成立させる、評価額について折り合いをつける、代償金の額を決める。これらは相続人同士の話です。

結論から申し上げます。この2つは、根拠となる法律も、進める場所も、期限も、それぞれ別です。遺産分割は家庭裁判所の手続であり、会社に対する請求は会社法上の手続です。にもかかわらず、両者は互いに絡み合っており、片方が止まるともう片方も動かなくなります。順序を誤ると、時間だけが過ぎていきます。

本記事が扱う場面と、扱わない場面

弁護士への依頼という同じ主題であっても、判断の分かれ目となる論点は場面ごとに異なりますので、次のとおり整理しています。

目次

望んで株主になったわけではない、という立場

経営に関与していないのに、株主にはされます

相続人が数人あるときは、相続財産はその共有に属します(民法第898条第1項)。株式も例外ではありません。会社の経営に一度も関わったことがなくても、被相続人が株式を保有していれば、相続の開始と同時に、相続人はその株式についての地位を承継します。辞退することはできません。

相手方が2つある、というのがこの場面の特徴です

通常の遺産分割であれば、相手方は他の相続人だけです。ところが自社株式が絡むと、株式を発行している会社という第三者が登場します。しかも、その会社を動かしているのは遺産分割の相手方です。実質的には同一人物でありながら、法律上は別の主体として扱われます。相手方は、この二重性を使い分けてきます。遺産分割の席では「それは会社が決めることだ」と述べ、会社の窓口では「それは相続人同士で決めることだ」と述べる、という対応が現実に生じます。

どちらを先に動かすかで、結論が変わります

遺産分割を先に成立させてから会社と交渉するのか、会社から資料を取ってから分割の協議に臨むのか。この順序の選択は、最終的に手にする金額に直接影響します。資料を持たないまま分割協議に応じてしまえば、後から評価額を争うことは著しく困難になります。弁護士に依頼していただく実益の大半は、この順序の設計にあります。

会社に対する立場と、他の相続人に対する立場は、手続が別です

遺産分割は家庭裁判所、会社に対する請求は地方裁判所です

遺産の分割について共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、各共同相続人は、その全部又は一部の分割を家庭裁判所に請求することができます(民法第907条第2項)。他方、会計帳簿の閲覧謄写請求のように会社を相手方とする請求は、通常の民事訴訟として地方裁判所に係属します。同じ紛争のように見えても、書面の宛先も、期日の場所も、判断する裁判官も別です。

権利行使者を定めなければ、会社に対して何も言えません

株式が二以上の者の共有に属するときは、共有者は、当該株式についての権利を行使する者一人を定め、株式会社に対し、その者の氏名又は名称を通知しなければ、当該株式についての権利を行使することができません(会社法第106条本文)。ただし、株式会社が当該権利を行使することに同意した場合は、この限りではありません(同条ただし書)。権利行使者の指定は、共有物の管理に関する行為として、持分の価格に従いその過半数で決するものと解されています(民法第252条第1項参照)。法定相続分の過半数を確保できない立場の方は、ここで最初の壁に当たります。

名義書換を求めるかどうかも、判断を要します

株式を取得した者は、株式会社に対し、当該株式に係る株主名簿記載事項を株主名簿に記載し、又は記録することを請求することができます(会社法第133条第1項)。もっとも、準共有の状態のまま名義を書き換えるのか、遺産分割を待つのかは、事案により判断が分かれます。書換えの請求をした事実自体が、会社に対して相続の発生を知らせることにもなります。

弁護士に依頼したとき、どのような順序で手をつけるのか

第1に、持株比率を確定します

会社法が株主に与える権利は、持株比率によって階段状に分かれています。被相続人が保有していた株式数、発行済株式の総数、他の株主の構成。この3つが分からなければ、何を請求できるのかが決まりません。定款、株主名簿、法人の登記事項証明書を集めるところから始めます。

第2に、会社から出てくる資料の範囲を確定します

会社に対して開示を求めることができる資料には、単独の株主でも請求できるものと、一定の持株比率を要するものとがあります。どこまで取れるのかを先に確定しておかなければ、交渉の途中で足元をすくわれます。

第3に、遺産分割と会社との交渉のどちらを先に置くかを決めます

資料が乏しい段階で遺産分割の協議に応じるべきではありません。他方で、準共有のままでは会社に対する権利行使が制約されます。この二律背反をどう解くかが、依頼を受けた弁護士が最初に検討する事項です。権利行使者の指定を先行させるか、一部分割によって株式以外の遺産を先に確定させるかを検討します。

第4に、窓口を代理人に一本化します

相手方は、御兄弟であり、かつ会社の代表者です。親族としての感情と、株主としての請求とが同じ会話の中で混ざるため、当事者同士の話合いは著しく困難になります。代理人が窓口となることで、資料と価格と条件という論点だけを取り出して議論できるようになります。

少数株主が会社に対して用いることができる権利は、持株比率で決まります

1株でも行使できる権利があります

株主及び債権者は、株式会社の営業時間内はいつでも、計算書類等の閲覧又は謄本若しくは抄本の交付を請求することができます(会社法第442条第3項)。株主名簿についても同様に閲覧又は謄写の請求ができ、この場合には請求の理由を明らかにしなければなりません(会社法第125条第2項)。株主総会の議事録についても閲覧又は謄写の請求ができます(会社法第318条第4項)。これらは持株比率を問いません。

取締役会の議事録には手続上の違いがあります

株主は、その権利を行使するため必要があるときは、取締役会の議事録の閲覧又は謄写を請求することができます(会社法第371条第2項)。もっとも、監査役設置会社等においては、裁判所の許可を得なければなりません(同条第3項)。同族会社では監査役が置かれていることが多く、その場合には裁判所への申立てが必要になります。

100分の3以上で行使できる権利があります

総株主の議決権の100分の3以上の議決権を有する株主、又は発行済株式(自己株式を除きます。)の100分の3以上の数の株式を有する株主は、株式会社の営業時間内はいつでも、理由を明らかにして、会計帳簿又はこれに関する資料の閲覧又は謄写を請求することができます(会社法第433条第1項)。会社は、法定の拒絶事由に該当する場合を除き、これを拒むことができません(同条第2項)。役員報酬の水準や関係者との取引の内容は、この請求によって初めて見えてきます。

準共有のままでは、これらの権利も行使できません

ここが実務上、最も見落とされる点です。上に述べた権利は、いずれも「株主」の権利です。準共有の状態にある株式について権利を行使するには、原則として権利行使者の指定と会社への通知が必要です(会社法第106条本文)。遺産分割を放置したまま会社に資料の開示を求めても、会社は「権利行使者が指定されていない」と述べて応じないことがあります。相続人側の手続を整えなければ、会社側の手続に進めないという構造です。

会社の側から動いてくる場面と、その期限

相続人に対する売渡しの請求を受けた場合

株式会社は、相続その他の一般承継により譲渡制限株式を取得した者に対し、その株式を会社に売り渡すことを請求することができる旨を定款で定めることができます(会社法第174条)。請求をするには、その都度、株主総会の決議によって株式の数と相手方を定めなければなりません(会社法第175条第1項)。会社は、相続その他の一般承継があったことを知った日から1年を経過したときは、この請求をすることができません(会社法第176条第1項ただし書)。

売買価格は協議によって定めますが、協議が調わない場合、会社又は相手方は、売渡しの請求があった日から20日以内に、裁判所に対して売買価格の決定の申立てをすることができます(会社法第177条第1項、第2項)。売渡しの請求を受けた日が令和8年12月3日である場合、申立ての期限は令和8年12月23日です。この期間内に申立てがないときは、協議が調った場合を除き、売渡しの請求は効力を失います(同条第5項)。

会社が自己株式を取得するのに、自分には話が来なかった場合

株式会社が特定の株主から自己株式を取得する場合には、株主総会の特別決議を要し、他の株主は自己をも売主に加えるよう請求することができます(会社法第156条第1項、第160条第1項から第3項まで)。会社が一部の株主からだけ株式を買い取り、御自身には申込みの機会が与えられなかったという場合、この売主追加請求権の手続が履践されたかどうかが問題となります。なお、公開会社でない株式会社が相続人等からその一般承継により取得した株式を取得する場合には、この規定は適用されません(会社法第162条本文)。

会社そのものが売却される場合

会社が第三者に売却される局面では、少数株主の株式だけが低い価格で処理されようとすることがあります。特別支配株主による株式等売渡請求があった場合、売渡株主は、取得日の20日前の日から取得日の前日までの間に、裁判所に対し、その有する売渡株式の売買価格の決定の申立てをすることができます(会社法第179条の8第1項)。取得日が令和9年2月20日と定められた場合、申立てをすることができる期間は令和9年1月31日から同年2月19日までです。20日間しかありません。

他の相続人に対しては、別の期限が動いています

相続の開始から10年

相続開始の時から10年を経過した後にする遺産の分割については、特別受益及び寄与分に関する規定が適用されません(民法第904条の3本文)。ただし、相続開始の時から10年を経過する前に相続人が家庭裁判所に遺産の分割の請求をしたときは、この限りではありません(同条第1号)。相続の開始が令和8年5月20日である場合、令和18年5月20日が経過した後は、原則として法定相続分による分割となります。被相続人から生前に多額の援助を受けていた相続人がいても、その主張ができなくなるという意味です。

遺言があった場合の遺留分侵害額請求は1年

遺留分権利者は、受遺者又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができます(民法第1046条第1項)。この請求権は、遺留分権利者が相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは、時効によって消滅します(民法第1048条)。株式のすべてを他の相続人に相続させる旨の遺言がある場合、争う手段はこちらになります。

分割前に資金が必要になった場合

各共同相続人は、遺産に属する預貯金債権のうち、相続開始の時の債権額の3分の1に自己の相続分を乗じた額については、単独でその権利を行使することができます(民法第909条の2)。金融機関ごとに法務省令で定める限度額があります。

なぜ、会社と後継者はこのような態度をとるのか

第1に、少数株主が動かないことを前提に経営してきたからです

同族会社では、株主総会が実際には開催されず、決算書類も株主に配られていないことが珍しくありません。それでも支障がなかったのは、株主が親族であり、何も言わなかったからです。相続をきっかけに初めて資料の開示を求められると、会社の側は「今までそのようなことはなかった」という反応をします。慣行が変わることへの抵抗です。

第2に、二正面のどちらかで止まれば、全体が止まるからです

相手方が「遺産分割が終わっていないから会社としては応じられない」と述べ、同時に遺産分割の協議を進めないという対応をとれば、少数株主は身動きが取れません。意図的にこの状態を作り出す例は、現実に少なくありません。だからこそ、片方だけを追いかけていては解決しません。

第3に、期限は少数株主の側にしかないからです

相続税の申告期限、10年の期限、20日の期限。これらはいずれも相続人の側に課される期限です。会社の側には、買い取らなければならない期限も、資料を出さなければならない期限もありません。回答が遅い、話合いの期日が入らないという状態が続く場合、それは偶然ではないと考えるべきです。

いま確認していただきたいこと

本日のうちに、次の点を確認していただくことをお勧めします。

  • 被相続人が保有していた株式数と、発行済株式の総数を確認してください。100分の3以上に届くかどうかで、請求できる資料の範囲が変わります。
  • 会社の定款を入手し、相続人に対する売渡しの請求に関する定めがあるかどうかを確認してください。定めがある場合、会社の側から動いてくる可能性があります。
  • 会社から届いた書面をすべて日付順に並べてください。売渡しの請求や株主総会の招集通知が含まれている場合、既に期限が進行しています。
  • 権利行使者について話が出ているかどうかを確認してください。相手方が一方的に指定を進めていることがあります。
  • 相続の開始日を確認し、10年後の日付を書き出してください。協議が長引く事案では、この日付が最後の防波堤です。

期限の判断だけは、早めに専門家に確認してください。当事務所では、初回の御相談は無料で承っております。

よくあるご質問

株式は少しだけです。争うだけの意味があるのでしょうか

持株比率が低くても、計算書類や株主名簿の閲覧を求める権利は1株でも行使できます(会社法第442条第3項、第125条第2項)。まず資料を確認しなければ、その株式に価値があるのかどうかも分かりません。判断は、資料を見てからで足ります。

他の相続人が権利行使者を自分にすると言っています。従うほかないのでしょうか

権利行使者の指定は、持分の価格に従いその過半数で決するものと解されています(民法第252条第1項参照)。相手方の持分が過半数に達していれば、その指定自体を覆すことは容易ではありません。もっとも、権利行使者が指定されても、遺産分割における御自身の相続分が失われるわけではありません。会社に対する権利行使と、遺産の取り分とは別の問題です。

会社から「株式を買い取るので印鑑を押してほしい」と言われました

金額の根拠となる資料を確認せずに応じることは避けてください。会社が提示する金額は、相続税の申告のために算定された評価額であることが多く、それが売買における適正な価格と一致するとは限りません。また、譲渡制限株式については会社法上の手続が定められており、その履践の有無も確認する必要があります。押印を求められた段階で、一度御相談ください。

遺産分割の調停を申し立てると、会社との関係も悪くなりませんか

遺産分割の調停は相続人間の手続であり、会社は当事者ではありません。もっとも、実質的には同じ相手方ですから、影響が及ぶことはあります。逆に、調停の申立てによって初めて相手方が資料を出してくる、という展開も現実にあります。方針は、御意向を伺ったうえで決めます。

おわりに

相続によって少数株主となった方の多くは、「自分は経営に関係がないのだから、どうすればよいのか分からない」とおっしゃいます。しかし、関係がないからこそ、株主としての権利を行使する必要があります。会社の内側にいる相手方は、資料も、時間も、決定権も持っています。こちらが持っているのは、法律が定めた手続だけです。

その手続は、決して弱いものではありません。会計帳簿の閲覧謄写請求、売買価格の決定の申立て、遺産分割の調停。いずれも、相手方に現実の対応を強いる力を持っています。必要なのは、どちらから、どの順序で動くかを間違えないことです。まずはお電話でお話をお聞かせください。必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。

相続により少数株主となった場合の御相談
弁護士法人M&A総合法律事務所 電話番号 03-6435-8418
受付時間 8時00分から21時00分まで(土曜・日曜・祝日を含みます)

出典

  • 民法第898条第1項(相続財産の共有)、第252条第1項(共有物の管理)
  • 民法第904条の3本文、第1号(相続開始の時から10年)
  • 民法第907条第2項(遺産の分割の審判)、第909条の2(分割前の預貯金債権の行使)
  • 民法第1046条第1項(遺留分侵害額の請求)、第1048条(期間の制限)
  • 会社法第106条本文及びただし書(共有者による権利の行使)
  • 会社法第125条第2項(株主名簿)、第133条第1項(名義書換)
  • 会社法第156条第1項、第160条第1項から第3項まで(自己株式の取得と売主追加請求権)
  • 会社法第162条本文(相続人等からの取得の特則)
  • 会社法第174条、第175条第1項(相続人等に対する売渡しの請求)
  • 会社法第176条第1項ただし書(1年)
  • 会社法第177条第1項、第2項(20日)、第5項(効力の喪失)
  • 会社法第179条の8第1項(特別支配株主の株式等売渡請求における売買価格の決定の申立て)
  • 会社法第318条第4項(株主総会議事録)、第371条第2項、第3項(取締役会議事録)
  • 会社法第433条第1項、第2項(会計帳簿の閲覧謄写請求)
  • 会社法第442条第3項(計算書類等の閲覧謄本交付請求)

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