相続した非上場株式の存在、株数及び価値を弁護士が調査する方法

この記事の位置付け
本ページは、非上場株式の相続に関する解説のうちの一つです。全体像は、次の中核となるページをご覧ください。
▶ 非上場株式の相続のトラブルでお悩みの皆様へ|メリット・デメリットから対処法まで解説
同じ主題を扱う関連ページ
父の遺品を整理していたところ、聞いたことのない会社の名前が記された封筒が出てきました。中身は数十年前の株券らしき書面と、配当の計算書が一枚だけです。会社に電話をすると、担当者は「株主名簿には載っていない」とだけ答え、それ以上の説明をしません。相続税の申告期限までは、あと数か月しかありません。当事務所には、このようなご相談が寄せられています。
非上場株式は、預貯金や不動産と違い、名寄せの制度も登記の制度もありません。金融機関に照会をかければ残高が分かる預貯金とは異なり、株式の存在を外から確かめる公的な窓口が存在しないのです。被相続人が保有していたことを示す資料が手元に残っていない場合、相続人は、株式があるのかないのかすら判断できない状態に置かれます。
結論から申し上げます。非上場株式の調査は、存在の確認、株数の確定、価値の測定という三段階に分け、段階ごとに根拠となる請求権を使い分けて進めます。段階を飛ばして価値の話から入ると、会社に主導権を握られます。以下、順にご説明します。
この記事の位置付け
本記事は、相続人の側が株式の内容を調べる作業だけを扱います。調べた後の交渉や、会社の側の対応は、別の記事において扱います。
- 相続人の側で、株式の存在、株数及び価値を調べる場面……本記事
- 相続の開始後に、経営権そのものが争われている場面……事業承継で経営権の争いとなった場合の弁護士対応 株式、代表権及び役員を一体で整理する
- 相続の開始前に、株式の分散を防ぐ場面……事業承継で会社の株式が相続人に分散する前に弁護士へ相談すべきこと
- 分散した後に、会社の側が対応する場面……相続によって非上場株式が兄弟姉妹に分散した会社がすべきこと
株式があること自体が分からないという状態
民法第896条は、相続人が相続開始の時から被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継すると定めています。株式もこの一切の権利義務に含まれますので、相続人が存在を知らなくても、承継そのものは相続の開始と同時に生じています。知らないことは、権利を失う理由になりません。
問題は、承継したはずの財産の輪郭が見えないことです。被相続人が創業者であれば会社の名前は分かりますが、取引先の会社に出資していた場合、親族の会社の名義株主となっていた場合、廃業した会社の株式が残っている場合には、相続人が会社の存在すら知らないことがあります。また、株券が発行されていない会社が大多数を占めますので、紙の株券が見つからないことは、株式がないことの証拠にはなりません。
調査の起点は、被相続人が生前に受け取っていた金銭と書面です。株式を保有していれば、配当金の入金、株主総会の招集通知、決算の報告、役員であった場合の報酬の支払といった痕跡が、必ずどこかに残ります。痕跡から会社を特定し、会社に対する請求権を行使するというのが、調査の基本の流れとなります。
手元の資料から株式の存在を推認する
最初に集めるべき資料は、被相続人名義の預貯金の通帳です。過去10年分の入出金の記録を取り寄せ、年に一回又は二回、同じ名義から入金されている数万円から数十万円の金額を探します。摘要欄に「ハイトウ」「配当金」と記載されていれば、その名義が会社名です。金融機関の取引履歴の保存期間は限られていますので、開示の請求は早い時期に行ってください。
次に、被相続人宛ての郵便物です。株主総会の招集通知、事業報告、株主優待の案内は、いずれも株主にのみ送付されます。生前の郵便物が処分されている場合でも、転送の手続を採っていれば新たに届くことがあります。年賀状の差出人に会社の代表者が含まれている場合も、資本関係を疑う手がかりとなります。
第三に、被相続人の確定申告書の控えです。配当所得の記載があれば支払者の名称が特定でき、所轄の税務署に対する開示の請求によって過去の申告の内容を取得できます。第四に、被相続人が役員であった会社の履歴事項全部証明書です。
会社に対して確認を求める方法
会社が特定できたら、次は会社に対する請求です。ここで用いるのが会社法第125条第2項です。同項は、株主及び債権者は、会社の営業時間内は、いつでも、株主名簿の閲覧又は謄写を請求することができると定めており、この場合には請求の理由を明らかにしなければならないとされています。
ここで実務上の難所となるのが、請求の主体の要件です。株主名簿を見なければ株主であることが分からないのに、株主でなければ請求できないという循環に陥ります。この点は、相続によって株式を承継したことを示す資料、すなわち被相続人の死亡の記載のある戸籍と相続関係を示す戸籍一式を添えて請求することで対応します。会社法第121条は、会社が株主名簿を作成し、株主の氏名又は名称及び住所、その株主の有する株式の数、株式を取得した日等を記載し、又は記録しなければならないと定めていますので、被相続人の氏名が記載されていること自体を確認させれば足ります。
会社法第125条第3項は、会社が請求を拒むことができる場合を限定して列挙しています。権利の確保又は行使に関する調査以外の目的による場合、会社の業務の遂行を妨げる目的による場合等がこれに当たります。相続人が遺産の範囲を確定するために行う請求は、権利の確保に関する調査そのものですので、これらの拒絶事由には当たりません。請求は必ず書面で行い、到達の記録が残る方法を用いてください。拒絶の事実と日付は、後の手続で必要になります。
株主名簿と法人税の申告書の別表との突合
株主名簿だけを信用してはなりません。非上場の同族会社では、株主名簿が長年更新されていない例、そもそも作成されていない例が珍しくないためです。名簿の記載を検証する資料として実務上有用なのが、法人税の確定申告書に添付される同族会社等の判定に関する明細書です。この明細書には、株主の氏名、続柄及び保有する株式の数が記載されます。
この書類は毎年作成されますので、複数年分を並べると、株主の構成がいつ、どのように変動したかが時系列で分かります。株主名簿では被相続人が100株となっているのに、明細書では死亡の3年前から0株となっているといった食い違いが見つかることがあります。食い違いは、名義の書換えが行われた可能性を示す重要な端緒です。
相続人がこの明細書を入手する経路は二つあります。第一に、会社に対して任意の開示を求める方法です。第二に、被相続人が会社の役員であった場合等に、税務代理人であった税理士が保管している資料の開示を求める方法です。いずれも会社の協力が前提となりますので、応じない場合には、後述する会計帳簿の閲覧の請求へ進むことになります。
株数が違うと言われた場合の確かめ方
会社から「被相続人の株式は生前に会社へ譲渡されている」「名義を借りていただけで実質的な株主は別人である」と説明される場面があります。この説明の当否は、資金の移動によって検証します。譲渡が本当にあったのであれば、対価が被相続人の口座に入金されているはずです。入金の記録がなければ、譲渡があったという説明は成り立ちにくくなります。
名義株であるという説明についても同様です。設立時又は増資時の払込金が誰の口座から出ているかを確認します。払込みが被相続人の資金で行われ、その後も配当が被相続人に支払われていたのであれば、名義だけの株主であったという説明と整合しません。逆に、払込金が他の者から出ており、配当も被相続人に渡っていないのであれば、会社の説明に相応の根拠があることになります。
会社が譲渡証書や株主総会議事録を示してきた場合には、その書面の作成の時期と署名の状態を検討します。被相続人の署名が、同時期の他の書面の署名と筆跡において異なる場合、押印が実印でない場合、日付が休日や被相続人の入院期間に当たる場合には、書面の成立の真正が争点となります。これらの検討には、被相続人の入通院の記録や介護の記録が資料として役立ちます。
価値を測るために必要となる資料の請求
株数が固まったら、次は価値です。ここで根拠となるのが会社法第442条第3項です。同項は、株主及び債権者は、会社の営業時間内は、いつでも、計算書類等について、書面又はその写しの閲覧、謄本又は抄本の交付等を請求することができると定めています。計算書類等は、各事業年度に係る計算書類及び事業報告並びにこれらの附属明細書を含みます。備置きの期間は定時株主総会の日の前の一定の日から5年間とされていますので、過去5期分の請求が可能です。
計算書類だけでは足りない場合には、会社法第433条第1項による会計帳簿の閲覧又は謄写の請求を検討します。同項は、総株主の議決権の100分の3以上の議決権を有する株主又は発行済株式の100分の3以上の数の株式を有する株主が、請求の理由を明らかにして請求することができると定めています。総勘定元帳、仕訳帳、契約書等の原始資料まで対象となりますので、役員への貸付金や関係会社との取引の実態を確かめる際に効果を発揮します。
持株比率が100分の3に満たない場合には、この請求権を行使できません。その場合は、他の相続人と共同して要件を満たすか、計算書類の請求と税務資料の分析で代替することになります。請求権の要件は、相続分に応じた準共有の状態でどのように判断されるかが問題となりますので、請求の前に持株の計算を済ませてください。
調査の結果を、遺産の分割と相続税にどうつなぐか
調査によって株数と資料が揃うと、二つの手続に接続します。第一が遺産の分割です。民法第898条第1項は、相続人が数人あるときは相続財産はその共有に属すると定めています。株式は分割が終わるまで共同相続人の共有に属しますので、分割の対象財産としてその内容を目録に記載する必要があります。目録の記載は、会社名、発行済株式の総数、被相続人の保有株式数、一株当たりの評価額の順で整理します。
第二が相続税の申告です。相続税法第22条は、この章で特別の定めのあるものを除くほか、相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価により、当該財産の価額から控除すべき債務の金額はその時の現況によると定めています。申告の実務では財産評価基本通達に基づく評価が用いられますが、その計算にも、直近の貸借対照表、損益計算書、法人税の申告書の別表が必要です。調査で集めた資料は、そのまま申告の資料となります。
ここで注意していただきたいのは、遺産の分割で用いる価額と、相続税の申告で用いる価額とが一致しないことがある点です。前者は財産の分け方を決めるための時価であり、後者は課税のための評価です。会社の側が低い評価額を示してきた場合に、それが申告のための評価にすぎないのか、分割の基準としても妥当なのかは、別に検討しなければなりません。
調査を進める間に動いている期限と、株主総会が開かれた場合の対応
調査は、時間の止まった中で行うものではありません。相続の開始の日から、複数の期限が同時に進行しています。調査の順序を決める前に、まず期限の全体を一枚の表に並べていただきます。
相続の開始から進行する期限
第一に、相続の放棄又は限定承認の期間です。民法第915条第1項は、相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3箇月以内に、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならないと定めています。非上場株式の相続では、会社の債務についての被相続人の個人保証が後から判明することがありますので、この3箇月の間に会社の負債の概要を把握する必要があります。資料が揃わない場合には、同項ただし書により、家庭裁判所に対して期間の伸長を申し立てることができます。
第二に、相続税の申告及び納付の期限です。相続税法第27条第1項は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10箇月以内に申告書を提出しなければならないと定めています。株価が確定していない場合であっても、期限そのものは動きません。遺産の分割が終わらないまま申告する場合には、法定相続分により取得したものとして計算することになります。
第三に、未分割のまま申告した後に配偶者の税額の軽減及び小規模宅地等の特例の適用を受けるための期限です。申告期限の後3年以内に分割が調った場合には更正の請求により適用を受けることができますので、相続の開始から数えて3年10箇月が実務上の目安となります。
第四に、定款に相続人等に対する売渡しの請求の定めがある場合の期限です。会社法第176条第1項ただし書は、当該株式会社が相続その他の一般承継があったことを知った日から1年を経過したときは請求をすることができないと定めています。会社の側の期限ではありますが、相続人にとっては、この1年の間に会社がどう動くかを見定める必要があるという意味を持ちます。
遺産の分割が終わらないうちに株主総会が招集された場合
調査の途中で、会社から株主総会の招集通知が届くことがあります。相続人が複数ある場合、株式は分割が終わるまで共同相続人の準共有に属しますので、会社法第106条により、権利を行使する者一人を定めて会社に通知しなければ、原則として議決権を行使することができません。招集通知が届いた時点で通知が済んでいない場合には、まず相続人の間で権利行使者を定め、会社に対して書面により通知します。
相続人の間で意見が調わない場合であっても、株主総会は開催されます。決議の内容が役員の選任、定款の変更、募集株式の発行に及ぶときは、事後の是正が困難になりますので、議決権を行使することができる地位を仮に定める仮処分の申立てを検討します。あわせて、会社に対しては、権利行使者の指定について協議中である旨と、指定を待たずに一部の相続人のみに議決権を行使させることのないよう求める書面を送付しておきます。
なお、被相続人が「株式は全部長男に相続させる」といった遺言を残していた場合には、以上の準共有の枠組みは当てはまりません。特定財産承継遺言により株式を承継した相続人は、遺産の分割の協議を経ることなく、単独で名義書換を求め得る立場にあります。手続の詳細は、「株式は全部長男に相続させる」と書かれた遺言で自社株式を承継した場合に、会社に株主として扱われるまでに行うことをご覧ください。
なぜ会社は、相続人からの問合せに答えないのか
会社が沈黙する理由は、多くの場合、相続人に対する敵意ではありません。第一に、現に経営している側から見れば、株式の内容を明らかにすることは、買取りの請求や決議への介入を招く入口だからです。答えなければ相続人が諦めるかもしれないという計算が働きます。
第二に、資料が整備されていないという事情があります。株主名簿が作成されていない会社、議事録が後から作られている会社では、開示すること自体が過去の不備を明るみに出します。担当者が説明を避けるのは、開示の内容が問題を生むと分かっているためです。
第三に、他の株主との関係です。特定の相続人にだけ資料を渡せば、他の株主から同様の請求を受けますので、誰にも渡さないという扱いが安全であると判断されがちです。いずれの理由であっても、会社法上の請求権は理由の如何を問わず行使できます。
弁護士に任せられる範囲と、依頼の時期
当事務所では、預貯金の取引履歴及び確定申告書の開示の請求、会社の特定と履歴事項全部証明書の取得、株主名簿の閲覧又は謄写の請求、計算書類等の閲覧又は謄本の交付の請求、会計帳簿の閲覧又は謄写の請求、これらを裁判上の手続によって実現する申立て、名義株であるとの主張に対する反証の組立てまで、ご依頼者の側の代理人としてお引き受けいたします。同一の案件について、会社の側と相続人の側の双方を代理することはありません。
ご依頼の時期として適切なのは、相続の開始から早い時期です。相続税の申告期限は相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内であり、この期間の中で、会社の特定、資料の入手、評価の検討をすべて終える必要があります。金融機関の取引履歴の保存期間にも限りがありますので、着手が遅れるほど、後から取り戻せない資料が増えます。
- 電話番号 03-6435-8418
- ご相談は事前予約制です
ご相談の際に、被相続人名義の預貯金の通帳、被相続人宛ての郵便物、株券らしき書面、確定申告書の控えをご用意いただけますと、検討が早く進みます。
いま確認していただきたいこと
次の各点は、会社に連絡を取る前に、ご自身で確認できます。
- 被相続人名義の預貯金について、取引履歴を10年分取り寄せ、年一回又は二回の定期的な入金の名義を書き出す。
- 被相続人宛ての郵便物のうち、招集通知、事業報告、決算の報告に当たるものを分類し、差出人の商号を記録する。
- 被相続人の確定申告書の控えを確認し、配当所得の欄に記載された支払者の名称を書き出す。
- 被相続人が役員として登記されていた会社を商号で検索し、履歴事項全部証明書を取得する。
- 被相続人の出生から死亡までの戸籍を取得し、相続人の範囲と各人の相続分を確定する。
- 相続の開始があったことを知った日から10か月後の日を確認し、申告期限までの残り日数を数える。
よくあるご質問
株券が見つからないのですが、株式はないと考えてよいですか
そうとは限りません。株券を発行しない会社が大多数であり、株券が発行されている会社であっても、実際には交付されていない例が多く見られます。株券の有無ではなく、株主名簿の記載と法人税の申告書の別表の記載によって判断してください。
会社が株主名簿はないと回答した場合はどうなりますか
会社法第121条は株主名簿の作成を義務付けていますので、ないという回答自体が法令に適合しない状態を示しています。この場合は、計算書類等の請求と法人税の申告書の別表の開示を求め、これらの資料から株主の構成を再構成する方法を採ります。
閲覧の請求をすると、会社との関係が悪化しませんか
請求は法令に基づく権利の行使ですので、これを理由に不利益を受ける筋合いはありません。むしろ、任意の照会を繰り返して時間を費やす間に、資料が散逸し、あるいは名義の変更が進む例があります。関係の維持を優先する場合でも、請求ができる状態を確保したうえで交渉することが安全です。
持株比率が100分の3に満たない場合、会計帳簿は一切見られないのですか
会社法第433条第1項の請求はできませんが、会社法第442条第3項の計算書類等の請求には持株比率の要件がありません。まずこちらを行使し、必要であれば他の相続人と共同して要件を満たすことを検討してください。
調査の途中で申告期限が来てしまう場合はどうすればよいですか
株式の価額が確定しない場合であっても、判明している範囲で申告を行い、後に評価が変わった時点で修正の手続を採るという進め方があります。申告をしないまま期限を経過することは避けてください。税務の取扱いについては、税理士と連携して検討します。
まとめ
非上場株式の調査は、地味な資料の突合の積み重ねです。しかし、この作業を省略して交渉に入ると、会社が示した数字をそのまま前提とせざるを得なくなります。存在を確かめ、株数を固め、価値を測るという順序を守ることが、後の交渉においても、遺産の分割においても、最も確かな土台となります。
本記事の記載は一般的な説明であり、個別の事案における結論を保証するものではありません。会社の規模、資料の保存状況、他の株主との関係によって、採り得る手段は変わります。
必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。
相続した非上場株式の調査に関するご相談
弁護士法人M&A総合法律事務所 電話番号 03-6435-8418
受付時間 8:00-21:00(土日祝含む)
出典
- 会社法(平成17年法律第86号)第121条、第125条第2項、第433条第1項、第442条第3項
- 民法(明治29年法律第89号)第896条、第898条第1項
- 相続税法(昭和25年法律第73号)第22条
- e-Gov法令検索(デジタル庁) 法令の条文の確認に用いています。
具体的なご相談をお考えの皆様へ
本ページの主題に関し、当事務所の取扱内容、対応の進め方及び費用の考え方は、次のご案内のページに整理しています。あわせてご覧ください。

