後継者へ株式を集約するための手段の全体像と選択の順序

父から会社を引き継ぐことになりましたが、株式は父のほか、叔父、従業員持株会、既に退職した元役員など、複数の者に分かれています。このままでは重要な決議ができるか分かりません。どのようにして株式を後継者に集めればよいのでしょうか。このようなご相談を、当事務所はしばしばお受けしています。
先に結論を申し上げます。株式の集約は、次の順序で検討いたします。第1に、何を実現するために、どの程度の議決権が必要かを定めます。第2に、現在の株主が誰で、それぞれ何株を保有しているかを確定いたします。第3に、手段を選択いたします。手段は、本人の生前に行い得るもの(生前贈与、遺言、種類株式の設定、自己株式の取得等)と、相続の開始後に行い得るもの(遺産分割、相続人等に対する売渡しの請求、株式の併合等)とに分かれます。第4に、手続の順序を設計いたします。順序を誤りますと、他の株主に法定の権利を与え、又は遺留分をめぐる紛争を招くことになります。本記事では、この4段階を整理いたします。
本稿は、複数の者に分散した株式を後継者へ集約するために採り得る手段の全体像と、生前に行う手段及び相続の開始後に行う手段をどのような順序で選択するかについて解説するものです。会社を経営しておられる方が御存命のうちに講じておくことのできる遺言、生前贈与、事業承継信託及び遺留分に関する民法の特例という4つの対策については 後継者への自社株式集中のためオーナーが生前にできる4つの対策 を、自社の株式を相続する場面における手続の進め方、経営権の確保、遺留分及び相続税の納税資金までを含む全体の見取り図については 自社株を相続する際の進め方と相続対策及び生じやすいトラブル を御参照ください。
本記事が扱う場面と、扱わない場面
株式を集める側と、集められる側とでは、採るべき手段も期限の管理も逆になりますので、次のとおり切り分けます。
- 後継者へ株式を集約する側(会社及び後継者の側)……本記事
- 売渡しの請求を受けた相続人の側……相続人等に対する売渡しの請求を受けた相続人の防御の全体像
- 相続した株式を換価したい側……相続した非上場株式を換価するための手段の全体像
どの程度の議決権が必要か
| 議決権の割合 | できること | 根拠条文 |
|---|---|---|
| 10分の9以上 | 特別支配株主として株式等売渡請求をすることができます | 会社法第179条 |
| 3分の2以上 | 特別決議を単独で成立させ得ます(定款の変更、株式の併合等) | 会社法第309条第2項 |
| 過半数 | 普通決議を単独で成立させ得ます(役員の選任及び解任等) | 会社法第309条第1項、第341条 |
| 3分の1超(他の株主が保有) | 特別決議を阻止し得ます | 会社法第309条第2項 |
| 100分の3以上(他の株主が保有) | 会計帳簿等の閲覧謄写の請求、株主総会の招集の請求、検査役の選任の申立てができます | 会社法第297条第1項、第358条第1項、第433条第1項 |
「すべてを集める」ことが常に必要とは限りません。何を実現したいのかにより、必要な割合が定まります。目標を過大に設定いたしますと、費用と時間が無用に増えます。
現状の確定
株主名簿及び登記
株主名簿を確認し、株主の氏名及び持株数を把握いたします。株主名簿が作成されていない、又は長期間更新されていない会社が少なくありません。登記事項証明書からは、発行済株式の総数、資本金の額、株式の譲渡の制限に関する定め、種類株式の有無が分かります。
名義株の有無
設立の当時の要件を満たすために、実際には出資をしていない者の名義が用いられていることがあります。この場合、名簿上の株主と真実の株主とが異なることになります。誰が真実の株主であるかは、出資の資金の出所、配当の受領の状況、議決権の行使の実態等から判断されます。集約に着手する前に、この点を整理しておく必要があります。
所在の分からない株主
長期間にわたり連絡が取れない株主が存在することがあります。会社法には、所在の知れない株主に対する通知の省略及びその株式の競売又は売却に関する規律が設けられていますが(会社法第196条、第197条)、要件が厳格です。個別に検討を要します。
定款の確認
譲渡の制限に関する定め、相続人等に対する売渡しの請求の定め(会社法第174条)、種類株式の内容、株主総会の定足数の定めを確認いたします。定款は、株主又は債権者であれば、その閲覧又は謄本の交付を請求することができます(会社法第31条第2項)。
手段の一覧
| 手段 | 時期 | 要点 | 根拠条文 |
|---|---|---|---|
| 生前贈与 | 生前 | 本人の意思能力が必要です。特別受益及び遺留分に留意いたします | 民法第549条、第903条第1項 |
| 遺言 | 生前に作成 | 遺留分の問題が残ります | 民法第960条以下 |
| 種類株式の設定 | 生前 | 議決権を集中させ得ます。定款の変更を要します | 会社法第108条、第466条 |
| 相対の買取り | いつでも | 価格の合意及び譲渡の承認を要します | 会社法第136条以下 |
| 会社による自己株式の取得 | いつでも | 売主追加請求権及び分配可能額に留意いたします | 会社法第156条、第160条、第461条第1項 |
| 相続人等に対する売渡しの請求 | 相続の開始後1年以内 | 定款の定めが必要です。議決権の排除に留意いたします | 会社法第174条から第177条まで |
| 株式の併合 | いつでも | 株主総会の特別決議を要します | 会社法第180条、第309条第2項 |
| 特別支配株主の株式等売渡請求 | 10分の9以上を有する場合 | 他の株主の全員に対して請求し得ます | 会社法第179条 |
本人の生前に行い得ること
生前贈与
本人が判断能力を有している間に、後継者に対して株式を贈与する方法です。譲渡制限株式については、会社の承認が必要です(会社法第136条、第137条、第139条第1項)。また、株主名簿の名義書換を行わなければ、会社に対抗することができません(会社法第130条第1項)。贈与契約書の作成、承認の決議、名義書換の3点を確実に行う必要があります。
もっとも、生前贈与は特別受益として遺産分割において考慮され(民法第903条第1項)、また遺留分を算定するための財産の価額に算入され得ます(民法第1044条第3項)。他の相続人との関係を、あわせて整理する必要があります。
遺言
遺言により、株式を後継者に承継させる方法です。公正証書による遺言によることが確実です。もっとも、遺留分の問題は残ります。遺留分権利者は、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができます(民法第1046条第1項)。
遺留分に関する民法の特例
中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律には、遺留分に関する民法の特例が定められています。推定相続人の全員の合意により、後継者が贈与を受けた株式を遺留分を算定するための財産の価額に算入しないこと(除外の合意)、又はその価額を合意の時における価額に固定すること(固定の合意)ができるものとされています。この合意には、経済産業大臣の確認及び家庭裁判所の許可が必要です。要件及び手続の詳細は個別に検討を要します。
種類株式の設定
会社は、剰余金の配当、議決権の行使その他の事項について異なる定めをした内容の異なる2以上の種類の株式を発行することができます(会社法第108条第1項)。議決権制限株式を他の相続人に承継させ、議決権のある株式を後継者に集中させるという設計が考えられます。また、拒否権付種類株式を用いる設計もあります。
種類株式を設けるには、定款の変更が必要です(会社法第466条、第309条第2項)。既存の株主に損害を及ぼすおそれがある場合には、種類株主総会の決議を要することがあります(会社法第322条第1項)。
会社による自己株式の取得
会社が他の株主から自己株式を取得すれば、相対的に後継者の議決権の割合が上がります。特定の株主から取得する場合には、株主総会の特別決議を要し(会社法第156条第1項、第160条第1項、第309条第2項)、他の株主の売主追加請求権に留意する必要があります(会社法第160条第2項及び第3項)。また、分配可能額を超えることはできません(会社法第461条第1項)。
相続の開始後に行い得ること
遺産分割
相続人の間の協議により、株式を後継者が取得することとし、他の相続人には他の財産又は代償金を配分いたします。協議が調わないときは、家庭裁判所に遺産の分割を請求することができます(民法第907条第2項)。
なお、遺産分割が終わるまでの間、株式は相続人の準共有に属し、権利行使者の指定及び通知がなければ権利を行使することができません(会社法第106条本文)。この間、会社の意思決定に支障が生じます。
相続人等に対する売渡しの請求
定款にその定めがある場合には、会社は、相続その他の一般承継により譲渡制限株式を取得した者に対し、当該株式を会社に売り渡すことを請求することができます(会社法第174条)。ただし、会社が相続その他の一般承継があったことを知った日から1年を経過したときはすることができません(会社法第176条第1項ただし書)。
この制度には重大な留意点があります。請求の相手方となる株主は、その決議において議決権を行使することができません(会社法第175条第2項)。したがって、後継者自身が相手方とされる危険があります。定款にこの定めを置くこと自体が、後継者にとって危険となる場合がありますので、慎重な検討を要します。
株式の併合
株主総会の特別決議により株式の併合をすることができます(会社法第180条、第309条第2項)。併合の割合によっては、少数の株式を保有する株主の株式が1株に満たない端数となり、金銭による処理を受けることになります。
順序の設計と落とし穴
| 落とし穴 | 内容 | 対応 |
|---|---|---|
| 売主追加請求権 | 特定の株主から自己株式を取得しようとすると、他の株主が名乗り出ます | 相続人等からの取得の特例(会社法第162条)の適用の可否を確認いたします |
| 分配可能額 | 会社に十分な分配可能額がなければ取得できません | 計算書類等により確認し、必要に応じ資本金又は準備金の額の減少を検討いたします |
| 遺留分 | 株式を集中させると他の相続人の遺留分を侵害し得ます | 他の財産の配分、代償金、遺留分に関する民法の特例を検討いたします |
| 売渡しの請求の定め | 後継者自身が請求の相手方とされる危険があります | 定款の定めの要否を慎重に検討いたします |
| 名義書換の失念 | 贈与をしても会社に対抗できません | 承認の決議及び名義書換を確実に行います |
| 種類株主総会 | 定款の変更に種類株主総会の決議を要することがあります | 既存の種類株式の内容を確認いたします |
なお、税務上の取扱いにつきましては税理士にご確認ください。当事務所は税務の申告及び相談を行っていません。また、登記の申請の手続につきましては司法書士にご確認ください。
手順
| 段階 | 内容 |
|---|---|
| 第1 | 実現したい事項を定め、必要な議決権の割合を確定いたします |
| 第2 | 登記事項証明書、定款、株主名簿により現状を確定いたします |
| 第3 | 名義株及び所在の分からない株主の有無を確認いたします |
| 第4 | 計算書類等により分配可能額を確認いたします |
| 第5 | 推定相続人の範囲及び遺留分の見通しを検討いたします |
| 第6 | 手段を選択し、実行の順序を設計いたします |
| 第7 | 各手続を実行し、名義書換及び登記を確実に行います |
期限
| 事項 | 期限 | 根拠条文 |
|---|---|---|
| 相続人等に対する売渡しの請求 | 会社が相続を知った日から1年 | 会社法第176条第1項ただし書 |
| 自己株式を取得することができる期間 | 株主総会の決議で定めます(1年を超えることができません) | 会社法第156条第1項 |
| 遺留分侵害額の請求 | 相続の開始及び侵害の事実を知った時から1年(相続の開始から10年) | 民法第1048条 |
| 相続税の申告 | 相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月 | 相続税法第27条第1項 |
弁護士にご相談いただく意味
この類型において結論を左右するのは、順序の設計です。個々の手段は、いずれも会社法及び民法に定められた制度であり、それ自体は難解ではありません。難しいのは、どの手段を、いかなる順序で、いかなる時期に用いるかです。
たとえば、特定の株主から自己株式を取得しようとすれば、他の株主に売主追加請求権が生じます(会社法第160条第2項及び第3項)。これを見落としますと、想定していなかった株主からも買い取ることとなり、会社の資金が不足いたします。また、株式を後継者に集中させれば、他の相続人の遺留分が問題となります。集約に成功したと思った矢先に、遺留分侵害額の請求により多額の金銭の支払を求められるという事態が生じ得ます。
さらに、相続人等に対する売渡しの請求の定めは、会社の側にとって有用な制度ですが、後継者自身が相手方とされる危険を伴います(会社法第175条第2項)。定款にこの定めを置くべきか否かは、株主構成を踏まえた慎重な判断を要します。
当事務所は、相続人及び株主の側のお立場でこの類型の案件を取り扱っており、同一の案件について会社の側と相続人の側の双方を代理することはありません。具体的な進め方は、株主構成、定款の内容、会社の財務の状態、推定相続人の範囲及び関係等により異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してまいりました実務上のノウハウにも属するため、本記事では詳細を開示していません。
株式を手放すことに難色を示す株主への対応
集約が進まない原因は、多くの場合、法律上の障害ではなく、株主の側の事情にあります。株主の類型により背景にある事情が異なりますので、これに応じて交渉の切り口を変えることが有効です。
| 株主の類型 | 背景にある事情 | 交渉の切り口 | 留意点 |
|---|---|---|---|
| 先代の兄弟姉妹 | 創業に関与したという意識があり、金銭の多寡の問題ではないことが少なくありません | これまでの経緯に対する敬意を示し、会社を続けるために必要である旨を丁寧にご説明いたします | 感情的な対立に至りますと長期化いたします。早い段階で第三者を介することも有効です |
| 従業員又は元従業員 | 在職中に取得したもので、退職の後も保有が続いているものです | 退職の際の取決めの有無を確認し、取決めがある場合にはこれに従って協議いたします | 取決めの内容が不明確なことが多く、まず書面の有無の確認から始まります |
| 相続により株主となった遠縁の親族 | 会社との関わりが薄く、株式を保有しているという意識も乏しいことがあります | 保有を続けることに伴う手続上の負担をご説明し、手放す方向での協議を行います | 相続人が複数である場合には、その全員との協議を要します |
| 取引先又はその関係者 | 取引関係の維持を目的として保有しているものです | 取引の継続と株式の保有とを切り離してご検討いただくよう求めます | 取引関係そのものへの影響に配慮が必要です |
| 過去に紛争のあった株主 | 会社又は先代との間に、未解決の対立が残っています | 対立の原因となった事項を先に整理し、その上で株式に関する協議に移ります | 株式の協議のみを先行させても、進展しないことが通例です |
| 所在の分からない株主 | 転居等により、連絡が取れなくなっています | 住所の調査を先に行い、それでも判明しない場合に会社法上の手続を検討いたします | 手続には所定の期間を要しますので、早期の着手が必要です |
いずれの類型につきましても、最初の接触の仕方が、その後の交渉の難易を大きく左右いたします。書面のみをお送りして株式の買取りを求める方法は、相手方に警戒心を生じさせ、かえって交渉を難しくすることがあります。誰が、いかなる立場で、いかなる順序でお話しするのかを、あらかじめ設計してください。
集約の資金をどこから用意するのか
集約の設計は、手段の選択が終わった時点では完成しません。誰の財布から支払うのかを決めて、初めて実行に移ることができます。出所は3つに限られます。後継者個人の資金、会社の資金、そして外部からの借入れです。どれを用いるかによって、必要となる決議も、支払の時期の組み方も変わります。
会社の資金を用いる場合の手順は、二段構えです。会社法第155条第3号は、会社法第156条第1項の規定による決議があった場合に自己の株式を取得することができると規定し、同項は、株主総会の決議によって、取得する株式の数、交付する金銭等の内容及びその総額並びに株式を取得することができる期間を定めなければならないと規定しています。そのうえで、会社法第157条第1項は、実際に取得しようとするときは、その都度、1株を取得するのと引換えに交付する金銭等の数額、その総額並びに株式の譲渡しの申込みの期日を定めなければならないと規定しています。枠を決める決議と、個別の取得の決定とは別物です。
外部からの借入れについては、中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律第12条第1項が、経営の承継に伴い資金を必要とする中小企業者等に関する経済産業大臣の認定を定めています。この認定を受けることにより、株式の取得の資金及び納税の資金について、融資及び信用保証の特例を利用する道が開かれます。申請には所定の書類の準備を要しますので、買取りの交渉と並行して進めてください。
設計の際に忘れやすいのは、支払の時期の分散です。会社法第461条第1項第3号は、会社法第157条第1項の規定による決定に基づく取得について、交付する金銭等の帳簿価額の総額が分配可能額を超えてはならないと規定しています。分配可能額は決算期ごとに変動しますので、同一の事業年度内に集中させるのかどうかを、あらかじめ数字で決めておく必要があります。
集約の過程で課税が生ずる場面
集約の手段を選ぶ際には、法律上の要件と並んで、課税の生ずる場面を先に洗い出しておく必要があります。場面は主に5つです。第一に、先代から後継者へ株式を贈与する場面です。第二に、相続により株式を承継する場面です。第三に、会社が株主から自己の株式を取得する場面です。この場合、株式を譲り渡した株主の側で、会社の資本金等の額に対応する部分を超える金銭の交付が、配当を受けたものとして取り扱われます。第四に、後継者個人が時価と乖離した価額で株式を取得する場面です。第五に、株式の併合により端数の対価として金銭の交付を受ける場面です。
これらのうち、法律上の手続が同じであっても、取得の主体を会社とするか個人とするかによって、課税の帰結が大きく変わります。会社法第160条第1項の手続により会社が取得する場合と、後継者が相対の取引により取得する場合とでは、支払う側の負担も、受け取る側の手取りも異なります。手取りの額が変われば、相手方が応じる価額も変わりますので、交渉に入る前に確認しておく事項です。なお、税務上の取扱いについては、税理士に御確認ください。当事務所は税務の申告及び相談を行っていません。
実務上の備えとして、価額の根拠となる資料を、決議の記録と一体で保管してください。株主総会の議事録、算定に用いた計算書類、評価の書面、相手方との合意の書面を同じ束にしておけば、後日、価額の当否が問われた際に、判断の過程を示すことができます。口頭の交渉のみで価額を決め、記録を残していない取引が、最も説明の難しい取引となります。
集約に応じない株主が最後まで残った場合
交渉を尽くしても応じない株主が残ることがあります。この場合に用いる手段の一つが、株式の併合です。会社法第180条第1項は、株式会社は株式の併合をすることができると規定し、会社法第309条第2項第4号は、株式の併合に係る株主総会の決議を、議決権の3分の2以上に当たる多数をもって行わなければならない決議としています。併合の割合の設定により、少数の株式を保有する株主の持株数が1株に満たない端数となり、金銭による処理を受けることになります。
もっとも、これは一方的に排除する手続ではありません。会社法第182条の4第1項は、株式の併合をすることにより株式の数に1株に満たない端数が生ずる場合には、反対株主が、株式会社に対し、自己の有する株式のうち1株に満たない端数となるものの全部を公正な価格で買い取ることを請求することができると規定しています。会社が用意すべき資金は、端数の処理に伴う対価と、この買取りの請求に応ずる対価との両方です。試算を欠いたまま決議に進みますと、効力の発生の後に資金が不足します。
手続の面では、効力を生ずる日の前に、株主に対して併合の内容を知らせる手順が定められています。反対株主が権利を行使するための期間を確保する趣旨ですから、通知又は公告の時期を工程表に組み込んでください。買取りの価格について協議が調わない場合には、裁判所に対して価格の決定を申し立てる手続へ移ります。この段階に至ると、解決までに相当の期間を要します。
してはならないのは、株主総会の議事録に、少数の株式を保有する者を排除することのみを目的とする旨の記載を残すことです。併合を行う事業上の必要性、割合の設定の理由、対価の算定の根拠を、決議の記録として整えてください。反対株主から届いた書面を放置することも避けてください。回答をしないこと自体が、後の価格の交渉において不利に働きます。
いま確認していただきたいこと
まず、直近3期分の計算書類により分配可能額を試算し、会社が自己の株式を取得する余地がどの程度あるかを数字で把握してください。そのうえで、買取りの対価の支払を予定している月を一覧にし、同一の事業年度に集中していないかを確認します。集中している場合には、会社法第156条第1項の決議で定める期間の設定を組み替えるか、取得の主体を分けることになります。
次に、集約に応じない見込みの株主について、氏名、保有する株式の数、議決権の割合を一覧にし、株式の併合を行った場合に端数となるかどうかを割合ごとに試算してください。あわせて、会社法第182条の4第1項の買取りの請求がされた場合に必要となる資金を見積もります。この2つの数字が揃って、初めて併合という手段を選択肢に載せることができます。
最後に、株券を発行する旨の定款の定めの有無と、株券の現物の所在を確認してください。株券発行会社であるにもかかわらず株券が作成されていない、又は所在が分からない場合には、取得の手続そのものが止まります。過去に会社が株式を取得した事例があれば、その際の価額と算定の資料の所在も、あわせて確認しておいてください。
よくあるご質問
質問1 株式は全部集めなければなりませんか。
実現したい事項により、必要な割合が異なります。定款の変更等の特別決議を単独で成立させるには3分の2以上(会社法第309条第2項)、役員の選任及び解任等の普通決議には過半数(会社法第309条第1項)が必要です。目標を過大に設定する必要はありません。
質問2 叔父が株式を手放してくれません。
相対の交渉により合意が得られない場合には、会社による自己株式の取得、株式の併合等を検討いたします。もっとも、いずれも要件がありますので、株主構成を踏まえた検討が必要です。
質問3 連絡が取れない株主がいます。
会社法には、所在の知れない株主に対する通知の省略及びその株式の競売又は売却に関する規律が設けられていますが(会社法第196条、第197条)、要件が厳格です。個別に検討を要します。
質問4 生前贈与と遺言のどちらがよいですか。
いずれにも利点と課題があります。生前贈与は確実に移転できますが、特別受益及び遺留分の問題が生じます。遺言は本人の意思により撤回し得ますが、相続の開始まで効力を生じません。事案に応じた設計が必要です。なお、税務上の取扱いにつきましては税理士にご確認ください。
質問5 定款に相続人等に対する売渡しの請求の定めを入れるべきですか。
この定めは、株式の分散を防ぐ手段となる一方、請求の相手方となる株主が議決権を行使することができないという規律を伴います(会社法第175条第2項)。株主構成によっては、後継者自身が対象とされる危険があります。慎重な検討を要します。
質問6 株主から「この金額なら売る」と言われました。応じてよいものでしょうか。
その価格の当否のみならず、同じ条件で他の株主とも取引を行うことになった場合の全体の負担を見込んでご判断ください。1名との合意の内容は、他の株主との交渉における基準として持ち出されることがあります。全体の設計を先に立てておくことが肝要です。
質問7 交渉を行う順序に決まりはありますか。
決まりはありません。保有する株式の数が多い株主、又は反対する見込みの高い株主から着手いたしますと、全体の見通しが早く立ちます。他方、合意が得られやすい株主から進め、実績を重ねる進め方もあります。いずれによるかは、株主の構成及び関係により選択いたします。
質問8 交渉が長引いています。ほかに方法はありませんか。
個別の交渉によらない手段として、本記事に掲げた会社法上の制度があります。もっとも、いずれも要件及び手続上の負担がありますので、交渉と並行して準備を進め、いずれによるかを見極めることになります。交渉が行き詰まってから準備に着手いたしますと、更に時間を要します。
本記事の根拠条文
会社法
- 第31条第2項(定款の閲覧等)
- 第106条(共有者による権利の行使)
- 第108条第1項(種類株式)
- 第130条第1項(株式の譲渡の対抗要件)
- 第136条・第137条・第139条第1項(譲渡等の承認)
- 第156条第1項・第160条第1項から第3項まで(自己株式の取得及び売主追加請求権)
- 第162条(相続人等からの取得の特例)
- 第174条から第177条まで(相続人等に対する売渡しの請求)
- 第179条(特別支配株主の株式等売渡請求)
- 第180条(株式の併合)
- 第196条・第197条(所在の知れない株主に関する規律)
- 第297条第1項(株主による株主総会の招集の請求)
- 第309条第1項・第2項(株主総会の決議)
- 第322条第1項(種類株主総会の決議)
- 第341条(役員の選任及び解任の決議の要件)
- 第358条第1項(業務の執行に関する検査役の選任)
- 第433条第1項(会計帳簿の閲覧等の請求)
- 第461条第1項(分配可能額による制限)
- 第466条(定款の変更)
民法 第549条(贈与)、第903条第1項(特別受益者の相続分)、第907条第2項(遺産の分割の請求)、第1044条第3項(遺留分を算定するための財産の価額に算入される贈与)、第1046条第1項(遺留分侵害額の請求)、第1048条(期間の制限)
中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律 遺留分に関する民法の特例
相続税法 第27条第1項(相続税の申告書の提出期限)
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弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)では、後継者への株式の集約をお考えの経営者及び後継者の方からのご相談をお受けしています。株主構成及び定款の調査、名義株の整理、集約の手段の選択及び順序の設計、株式譲渡契約書及び贈与契約書の作成、譲渡の承認及び名義書換の手続、自己株式の取得の手続の設計、遺留分に関する検討まで、ご依頼者の側の代理人としてお引き受けいたします。当事務所は、相続人及び株主の側のお立場でこの類型の案件を取り扱っており、同一の案件について会社の側と相続人の側の双方を代理することはありません。
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- 電話番号 03-6435-8418
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本記事は一般的な制度の説明であり、結論は事案ごとに異なります。同種の事案において同じ結果となることを保証するものではありません。個別の事情については、弁護士にご相談ください。
必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。
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