社長が亡くなり仲の悪い親族に株式が移転した場合の整理
父が亡くなり、会社の株式が相続人3人に分かれました。私が事業を継いでおりますが、他の相続人とは長く疎遠で、話し合いにも応じてもらえません。株主総会も開けず、経営の判断ができない状態が続いております。このようなご相談を、当事務所はしばしばお受けしております。
先に結論を申し上げます。分散した株式を整理する手段は、大きく3つに分かれます。第1は、相対の交渉により後継者が買い取る方法でございます。第2は、会社が自己株式として取得する方法でございます(会社法第156条以下)。第3は、会社法上の制度により少数の株式を整理する方法でございます。いずれの方法によるにしても、まず現在の株主が誰で、それぞれ何株を保有しているかを確定することが出発点でございます。手続の順序を誤りますと、他の株主に法定の権利を与えてしまい、かえって整理が困難になることがございます。本記事では、現状の確定から手段の選択までを整理いたします。
第1節 現状を確定いたします
1 遺産分割の状況
遺産分割が終わるまでの間、株式は相続人の準共有に属します。共有者は、当該株式についての権利を行使する者1人を定め、会社に対しその者の氏名又は名称を通知しなければ、当該株式についての権利を行使することができません(会社法第106条本文)。したがって、遺産分割が未了であれば、そもそも「誰が何株を持つか」が確定しておりません。整理の前提として、遺産分割を進める必要がございます。
権利行使者の指定は、判例上、共有持分の価格に従い、その過半数をもって決するものと解されております。過半数の合意が得られない場合には、遺産分割の調停又は審判の申立てを検討いたします。
2 株主名簿及び名義書換
遺産分割が終わった後は、各相続人が名義書換を請求することになります。相続その他の一般承継により株式を取得した者は、単独で株主名簿記載事項の記載又は記録を請求することができるものとされております。会社としては、株主名簿を正確に整備することが、その後のあらゆる手続の前提となります。
3 被相続人の生前の異動
被相続人の生前に、従業員、取引先、親族等に株式が渡っていることがございます。株主名簿が長期間更新されていない会社では、名簿上の株主と真実の株主とが一致しないことも少なくございません。株主名簿、株主総会の議事録、配当の支払の記録、登記の経過を照合し、現状を確定いたします。
第2節 相対の交渉により買い取る方法
1 譲渡制限株式の譲渡の手続
譲渡制限株式を譲渡するには、会社の承認を受けなければならないものとされております(会社法第136条、第137条)。承認は、原則として株主総会(取締役会設置会社にあっては取締役会)の決議によります(会社法第139条第1項)。後継者が他の株主から買い取る場合にも、この承認の手続が必要でございます。
2 価格の合意
相対の交渉においては、価格の合意が最大の障害となります。相手方は「相続税の評価額よりも高く売りたい」と考え、後継者は「会社の実態からすればその額は高い」と考えることが通例でございます。合意に至らない場合には、次に述べる制度上の手段を検討することになります。
3 合意ができた場合の書面
合意ができた場合には、株式譲渡契約書を作成し、譲渡の承認の手続、株主名簿の名義書換、対価の支払を確実に行います。将来の紛争を避けるため、他に請求すべき権利がないことの確認を含めることが考えられます。なお、税務上の取扱いにつきましては税理士にご確認ください。
第3節 会社が自己株式として取得する方法
1 特定の株主からの取得
会社が特定の株主から自己株式を取得する場合には、株主総会の決議により、取得する株式の数、対価の内容及び総額、取得することができる期間を定めた上、当該特定の株主を定めることになります(会社法第156条第1項、第160条第1項)。この決議は特別決議によるものとされております(会社法第309条第2項)。
2 売主追加請求権に留意いたします
会社は、特定の株主からの取得を株主総会の目的とする場合には、他の株主に対し、自己をも売主に加えたものを議案とすることを請求することができる旨を通知しなければならないものとされております(会社法第160条第2項)。株主は、これに基づき、自己をも売主に加えることを請求することができます(同条第3項)。
すなわち、特定の株主のみから買い取ろうとしても、他の株主が名乗り出れば、その者からも買い取らなければならなくなります。整理したい相手方のみを対象とするつもりが、思わぬ範囲に広がることがございます。この点は、手続の設計において最も注意を要する箇所でございます。
3 相続人等からの取得の特例
公開会社でない会社が、相続その他の一般承継により当該会社の株式を取得した者からその株式を取得する場合において、当該株主が株主総会において当該株式について議決権を行使していないとき等の要件を満たすときは、売主追加請求権に関する規定を適用しないものとされております(会社法第162条)。相続により分散した株式の整理においては、この特例の適用の可否が実務上の鍵となります。
4 財源の制限
自己株式の取得により株主に対して交付する金銭等の帳簿価額の総額は、当該行為がその効力を生ずる日における分配可能額を超えてはならないものとされております(会社法第461条第1項)。会社に十分な分配可能額がなければ、この方法によることができません。
第4節 会社法上の制度により整理する方法
| 手段 | 主な要件 | 根拠条文 |
|---|---|---|
| 相続人等に対する売渡しの請求 | 定款の定め、相続を知った日から1年以内 | 会社法第174条から第177条まで |
| 株式の併合 | 株主総会の特別決議 | 会社法第180条、第309条第2項 |
| 特別支配株主の株式等売渡請求 | 総株主の議決権の10分の9以上 | 会社法第179条 |
| 譲渡等の承認の請求に対する会社又は指定買取人による買取り | 株主から譲渡等の承認の請求があること | 会社法第140条 |
1 相続人等に対する売渡しの請求
定款にその定めがある場合には、会社は、相続その他の一般承継により譲渡制限株式を取得した者に対し、当該株式を会社に売り渡すことを請求することができます(会社法第174条)。ただし、会社が相続その他の一般承継があったことを知った日から1年を経過したときは、この限りでないものとされております(会社法第176条第1項ただし書)。
この制度には重大な留意点がございます。請求の相手方となる株主は、その決議において議決権を行使することができません(会社法第175条第2項)。この規律は、後継者自身が相手方とされる場合には後継者に不利に働きます。他方、後継者が会社の側にある場合には、他の相続人に対して用い得る手段となります。いずれの立場に立つかによって、制度の意味は正反対となります。
2 株式の併合
会社は、株主総会の特別決議により、株式の併合をすることができます(会社法第180条、第309条第2項)。併合の割合によっては、少数の株式を保有する株主の株式が1株に満たない端数となり、金銭による処理を受けることになります。反対する株主が株式の買取りを請求することができる場合がございます。
3 譲渡等の承認の請求を契機とする買取り
株主から譲渡等の承認の請求があり、会社がこれを承認しない場合には、会社が当該株式を買い取るか、又は指定買取人を指定しなければならないものとされております(会社法第140条)。この場合の売買価格は、当事者の協議によって定めますが、協議が調わないときは、一定の期間内に裁判所に対して売買価格の決定の申立てをすることができるものとされております(会社法第144条)。他の株主が外部への譲渡を望む場合には、この経路により整理が進むことがございます。
第5節 整理の順序
| 段階 | 内容 |
|---|---|
| 第1 | 遺産分割の状況及び権利行使者の指定の有無を確認いたします |
| 第2 | 株主名簿、登記、議事録を照合し、現在の株主を確定いたします |
| 第3 | 定款を確認し、譲渡の制限及び売渡しの請求の定めの有無を確かめます |
| 第4 | 会社の分配可能額を確認いたします |
| 第5 | 相対の交渉の可否を検討いたします |
| 第6 | 会社による自己株式の取得又は会社法上の制度の利用を検討いたします |
| 第7 | 手続の順序を設計し、他の株主に生じる法定の権利を織り込みます |
第6節 弁護士にご相談いただく意味
この類型において結論を左右するのは、手続の順序の設計でございます。特定の株主から自己株式を取得しようといたしますと、他の株主に売主追加請求権が生じます(会社法第160条第2項及び第3項)。これを見落としますと、想定していなかった株主からも買い取ることとなり、会社の資金が不足いたします。相続人等に対する売渡しの請求についても、1年の期間及び議決権の排除の規律を踏まえた設計が必要でございます。
また、疎遠な相続人との交渉は、法律論のみでは進まないことが少なくございません。何を求めているのかを把握し、遺産分割の全体の中で解決の形を探ることが有効な場合がございます。株式のみを切り離して交渉するよりも、遺産の全体を通じて調整する方が、結論に至りやすいことがございます。
具体的な進め方は、定款の内容、株主構成、遺産分割の状況、会社の財務の状態等により異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してまいりました実務上のノウハウにも属するため、本記事では詳細を開示しておりません。なお、税務上の取扱いにつきましては税理士にご確認ください。
第7節 連絡が取れない株主、交渉に応じない株主への対応
1 所在を調査いたします
株主名簿に記載された住所に書面を送付しても届かない場合には、まず所在の調査を行います。相続人でもある株主については、戸籍の附票により住所を調査することが考えられます。会社としては、株主名簿の記載を現実の住所に合わせて整えておくことが、後の手続の前提となります。
2 書面による働きかけの積み重ね
交渉に応じない株主に対しても、書面による働きかけを重ねることには意味がございます。応じない旨の回答、又は回答がない事実そのものが、その後に採る手続において、任意の解決を尽くしたことを示す資料となるためでございます。
- 送付は配達証明付きの内容証明郵便によります
- 提案の内容は具体的に記載いたします。金額を示さないまま「話し合いたい」と述べるだけでは、応答を得にくうございます
- 回答の期限を定め、回答がない場合に検討する手続を予告いたします
- 送付した書面の控え、配達証明、回答の有無を一覧として記録いたします
3 感情の対立が背景にある場合
疎遠な親族との間では、株式の問題そのものよりも、相続の経緯に対する不満が交渉を妨げていることが少なくございません。この場合、代理人を介することにより、感情の応酬から切り離して条件の交渉を進め得ることがございます。
4 株主総会の運営における取扱い
連絡が取れない株主がいる場合であっても、株主総会の招集の通知は、株主名簿に記載された住所に宛てて発することとなります。通知が到達しないことのみをもって招集の手続の瑕疵が治癒されるわけではございませんので、通知の発送の記録を保存いたします。
また、所在が知れない株主に関する制度が会社法に設けられておりますので、要件に該当する場合には、その利用を検討いたします。要件及び手続は厳格でございますので、事前に十分な確認が必要でございます。
第8節 合意に至った場合に書面へ定めるべき事項
買取りについて合意が調いましたら、必ず書面を作成いたします。後日の紛争を避けるため、次の事項を漏れなく定めます。
| 条項 | 定めるべき内容 |
|---|---|
| 当事者及び目的物 | 売主及び買主の特定、株式の種類及び数、発行会社の商号及び本店の所在地 |
| 代金及び支払 | 代金の額、支払の期日、支払の方法及び振込先。分割による場合は各回の期日並びに期限の利益の喪失の定め |
| 承認の手続 | 譲渡制限株式である場合、譲渡の承認の請求を誰がいつ行うか、承認が得られない場合の取扱い |
| 名義書換 | 株主名簿の名義の書換えの時期及びこれに要する書面の交付 |
| 株券 | 株券発行会社であるか否か、株券が現に存在するか、交付の時期及び方法 |
| 売主の表明 | 当該株式が売主に帰属すること、担保その他の負担が付されていないこと |
| 先行して行使された権利の処理 | 既に行われた閲覧謄写の請求、招集の請求等の取扱い |
| 清算条項 | 本件により終了する事項の範囲。被相続人に対する貸付金、保証、未分割の財産が残る場合には、清算の対象から除外する旨を明記いたします |
| 秘密の保持 | 合意の内容を他に開示しない旨。他の株主との交渉が残る場合に特に重要でございます |
なお、税務上の取扱いにつきましては税理士にご確認ください。
第9節 他の株主から想定される主張と、反論の枠組み
| 他の株主の主張 | 受け止め方及び反論の枠組み |
|---|---|
| 売るつもりはない、先代の形見だ | 売却を強いることはできません。もっとも、保有を続ける場合には、株主としての権利の行使に応じる必要が生ずることを説明し、双方にとっての負担を示すことが考えられます |
| 提示された金額が不当に低い | 算定の前提とした資料及び考え方を開示し、協議の土台を作ります。開示を拒んだまま金額のみを示すことは、不信を招き、交渉を長引かせます |
| 会社の内容が分からないので判断できない | 株主としての権利により資料の請求が可能でございます。むしろ、会社の側から進んで計算書類等を示すことが、交渉の進展につながることがございます |
| 他の相続人にはもっと良い条件を出しているのではないか | 条件に差を設けることは、後の紛争の原因となります。条件を統一するか、差を設ける合理的な理由を説明できるようにしておきます |
| 会社が自己株式として買い取るなら、自分も売りたい | 特定の株主から取得する場合には、他の株主が自己をも売主に加えるよう請求し得る制度がございます(第3節をご覧ください)。手続の設計の段階で、この点を織り込みます |
| 今は決められない、そのうち考える | 期限を定めて回答を求め、その経過を記録いたします。回答がないまま年数を経ますと、相続により株式が更に分散するおそれがございます |
第10節 整理を先送りした場合に生じ得る事態
- 更なる分散。株主に相続が生じますと、その相続人の数だけ株主が増えます。世代を重ねるごとに、交渉すべき相手方は増えてまいります
- 所在の不明。年数の経過により、株主又はその相続人の所在が判明しなくなることがございます
- 関係の疎遠化。面識のない世代へ移りますと、会社の事情に対する理解が失われ、交渉の難度が上がります
- 株主総会の運営の停滞。招集の通知が到達しない株主が増えますと、決議の適法性に疑義が生じやすくなります
- 資金調達及び事業の承継への支障。株主の構成が確定しないことは、金融機関との取引及び将来の事業の承継の局面において、支障となることがございます
- 価格に関する争いの複雑化。会社の状況が変われば、価格に関する主張の隔たりも大きくなります
整理は、早い段階で着手するほど選択肢が広うございます。株主が少なく、関係がまだ保たれている段階での相対の交渉が、最も負担の少ない解決でございます。
よくあるご質問
質問1 他の相続人が話し合いに応じません。
遺産分割が未了であれば、遺産分割の調停の申立てを検討いたします。分割が済んでいる場合には、株式の買取りの交渉と並行して、株主総会の運営を法令に従って進める体制を整えることになります。
質問2 会社のお金で買い取ることはできますか。
会社が自己株式として取得する方法がございます(会社法第156条以下)。ただし、分配可能額を超えることはできず(会社法第461条第1項)、また特定の株主から取得する場合には他の株主の売主追加請求権に留意する必要がございます(会社法第160条第2項及び第3項)。
質問3 定款に売渡しの請求の定めがあります。使えますか。
会社が相続その他の一般承継があったことを知った日から1年以内であれば、請求をすることができます(会社法第176条第1項)。ただし、請求の相手方となる株主は当該決議において議決権を行使することができないという規律がございますので(会社法第175条第2項)、株主構成によっては後継者自身が対象とされる危険がございます。制度の利用は慎重に検討する必要がございます。
質問4 相手方が「株券を持っている」と言っています。
株券を発行する旨の定款の定めがあるか否かを確認いたします。定款の定め及び登記の記載により、株券発行会社であるかが分かります。株券が現実に発行されているかについては、会社の記録及び当事者の説明を照合することになります。
質問5 相手方の住所が分かりません。
相続人でもある株主については、戸籍の附票により住所を調査することが考えられます。株主名簿の記載が古いままである場合には、これを現実の住所に合わせて整えておくことが、その後の手続の前提となります。
質問6 条件を株主ごとに変えてもよろしいでしょうか。
条件に差を設けることは、後に不公平であるとの主張を招き、紛争の原因となります。条件を統一するか、差を設ける合理的な理由を説明できるようにしておくことが相当でございます。
質問7 急いで整理する必要はございますか。
株主に相続が生ずるたびに株式は更に分散いたします。所在が判明しなくなることもございます。第10節に掲げた事態を避けるため、関係が保たれている段階での着手をお勧めいたします。
本記事の根拠条文
会社法
- 第106条(共有者による権利の行使)
- 第136条・第137条(譲渡等の承認の請求)
- 第139条第1項(譲渡等の承認の決定)
- 第140条(会社又は指定買取人による買取り)
- 第144条(売買価格の決定)
- 第156条第1項(自己株式の取得に関する事項の決定)
- 第160条第1項から第3項まで(特定の株主からの取得及び売主追加請求権)
- 第162条(相続人等からの取得の特例)
- 第174条から第177条まで(相続人等に対する売渡しの請求)
- 第179条(特別支配株主の株式等売渡請求)
- 第180条(株式の併合)
- 第309条第2項(株主総会の特別決議)
- 第461条第1項(分配可能額による制限)
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必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。
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