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持株会社の株式の評価と遺留分 相続税評価額との違いと持株会社を通じた承継の留意点

公開 2026年10月26日更新 2026年10月30日

▶ 自社株式を後継者に集中させた場合の遺留分侵害額請求と株式の評価

父は、事業会社の株式をすべて保有する持株会社を設立し、その持株会社の株式をすべて保有していました。遺言で持株会社の株式はすべて兄が相続しました。遺留分を請求すると、兄は「持株会社には事業会社の株式しかない。相続税の申告に使った評価額で計算すべきだ」と言います。事業会社は毎年利益を上げているのに、その価値は遺留分に反映されないのでしょうか。当事務所には、このようなご相談が寄せられています。

同族会社では、事業会社の株式を持株会社に集め、オーナー経営者が持株会社の株式を保有する形がとられることがあります。この場合、相続の対象となるのは持株会社の株式であり、事業会社の株式は直接には相続財産に含まれません。持株会社の株式の価値をどう評価するかが、遺留分の争いの中心になります。

結論から申し上げます。持株会社の株式も、遺留分の算定では相続開始の時の価額(時価)で評価します。持株会社の時価は、持株会社自身の資産だけでなく、保有する事業会社の株式の価値に左右されるため、事業会社の決算書等まで確認する必要があります。相続税の申告では、株式等保有特定会社として純資産価額を基に評価されることが多いものの、その金額は財産評価基本通達による相続税評価額であり、遺留分の算定に用いる時価とは別のものです。以下、順を追ってご説明します。

持株会社を通じた株式の承継

相続の対象は持株会社の株式です

オーナー経営者が持株会社の株式を保有し、持株会社が事業会社の株式を保有している場合、経営者の相続財産は持株会社の株式です。事業会社の株式の所有者は持株会社であり、相続によって移転することはありません。持株会社の株式を承継した者が、持株会社を通じて事業会社を支配することになります。

持株会社が作られる経緯

持株会社は、経営者が事業会社の株式と引換えに持株会社の株式を取得する組織再編のほか、後継者が設立した会社に経営者が事業会社の株式を売却し、又は贈与する方法でも作られます。どの方法で持株会社に株式が移ったかによって、遺留分の計算に入る財産と、その価額の考え方が変わります。

遺留分の算定における株式の価額

相続開始の時の価額で評価します

遺留分を算定するための財産の価額は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から、債務の全額を控除した額です(民法第1043条第1項)。持株会社の株式も、相続開始の時の価額で評価します。民法には非上場株式の評価の方法の定めがないため、当事者の協議や、調停及び訴訟での主張と鑑定を通じて価額が定まります。

非上場株式の時価の考え方

非上場株式の時価は、会社の純資産を時価で評価する方法、将来の収益力を基にする方法、配当を基にする方法、類似する会社と比べる方法などを、会社の実態に応じて用い、又は組み合わせて算定するのが一般的です。会社が事業を続けることを前提とするか、株式の数がどの程度の支配力を持つかによっても、用いる方法が変わります。

持株会社の場合は事業会社まで評価します

持株会社の資産の大部分が事業会社の株式であれば、持株会社の株式の時価は、事業会社の株式の時価によってほぼ決まります。事業会社の株式を帳簿価額のまま計上すると、設立の後に事業会社が積み上げた利益や、事業会社が保有する不動産の含み益が反映されません。持株会社の貸借対照表だけでなく、事業会社の決算書、資産の明細、収益の見通しまで確認して評価します。

含み益に対する税金相当額の扱い

純資産を時価で評価する方法では、資産の含み益に対して将来生じ得る法人税等に相当する金額を差し引くかどうかが争点となることがあります。会社を清算する予定がなく事業を続ける場合に差し引くべきかについては考え方が分かれ、事案ごとに主張が対立します。持株会社と事業会社の2段階で含み益がある場合は、影響が大きくなります。

自社株式をめぐって、遺留分侵害額の請求を受け、又は請求を検討している方は、次のページを御覧ください。

相続税の財産評価との違い

財産評価基本通達による評価

相続税法は、相続により取得した財産の価額を取得の時における時価によると定めています(相続税法第22条)。国税庁は、その評価の方法を財産評価基本通達で定めています。取引相場のない株式は、会社の規模に応じて、類似業種比準価額、純資産価額、又はその併用によって評価するのが原則です(財産評価基本通達178、179)。

株式等保有特定会社

評価会社の資産の相続税評価額の合計額のうち、株式、出資及び新株予約権付社債の価額の合計額の割合が50%以上である会社は、「株式等保有特定会社」とされます(財産評価基本通達189(2))。株式等保有特定会社の株式は、原則として1株当たりの純資産価額(相続税評価額によって計算した金額)によって評価されます。納税義務者の選択により、株式等以外の部分と株式等の部分とに分けて計算した金額(いわゆるS1の金額とS2の金額の合計額)によって評価することもできます(財産評価基本通達189-3)。事業会社の株式を保有するだけの持株会社は、この株式等保有特定会社に当たることが多いと考えられます。

純資産価額の計算

財産評価基本通達の純資産価額は、各資産を通達に定めるところにより評価した価額の合計額から、各負債の金額の合計額と、評価差額に対する法人税額等に相当する金額を控除して計算します(財産評価基本通達185、186-2)。持株会社が保有する事業会社の株式も、通達の定めにより評価されます。その際、事業会社の株式を純資産価額で計算する場合は、評価差額に対する法人税額等に相当する金額を控除しないこととされています(財産評価基本通達186-3)。

遺留分の算定は通達の金額に拘束されません

財産評価基本通達は、相続税の課税のために国税庁が定めた評価の方法です。遺留分の算定に用いる時価は、通達の金額とは別に定まります。持株会社の株式は、相続税の申告では通達に従って評価されますが、その金額が事業会社の実際の収益力や資産の時価を反映しているとは限りません。相続税の申告書に記載された評価額は、資料を読み解く出発点として用います。

項目 遺留分の算定 相続税の申告
基準 相続開始の時の時価(民法第1043条第1項) 取得の時の時価(相続税法第22条)を財産評価基本通達により評価
評価の方法 法律の定めはなく、会社の実態に応じた方法を用いる 通達の定める方法(持株会社は株式等保有特定会社に当たることが多い)
事業会社の株式 事業会社の時価を反映させる 通達の定めにより評価する
含み益に対する税金相当額 差し引くかどうかが争点となる 通達の定めにより控除する(財産評価基本通達186-2、186-3)
決め方 当事者の協議、調停又は訴訟(鑑定を含む) 納税者の申告(税務調査で是正されることがある)

遺産分割での非上場株式の評価額をめぐって、他の相続人と争いが生じている方は、次のページを御覧ください。

持株会社を通じた承継の留意点

持株会社への贈与は、贈与の時期が問題になります

経営者が生前に事業会社の株式を後継者の持株会社に贈与した場合、持株会社は相続人ではありません。相続人以外の者に対する贈与は、原則として相続開始前の1年間にしたものに限り遺留分の算定に算入されますが、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは、1年前の日より前のものも算入されます(民法第1044条第1項)。贈与の時期と、贈与の当時の経営者と後継者の認識が争点となります。

持株会社への売却は、対価の相当性が問題になります

経営者が事業会社の株式を後継者の持株会社に売却していた場合、相続財産に残るのは受け取った代金です。対価が不相当に低く、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知っていたときは、その売買は負担付贈与とみなされ、時価と対価の差額が遺留分の計算に入ります(民法第1045条第2項)。売却の当時の株式の価額と代金の決め方を確かめます。

請求の相手方

遺留分侵害額の請求は、受遺者(特定財産承継遺言により財産を承継した相続人を含みます。)又は受贈者に対してします(民法第1046条第1項)。遺言で持株会社の株式を承継した後継者のほか、生前に株式の贈与を受けた持株会社が受贈者として相手方となることがあります。

持株会社と事業会社の資料を集めます

持株会社の株式の評価には、持株会社と事業会社の双方の決算書、勘定科目内訳書、法人税の申告書が必要です。株式を承継しなかった相続人が資料を入手する方法は、株式を承継しなかった相続人が遺留分の算定のために会社の資料を入手する方法をご参照ください。社長が持株会社や事業会社に貸付けをしていた場合や、会社が保険金を受け取った場合の扱いは、社長の会社への貸付金、死亡退職金及び生命保険金は遺留分の計算に入るかでご説明しています。

支払の資金

遺留分侵害額の請求は金銭の支払を求めるものであり(民法第1046条第1項)、支払う義務を負うのは後継者などの受遺者又は受贈者です。後継者が資金を用意するために、持株会社や事業会社から配当を受け、又は会社に株式を買い取ってもらう場合は、分配可能額の制限(会社法第461条)や課税の問題が生じます。会社による株式の取得の手続は、「自社株式は会社に買い取らせる」という遺言の効力 会社が相続人から株式を取得する手続と売渡しの請求との違いでご説明しています。裁判所は、受遺者又は受贈者の請求により、支払について相当の期限を許与することができます(民法第1047条第5項)。

相続税の精算

遺留分侵害額の支払が決まった後は、支払った側と受け取った側の双方で相続税の精算が必要となります。手続は遺留分侵害額の支払が決まった後の相続税の精算 更正の請求、期限後申告及び株式で支払う場合の課税をご参照ください。税務上の取扱いは、税理士にご確認ください。

お手元の資料と経緯をお聞きし、進め方の順序をお示しします。

いま確認していただきたいこと

  • 被相続人が保有していたのは持株会社の株式か、事業会社の株式か
  • 持株会社が作られた時期と方法(組織再編、売却、贈与)
  • 持株会社と事業会社の直近3期分の決算書と勘定科目内訳書
  • 相続税の申告書の控えと、取引相場のない株式(出資)の評価明細書(株式等保有特定会社の判定を含む)
  • 事業会社が保有する不動産その他の資産の内容
  • 相続の開始と遺言の内容を知った日(遺留分侵害額の請求の1年の起算点に関わります)

よくあるご質問

持株会社の株式の遺留分は、相続税評価額で計算しますか。

遺留分の算定には、相続開始の時の時価を用います。相続税評価額は財産評価基本通達による評価額であり、遺留分の算定に用いる時価とは別のものです。ただし、申告書の評価明細書は、会社の資産や利益を知る出発点になります。

株式等保有特定会社とは何ですか。

財産評価基本通達で、資産の相続税評価額のうち株式等の価額の割合が50%以上の会社をいいます(財産評価基本通達189(2))。その株式は、原則として純資産価額を基に評価されます(財産評価基本通達189-3)。相続税の評価の区分であり、遺留分の算定の方法を決めるものではありません。

事業会社の決算書も必要ですか。

必要です。持株会社の資産の大部分が事業会社の株式であれば、持株会社の株式の時価は事業会社の価値によって決まります。持株会社の決算書だけでは、事業会社の利益や含み益が分かりません。

父は生前に、事業会社の株式を兄が設立した会社に贈与していました。遺留分の計算に入りますか。

兄の会社は相続人ではないため、原則として相続開始前の1年間の贈与に限り算入されます。ただし、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは、それより前の贈与も算入されます(民法第1044条第1項)。

遺留分侵害額を、兄が持株会社の資金で支払うことはできますか。

支払う義務を負うのは兄であり、会社の資金を使うには、配当や株式の取得など会社法の手続と分配可能額の制限に従う必要があります(会社法第461条)。課税の問題も生じますので、支払の方法は税理士と検討してください。

出典

  • 民法(明治29年法律第89号)第1043条第1項、第1044条第1項、第1045条第2項、第1046条第1項、第1047条第5項、第1048条
  • 会社法(平成17年法律第86号)第461条
  • 相続税法(昭和25年法律第73号)第22条
  • 財産評価基本通達178、179、185、186-2、186-3、189、189-3(国税庁)
  • e-Gov法令検索(デジタル庁) 法令の条文の確認に用いています。

弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談

弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)は、非上場株式の相続に注力し、持株会社の株式を含む自社株式の評価、遺留分侵害額の請求、持株会社や事業会社の資料の収集、調停及び訴訟まで、ご依頼者の代理人としてご相談をお受けしています。同一の案件について、利害の対立する双方を代理することはありません。

株式の遺留分でお困りの方は、株式の遺留分をめぐるトラブルに関するご案内のページをご覧ください。

  • 電話番号 03-6435-8418
  • 受付時間 8:00-21:00(土日祝含む)
  • ご相談は事前予約制です

ご相談の際に、遺言書の写し、相続税の申告書の控え(株式の評価明細書を含む)、持株会社と事業会社の履歴事項全部証明書、決算書をご用意いただけば、検討が早く進みます。これらがお手元にないことを理由にご相談をお断りすることはありません。なお、税務上の取扱いについては税理士にご確認ください。

本記事は一般的な制度の説明であり、結論は事案ごとに異なります。同種の事案において同じ結果となることを保証するものではありません。個別の事情については、弁護士にご相談ください。

必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。

具体的なご相談をお考えの皆様へ

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執筆者

弁護士法人M&A総合法律事務所 代表弁護士 土屋勝裕(東京弁護士会所属 登録番号26775)

2024年(令和6年)10月に最高裁判所において株式買取請求権に関する逆転判決を得た弁護士です。長島・大野・常松法律事務所に在籍した後、慶應義塾大学ビジネス・スクール及びペンシルベニア大学ウォートン校に留学し、ファイナンス理論並びにM&A及び不動産を専攻しました。不動産投資信託(J-REIT)の上場案件にも関与しています。

主として取り扱う分野 M&A、株式買取請求権、非上場株式の価格の決定、企業価値評価、事業承継及び企業法務

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本記事の記載は一般的な法律情報であり、個別の事案に関する法律上の助言ではありません。記載した経歴は事実の記述であり、個別の事件の結果を保証するものではありません。

著書

非上場会社における少数株主対策の手法と実務
『非上場会社における少数株主対策の手法と実務』(日本法令)
中堅・中小企業のためのM&Aトラブル事例と実務対策
『中堅・中小企業のためのM&Aトラブル事例と実務対策』(清文社)
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