社長が亡くなり他の役員が経営権を握ってしまった場合
父が急逝いたしました。私は会社に勤めておりませんでしたが、株式は相続いたしました。ところが、専務が代表取締役に就任し、以後、会社の状況を一切知らせてくれません。株主総会も開かれておりません。このようなご相談を、当事務所はしばしばお受けしております。
先に結論を申し上げます。相続人が議決権の多数に相当する株式を承継しているのであれば、株主総会において役員の構成を改めることにより、経営権を回復し得る余地がございます。取締役が株主総会を招集しない場合であっても、株主は、一定の要件の下で招集を請求し、裁判所の許可を得て自ら招集することができます(会社法第297条)。もっとも、その前提として、名義書換により株主としての地位を確保し、遺産分割が未了であれば権利行使者を定める必要がございます(会社法第106条)。本記事では、回復の手順を順に整理いたします。
第1節 まず株主としての地位を確保いたします
1 名義書換の請求
株式の譲渡は、その株式を取得した者の氏名又は名称及び住所を株主名簿に記載し、又は記録しなければ、会社に対抗することができないものとされております(会社法第130条第1項)。相続その他の一般承継により株式を取得した者は、単独で株主名簿記載事項の記載又は記録を請求することができるものとされております。相続を証する書面を添えて、書面により請求いたします。
2 権利行使者の指定
遺産分割が終わるまでの間、株式は相続人の準共有に属します。共有者は、当該株式についての権利を行使する者1人を定め、会社に対しその者の氏名又は名称を通知しなければ、当該株式についての権利を行使することができません(会社法第106条本文)。ただし、会社が当該権利の行使に同意した場合は、この限りでないものとされております(同条ただし書)。権利行使者の指定は、判例上、共有持分の価格に従い、その過半数をもって決するものと解されております。
3 持株の割合の確認
被相続人がどれだけの株式を保有していたか、他に誰が株主であるかを確認いたします。株主名簿の閲覧又は謄写は、請求の理由を明らかにして請求することができます(会社法第125条第2項)。登記事項証明書からは、発行済株式の総数及びその変動の経過が分かります。
第2節 株主総会を開かせます
1 招集の請求
総株主の議決権の100分の3以上の議決権を有する株主は、取締役に対し、株主総会の目的である事項及び招集の理由を示して、株主総会の招集を請求することができます(会社法第297条第1項)。公開会社でない会社においては、6か月前から引き続き有することを要しないものとされております(同条第2項)。
2 裁判所の許可を得た招集
請求の後、遅滞なく招集の手続が行われない場合、又は請求があった日から8週間以内の日を株主総会の日とする招集の通知が発せられない場合には、請求をした株主は、裁判所の許可を得て、株主総会を招集することができます(会社法第297条第4項)。
したがって、現経営陣が株主総会を開かないという対応をとり続けても、株主の側は手続を進めることができます。
3 役員の選任及び解任
役員は、株主総会の決議によって選任いたします(会社法第329条第1項)。また、いつでも、株主総会の決議によって解任することができます(会社法第339条第1項)。役員の選任及び解任の決議は、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数(3分の1以上の割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の過半数をもって行うものとされております(会社法第341条)。
解任について正当な理由がある場合を除き、解任された者は会社に対して損害の賠償を請求することができます(会社法第339条第2項)。この点も踏まえて方針を定める必要がございます。
第3節 議決権が足りない場合の手段
1 役員の解任の訴え
役員の職務の執行に関し不正の行為又は法令若しくは定款に違反する重大な事実があったにもかかわらず、当該役員を解任する旨の議案が株主総会において否決されたときは、総株主の議決権の100分の3以上の議決権を有する株主等は、当該株主総会の日から30日以内に、訴えをもって当該役員の解任を請求することができます(会社法第854条第1項)。公開会社でない会社においては、6か月前から引き続き有することを要しないものとされております(同条第2項)。
2 業務の執行に関する検査役
会社の業務の執行に関し、不正の行為又は法令若しくは定款に違反する重大な事実があることを疑うに足りる事由があるときは、総株主の議決権の100分の3以上の議決権を有する株主等は、裁判所に対し、検査役の選任の申立てをすることができます(会社法第358条第1項)。
3 資料の請求
計算書類等の閲覧又は謄本の交付を請求することができます(会社法第442条第3項)。株主総会の議事録の閲覧又は謄写(会社法第318条第4項)、持株の割合が要件を満たす場合の会計帳簿等の閲覧又は謄写(会社法第433条第1項)も検討いたします。
4 保全
会社の財産が処分されるおそれがある場合には、取締役の職務の執行を停止し、職務代行者を選任する仮処分の申立て(民事保全法第23条第2項)等を検討いたします。この仮処分がされたときは、その旨の登記がされるものとされております(会社法第917条)。
第4節 役員が欠けている場合
役員が欠けた場合又は定款で定めた員数を欠くこととなった場合において、必要があると認めるときは、裁判所は、利害関係人の申立てにより、一時役員の職務を行うべき者を選任することができるものとされております(会社法第346条第2項)。被相続人が唯一の取締役であった会社において、後任が適法に選任されていない場合には、この申立てを検討いたします。
よくあるご質問
質問1 会社が株主総会を開いてくれません。
株主は、一定の要件の下で株主総会の招集を請求することができ(会社法第297条第1項)、遅滞なく招集の手続が行われない場合等には、裁判所の許可を得て自ら招集することができます(同条第4項)。
質問2 専務が勝手に代表取締役になっています。
選任の手続が適法であったかを確認いたします。株主総会が現実に開催されていないのであれば、決議の不存在の確認の訴え(会社法第830条第1項)を検討いたします。招集の通知を欠く等の瑕疵がある場合には、決議の取消しの訴え(会社法第831条第1項)となりますが、決議の日から3か月という期間の制限がございます。
質問3 会社の経営に関わったことがありません。それでも経営権を取れますか。
議決権の多数を有するのであれば、株主総会において役員を選任することができます。もっとも、事業の継続には人の確保が不可欠でございますので、役員の構成を改めることと、事業を担う体制を整えることとは、別に検討する必要がございます。
質問4 他の相続人が非協力的です。
遺産分割が未了であれば、権利行使者の指定が必要でございます(会社法第106条本文)。指定は共有持分の価格に従いその過半数をもって決するものと解されておりますので、合意ができない場合には遺産分割の手続を進めることになります。
本記事の根拠条文
会社法
- 第106条(共有者による権利の行使)
- 第125条第2項(株主名簿の閲覧等)
- 第130条第1項(株式の譲渡の対抗要件)
- 第297条第1項・第2項・第4項(株主による株主総会の招集の請求)
- 第318条第4項(株主総会の議事録の閲覧等)
- 第329条第1項(役員の選任)
- 第339条第1項・第2項(役員の解任及び損害の賠償)
- 第341条(役員の選任及び解任の決議の要件)
- 第346条第2項(一時役員の職務を行うべき者の選任)
- 第358条第1項(業務の執行に関する検査役の選任)
- 第433条第1項(会計帳簿の閲覧等の請求)
- 第442条第3項(計算書類等の閲覧等の請求)
- 第830条第1項(決議の不存在の確認の訴え)
- 第831条第1項(決議の取消しの訴え)
- 第854条第1項・第2項(役員の解任の訴え)
- 第917条(職務の執行の停止等の登記)
民事保全法 第23条第2項(仮の地位を定める仮処分命令)
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