自己株式の取得が株主総会の決議を欠く場合の効力

会社が自己株式を取得する場面において、株主総会の招集手続や決議の成立自体に問題があったにもかかわらず、取得の手続がそのまま進められてしまっていた、という御相談を受けることがあります。株式の売渡しの相手方に加えてほしいと請求した後、あるいは既に対価の支払まで終わってしまった後になって、そもそも取得の前提となる株主総会の決議が有効に成立していなかったのではないかという疑いが生じた場合、その取得の効力がどうなるのか、御自身がどのような対応を採り得るのかが分からず、お困りになる方が少なくありません。

ここで問題となるのは、会社が自己株式を取得するに当たっては、あらかじめ株主総会の決議によって取得する株式の数、対価の内容及び総額並びに取得することができる期間を定めなければならないこと(会社法第156条第1項)を出発点として、売主追加請求権に関する通知、取得価格等の決定、株主に対する通知、譲渡しの申込み、そして財源規制の下での取得の実行という一連の手続が積み重ねられていく、という構造です。この出発点である株主総会の決議に瑕疵がある場合、その後に積み重ねられた手続全体の効力にどのような影響が及ぶのかが、実務上しばしば争われます。

本記事では、株主総会の決議を欠いたまま自己株式の取得が行われた場合に、その取得が無効となるかどうかについての考え方、及び会社法が自己株式取得の効力を争うための特別な訴えの制度を設けていないことから、実際にはどのような方法によって無効を主張していくことになるのかについて解説いたします。

第2 売主追加請求権に関する通知 会社法第160条第2項
第3 取得価格等の決定 会社法第157条
第4 株主に対する通知 会社法第158条第1項
第5 譲渡しの申込み 会社法第159条第1項
第6 取得の実行(財源の制限) 会社法第461条第1項

いずれの段階に瑕疵があるかによって、争い方が異なります。

目次

決議を欠く場合の効力

 基本的な考え方

会社法第156条第1項の決議を欠いたまま行われた自己株式の取得は、会社法が定める要件を満たさない取得です。この場合、当該取得は無効であると解する見解が有力です。

もっとも、会社法は、自己株式の取得の効力を争うための特別の訴えの制度を設けていません。新株の発行については、その効力を争うための訴えの制度が設けられていますが(会社法第828条第1項第2号)、自己株式の取得はこれに含まれていません。したがって、一般の原則により、無効を主張することになります。

 誰が主張し得るか

無効を主張し得る者の範囲、無効を主張し得る期間については、明文の定めがありません。この点については、取引の安全との調整が問題となり、議論があります。

株主としては、無効の確認を求める訴えを提起することのほか、他の請求の前提として無効を主張するという方法があります。

 決議はあるが瑕疵がある場合

株主総会の決議は存在するが、招集の手続又は決議の方法に瑕疵がある場合には、決議の取消しの訴えを提起することが考えられます(会社法第831条第1項第1号)。この訴えは、決議の日から3か月以内に提起する必要があります。

決議が事実として存在しない場合には、決議の不存在の確認の訴えを提起し得ることがあります(会社法第830条第1項)。この訴えには期間の制限がありません。

 整理

状況 検討し得る手続 期間の制限
決議が全く存在しない 決議の不存在の確認の訴え、取得の無効の主張 ありません
議事録はあるが総会が開かれていない 決議の不存在の確認の訴え ありません
招集の通知を欠いた決議 決議の取消しの訴え 決議の日から3か月
普通決議で特定の株主から取得した 決議の方法の法令違反として取消しの訴え 決議の日から3か月
売主追加請求権の通知を欠く 決議の取消しの訴え 決議の日から3か月
分配可能額を超えた取得 金銭の支払を求める手続 消滅時効の規律によります

分配可能額を超えた場合

 支払の義務

会社が自己株式の取得をした場合において、当該行為により株主に対して交付した金銭等の帳簿価額の総額が当該行為がその効力を生じた日における分配可能額を超えるときは、当該行為により金銭等の交付を受けた者並びに当該行為に関する職務を行った業務執行者等は、会社に対し、連帯して、当該金銭等の帳簿価額に相当する金銭を支払う義務を負うものとされています(会社法第462条第1項)。

すなわち、株式を売却して代金を受け取った株主も、会社に対して金銭を支払う義務を負い得ることになります。

 業務執行者の免責

業務執行者等は、その職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明したときは、この義務を負わないものとされています(会社法第462条第2項)。

 免除の制限

会社法第462条第1項の義務は、総株主の同意がある場合であっても、行為の時における分配可能額を限度としてしか免除することができないものとされています(会社法第462条第3項)。

 株主の側にとっての意味

自己株式の取得に関して株主が異議を述べる場合、この規律は二つの意味を持ちます。第1に、会社の財務の状況が取得の可否を左右するため、計算書類の内容を確認する必要があります。第2に、既に代金を受け取っている他の株主が支払の義務を負う可能性があるため、実際上の交渉の場面に影響し得ます。

取締役の責任

 会社に対する責任

法令に違反する自己株式の取得を行った取締役は、任務を怠ったものとして、会社に対して損害を賠償する責任を負い得ます(会社法第423条第1項)。

 責任を追及する手段

株主は、会社に対し、責任追及等の訴えの提起を請求することができます(会社法第847条第1項)。公開会社でない株式会社においては、6か月の保有期間の要件は適用されません(同条第2項)。会社が請求の日から60日以内に訴えを提起しないときは、株主が会社のために訴えを提起することができます(同条第3項)。

 差止めの請求

取締役が会社の目的の範囲外の行為その他法令若しくは定款に違反する行為をし、又はこれらの行為をするおそれがある場合において、当該行為によって会社に著しい損害が生ずるおそれがあるときは、株主は、当該取締役に対し、当該行為をやめることを請求することができます(会社法第360条第1項)。公開会社でない株式会社においては、6か月の保有期間の要件は適用されません(同条第2項)。監査役設置会社等においては、「著しい損害」ではなく「回復することができない損害」が生ずるおそれがあるときとされています(同条第3項)。

取得が既に完了している場合には差止めの請求はできませんので、事前に情報を得ることの重要性がここに現れます。

株主が採り得る手段の順序

段階 内容 根拠条文
第1 株主総会の議事録及び計算書類等の閲覧謄写を請求いたします 会社法第318条第4項、第442条第3項
第2 決議の有無及び内容を確認いたします 事実の調査
第3 100分の3以上を保有する場合、会計帳簿等の閲覧謄写を請求いたします 会社法第433条第1項
第4 3か月以内であれば決議の取消しの訴えを検討いたします 会社法第831条第1項
第5 決議が存在しない場合、不存在の確認の訴えを検討いたします 会社法第830条第1項
第6 分配可能額の超過の有無を検討いたします 会社法第461条第1項、第462条第1項
第7 取締役の責任を追及する訴えの提起を請求いたします 会社法第847条第1項

いずれの手段を選ぶかは、保有する株式の数と割合、経過した期間、会社の財務の状況、他の株主との関係等により異なります。具体的な進め方は、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウにも属するため、本ページでは詳細を開示していません。

確認すべき期限と資料

 期限

事項 期限 根拠条文
株主総会の決議の取消しの訴え 決議の日から3か月以内 会社法第831条第1項
決議の不存在又は無効の確認の訴え 期間の制限はありません 会社法第830条
責任追及等の訴えの提起の請求に対する会社の判断 請求の日から60日 会社法第847条第3項
株主総会の議事録の備置き 株主総会の日から10年間 会社法第318条第2項
計算書類等の保存 作成した時から10年間 会社法第435条第4項

 お手元でご確認いただきたい資料

  • 現に効力を有する定款
  • 取得が行われた期及びその前後の株主総会の招集の通知及び議事録
  • 取得が行われた期及びその前後の計算書類(自己株式の計上及び純資産の額を確認いたします)
  • 株主名簿及びその変動の記録
  • 登記事項証明書(発行済株式の総数の変動を確認いたします)
  • 会社から届いた書面の一切

弁護士にご相談いただく意味

自己株式の取得の効力を争う場面では、「何を争うか」の選択が結論を左右いたします。決議の取消しの訴えには3か月という期間があり、取得そのものの無効を主張する場合には、誰が、どの手続によって主張し得るかという難しい問題があります。他方、分配可能額を超えた取得については、金銭の支払を求めるという明文の規律があります。

また、これらの手続は、いずれも事実の調査を前提といたします。株主総会の議事録及び計算書類等の閲覧の請求には期限がありませんので、まずこれらにより事実を確定することが出発点となります。

さらに、この問題は、遺産分割、株式の評価、役員報酬、会社と経営者個人との間の取引といった事項と併せて表面化することが多いところです。当事務所は、株主及び相続人の側のお立場でこの類型の案件を取り扱っており、会社の側と株主の側の双方を代理することはありません。

よくあるご質問

質問1 株主総会の決議がないまま自己株式が取得されていました。

株主との合意による自己株式の取得には、あらかじめ株主総会の決議が必要です(会社法第156条第1項)。決議を欠く取得は法令に違反する取得であり、無効と解する見解が有力です。もっとも、争い方については個別の検討を要します。

質問2 議事録はありますが、総会は開かれていないはずです。

決議が事実として存在しない場合には、決議の不存在の確認の訴えを提起し得ることがあります(会社法第830条第1項)。この訴えには期間の制限がありません。議事録の記載を争う場合には、招集の通知の有無、出席の状況、決議の内容が実行された事実等を確認することになります。

質問3 特定の株主から取得するのに、普通決議で行われていました。

特定の株主から取得する場合の株主総会の決議は、特別決議によることとされています(会社法第309条第2項第2号)。決議の方法が法令に違反するものとして、決議の取消しの訴えの対象となり得ます(会社法第831条第1項第1号)。ただし、決議の日から3か月以内に提起する必要があります。

質問4 会社に十分な財産がないのに株式を買い取っていました。

交付した金銭等の帳簿価額の総額が分配可能額を超えるときは、金銭等の交付を受けた者及び業務執行者等が、会社に対し、連帯して、当該金銭等の帳簿価額に相当する金銭を支払う義務を負うものとされています(会社法第462条第1項)。分配可能額の計算には、計算書類の内容の確認が必要です。

質問5 既に何年も前のことです。今から争えますか。

決議の取消しの訴えは、決議の日から3か月以内に提起する必要があります(会社法第831条第1項)。この期間が経過している場合には、決議の不存在又は無効の確認の訴え(会社法第830条)、取締役の責任の追及(会社法第847条)、分配可能額を超えた場合の支払の請求(会社法第462条)といった手段を検討することになります。

本記事の根拠条文

会社法

  • 第155条(自己の株式を取得することができる場合)
  • 第156条第1項(自己株式の取得に係る株主総会の決議)
  • 第157条、第158条第1項、第159条第1項(取得価格等の決定、通知、譲渡しの申込み)
  • 第160条第1項・第2項(特定の株主からの取得、売主追加請求権に関する通知)
  • 第309条第2項第2号(特別決議)
  • 第318条第2項・第4項(株主総会の議事録)
  • 第360条第1項から第3項まで(株主による取締役の行為の差止めの請求)
  • 第423条第1項(役員等の会社に対する損害賠償責任)
  • 第433条第1項(会計帳簿の閲覧等の請求)
  • 第435条第4項(計算書類等の保存)
  • 第442条第3項(計算書類等の閲覧等)
  • 第461条第1項第2号・第3号(財源規制)
  • 第462条第1項から第3項まで(分配可能額を超えた場合の支払義務、免責、免除の制限)
  • 第828条第1項第2号(新株発行の無効の訴え。自己株式の取得は対象となっていません)
  • 第830条(決議の不存在又は無効の確認の訴え)
  • 第831条第1項第1号(決議の取消しの訴え)
  • 第847条第1項から第3項まで(責任追及等の訴えの提起の請求)

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弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談

弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)では、会社が行った自己株式の取得の効力に疑義がある場合について、株主の方からのご相談をお受けしています。議事録及び計算書類等の閲覧の請求による事実の調査、決議の効力を争う手続、分配可能額の検討、取締役の責任の追及まで、株主の側の代理人としてお引き受けいたします。

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本記事は一般的な制度の説明であり、結論は事案ごとに異なります。同種の事案において同じ結果となることを保証するものではありません。個別の事情については、弁護士にご相談ください。

必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。

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