社長が寝たきりになり株主総会も取締役会も開けないときの対応

社長である父が寝たきりとなり、意思の疎通ができません。父は代表取締役であり、株式の過半数を保有しております。取締役会を開こうにも父を招集できず、株主総会を開こうにも父の議決権を行使できません。会社の意思決定が完全に止まってしまいました。このようなご相談を、当事務所はしばしばお受けしております。

先に結論を申し上げます。この状態を解消する道筋は、次の順序で検討いたします。第1に、現に職務を執行し得る取締役により取締役会を招集し、決議し得ないかを検討いたします。第2に、株主総会について、招集の手続及び決議の要件を確認し、社長の議決権を用いずに決議が成立し得るかを検討いたします。第3に、社長の議決権を用いなければならない場合には、成年後見等の開始の申立てを行い、成年後見人が議決権を行使し得る状態を作ります。第4に、取締役の員数を欠く場合には、一時役員の職務を行うべき者の選任の申立て(会社法第346条第2項)を検討いたします。本記事では、それぞれの手続を具体的に整理いたします。

目次

第1節 取締役会を開く

 招集権者

取締役会は、各取締役が招集いたします。ただし、取締役会を招集する取締役を定款又は取締役会で定めたときは、その取締役が招集するものとされております(会社法第366条第1項)。招集権者が定められている場合であっても、他の取締役は、招集権者に対し、目的である事項を示して招集を請求することができ、請求があった日から一定の期間内に招集の通知が発せられないときは、自ら招集することができるものとされております(同条第2項及び第3項)。

したがって、社長が招集権者として定められている場合であっても、他の取締役が取締役会を招集し得る道が開かれております。

 招集の通知

取締役会を招集する者は、原則として、取締役会の日の1週間(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前までに、各取締役に対してその通知を発しなければならないものとされております(会社法第368条第1項)。社長に対しても、その所在地に宛てて通知を発する必要がございます。通知を欠いたまま行われた決議は、瑕疵を帯びることになります。

 決議の要件

取締役会の決議は、議決に加わることができる取締役の過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)が出席し、その過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)をもって行うものとされております(会社法第369条第1項)。

社長が出席し得ない場合、残りの取締役の数によって、定足数を満たし得るか否かが決まります。取締役が3人であり、社長を除く2人が出席し得るのであれば、定足数を満たす余地がございます。

 決議の省略

取締役が取締役会の決議の目的である事項について提案をした場合において、当該提案につき取締役の全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をしたときは、当該提案を可決する旨の取締役会の決議があったものとみなす旨を定款で定めることができるものとされております(会社法第370条)。監査役設置会社においては、監査役が異議を述べないことも要件とされております。

もっとも、この方法は取締役の全員の同意を要しますので、社長が同意し得ない本件のような場合には用いることができません。

第2節 株主総会を開く

 招集

株主総会は、原則として取締役が招集いたします(会社法第296条第3項)。取締役会設置会社においては、招集する株主総会の日時及び場所、目的である事項等を取締役会の決議によって定めなければならないものとされております(会社法第298条第1項及び第4項)。したがって、まず取締役会を開くことが前提となります。

 招集の通知

株主総会を招集するには、原則として、株主に対して招集の通知を発しなければならないものとされております(会社法第299条第1項)。社長も株主でございますので、その所在地に宛てて通知を発します。

なお、株主の全員の同意があるときは、招集の手続を経ることなく株主総会を開催することができるものとされております(会社法第300条)。ただし、社長が同意し得ない場合には、この方法を用いることができません。

 決議の要件

株主総会の決議は、原則として、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の過半数をもって行うものとされております(会社法第309条第1項)。定款により定足数を排除している会社も少なくございませんので、定款を確認いたします。

社長が議決権の過半数を保有し、かつこれを行使し得ない場合には、定款で定足数が排除されていない限り、決議が成立いたしません。定款において「定足数を要しない」旨が定められているのであれば、他の株主のみで決議が成立し得ることになります。定款の確認が、この局面における最重要の作業でございます。

 決議の省略

取締役又は株主が株主総会の目的である事項について提案をした場合において、当該提案につき議決権を行使することができる株主の全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をしたときは、当該提案を可決する旨の株主総会の決議があったものとみなされます(会社法第319条第1項)。もっとも、これも株主の全員の同意を要しますので、本件のような場合には用いることができません。

第3節 議決権を行使し得る状態を作る

社長の議決権を用いなければ決議が成立しない場合には、成年後見等の開始の申立てを検討いたします。後見が開始した場合には、成年後見人が本人を代表して議決権を行使することになります。

申立ては、本人、配偶者、四親等内の親族等が行うことができます。診断書その他の資料の提出を求められ、鑑定が実施されることがございます。申立てから選任までには相応の期間を要しますので、早期に着手する必要がございます。

なお、成年後見人は本人の財産の保全を職務とする者でございまして、会社の経営を担う立場ではございません。議決権の行使に当たっても、本人の利益に適う判断が求められます。したがって、親族の意向のとおりに議決権が行使されるとは限りません。

第4節 役員の員数を欠く場合

役員が欠けた場合又は会社法若しくは定款で定めた役員の員数を欠くこととなった場合において、必要があると認めるときは、裁判所は、利害関係人の申立てにより、一時役員の職務を行うべき者を選任することができるものとされております(会社法第346条第2項)。

また、取締役の職務の執行を停止し、その職務を代行する者を選任する仮処分(民事保全法第23条第2項)が用いられる場面もございます。この仮処分がされたときは、その旨の登記がされるものとされております(会社法第917条)。もっとも、これは争訟を前提とする手続でございますので、本件のように争いがない事案において直ちに用いられるものではございません。

第5節 確認の順序

段階 確認する事項
第1 定款における株主総会の定足数の定め(排除されているか)
第2 定款における取締役の員数及び任期
第3 取締役会設置会社であるか
第4 現に職務を執行し得る取締役の人数
第5 株主名簿における議決権の分布
第6 社長を除く株主の議決権の合計
第7 成年後見等の開始の申立ての要否

第6節 弁護士にご相談いただく意味

この局面において結論を左右するのは、定款の内容でございます。株主総会の定足数が排除されているか否かにより、他の株主のみで決議が成立し得るかが決まります。また、取締役会の招集権者の定めにより、誰が取締役会を招集し得るかが決まります。まず定款を精読することが、すべての出発点でございます。

また、急ぐあまり、開催していない取締役会又は株主総会の議事録を作成することは、絶対に避けなければなりません。後に決議の不存在の確認の訴え(会社法第830条第1項)の対象となり、また刑事上の問題を生じ得ます。時間はかかりましても、適法な手続により進める必要がございます。

具体的な進め方は、定款の内容、機関の構成、株主構成、親族の間の関係等により異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してまいりました実務上のノウハウにも属するため、本記事では詳細を開示しておりません。

第7節 準備すべき資料と、その入手先

機関が動かない状態を解消するにあたっては、まず会社の機関の設計と議決権の分布を正確に把握する必要がございます。着手の前にお集めいただく資料を掲げます。

資料 入手先 用いる場面
定款 会社(本店に備え置かれております) 招集権者の定め、決議の要件、役員の員数の定め、招集の通知の期間の短縮の定めを確認いたします
株主名簿 会社 議決権の分布を確認し、いかなる決議が可能であるかを判断いたします
履歴事項全部証明書 法務局 役員の氏名、就任及び重任の日、任期、機関の設計を確認いたします
過去の取締役会の議事録 会社 招集権者に関する従前の運用及び決議の要件の充足の状況を確認いたします
過去の株主総会の議事録 会社 定時株主総会の時期、決議の方法に関する従前の運用を確認いたします
過去の招集の通知の写し 会社 通知の方法及び発送の時期に関する実務を確認いたします
診断書、介護保険の認定に係る書類 医療機関、市区町村 ご本人が職務を執行し、又は議決権を行使し得る状態にあるかを確認いたします

第8節 招集及び決議に要する期間

いつまでに何を行う必要があるかを、起算点とともに整理いたします。会日から逆算して日程を組むことが肝要でございます。

事項 起算点 期間
取締役会の招集の通知 取締役会の日 原則としてその日の1週間前までに発します。これを下回る期間を定款で定めた場合には、その期間となります(会社法第368条第1項)
取締役会の招集の手続の省略 取締役の全員の同意があるときは、招集の手続を経ることなく開催することができます(会社法第368条第2項)
株主総会の招集の通知 株主総会の日 公開会社でない会社においては、原則としてその日の1週間前までに発します(会社法第299条第1項)
株主総会の招集の手続の省略 株主の全員の同意があるときは、招集の手続を経ることなく開催することができます(会社法第300条)
株主による招集の請求から自ら招集するまで 請求の日 請求の後、遅滞なく招集の手続が行われない場合、又は請求の日から8週間以内の日を会日とする招集の通知が発せられない場合には、裁判所の許可を得て自ら招集することができます(会社法第297条第4項)

なお、成年後見の開始の審判の申立てをはじめとする裁判所の手続につきましては、これに要する期間が事案により大きく異なります。機関を動かす必要が生じてから着手いたしますと間に合わないことがございますので、見込みが立った段階でご検討いただくことをお勧めいたします。

よくあるご質問

質問1 父を除いて株主総会を開けますか。

定款において定足数が排除されているか否かにより異なります。排除されている場合には、出席した株主の議決権の過半数により決議が成立し得ます。排除されていない場合には、議決権の過半数を有する株主の出席が必要でございます(会社法第309条第1項)。

質問2 父に招集の通知を出す必要がありますか。

株主である以上、招集の通知を発する必要がございます(会社法第299条第1項)。通知を欠いたまま行われた決議は、瑕疵を帯びることになります。

質問3 書面決議で済ませられませんか。

株主総会の決議の省略には、議決権を行使することができる株主の全員の同意が必要でございます(会社法第319条第1項)。社長が同意し得ない場合には、用いることができません。

質問4 成年後見の申立てにはどのくらいかかりますか。

事案及び裁判所により異なります。鑑定が実施される場合には、さらに期間を要します。期間を確約することはできません。

質問5 取締役が父を含めて2名しかおりません。父を除いて取締役会を開けますか。

取締役会の決議は、議決に加わることができる取締役の過半数が出席し、その過半数をもって行うのが原則でございます。定款に別段の定めがない限り、2名のうち1名のみでは要件を満たさないことになります。まずは員数を回復する手続をご検討いただくことになります。

質問6 招集の通知を父に対してどのように発すればよろしいですか。

通知は、会社の備える名簿に記載された住所に宛てて発します。ご本人が現に受領し得る状態にないことが明らかであるとしても、通知を発しないことは招集の手続の瑕疵となり得ます。成年後見人が選任されている場合には、後見人に対して発することになります。

質問7 急を要する決議がございます。手続を省略できませんか。

取締役の全員の同意があるときは取締役会の招集の手続を、株主の全員の同意があるときは株主総会の招集の手続を、それぞれ省略することができます。もっとも、判断能力を欠く方から有効な同意を得ることはできませんので、この方法によることは事実上困難でございます。

本記事の根拠条文

会社法

  • 第296条第3項(株主総会の招集)
  • 第298条第1項・第4項(招集の決定)
  • 第299条第1項(招集の通知)
  • 第300条(招集手続の省略)
  • 第309条第1項(株主総会の決議)
  • 第319条第1項(株主総会の決議の省略)
  • 第346条第2項(一時役員の職務を行うべき者の選任)
  • 第366条第1項から第3項まで(取締役会の招集権者)
  • 第368条第1項(取締役会の招集の通知)
  • 第369条第1項(取締役会の決議)
  • 第370条(取締役会の決議の省略)
  • 第830条第1項(決議の不存在の確認の訴え)
  • 第917条(職務の執行の停止等の登記)

民事保全法 第23条第2項(仮の地位を定める仮処分命令)

民法 第7条(後見開始の審判)、第11条(保佐開始の審判)、第15条第1項(補助開始の審判)

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