名義書換未了の相続人が株主であることを会社に認めさせる方法
父が保有していた会社の株式を相続いたしましたので、決算書類を見せていただきたいと会社に申し入れました。ところが、「あなたは株主名簿に載っていないので株主ではない。株主でない方に資料をお見せすることはできない」と言われてしまいました。このようなご相談を、当事務所はしばしばお受けしております。
先に結論を申し上げます。相続その他の一般承継により株式を取得した者は、株主名簿上の株主の相続人その他の一般承継人と共同することなく、単独で株主名簿記載事項の記載又は記録を請求することができるものとされております(会社法第133条第2項及びこれに関する法務省令)。また、譲渡制限株式についても、相続その他の一般承継により取得した場合には、会社の承認を要することなく名義書換を請求し得るものとされております(会社法第134条)。したがって、会社が「株主名簿に載っていない」という理由のみで名義書換に応じないことは、制度の理解として正確ではございません。本記事では、名義書換を実現するための手順と、会社が応じない場合の手段を整理いたします。
第1節 会社が「株主ではない」と述べる理由
1 対抗要件の規律
株式の譲渡は、その株式を取得した者の氏名又は名称及び住所を株主名簿に記載し、又は記録しなければ、会社その他の第三者に対抗することができないものとされております(会社法第130条第1項)。株券発行会社においては、株券の占有により権利が推定されること等の規律がございます。
この規律を根拠として、会社は「名簿に載るまでは株主として扱えない」と述べます。もっとも、これは名義書換に応じない理由にはなりません。名義書換を請求されているのに応じないという対応が、正当化されるものではございません。
2 実質的な理由
会社が名義書換に応じない実質的な理由は、多くの場合、次のいずれかでございます。
- 相続人を株主として扱いたくない(経営に関与されたくない)
- 他の相続人との間で株式の帰属に争いがあると認識している
- 相続人等に対する売渡しの請求(会社法第174条)を検討している
- 単に手続を知らない
第2節 単独で請求できる根拠
1 共同請求の原則と例外
株主名簿記載事項の記載又は記録の請求は、利害関係人の利益を害するおそれがないものとして法務省令で定める場合を除き、その取得した株式の株主として株主名簿に記載され、若しくは記録された者又はその相続人その他の一般承継人と共同してしなければならないものとされております(会社法第133条第2項)。
そして、この法務省令において、一般承継により株式を取得した場合が、単独で請求することができる場合として定められております。すなわち、相続人は、被相続人の側の協力を得ることなく、単独で請求することができます。
2 譲渡制限株式であっても請求できます
譲渡制限株式については、株式取得者が会社に対して名義書換を請求するには、原則として会社の承認を受けていることが必要とされております。もっとも、相続その他の一般承継により譲渡制限株式を取得した場合は、その例外とされております(会社法第134条)。
したがって、会社が「譲渡の承認をしていないから名義書換はできない」と述べることも、相続の場合には当たりません。
第3節 請求の方法と添付する書面
1 書面により行います
会社の本店の所在地宛てに、代表取締役を名宛人として、書面により請求いたします。内容証明郵便によることが有用でございます。請求の日を記録に残すことが重要でございます。
2 添付する書面
- 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本等
- 相続人であることが分かる戸籍謄本等
- 遺産分割協議書又は遺言書(分割又は遺言による指定が済んでいる場合)
- 法定相続情報一覧図の写し
- 権利行使者の指定の通知(遺産分割が未了である場合)
法定相続情報一覧図の写しを用いますと、戸籍の束を提出する必要がなくなり、会社の側の負担も軽くなります。
3 株券発行会社である場合
定款に株券を発行する旨の定めがあるかを確認いたします。この定めは登記事項でございますので、登記事項証明書により確認することができます。株券が現実に発行されている場合には、株券の所在を確認する必要がございます。株券が見当たらない場合の取扱いは、事案により異なりますので、個別に検討を要します。
第4節 遺産分割が未了である場合
遺産分割が終わるまでの間、株式は相続人の準共有に属します。共有者は、当該株式についての権利を行使する者1人を定め、会社に対しその者の氏名又は名称を通知しなければ、当該株式についての権利を行使することができません(会社法第106条本文)。ただし、会社が当該権利の行使に同意した場合は、この限りでないものとされております(同条ただし書)。
権利行使者の指定は、判例上、共有持分の価格に従い、その過半数をもって決するものと解されております。相続人の間で協議が調わない場合には、遺産分割の調停又は審判の申立てを検討いたします。
なお、名義書換の請求そのものは、準共有である旨を明らかにした上で行うことが考えられます。会社が「誰の名義にすればよいのか分からない」と述べる場合には、相続人全員の準共有として記載するよう求めることになります。
第5節 会社が応じない場合
1 再度の請求
まず、期限を定めて再度書面により請求いたします。単独で請求し得る根拠(会社法第133条第2項及びこれに関する法務省令)並びに相続の場合には会社の承認を要しないこと(会社法第134条)を明示いたします。
2 株主であることの確認の訴え
会社が名義書換に応じない場合には、株主であることの確認を求める訴え、及び株主名簿の記載を求める訴えを提起することが考えられます。被告は会社となります。
3 仮処分
相続税の申告の期限が迫っている、株主総会が開催されようとしているといった事情がある場合には、仮の地位を定める仮処分(民事保全法第23条第2項)を検討いたします。保全の必要性を基礎付ける具体的な事情を示す必要がございます。
4 名義書換を待たずに権利を行使し得る場合
会社法第130条第1項は、名義書換を株式の譲渡の対抗要件と定めるものでございまして、会社の側から権利の行使を認めることを妨げるものではないと解されております。会社が不当に名義書換を拒んでいる場合には、名義書換がされていないことを理由として権利の行使を拒むことが信義に反するという主張を検討する余地がございます。もっとも、認められるかは事案により異なります。
第6節 名義書換の後に行うこと
名義書換が実現いたしましたら、次の請求を行うことができます。
- 定款の閲覧又は謄本の交付の請求(会社法第31条第2項)
- 株主名簿の閲覧又は謄写の請求(会社法第125条第2項)
- 株主総会の議事録の閲覧又は謄写の請求(会社法第318条第4項)
- 計算書類等の閲覧又は謄本の交付の請求(会社法第442条第3項)
- 持株の割合の要件を満たす場合の会計帳簿等の閲覧又は謄写の請求(会社法第433条第1項)
- 株主総会の招集の請求(会社法第297条第1項)
第7節 会社が名義書換を拒む際に述べる理由と、これに対する検討
名義書換の請求に対し、会社は様々な理由を述べて応じないことがございます。理由ごとに、検討すべき点を整理いたします。
| 会社の側の説明 | 検討すべき点 |
|---|---|
| 相続人の全員から請求していただかなければ応じられません | 相続その他の一般承継により株式を取得した者は、株主名簿上の株主の一般承継人と共同することなく、単独で請求することができるものとされております(会社法第133条第2項) |
| 当社の株式は譲渡が制限されておりますので、取締役会の承認が必要でございます | 譲渡による取得ではございませんので、承認を要しないものとされております(会社法第134条)。相続は譲渡ではございません |
| 遺産分割が終わってからにしてください | 分割が未了であっても、株式は相続人の準共有に属し、相続人は共有者としての地位を有しております。分割の完了を名義書換の要件とする法令上の根拠はございません |
| 株券をお持ちでないので応じられません | 株券発行会社であるかどうかは、定款及び登記事項証明書により確認いたします。株券を発行していない会社である場合には、この説明は前提を欠きます |
| 先代から株式を会社に戻すよう言われております | そのような合意の存否及び内容は証拠により確かめる必要がございます。仮に何らかの合意があったとしても、名義書換の請求を拒む理由としては別個の問題でございます |
| 顧問の税理士又は司法書士に確認してから回答いたします | 回答の期限を書面により定めます。期限を定めないまま待ちますと、いたずらに日数が経過いたします |
いずれの説明を受けた場合でございましても、会社の説明を書面により残していただくことが有益でございます。後に法的手続に移行する場合、会社が当初に述べた理由と後に述べる理由とが食い違うことがしばしばございます。
第8節 株主名簿が作成されていない場合の対応
1 しばしば見受けられる事態でございます
株式会社は、株主名簿を作成し、これに株主の氏名又は名称及び住所、有する株式の数等を記載し、又は記録しなければならないものとされております(会社法第121条)。もっとも、規模の小さい同族の会社におきましては、株主名簿が作成されていない、又は長年にわたり更新されていないことが少なくございません。この場合、会社は「名簿がないので書き換えようがない」と述べることがございます。
2 名簿がないことは請求を妨げる理由となりません
株主名簿の作成は会社の義務でございますので、会社がこれを怠っていることを理由として、株主の請求を拒むことは相当ではございません。この場合には、株主名簿の作成そのものを求めるとともに、そこに記載すべき事項を明らかにして請求することになります。
3 株主であることを裏づける資料
名簿がない場合には、次の資料により被相続人が株主であったことを積み上げてまいります。
- 被相続人が保有していた株券(株券発行会社である場合)
- 会社の設立の際の書類(定款、発起人の記載のあるもの)
- 過去の株主総会の招集の通知及び議事録(会社法第318条第4項)
- 会社が税務署に提出した申告書に添付される同族会社の判定に関する書類の写し
- 剰余金の配当の支払に関する通知及び被相続人の預金口座の入金の記録
- 被相続人の確定申告書の控え
- 株式の取得の経緯を示す契約書、領収書、贈与に関する書面
- 過去に会社が作成した株主の一覧表その他の内部の資料
4 資料が会社の側にある場合
これらの資料の多くは会社が保有しております。会社が任意に開示しない場合には、計算書類等の閲覧又は謄本の交付の請求(会社法第442条第3項)、株主総会の議事録の閲覧又は謄写の請求(会社法第318条第4項)等の権利を行使し、あるいは法的手続の中で提出を求めることを検討いたします。もっとも、これらの権利の行使は株主であることを前提といたしますので、会社が株主性を争っている場合には、まず株主であることの確認を求める手続によることになります。
第9節 弁護士にご相談いただく意味
この局面において結論を左右するのは、順序でございます。株主として扱われていない状態のまま資料の開示を求めても、会社は「株主名簿に記載がない」という一点で拒み続けます。まず名義書換を実現し、株主としての地位を明確にすることが、すべての出発点でございます。
また、名義書換を請求することは、会社に対して相続の事実を知らせることでもございます。定款に相続人等に対する売渡しの請求の定めがある場合には、会社がこれに踏み切る余地がございます(会社法第174条)。もっとも、この請求は、会社が相続その他の一般承継があったことを知った日から1年を経過したときはすることができません(会社法第176条第1項ただし書)。同族会社においては、会社が既に死亡の事実を知っていることが通常でございますので、名義書換の請求により初めて知ることになるとは限りません。この点の見極めが必要でございます。
具体的な進め方は、定款の内容、株主構成、遺産分割の状況、会社との関係等により異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してまいりました実務上のノウハウにも属するため、本記事では詳細を開示しておりません。
よくあるご質問
質問1 他の相続人の協力が得られません。名義書換はできますか。
相続その他の一般承継により株式を取得した者は、単独で株主名簿記載事項の記載又は記録を請求することができるものとされております(会社法第133条第2項及びこれに関する法務省令)。もっとも、遺産分割が未了である間は、権利行使者の指定の問題が残ります(会社法第106条本文)。
質問2 会社は「譲渡の承認をしていない」と言います。
譲渡制限株式についても、相続その他の一般承継により取得した場合は、名義書換の請求の制限の例外とされております(会社法第134条)。会社の承認は不要でございます。
質問3 株券が見当たりません。
まず、定款に株券を発行する旨の定めがあるかを確認いたします。この定めは登記事項でございます。定めがある場合において株券が見当たらないときの取扱いは、事案により異なりますので、個別に検討を要します。
質問4 名義書換を請求すると、会社から売渡しの請求を受けませんか。
定款にその定めがある場合には、その可能性がございます(会社法第174条)。ただし、会社が相続その他の一般承継があったことを知った日から1年を経過したときはすることができません(会社法第176条第1項ただし書)。着手の前に、定款及び期間の経過を確認いたします。
本記事の根拠条文
会社法
- 第31条第2項(定款の閲覧等)
- 第106条(共有者による権利の行使)
- 第125条第2項(株主名簿の閲覧等)
- 第130条第1項(株式の譲渡の対抗要件)
- 第133条第1項・第2項(株主名簿記載事項の記載等の請求)
- 第134条(譲渡制限株式に関する名義書換の請求の特則)
- 第174条・第176条第1項(相続人等に対する売渡しの請求)
- 第297条第1項(株主による株主総会の招集の請求)
- 第318条第4項(株主総会の議事録の閲覧等)
- 第433条第1項(会計帳簿の閲覧等の請求)
- 第442条第3項(計算書類等の閲覧等の請求)
民事保全法 第23条第2項(仮の地位を定める仮処分命令)
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本記事は一般的な制度の説明であり、結論は事案ごとに異なります。同種の事案において同じ結果となることを保証するものではありません。個別の事情については、弁護士にご相談ください。
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