株主名簿及び登記により現在の株主の状況を確定する方法
父の会社を引き継ぐことになり、株式を集めたいと考えております。ところが、株主名簿は昭和の時代に作られたきりで、既に亡くなった方や、連絡先の分からない方の名前が並んでおります。そもそも誰が現在の株主なのかが分かりません。このようなご相談を、当事務所はしばしばお受けしております。
先に結論を申し上げます。株式の集約に着手する前に、現在の株主を確定することが不可欠でございます。名簿が実態と一致しないまま手続を進めますと、後に株主であると主張する者が現れ、株主総会の決議の効力が争われることになります。確定の作業は、第1に株主名簿の精査、第2に登記事項証明書との照合、第3に過去の株主総会の議事録との照合、第4に名義株の整理、第5に相続が生じている株式の承継の確認、第6に所在の分からない株主の処理という順序で進めます。本記事では、各段階の具体的な作業を整理いたします。
第1節 株主名簿の精査
1 記載すべき事項
株主名簿には、株主の氏名又は名称及び住所、株主の有する株式の数、株式を取得した日等を記載し、又は記録しなければならないものとされております(会社法第121条)。株券発行会社においては、株券の番号も記載事項でございます。
2 名簿が存在しない場合
中小の会社においては、株主名簿が作成されていない、又は長期間更新されていない例が少なくございません。会社は株主名簿を作成しなければならないものとされておりますので、まず現状に即した名簿を整備することが必要でございます。
3 閲覧謄写の請求
株主及び債権者は、会社の営業時間内はいつでも、請求の理由を明らかにして、株主名簿の閲覧又は謄写を請求することができます(会社法第125条第2項)。会社は、法定の事由がある場合を除き、これを拒むことができません(同条第3項)。
第2節 登記事項証明書との照合
履歴事項全部証明書及び閉鎖事項証明書を取得し、次の事項を確認いたします。
- 発行済株式の総数及びその変動の経過(新株の発行、株式の併合、株式の分割)
- 資本金の額及びその変動
- 株式の譲渡の制限に関する定めの有無及びその内容
- 種類株式の有無及びその内容
- 株券を発行する旨の定めの有無
- 役員の変更の経過
株主名簿に記載された株式の数の合計と、登記事項証明書に記載された発行済株式の総数とが一致するかを確認いたします。一致しない場合には、名簿に記載のない株主が存在するか、又は名簿の記載に誤りがあることになります。
第3節 過去の株主総会の議事録との照合
株主総会の議事録は、株主総会の日から10年間、本店に備え置かなければならないものとされております(会社法第318条第2項)。株主及び債権者は、その閲覧又は謄写を請求することができます(同条第4項)。
議事録には、出席した株主の数及び議決権の数が記載されていることがございます。これを株主名簿と照合いたしますと、当時の株主構成を確認することができます。また、譲渡の承認の決議が記載されていれば、株式の移転の経過を辿ることができます。
第4節 名義株の整理
1 名義株とは
設立の当時の要件を満たすため、又は他の事情により、実際には出資をしていない者の名義を借りて株式が引き受けられていることがございます。この場合、名簿上の株主と真実の株主とが異なることになります。
2 誰が真実の株主か
誰が真実の株主であるかは、出資の資金の出所、株券の所持の状況、配当の受領の状況、議決権の行使の実態、名義人の認識等から判断されます。断定できない場合もございます。
3 整理の方法
名義人又はその相続人との間で、真実の株主が誰であるかを確認する書面を取り交わすことが考えられます。争いがある場合には、株主であることの確認を求める訴えを提起することになります。
集約の場面においては、名義人から改めて株式を譲り受けるという形を採ることも少なくございません。この場合、名義人が真実の株主であることを前提とした処理となりますので、その旨を書面により明確にしておく必要がございます。
第5節 相続が生じている株式
株主名簿に記載された者が既に死亡している場合には、その相続人が株式を承継しております。相続その他の一般承継により株式を取得した者は、単独で株主名簿記載事項の記載又は記録を請求することができるものとされております。
もっとも、相続人が名義書換を請求してこない場合には、名簿の記載が被相続人のままとなります。会社としては、相続人の所在を調査し、名義書換を促すことが考えられます。相続人が複数ある場合において遺産分割が未了であるときは、株式は相続人の準共有に属し、権利行使者の指定及び通知がなければ権利を行使することができません(会社法第106条本文)。
相続が二度、三度と重なっている場合には、相続人の数が著しく増加していることがございます。この場合、全員との交渉は現実的ではございませんので、他の手段を検討することになります。
第6節 所在の分からない株主
会社法には、所在の知れない株主に対する通知の省略及びその株式の競売又は売却に関する規律が設けられております(会社法第196条、第197条)。もっとも、通知が到達しなかった期間その他の要件が定められており、直ちに用い得るものではございません。
実務においては、住民票の写し及び戸籍の附票により所在を調査し、なお判明しない場合に、これらの規律の適用を検討することになります。
第7節 確定の後に行うこと
| 段階 | 内容 |
|---|---|
| 第1 | 現状に即した株主名簿を整備いたします |
| 第2 | 議決権の分布を一覧にいたします |
| 第3 | 後継者の議決権の割合を確認いたします |
| 第4 | 不足する割合と、取得すべき株式の数を確定いたします |
| 第5 | 交渉の相手方及び順序を定めます |
| 第6 | 手段を選択し、実行いたします |
第8節 弁護士にご相談いただく意味
この作業を怠ったまま集約に着手いたしますと、後に重大な問題を生じます。名簿に記載のない株主が現れた場合、その者に対して招集の通知が発せられていなかったことになり、株主総会の決議の取消しの原因となり得ます(会社法第831条第1項)。集約のために行った決議そのものが覆るということでございます。
また、名義株の整理は、関係者の記憶が失われる前に行う必要がございます。設立の当時の事情を知る者が存命であるうちに、書面により確認しておくことが有効でございます。
具体的な進め方は、会社の設立の時期、株主の数、名簿の整備の状況、相続の発生の状況等により異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してまいりました実務上のノウハウにも属するため、本記事では詳細を開示しておりません。なお、税務上の取扱いにつきましては税理士にご確認ください。
第9節 調査により判明する典型的な不整合と、その処理
株主名簿、登記及び議事録を照合いたしますと、多くの会社において何らかの不整合が見つかります。類型ごとに、考えられる原因、確認すべき資料及び処理の方向を整理いたします。
| 不整合の類型 | 考えられる原因 | 確認すべき資料 | 処理の方向 |
|---|---|---|---|
| 名簿の株式数の合計と登記の発行済株式の総数とが一致しない | 増資又は自己株式の取得が名簿に反映されていない | 募集事項の決定に係る議事録、払込みの記録、自己株式の取得に係る議事録 | 反映されていない異動を特定し、その順序に従って名簿を更新いたします |
| 名簿に記載のない者が株主であると述べている | 名義書換の請求が未了である、又は譲渡の承認を得ていない | 譲渡契約書、承認の請求及び回答の書面、対価の授受を示す資料 | 承認及び名義書換の要否を確認し、要件を満たす場合には名簿を更新いたします |
| 名簿上の株主が既に死亡している | 相続が生じたが名義書換が行われていない | 戸籍謄本、遺産分割協議書、遺言書 | 相続人を特定し、権利を行使する者の指定の要否を確認いたします |
| 出資の払込みをした者と名簿上の名義人とが異なる | 名義株である可能性がございます | 払込みの記録、設立当時の資料、配当の受領の記録、確定申告書の控え | 真実の株主を確定し、必要に応じて名義の是正に関する合意を行います |
| 設立当時の株主が名簿に記載されていない | 設立以後、名簿が作成又は更新されていない | 定款、設立の登記に係る書類、当時の払込みの記録 | 沿革をさかのぼって異動を再現し、名簿を新たに作成いたします |
| 同一の株式について複数の者が権利を主張している | 二重の譲渡、又は承認の有無に関する認識の相違 | 双方の譲渡契約書、承認の請求の日付、名義書換の請求の日付 | 対抗要件の具備の先後を確認し、調わない場合には訴訟の手続を検討いたします |
第10節 確定の作業を進める順序
1 第1段階 現状を保全いたします
作業に着手する前に、現在の株主名簿の写しを作成し、日付を付して保管いたします。以後の更新により従前の記載が失われますと、いかなる経緯で現在の記載に至ったのかを説明し得なくなるためでございます。議事録及び登記事項証明書も、同じ時点のものをそろえてお手元にお残しください。
2 第2段階 不整合を一覧にいたします
名簿、登記及び議事録を突き合わせ、一致しない点をすべて書き出します。この段階では原因の判断を行わず、事実として食い違っている点を漏れなく拾い上げることに徹します。前節の類型を手掛かりとしていただけますと、整理がしやすうございます。
3 第3段階 類型ごとに資料を収集し、事実を確定いたします
不整合ごとに、前節に掲げた資料を収集いたします。関係者からの聞き取りが必要となる場合には、記憶の新しいうちに、その内容を書面に残しておくことが有効でございます。ご存命の関係者が限られている場合には、この作業を先に行う必要がございます。
4 第4段階 是正の合意又は手続を行い、名簿を更新いたします
事実が確定いたしましたら、関係者の協力が得られる部分については書面による合意を行い、名簿を更新いたします。協力が得られない部分については訴訟その他の手続によることになりますが、合意により処理し得る部分を先に確定させておくことで、争いの範囲を限定することができます。
第11節 確定の作業において生じやすい誤り
1 名簿の記載のみを信頼してしまうこと
株主名簿は会社が作成する書面でございまして、その記載が常に真実の権利関係を示すとは限りません。作成の経緯及び更新の状況を確認せずに記載のみを前提といたしますと、後に権利を主張する者が現れた際に、それまでの手続をやり直す事態を招きます。
2 関係者からの聞き取りを後回しにすること
設立当時の事情を知る方が限られている場合、その方が事情を説明し得る間に聞き取りを行っておく必要がございます。書面が残っていない事項につきましては、聞き取りの内容が唯一の手掛かりとなることがございます。
3 是正の合意を口頭で済ませること
名義の是正について関係者の了解が得られた場合には、必ず書面に残してください。口頭の了解にとどめますと、後日に相続が生じた際、その相続人との間で改めて争いが生ずることになります。
4 一部の株主にのみ説明を行うこと
説明を受けた株主と受けていない株主とが生じますと、後に不公平の主張を招くことがございます。確定の作業の目的及び手順につきましては、対象となる株主に対して同じ内容を伝えることが望ましうございます。
よくあるご質問
質問1 株主名簿がありません。
会社は株主名簿を作成しなければならないものとされております。過去の株主総会の議事録、譲渡の承認の決議、配当の支払の記録、設立の当時の資料から、現状に即した名簿を整備することになります。
質問2 名簿の合計と登記の発行済株式の総数が合いません。
名簿に記載のない株主が存在するか、名簿の記載に誤りがあることになります。新株の発行、株式の併合、株式の分割の経過を登記により確認し、原因を特定いたします。
質問3 名義を貸しただけの株主がいます。
誰が真実の株主であるかは、出資の資金の出所、配当の受領の状況、議決権の行使の実態等から判断されます。名義人又はその相続人との間で確認の書面を取り交わすことが考えられます。争いがある場合には、株主であることの確認を求める訴えを検討いたします。
質問4 株主の相続人が10人以上に増えています。
全員との交渉は現実的でない場合がございます。遺産分割が未了であれば権利行使者の指定の問題もございます(会社法第106条本文)。株式の併合その他の手段を含めて検討いたします。
質問5 過去にさかのぼって株主名簿を作り直すことはできますか。
資料により異動の経緯を再現し得る限りにおいて、名簿を新たに整えることは可能でございます。もっとも、これは事実を記録し直す作業でございまして、事実と異なる記載を作ることではございません。裏付けのない記載は、後に紛争が生じた際にかえって不利に働くことがございます。
質問6 名簿の記載を書き換えることについて、株主の同意は必要でございますか。
名義書換は、要件を満たす場合には会社が行うべき事務でございまして、他の株主の同意を要するものではございません。他方、名義株の是正のように、名簿上の名義人の地位を否定することとなる場合には、当該名義人の協力が得られなければ、訴訟の手続によることになります。
質問7 不整合を放置したまま株式の集約を進めるとどうなりますか。
誰が株主であるかが確定していない状態で決議を行いますと、招集の通知の漏れ、議決権の数の誤りといった瑕疵が生じ、後に決議の効力を争われる原因となります。また、株式を取得しようとする際に、相手方が真実の株主でなければ、取得の効力自体が問題となります。集約に先立って確定を行うべき理由がここにございます。
質問8 いつの時点の株主を基準とすればよろしいですか。
権利を行使すべき株主を確定するために、あらかじめ基準となる日を定める方法がございます。定款の定め及び公告の要否を確認した上でご検討いただくことになります。まずは現在の状況を確定することが先決でございまして、基準となる日の設定は、その後の実務上の工夫と位置付けるのが相当でございます。
本記事の根拠条文
会社法
- 第106条(共有者による権利の行使)
- 第121条(株主名簿の記載事項)
- 第125条第2項・第3項(株主名簿の閲覧等)
- 第196条・第197条(所在の知れない株主に関する規律)
- 第318条第2項・第4項(株主総会の議事録の備置き及び閲覧等)
- 第831条第1項(決議の取消しの訴え)
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