知らないうちに株主が変わっていたときの調べ方
父が保有していたはずの会社の株式について、会社に問い合わせましたところ、「その株式は生前に譲渡されている」との回答がございました。譲渡の契約書があるとも言われますが、見せてもらえません。株主名簿の写しを求めても応じてもらえません。このようなご相談を、当事務所はしばしばお受けしております。
先に結論を申し上げます。誰が株主であるかは、株主名簿の記載のみで決まるものではございません。株主名簿の記載は会社に対する対抗要件でございまして(会社法第130条第1項)、記載があること自体が株主たる地位を創り出すものではございません。したがって、譲渡の意思表示が存在しないのであれば、名簿の記載が変更されていても、真実の株主は変わりません。本記事では、株主名簿、登記、税務の資料、会社の内部の資料という4つの経路から、株主の異動の有無とその実体を調べる方法を整理いたします。
第1節 株主名簿から調べます
1 閲覧又は謄写の請求
株主及び債権者は、会社の営業時間内はいつでも、請求の理由を明らかにして、株主名簿の閲覧又は謄写を請求することができます(会社法第125条第2項)。会社は、法定の事由がある場合を除き、これを拒むことができないものとされております(同条第3項)。
請求の理由は、具体的に記載する必要がございます。「相続により取得した株式について、自らの持分及び他の株主の構成を確認するため」といった記載が考えられます。
2 株主名簿に記載される事項
株主名簿には、株主の氏名又は名称及び住所、株主の有する株式の数、株式を取得した日等が記載されるものとされております(会社法第121条)。取得した日の記載は、異動の時期を知る手がかりとなります。
3 会社が「株主ではない」と述べる場合
会社が閲覧の請求を拒む理由として、「あなたは株主名簿に載っていないので株主ではない」と述べることがございます。しかしながら、相続その他の一般承継により株式を取得した者は、単独で株主名簿記載事項の記載又は記録を請求することができるものとされております。まず名義書換を請求し、拒絶された場合には、株主であることの確認を求める訴えを検討いたします。
4 株主名簿が作成されていない場合
中小の会社においては、株主名簿が作成されていない、又は長期間更新されていない例が少なくございません。この場合、会社が「名簿がない」と述べること自体が、株主の異動を裏付ける資料が存在しないことを意味いたします。名簿の不存在は、会社の側にとっても不利な事情となり得ます。
第2節 登記から調べます
1 株主は登記されません
株主の氏名及び持株数は、登記事項ではございません。したがって、登記事項証明書から株主を直接に知ることはできません。
2 登記から分かること
もっとも、履歴事項全部証明書及び閉鎖事項証明書からは、次の事項が分かります。これらは、支配権の異動の時期を推認する手がかりとなります。
- 発行済株式の総数及び資本金の額並びにその変動の経過
- 新株の発行の有無及び時期
- 取締役及び代表取締役の変更の経過
- 株式の譲渡の制限に関する定めの有無及びその変更
- 本店の移転、商号の変更、目的の変更
特に、新株の発行により持株の割合が低下している場合には、株式の異動そのものがなくても、支配の関係が変わっていることになります。新株の発行の手続に瑕疵がある場合には、新株発行の無効の訴え又は不存在の確認の訴えを検討する余地がございます。
3 役員の変更の時期との照合
役員の変更の登記は、変更が生じたときから2週間以内にしなければならないものとされております(会社法第915条第1項)。役員が入れ替わった時期と、会社が主張する株式の譲渡の時期とが近接している場合には、一連の動きとして評価し得ることがございます。
第3節 被相続人の手元の資料から調べます
1 確定申告書の控え
被相続人が配当を受けていた場合、その所得の記載から、株式を保有していた事実及びおおよその規模を知り得ることがございます。株式を譲渡していれば、譲渡の年に相応の記載があるはずでございます。譲渡があったとされる時期の前後の申告の内容を確認いたします。
2 預金口座の取引の履歴
株式の譲渡があったとされる時期に、これに見合う金銭の入金があるかを確認いたします。譲渡の対価の授受が確認できない場合、譲渡の存在自体が疑われることになります。金融機関に対する取引の履歴の開示の請求は、相続人の地位に基づいて行うことができる場合がございます。
3 会社から届いた書面
株主総会の招集の通知、配当金の支払通知書、株主に対する報告の書面等は、その時点で被相続人が株主として扱われていたことを示す資料となります。譲渡があったとされる日より後にこれらの書面が届いている場合には、会社の説明と矛盾いたします。
4 税理士との間のやり取り
会社の顧問税理士が被相続人の個人の申告も担当していることが少なくございません。もっとも、税理士は会社又は依頼者から委任を受けている立場にございますので、相続人に対して当然に資料を開示する義務を負うものではございません。被相続人の側の資料として保管されているものを確認することになります。
第4節 会社の内部の資料から調べます
1 株主総会の議事録
株主総会の議事録は、株主総会の日から10年間、本店に備え置かなければならないものとされております(会社法第318条第2項)。株主及び債権者は、その閲覧又は謄写を請求することができます(同条第4項)。議事録に記載された出席株主及び議決権の数から、当時の株主構成を推認し得ることがございます。
2 譲渡の承認に関する資料
譲渡制限株式を譲渡するには、会社の承認を受けなければならないものとされております(会社法第136条、第137条)。承認は、原則として株主総会(取締役会設置会社にあっては取締役会)の決議によります(会社法第139条第1項)。したがって、譲渡があったとされるのであれば、その承認の決議が存在するはずでございます。承認の決議が存在しない譲渡は、会社に対する関係で効力を主張し得ないことになります。
3 会計帳簿
総株主の議決権の100分の3以上の議決権を有する株主又は発行済株式の100分の3以上の数の株式を有する株主は、請求の理由を明らかにして、会計帳簿又はこれに関する資料の閲覧又は謄写を請求することができます(会社法第433条第1項)。ただし、この請求には拒絶の事由が定められております(同条第2項)。配当の支払の記録から、株主の異動を知り得ることがございます。
第5節 異動が確認された場合の争い方
1 譲渡の意思表示の不存在
被相続人が譲渡の意思表示をしていないのであれば、株式は移転しておりません。株主名簿の記載は対抗要件にすぎず(会社法第130条第1項)、記載の変更によって株主たる地位が移るものではございません。この場合には、株主であることの確認を求める訴えを提起することが考えられます。
2 譲渡の承認の決議を欠く場合
譲渡制限株式について会社の承認を欠く譲渡は、会社に対する関係で効力を主張し得ないものと解されております。承認の決議が存在するか、存在するとしてその手続に瑕疵がないかを検討いたします。
3 名義株の問題
設立の当時の要件を満たすために、実際には出資をしていない者の名義を借りて株式が引き受けられている例がございます。この場合、名簿上の株主と真実の株主とが異なることになります。誰が真実の株主であるかは、出資の資金の出所、配当の受領の状況、議決権の行使の実態等から判断されます。断定できない場合もございます。
4 新株の発行
被相続人の持株の割合が、新株の発行により低下している場合には、発行の手続に瑕疵がないかを検討いたします。募集事項の決定、株主に対する通知又は公告、払込みの実体の有無が主な検討の対象となります。新株発行の無効の訴えには提訴の期間の制限がございますので、早期の判断が必要でございます。
第6節 調査の順序
| 段階 | 内容 | 根拠条文 |
|---|---|---|
| 第1 | 履歴事項全部証明書及び閉鎖事項証明書を取得いたします | 商業登記に関する規律 |
| 第2 | 被相続人の確定申告書の控え及び預金口座の取引の履歴を確認いたします | ― |
| 第3 | 名義書換を請求し、株主としての地位を明確にいたします | 会社法第133条第2項 |
| 第4 | 株主名簿の閲覧謄写を請求いたします | 会社法第125条第2項 |
| 第5 | 株主総会の議事録の閲覧謄写を請求いたします | 会社法第318条第4項 |
| 第6 | 会計帳簿等の閲覧謄写を請求いたします | 会社法第433条第1項 |
| 第7 | 株主であることの確認の訴え等を検討いたします | ― |
第7節 弁護士にご相談いただく意味
この類型において難しいのは、資料が会社の側に偏在していることでございます。相続人は、被相続人が何株を保有していたかすら知らないまま、会社の説明に反論しなければなりません。したがって、まず名義書換により株主としての地位を確保し、閲覧の請求により資料を得るという順序が不可欠でございます。順序を誤りますと、「株主ではない」という一点で拒まれ続けることになります。
また、新株発行の無効の訴えのように提訴の期間が限られている手段がございますので、調査に時間をかけすぎることも避けなければなりません。調査と手続の選択とを並行して進める必要がございます。
具体的な進め方は、会社の規模、株主構成、登記の経過、被相続人の手元の資料の状況等により異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してまいりました実務上のノウハウにも属するため、本記事では詳細を開示しておりません。
第8節 調査の結果に応じた期間及び期限の管理
調査により異動の事実が判明いたしましても、争う手段によっては期間の制限がございます。起算点とともに整理いたします。
| 争う手段 | 起算点 | 期間 |
|---|---|---|
| 株主総会の決議の取消しの訴え | 決議の日 | 決議の日から3か月以内でございます(会社法第831条第1項) |
| 株主総会の決議の不存在又は無効の確認の訴え | ― | 期間の制限は定められておりません(会社法第830条) |
| 新株の発行の無効の訴え | 株式の発行の効力が生じた日 | 公開会社でない会社においては1年以内でございます(会社法第828条第1項第2号) |
| 新株の発行の不存在の確認の訴え | ― | 期間の制限は定められておりません(会社法第829条) |
| 株式の譲渡が無効であることの主張 | ― | 期間の制限は定められておりませんが、時の経過により資料が失われ、立証は困難となってまいります |
| 株主名簿の名義書換の請求 | ― | 期間の制限は定められておりませんが、権利を行使する必要が生じた時点で速やかに行うべきものでございます |
期間の制限のある手段と、制限のない手段とが併存しております。制限のある手段を選択し得る余地が残っている段階で早期にご相談いただくことにより、採り得る選択肢が広がります。
第9節 会社に対して請求を行う場合の順序と書面
1 第1段階 書面により請求いたします
口頭による申入れでは、請求をした事実及びその時期が残りません。株主名簿の閲覧又は謄写の請求は、請求の理由を明らかにして行うものとされておりますので(会社法第125条第2項)、理由を記載した書面により、記録の残る方法で送付いたします。請求の対象、希望する日時、謄写を希望する旨を明記いたします。
2 第2段階 拒絶の理由を確認いたします
会社が請求を拒む場合には、その理由を書面により明らかにするよう求めます。法令に定められた拒絶の事由に当たらない理由による拒絶であることが明らかになれば、その後の手続において有力な資料となります。回答がない場合には、その事実自体を記録いたします。
3 第3段階 裁判所の手続を選択いたします
拒絶が続く場合には、閲覧又は謄写を求める仮処分の申立て、又は本案の訴えの提起を検討いたします。いずれによるべきかは、緊急性の程度、争点の内容、他に採り得る手段の有無により異なります。
4 第4段階 得られた資料に基づき手段を選択いたします
資料が得られましたら、第5節に掲げた争い方のうちいずれによるかを選択し、前節の期間の制限を確認いたします。資料の入手に時間を要することが見込まれる場合には、期間の制限のある手段について、先に手続を行うことも検討いたします。
よくあるご質問
質問1 会社が株主名簿を見せてくれません。
株主及び債権者は、請求の理由を明らかにして株主名簿の閲覧又は謄写を請求することができます(会社法第125条第2項)。会社は、法定の事由がある場合を除き、これを拒むことができません(同条第3項)。応じない場合には、訴訟又は仮処分を検討いたします。
質問2 「生前に譲渡した」と言われました。契約書があるそうです。
契約書の原本の提示を求め、筆跡及び印影を確認いたします。あわせて、譲渡の対価の授受、譲渡制限株式であれば会社の承認の決議の有無、譲渡の後の株主総会の招集の通知の宛先を確認いたします。実体を伴わない譲渡は、これらの点で矛盾を生じることが多うございます。
質問3 登記を見れば株主が分かりますか。
株主の氏名及び持株数は登記事項ではございません。もっとも、発行済株式の総数の変動、新株の発行、役員の変更の経過から、支配権の異動を推認する手がかりを得ることができます。
質問4 名義だけ借りていた株式はどうなりますか。
誰が真実の株主であるかは、出資の資金の出所、配当の受領の状況、議決権の行使の実態等から判断されます。名簿上の記載のみで決まるものではございませんが、立証は容易でない場合がございます。
質問5 異動があったのが何年も前でございます。今から争えますか。
争う手段により異なります。決議の取消しの訴え及び新株の発行の無効の訴えには期間の制限がございますが、決議の不存在の確認、発行の不存在の確認、譲渡が無効であることの主張には、期間の制限が定められておりません。まずは、いかなる事実により異動が生じたとされているのかを確定することが先決でございます。
質問6 会社が請求に何も回答してくれません。
回答がないこと自体を記録し、請求を行った事実及びその時期を残しておくことが重要でございます。その上で、裁判所の手続によることを検討いたします。請求の書面の写し及び送付の記録は、いずれの手続においても必要となりますので、必ずお手元にお残しください。
本記事の根拠条文
会社法
- 第121条(株主名簿の記載事項)
- 第125条第2項・第3項(株主名簿の閲覧等)
- 第130条第1項(株式の譲渡の対抗要件)
- 第133条第2項(株主名簿記載事項の記載等の請求)
- 第136条・第137条(譲渡制限株式の譲渡等の承認の請求)
- 第139条第1項(譲渡等の承認の決定)
- 第318条第2項・第4項(株主総会の議事録)
- 第433条第1項・第2項(会計帳簿の閲覧等の請求)
- 第915条第1項(変更の登記)
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