遺産分割における非上場株式の評価額の決め方

父の遺産の大半は、父が経営していた会社の株式でございます。会社を継いだ弟は「税理士に計算してもらった相続税の評価額のとおりに分ければよい」と申しますが、その金額は会社の実態からかけ離れているように思われます。遺産分割において、株式はいくらと評価すべきなのでしょうか。このようなご相談を、当事務所はしばしばお受けしております。

先に結論を申し上げます。遺産分割において非上場株式をいくらと評価するかについて、法律に定められた算定の方法はございません。相続税の課税のための評価額によらなければならないという決まりもございません。実務においては、純資産に着目する方法、収益に着目する方法、類似する会社の指標に着目する方法、配当に着目する方法等が用いられ、会社の性格及び当該株式の保有の割合に応じて選択され、又は併用されます。そして、いずれの方法によるかにより、算定される金額は大きく異なります。したがって、争点は「どの方法によるべきか」と「その方法に用いる数値をどの資料から取るか」の2点に集約されます。本記事では、この2点を中心に整理いたします。

本稿は、遺産分割において非上場株式の評価額をどのように定めるか、すなわち基準となる時点、用いられる算定の考え方、会社の性格による使い分け、資料の集め方並びに協議、調停及び審判における進め方について解説するものです。相続税の申告のために算定された相続税評価額を、そのまま遺産分割の基準としてはならない理由については 非上場株式の遺産分割は相続税評価額を基準に分割しては絶対にいけません!! を御参照ください。

目次

第1節 遺産分割における評価の位置付け

1 なぜ評価が必要か

遺産分割は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをするものとされております(民法第906条)。各相続人の取り分を計算するためには、遺産に属する各財産の価額を定める必要がございます。株式を承継する相続人と、預貯金を承継する相続人との間の公平は、株式の評価により大きく変動いたします。

2 基準となる時点

遺産分割における財産の評価は、分割の時における価額を基準とするのが原則と解されております。他方、特別受益に当たる贈与の価額については、相続の開始の時を基準とする旨が定められております(民法第904条)。基準となる時点が異なりますので、混同しないよう注意を要します。

3 法定の算定方法はございません

非上場株式の評価について、民法に算定の方法を定めた規定はございません。したがって、当事者の主張及び提出された資料に基づき、協議、調停又は審判において定まることになります。

第2節 相続税の課税のための評価額との違い

1 目的が異なります

相続税の課税のための評価額は、財産評価基本通達に基づいて算定されるものでございます。課税の公平及び画一的な処理のために定められた基準でございまして、当事者間の公平を図るための評価とは目的が異なります。

2 結果としての乖離

財産評価基本通達に基づく算定においては、会社の規模の区分に応じ、類似する業種の指標に着目する方法及び純資産に着目する方法が併用され、また、株式の保有の割合に応じて配当に着目する方法によることがございます。この結果、会社の収益力が高い場合であっても、評価額が低く算定されることがございます。逆に、含み益のある資産を保有している場合には、高く算定されることがございます。

3 「相続税評価額で分ける」という主張への対応

後継者の側は、しばしば「相続税の申告でこの金額を用いたのだから、遺産分割でもこの金額である」と主張いたします。これに対しては、目的及び基準の異なる制度であること、遺産分割においては当事者間の公平が問題となることを指摘することになります。もっとも、相続人全員が合意するのであれば、いかなる金額によることも可能でございます。

第3節 用いられる算定の考え方

考え方 着目する事項 親しみやすい会社 主な留意点
純資産に着目する方法 資産及び負債の評価 不動産その他の資産の保有が中心の会社 資産を帳簿の価額で見るか時価で見るかにより大きく変わります
収益に着目する方法 将来の収益又は資金の流れの見通し 継続的に利益を計上している会社 将来の見通しの置き方及び割引の率により大きく変わります
類似する会社の指標に着目する方法 同業の会社の指標との比較 比較の対象を得やすい業種の会社 比較の対象の選定が争点となります
配当に着目する方法 過去及び将来の配当の水準 支配権を伴わない少数の株式 配当を行っていない会社では用いにくうございます

実務においては、これらを併用し、又は加重することが少なくございません。いかなる加重を行うかにより、金額はさらに変動いたします。

第4節 会社の性格による使い分け

1 資産を多く保有する会社

不動産、有価証券、保険積立金等を多く保有する会社においては、純資産に着目する方法が重視されることがございます。この場合、資産を帳簿の価額で評価するのか、時価で評価するのかが最大の争点となります。特に、取得から長期間が経過した不動産については、帳簿の価額と時価との間に大きな差が生じていることがございます。

2 収益を上げている会社

継続的に利益を計上している会社においては、収益に着目する方法が重視されることがございます。この場合、将来の収益をどのように見込むか、役員報酬をどのように扱うかが争点となります。オーナー社長が高額の報酬を受け取っていた場合、その報酬を通常の水準に引き直すかどうかにより、算定される金額が大きく変わります。

3 支配権を伴うか否か

会社の支配権を伴う株式と、少数の株式とでは、実務上、異なる取扱いがされることがございます。もっとも、遺産分割においては、被相続人が保有していた株式の全体をどのように分けるかが問題となりますので、その全体を一体として評価した上で分けるという考え方も採り得ます。いかなる前提に立つかにより、結論が変わり得ます。

第5節 資料の集め方

1 株主としての権利による請求

株主は、計算書類等の閲覧又は謄本の交付を請求することができます(会社法第442条第3項)。この請求について、法定の拒絶の事由は定められておりません。持株の割合が要件を満たす場合には、請求の理由を明らかにして、会計帳簿又はこれに関する資料の閲覧又は謄写を請求することができます(会社法第433条第1項)。ただし、この請求には拒絶の事由が定められております(同条第2項)。

遺産分割が未了である間は、株式は相続人の準共有に属し、権利行使者の指定及び通知がなければ権利を行使することができません(会社法第106条本文)。後継者が権利行使者に指定されている場合には、他の相続人は株主としての権利を行使することができませんので、この点が実務上の障害となります。

2 誰でも取得できる資料

会社の登記事項証明書、決算公告(会社法第440条第1項)、業界の統計等でございます。

3 被相続人の手元の資料

確定申告書の控え、金融機関に提出した資料、配当金の支払通知書、預金口座の取引の履歴、保険の証券等でございます。金融機関に提出された事業計画その他の資料には、会社の実態を示す情報が含まれていることがございます。

4 不動産に関する資料

会社が不動産を保有している場合には、登記事項証明書、固定資産の評価に関する資料等を確認いたします。ただし、不動産の鑑定評価は不動産鑑定士の職務でございます。当事務所は不動産の鑑定評価を行っておりません。

第6節 協議、調停及び審判における進め方

1 協議

共同相続人は、いつでも、その協議で、遺産の全部又は一部の分割をすることができます(民法第907条第1項)。相続人全員が合意するのであれば、いかなる金額によることも可能でございます。

2 調停及び審判

協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、各共同相続人は、家庭裁判所に遺産の分割を請求することができます(民法第907条第2項)。実務においては、まず調停を申し立てることが一般的でございます。

3 手続の進行

調停においては、まず相続人の範囲、遺産の範囲を確定し、次に特別受益及び寄与分の有無を検討し、その上で遺産の評価に進むという順序で整理されることが多うございます。株式の評価は、この段階で正面から取り上げられることになります。

4 鑑定

評価について当事者の主張が対立する場合には、鑑定が実施されることがございます。鑑定に要する費用は当事者の負担となり、その額は会社の規模及び資料の量により異なります。あらかじめ金額を申し上げることはできません。鑑定を求めるか否かは、費用と得られる結果とを比較して判断いたします。

第7節 評価の前に確認すべき事項

1 遺産の範囲

被相続人の名義の株式のほか、名義は他人でありながら実質的には被相続人が保有していた株式(いわゆる名義株)が存在することがございます。誰が真実の株主であるかは、出資の資金の出所、配当の受領の状況、議決権の行使の実態等から判断されます。

2 生前の贈与

共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、特別受益として遺産分割において考慮されます(民法第903条第1項)。後継者が生前に株式の贈与を受けている場合には、この点が問題となります。贈与の価額は、相続の開始の時を基準として定めるものとされております(民法第904条)。

3 寄与分

共同相続人中に、被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者があるときは、寄与分が考慮されます(民法第904条の2)。後継者からこの主張がされることがございます。

4 会社と被相続人との間の債権債務

被相続人が会社に対して有していた貸付金は遺産でございます。逆に、被相続人が会社の債務について保証をしていた場合には、保証債務の承継が問題となります。株式の評価のみに目を奪われず、全体を確認する必要がございます。

第8節 合意による解決の形

評価を厳密に争うことは、時間と費用を要します。実務においては、次のような合意により解決が図られることがございます。

  • 株式は後継者が承継し、他の相続人には代償として金銭を支払う(代償分割)
  • 会社が株式を自己株式として取得し、その対価を分割の対象とする
  • 株式の一部を他の相続人にも配分し、その後に買取りの交渉を行う
  • 将来、会社が売却された場合の精算について合意しておく

いずれの形を採るにしても、支払の時期、担保、支払が滞った場合の取扱いを書面により明確に定める必要がございます。なお、税務上の取扱いにつきましては税理士にご確認ください。

第9節 手続の順序

段階 内容
第1 相続人の範囲及び遺産の範囲を確定いたします
第2 名義書換を請求し、又は権利行使者の指定について協議いたします
第3 計算書類等の閲覧謄本交付を請求し、資料を収集いたします
第4 特別受益及び寄与分の有無を整理いたします
第5 評価の考え方について主張を組み立てます
第6 協議が調わない場合、遺産分割の調停を申し立てます
第7 必要に応じて鑑定を検討いたします

第10節 弁護士にご相談いただく意味

この局面において結論を左右するのは、資料と、評価の考え方の選択でございます。後継者の側は会社の内部の資料を有しており、他の相続人はこれを有しておりません。したがって、まず株主としての地位を確保し、資料を得ることが出発点となります。資料がないままに「その金額は低い」と述べても、主張として成り立ちません。

また、いずれの算定の考え方によるべきかは、会社の性格により異なります。資産の保有が中心の会社に収益の方法のみを用い、あるいは収益を上げている会社に純資産の方法のみを用いることは、いずれも実態を反映しない結果を招きます。会社の性格を見極めた上で、適切な考え方を選択し、その根拠を示すことが必要でございます。

さらに、評価のみを争うことが常に最善とは限りません。代償金の支払の時期、将来の売却の場合の精算、会社に対する貸付金の回収といった条件を組み合わせることにより、双方が納得し得る解決に至ることがございます。

具体的な進め方は、会社の性格、遺産の構成、相続人の間の関係、資料の入手の可能性等により異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してまいりました実務上のノウハウにも属するため、本記事では詳細を開示しておりません。

第11節 鑑定の申立てから鑑定書に対する意見までの段階

第6節第4項で触れました鑑定につきまして、実際の進行を段階ごとに整理いたします。鑑定は費用及び期間を要しますので、これによらずに合意に至る余地がないかを先に検討するのが通例でございます。もっとも、評価額の隔たりが大きく、資料の開示によっても埋まらない場合には、鑑定によることが結論への近道となることもございます。

段階 行うこと 関与する者 留意点
第1 双方の主張する評価額の隔たりと、その原因を整理いたします 当事者及び代理人 隔たりの原因が資料の不足にある場合には、まず資料の開示を求めます
第2 株式の評価について鑑定を求める旨を申し出ます 当事者 調停の段階におきまして調停委員会に対し申し出る例もございます
第3 鑑定人が選任されます 家庭裁判所 当事者の意見を聴いた上で選任されるのが通例でございます
第4 鑑定の費用を予納いたします 当事者 額及び当事者の負担の割合は、裁判所が事案に応じて定めます
第5 計算書類、勘定科目内訳明細書、資産の資料等を提出いたします 当事者及び会社 会社が協力しない場合には、株主としての権利により資料を取得することを要します
第6 鑑定書を受領いたします 裁判所 前提とされた事実及び採用された算定の考え方を確認いたします
第7 鑑定書に対する意見を述べます 当事者 前提事実の誤り、算定の考え方の当否等を指摘し、必要に応じ鑑定人に対する質問を求めます

第12節 相手方の主張と、これに対する反論の枠組み

評価をめぐって述べられることの多い主張と、確認すべき事項、反論の組み立てを整理いたします。いずれも結論は事案により異なりますが、準備の方向を定める手がかりとなります。

相手方の主張 確認すべき事項 反論の枠組み
相続税の課税のための評価額で分けるのが公平である その評価額の算定の根拠と、算定の時点 課税のための評価は、課税の便宜のための画一的な定めによるものでございます。遺産分割における評価は、分割の時における客観的な交換価値によるべきものと解されております
配当も行っておらず換価もできないのだから価値がない 純資産の額、収益の状況、役員報酬の水準 換価の容易さは流動性の問題でございまして、価値がないことを直ちに意味するものではございません
少数の持分にすぎないから大きく減額すべきである 承継後の持株の割合、他の株主の構成、定款の定め 減額の当否及び程度は、取得する者が支配権を有するに至るか否か等により異なります。支配権を有するに至る場合には、減額の前提を欠きます
税理士が作成した評価の書面があるのだからそれによるべきである 作成の目的、依頼をした者、前提とされた事実、採用された算定の考え方 課税のための申告を目的として作成された書面である場合には、遺産分割における評価の資料としての意味は限られます
資産の含み益は実現していないのだから考慮すべきでない 資産の時価と帳簿の価額との差 分割の時における交換価値を問題とする以上、帳簿の価額にとどめる理由はございません。もっとも、処分に伴う負担を考慮すべきか否かは、事案により検討を要します
会社の資料を株主に見せる義務はない 持株の割合、請求の理由の記載 会計帳簿等の閲覧謄写の請求(会社法第433条第1項)及び計算書類等の閲覧等の請求(会社法第442条第3項)により、開示を求めることができます

第13節 事案の類型ごとの分岐

同じ「非上場株式の評価」と申しましても、会社の性格及び相続人の置かれた立場により、重点の置きどころは異なります。主な類型を掲げます。

類型 特徴 進め方の重点
資産を多く保有し、収益の乏しい会社 帳簿の価額と時価との隔たりが大きくなりがちでございます 資産の時価の把握を重視いたします。資産に関する資料の開示を求めます
収益を上げているが、資産の乏しい会社 純資産によるのみでは価値を捉えきれません 収益の状況を示す資料を重視いたします。役員報酬の水準の確認を要します
特定の相続人が支配権を有するに至る場合 取得する者にとっての価値と、少数の持分としての価値とが異なります 支配権を伴う持分としての評価を主張することを検討いたします
相続人のいずれもが少数の持分にとどまる場合 会社の経営は他の株主が行っております 換価の手段と併せて検討いたします
会社と被相続人との間に多額の債権債務がある場合 貸付金、借入金、地代等が評価に影響いたします 債権債務の額及び回収の可能性を確認いたします
会社が資料の開示に応じない場合 評価の前提となる事実を確定できません 資料の開示を求める手続を先行させます

よくあるご質問

質問1 相続税の評価額で分けなければならないのですか。

そのような決まりはございません。相続税の課税のための評価額と、遺産分割における評価とは、目的も基準も異なります。もっとも、相続人全員が合意するのであれば、その金額によることも可能でございます。

質問2 どの算定方法が正しいのですか。

一律に正しい方法というものはございません。会社の性格及び当該株式の保有の割合に応じて選択され、又は併用されます。

質問3 会社が資料を出しません。

株主であれば、計算書類等の閲覧又は謄本の交付を請求することができます(会社法第442条第3項)。遺産分割が未了である場合には、権利行使者の指定が必要となります(会社法第106条本文)。会社が応じない場合には、訴訟又は仮処分を検討いたします。

質問4 鑑定にはいくらかかりますか。

会社の規模、事業の内容、資料の量等により異なります。一律の金額を申し上げることはできません。

質問5 弟が「自分が働いて会社を大きくした」と言っています。

寄与分の主張として整理されます(民法第904条の2)。もっとも、役員として報酬を受けていた場合には、その労務は報酬により評価済みであると評価される余地がございます。結論は事案により異なります。

質問6 鑑定を申し出れば必ず行われるのですか。

鑑定を行うか否かは裁判所が判断いたします。当事者が申し出たからといって当然に行われるものではございません。費用及び期間を要しますので、その要否は慎重に検討されます。

質問7 相手方が提出した評価の書面に納得できない場合は、どうすればよいですか。

作成の目的、依頼をした者、前提とされた事実及び採用された算定の考え方を確認いたします。その上で、前提となる事実の誤り又は算定の考え方の当否について、資料に基づいて意見を述べます。必要に応じ、別途の評価を求めることを検討いたします。

本記事の根拠条文

民法

  • 第903条第1項(特別受益)
  • 第904条(贈与の価額の評価の時点)
  • 第904条の2(寄与分)
  • 第906条(遺産の分割の基準)
  • 第907条第1項・第2項(遺産の分割の協議及び請求)

会社法

  • 第106条(共有者による権利の行使)
  • 第433条第1項・第2項(会計帳簿の閲覧等の請求)
  • 第440条第1項(貸借対照表等の公告)
  • 第442条第3項(計算書類等の閲覧等の請求)

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本記事は一般的な制度の説明であり、結論は事案ごとに異なります。同種の事案において同じ結果となることを保証するものではありません。個別の事情については、弁護士にご相談ください。

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