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「株式は全部長男に相続させる」と書かれた遺言で自社株式を承継した場合に、会社に株主として扱われるまでに行うこと

この記事の位置付け

相続させる旨の遺言で株式を承継した場合に関するメインのページです。本ページは、非上場株式の相続において遺言に基づき会社に株主として扱わせる手順をご説明します。遺言の効力の争いは別のページをご参照ください。

「株式は全部長男に相続させる」。被相続人が残した遺言書には、そう書かれていました。ところが、会社に連絡をすると、担当者は「遺産分割協議書をお持ちください」と述べ、株主名簿の書換えに応じません。他の相続人からは「あの遺言は無効だと思う」との連絡が届きます。株主総会の招集通知は、依然として被相続人の宛名のまま送られてきます。当事務所には、このようなご相談が寄せられています。

遺言により非上場株式を承継した後継者は、遺産の分割の協議の成立を待つ必要がない立場にあります。しかし、その立場を会社に認めさせるためには、根拠となる条文を示し、必要な書面を揃え、正しい順序で請求を行う必要があります。順序を誤ると、会社に対して「相続人の間で話がついていない」という説明の余地を与えてしまいます。

結論から申し上げます。相続させる旨の遺言(特定財産承継遺言)により株式を承継した相続人は、遺産の分割の協議を経ることなく、単独で株主名簿の名義書換を請求することができます。以下、その根拠と、会社が応じない場合に採り得る手段とを、順を追ってご説明します。

目次

「相続させる旨の遺言」で株式を承継するとはどのような状態か

遺産の分割の方法の指定としての遺言

民法第1014条第2項は、遺産の分割の方法の指定として遺産に属する特定の財産を共同相続人の一人又は数人に承継させる旨の遺言を「特定財産承継遺言」と定義しています。「株式は全部長男に相続させる」という文言は、まさにこの特定財産承継遺言に当たります。

特定財産承継遺言の効果は、遺産の分割の方法を指定するにとどまるものではありません。相続の開始と同時に、指定された財産が指定された相続人に承継されます。したがって、他の相続人との間で遺産分割の協議を行い、その合意を得て初めて株式を取得するという関係にはありません。会社の担当者が「遺産分割協議書がなければ取り扱えない」と述べるのは、この構造を前提としない説明です。

「遺贈する」と書かれている場合との違い

同じ遺言書であっても、「株式を長男に遺贈する」と書かれている場合には、扱いが変わります。遺贈は、相続による承継ではなく、遺言による無償の譲与です。民法第1012条第2項は、遺言執行者がある場合には、遺贈の履行は遺言執行者のみが行うことができると定めています。遺言執行者がいない場合には、相続人の全員が履行の義務を負う立場となりますので、他の相続人の協力を要する場面が生じます。

また、遺贈による株式の取得は、株主名簿の名義書換の手続において、相続その他の一般承継とは別の扱いを受ける場合があります。遺言書の文言が「相続させる」であるのか「遺贈する」であるのかは、最初に確認していただきたい事項です。文言が「承継させる」「取得させる」等である場合には、遺言書の全体から被相続人の意思を読み取ることになります。

遺言の対象が全財産である場合

「全財産を長男に相続させる」という包括的な文言であっても、その中に非上場株式が含まれる限り、株式についての特定財産承継遺言として扱われます。ただし、この場合には他の相続人の遺留分を侵害する可能性が高くなりますので、民法第1046条第1項による遺留分侵害額の請求を受けることを想定した準備が必要となります。遺留分の請求は金銭の支払を求めるものであり、株式そのものの返還を求めるものではありませんので、名義書換の手続を止める理由にはなりません。

遺産の分割の協議を経ずに単独で名義書換を求め得る根拠

会社に対して株主として扱うよう求める根拠は、次の三つの条文の組合せにより説明します。

会社法第130条 名義書換が対抗要件であること

会社法第130条第1項は、株式の譲渡は、その株式を取得した者の氏名又は名称及び住所を株主名簿に記載し、又は記録しなければ、株式会社その他の第三者に対抗することができないと定めています。同条第2項は、株券発行会社については、この規定の適用上、対抗することができない相手方を「株式会社」に限る旨を定めています。相続による承継は譲渡そのものではありませんが、会社に対して株主として権利を行使するためには、実務上、株主名簿の記載を整えることが出発点となります。

会社法第133条 株主名簿記載事項の記載の請求

会社法第133条第1項は、株式を取得した者は、会社に対し、当該株式に係る株主名簿記載事項を株主名簿に記載し、又は記録することを請求することができると定めています。同条第2項は、この請求を、株主名簿上の株主又はその相続人その他の一般承継人と共同してしなければならないという原則を定めています。

もっとも、同項には「利害関係人の利益を害するおそれがないものとして法務省令で定める場合を除き」という留保が付されています。会社法施行規則第22条第1項第4号は、株式取得者が一般承継により当該株式会社の株式を取得した者である場合において、当該一般承継を証する書面その他の資料を提供して請求をしたときを、その場合の一つとして掲げています。すなわち、相続により株式を取得した者は、相続を証する書面を添えることにより、単独で名義書換を請求することができます。

なお、会社が株券発行会社である場合には、同条第2項第1号により、株式取得者が株券を提示して請求をした場合が単独で請求し得る場合とされています。株券が見つからない場合の扱いは、後の大見出しにおいてご説明します。

会社法第134条 譲渡制限株式の場合の扱い

非上場会社の株式の多くは、定款により譲渡による取得について会社の承認を要する旨が定められた譲渡制限株式です。会社法第134条本文は、株式取得者が取得した株式が譲渡制限株式である場合には第133条の規定を適用しないと定めていますが、同条第4号は、当該株式取得者が相続その他の一般承継により譲渡制限株式を取得した者であることを、その例外として掲げています。相続による承継については、譲渡の承認を得ることなく、名義書換の請求をすることができます。会社が「譲渡制限株式であるから承認の決議が必要である」と述べる場合には、この条文を示して回答します。

遺言執行者がいる場合と、いない場合とで手続はどう変わるか

遺言執行者がいる場合

民法第1012条第1項は、遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有すると定めています。そのうえで、民法第1014条第2項は、特定財産承継遺言があったときは、遺言執行者は、当該共同相続人が民法第899条の2第1項に規定する対抗要件を備えるために必要な行為をすることができると定めています。

株式について対抗要件を備えるために必要な行為とは、会社に対する株主名簿の名義書換の請求です。したがって、遺言執行者は、株式を承継した相続人のために、会社に対して名義書換を請求することができます。承継した相続人自身が請求する方法と、遺言執行者が請求する方法とは、いずれも採ることができ、双方の名義を連記して行っても差し支えありません。

あわせて、民法第1013条第1項は、遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができないと定め、同条第2項は、これに違反してした行為は無効とすると定めています。他の相続人が会社に対して「自分にも持分がある」と申し入れて名義書換を妨げようとする場合には、この条文が根拠となります。

遺言執行者がいない場合

遺言書に遺言執行者の指定がない場合、又は指定された者が就職を承諾しない場合には、民法第1010条により、家庭裁判所に対して遺言執行者の選任を申し立てることができます。もっとも、株式の名義書換については、承継した相続人が自ら会社法第133条第1項の請求を行うことができますので、遺言執行者の選任を待つ必要は必ずしもありません。

遺言執行者の選任を積極的に検討していただきたいのは、他の相続人が遺言の内容に強く反発し、会社に対して個別に申入れを行っている場合です。第三者である遺言執行者が手続を行うことにより、会社の側が「相続人の間の争いに巻き込まれる」という理由で判断を留保する余地を狭めることができます。

就職の承諾の有無の確認

遺言書に遺言執行者として指定された者がある場合には、その者が就職を承諾しているかどうかを最初に確認します。民法第1007条第1項は、遺言執行者が就職を承諾したときは、直ちにその任務を行わなければならないと定めています。承諾の有無が明らかでないまま日数が経過している場合には、民法第1008条により、相当の期間を定めて、その期間内に就職を承諾するかどうかを確答すべき旨の催告をすることができます。同条は、その期間内に確答がないときは就職を承諾したものとみなすと定めていますので、手続を前に進めるための有効な方法となります。

また、民法第1007条第2項は、遺言執行者は、その任務を開始したときは、遅滞なく、遺言の内容を相続人に通知しなければならないと定めています。この通知を先に済ませておくことは、後の紛争を小さくするうえで有益です。

法定相続分を超える部分の対抗要件

平成30年の民法の改正により、相続による権利の承継についての対抗要件の規律が改められました。民法第899条の2第1項は、相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、法定相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができないと定めています。

この条文は、遺言により株式を承継した相続人にとって、二つの意味を持ちます。

第一の意味 会社に対する関係

会社に対して株主として扱うよう求めるためには、株主名簿の名義書換が必要です。この点は、遺言があるかどうかによって変わりません。遺言があることによって変わるのは、その請求を単独で行い得るという点です。会社に対しては、遺言書と戸籍という形式的な資料により、承継の事実を示すことになります。

第二の意味 第三者に対する関係

他の相続人が、自らの法定相続分に相当する株式を第三者に譲渡し、その第三者が先に名義書換を受けた場合には、法定相続分を超える部分について、承継した相続人が不利益を受けることがあります。遺言があるというだけで当然に優先するという結論には至りません。名義書換を急ぐべき理由は、まさにこの点にあります。

実務上、相続の開始から名義書換までの期間が長くなるほど、他の相続人による処分、会社による募集株式の発行その他の事態が生じる余地が広がります。遺言書の内容を確認した段階で、直ちに会社に対する請求に着手していただきたいと考えます。

会社が名義書換を拒む場合に採り得る手段と順序

第1段階 書面による請求と催告

まず、会社に対し、配達証明付きの内容証明郵便により、名義書換の請求を行います。記載する事項は、被相続人の氏名及び死亡の日、遺言書の内容、承継した株式の種類及び数、請求の根拠となる条文(会社法第133条第1項、会社法施行規則第22条第1項第4号、会社法第134条第4号)、並びに回答の期限です。添付する書面は、遺言書の写し(自筆証書遺言の場合には検認調書の写しを含みます。)、被相続人の出生から死亡までの戸籍、承継した相続人の戸籍及び印鑑登録証明書です。

公正証書による遺言については、民法第1004条第2項により、検認の手続を要しません。法務局における遺言書の保管の制度を利用した自筆証書遺言についても、同様に検認を要しないものとされています。それ以外の自筆証書遺言については、民法第1004条第1項により、家庭裁判所の検認を経る必要があります。検認は遺言の有効性を判断する手続ではありませんが、検認を経ていない遺言書を提示しても、会社が応じないことが通例です。

第2段階 株主総会の招集通知の宛先の是正の申入れ

名義書換が完了するまでの間も、株主総会は開催されます。会社法第126条第1項は、会社が株主に対してする通知又は催告は、株主名簿に記載し、又は記録した当該株主の住所にあてて発すれば足りると定めています。名義書換が未了である間は、通知が被相続人の住所に送られ続けることになりますので、承継した相続人が総会の開催を知らないまま決議がされる事態が生じます。

そこで、名義書換の請求と同時に、招集通知の送付先を変更するよう申し入れます。会社が応じないまま決議がされた場合には、会社法第831条第1項第1号により、招集の手続が法令に違反することを理由として決議の取消しの訴えを提起することを検討します。同項は、決議の日から3箇月以内という提訴の期間を定めていますので、期間の管理が必要です。

第3段階 名義書換を求める訴え及び株主の地位の確認の訴え

会社が回答をせず、又は理由を示さずに拒む場合には、訴訟により解決します。求める内容は、株主名簿に自らの氏名及び住所を記載することを命ずる判決です。あわせて、株主としての地位を有することの確認を求めることもあります。

判決が確定するまでの間に株主総会が開催される見込みがある場合には、議決権を行使することができる地位を仮に定める仮処分の申立てを併せて検討します。役員の選任、定款の変更、募集株式の発行等、事後の是正が困難な決議が予定されている場合には、この申立てを行う実益が大きくなります。

第4段階 名義書換の完了後に行う資料の請求

名義書換が完了した後は、株主として、会社法第125条第2項による株主名簿の閲覧謄写の請求、会社法第442条第3項による計算書類等の閲覧の請求を行うことができます。また、総株主の議決権の100分の3以上又は発行済株式の100分の3以上を有する場合には、会社法第433条第1項により、請求の理由を明らかにしたうえで会計帳簿の閲覧謄写の請求を行うことができます。詳しくは、会社が決算書類を見せてくれない場合に相続人が採り得る手段をご覧ください。

定款に相続人等に対する売渡しの請求の定めがある場合の期限の管理

会社法第174条は、株式会社は、相続その他の一般承継により当該株式会社の株式(譲渡制限株式に限ります。)を取得した者に対し、当該株式を当該株式会社に売り渡すことを請求することができる旨を定款で定めることができると定めています。この定めがある会社では、遺言により株式を承継した後継者であっても、会社から売渡しの請求を受ける可能性があります。

会社法第176条第1項ただし書は、当該株式会社が相続その他の一般承継があったことを知った日から1年を経過したときは、請求をすることができないと定めています。裏を返せば、その1年の間は、請求を受ける可能性が残るということです。

この請求について特に注意していただきたいのは、会社法第175条第2項の定めです。同項は、売渡しの請求の相手方となる株主は、当該請求について決定する株主総会において議決権を行使することができないと定めています。承継した株式が発行済株式の過半数を占めていても、この決議においてはその議決権を用いることができません。少数派である他の相続人及び既存の株主のみで決議が成立し得るという構造になっています。

したがって、定款の内容の確認は、名義書換の請求と同じ時期に行っていただく必要があります。確認は、会社法第31条第2項による定款の閲覧又は謄本の交付の請求によります。防御の全体像については、相続人等に対する売渡しの請求を受けた相続人の防御の全体像をご覧ください。

株券発行会社である場合と、株券が見つからない場合

登記事項証明書に「当会社の株式については、株券を発行する」旨の記載がある会社は、株券発行会社です。この場合、会社法施行規則第22条第2項第1号により、株券を提示して名義書換を請求することが原則となります。

もっとも、株券発行会社であるとされながら、現実には株券が発行されていない会社が少なくありません。会社が株券を発行していないことを認める場合には、その旨を書面により確認したうえで、株券の提示を要しないものとして請求を行います。

株券が発行されており、かつ所在が分からない場合には、会社法第223条により、会社に対して株券喪失登録の請求を行います。会社法第228条第1項は、株券喪失登録がされた株券は、株券喪失登録日の翌日から起算して1年を経過した日に無効となると定め、同条第2項は、その場合に会社が株券喪失登録者に対して株券を再発行しなければならないと定めています。

この1年の間は、会社法第230条第1項により、会社は株券喪失登録がされた株券に係る株式を取得した者を株主名簿に記載することができません。また、同条第3項は、株券喪失登録者が当該株式の名義人でないときは、当該株式の株主は、登録抹消日までの間、株主総会又は種類株主総会において議決権を行使することができないと定めています。株券の紛失は、1年にわたり議決権の行使に影響を及ぼす事態を生じさせます。株券の所在は、相続の開始の直後に確認していただきたい事項です。

遺言の効力を争われた場合の進み方

他の相続人から「遺言は無効である」との主張がされることがあります。主張の内容は、多くの場合、次の三つのいずれかです。

主張の類型

第一に、方式の違背です。自筆証書遺言について、全文、日付及び氏名の自書を欠くこと、又は押印を欠くことが主張されます。民法第968条第1項がこれらを要件としています。なお、同条第2項により、自筆証書と一体のものとして添付する相続財産の目録については自書を要しないものとされていますので、株式の一覧が別紙として印字されていることのみをもって無効となるものではありません。ただし、同項は、その目録の毎葉に署名し、印を押さなければならないと定めていますので、この点の確認が必要です。

第二に、遺言能力の欠如です。民法第963条は、遺言者は、遺言をする時においてその能力を有しなければならないと定めています。被相続人が高齢であり、又は入院中であった場合に、この主張がされます。診療録、看護記録、介護保険の要介護認定に係る資料、認知機能の検査の結果等により判断されることになります。

争われている間の手続の進め方

遺言の効力が争われていることは、それ自体としては、名義書換の請求を止める理由になりません。会社が「争いが解決するまで判断を留保する」と述べる場合には、遺言書及び戸籍という形式的な資料が揃っている以上、会社法第133条第1項の請求に応ずべきであることを説明します。もっとも、会社の側にも、誤った者を株主として扱った場合の責任がありますので、現実には訴訟による解決を要する場合があります。

遺言の無効そのものを争う手続については、遺言無効確認訴訟により相続財産を取り戻す方法をご覧ください。また、遺言が有効であることを前提として遺留分侵害額の請求を受けた場合の考え方については、遺留分の意義と相続人が受け取ることができる割合及び侵害額請求をご覧ください。

よくある誤解と、避けていただきたい対応

誤解1 遺産分割協議書がなければ何も進められない

相続させる旨の遺言がある株式については、遺産の分割の対象となりません。協議書の作成を待つ必要はありません。

誤解2 遺留分の請求を受けたら株式を返さなければならない

民法第1046条第1項が定める遺留分侵害額の請求は、金銭の支払を求めるものです。株式そのものの返還を求めるものではありません。したがって、遺留分の請求があっても、株式の帰属は変わりません。ただし、支払の資金をどこから用意するかという問題は残ります。

誤解3 名義書換は急がなくてもよい

民法第899条の2第1項により、法定相続分を超える部分については、対抗要件を備えなければ第三者に対抗することができません。また、会社法第176条第1項ただし書の1年の期間の間は、売渡しの請求を受ける可能性が残ります。時間の経過は、承継した側に有利には働きません。

避けていただきたい対応

第一に、会社の担当者との電話のみで交渉を続けることです。書面による請求の記録がないと、後に訴訟となった場合に、いつ何を求めたのかを立証することが難しくなります。

第二に、遺言書の原本を会社に交付することです。写しを提示し、原本の確認は面前で行っていただきます。

第三に、他の相続人に対し、遺言の内容を説明しないまま手続を進めることです。説明を欠いたまま名義書換だけが完了すると、遺言の無効の主張及び遺留分の請求が同時に起こり、解決までの時間が長くなります。

弁護士に任せられる範囲と、ご相談いただく時期

当事務所がご依頼をお受けする範囲は、遺言書の文言の検討、定款及び登記事項証明書の確認、会社に対する名義書換の請求書の作成及び発送、会社との交渉、遺言執行者の選任の申立て、名義書換を求める訴え及び仮処分の申立て、並びに名義書換の完了後の資料の請求までを含みます。

ご相談いただく時期として最も望ましいのは、遺言書の内容を確認した直後です。会社に対して最初にどのような書面を送るかによって、その後の交渉の枠組みが決まります。会社の担当者と何度か電話でやり取りをした後にご相談いただく場合であっても対応は可能ですが、既に述べた内容を前提として進めることになりますので、選択の幅は狭くなります。

いま確認していただきたいこと

  • 遺言書の文言が「相続させる」であるか、「遺贈する」であるか
  • 遺言執行者の指定の有無と、就職の承諾の有無
  • 自筆証書遺言である場合の検認の完了の有無
  • 登記事項証明書における株券を発行する旨の定めの有無
  • 定款における相続人等に対する売渡しの請求の定めの有無
  • 相続の開始の日から起算した1年及び10箇月の期限
  • 直近の株主総会の開催の予定と、招集通知の宛先

よくあるご質問

会社が「相続人全員の実印がなければ名義書換をしない」と述べています

会社法第133条第2項の共同請求の原則を前提とした説明と考えられます。同項には法務省令で定める場合を除く旨の留保があり、会社法施行規則第22条第1項第4号は、一般承継により株式を取得した者が当該一般承継を証する書面を提供して請求をしたときを掲げています。相続を証する戸籍及び遺言書を添えて、単独で請求することができます。

遺言執行者が就職を承諾しないまま連絡が取れません

民法第1008条により、相当の期間を定めて、その期間内に就職を承諾するかどうかを確答すべき旨の催告をすることができます。期間内に確答がないときは、就職を承諾したものとみなされます。連絡が取れない状態が続く場合には、民法第1010条による選任の申立てを検討します。

名義書換をする前に株主総会が開かれてしまいました

招集の手続が法令に違反する場合には、会社法第831条第1項第1号により、決議の日から3箇月以内に決議の取消しの訴えを提起することができます。期間が短いため、開催の事実を知った時点で速やかにご相談ください。決議の内容によっては、会社法第830条第1項による決議が存在しないことの確認の訴えを選ぶ場合もあります。

遺言により株式を承継しましたが、遺留分侵害額の請求を受けました。株式を売って支払うほかありませんか

支払の資金の作り方は複数あります。会社に自己株式として一部を取得してもらう方法、役員退職慰労金の支給を受ける方法、分割払を合意する方法、民法第1047条第5項による期限の許与を求める方法があります。株式の全部を手放す必要があるとは限りません。

株券が発行されている会社ですが、株券が見つかりません

会社法第223条により株券喪失登録を請求します。株券喪失登録日の翌日から起算して1年を経過した日に株券が無効となり、会社は株券を再発行しなければなりません。その間、会社法第230条第1項により名義書換が制限されますので、早期の着手が必要です。

まとめ

相続させる旨の遺言により非上場株式を承継した場合、その相続人は、遺産の分割の協議を経ることなく、単独で株主名簿の名義書換を請求することができます。根拠は、民法第1014条第2項、民法第899条の2第1項、会社法第133条第1項、会社法施行規則第22条第1項第4号及び会社法第134条第4号です。

手続の順序は、遺言書の文言の確認、検認の完了、定款及び登記事項証明書の確認、書面による名義書換の請求、招集通知の宛先の是正の申入れ、訴訟及び仮処分という流れになります。会社法第176条第1項ただし書の1年、相続税法第27条第1項の10箇月、会社法第831条第1項の3箇月という三つの期間を、同じ表に並べて管理していただきます。

本記事の記載は一般的な説明であり、個別の事案における結論を保証するものではありません。定款の定め、株券の発行の有無、他の相続人の対応によって、採り得る手段は変わります。

必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。

遺言により承継した非上場株式の名義書換に関するご相談
弁護士法人M&A総合法律事務所 電話番号 03-6435-8418
受付時間 8:00-21:00(土日祝含む)

出典

  • 民法(明治29年法律第89号)第899条の2、第963条、第968条、第1004条、第1007条、第1008条、第1010条、第1012条、第1013条、第1014条、第1046条、第1047条
  • 会社法(平成17年法律第86号)第31条第2項、第125条第2項、第126条第1項、第130条、第133条、第134条、第174条、第175条第2項、第176条第1項、第223条、第228条、第230条、第433条第1項、第442条第3項、第830条第1項、第831条第1項
  • 会社法施行規則(平成18年法務省令第12号)第22条
  • 相続税法(昭和25年法律第73号)第27条第1項
  • e-Gov法令検索(デジタル庁) 法令の条文の確認に用いています。

具体的なご相談をお考えの皆様へ

本ページの主題に関し、当事務所の取扱内容、対応の進め方及び費用の考え方は、次のご案内のページに整理しています。あわせてご覧ください。

執筆者

弁護士法人M&A総合法律事務所 代表弁護士 土屋勝裕(東京弁護士会所属 登録番号26775)

平成23年に最高裁判所において株式買取請求権に関する逆転判決を得た弁護士であります。長島・大野・常松法律事務所に在籍した後、慶應義塾大学ビジネス・スクール及びペンシルベニア大学ウォートン校に留学し、ファイナンス理論並びにM&A及び不動産を専攻しました。不動産投資信託(J-REIT)の上場案件にも関与しております。

主として取り扱う分野 M&A、株式買取請求権、非上場株式の価格の決定、企業価値評価、事業承継及び企業法務

所在地 〒105-6017 東京都港区虎ノ門4丁目3番1号 森トラスト城山トラストタワー17階/電話番号 03-6435-8418/受付時間 8:00-21:00(土日祝含む)

本記事の記載は一般的な法律情報であり、個別の事案に関する法律上の助言ではありません。記載した経歴は事実の記述であり、個別の事件の結果を保証するものではありません。

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