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名義書換を拒絶された相続人への招集通知を欠いた売渡請求の定款変更決議の取消し―東京地方裁判所平成20年1月16日判決の解説

この記事の位置付け

本ページは、会社が株主名簿の名義書換を拒絶していた相続人に株主総会の招集通知を送らないまま、相続人等に対する売渡しの請求の定めを新設する定款変更を決議した事案について、その決議を取り消した裁判例を、判決文に基づいて解説するページです。相続人等に対する売渡しの請求を受けた場合の対応全般については、次のページで整理しています。

▶ 相続人等に対する売渡しの請求を受けた相続人の防御の全体像

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非上場会社の株式を相続した方が会社に株主名簿の名義書換を求めても、会社がこれに応じないことがあります。その間に、会社が相続人に知らせないまま株主総会を開き、相続人等に対する売渡しの請求の定めを定款に新設したうえで、相続人に株式の売渡しを求めてくる場合があります。本ページでは、このような株主総会決議の効力が争われた東京地方裁判所平成20年1月16日判決を、判決文に記載された内容に基づいて解説します。

目次

裁判例の基本情報

裁判所・裁判日 東京地方裁判所 平成20年1月16日判決
事件番号 平成19年(ワ)第18186号
事件名 株主総会決議取消請求事件
審級 第一審(地方裁判所)
結論 請求認容(相続人等に対する売渡しの請求の定めを新設する定款変更決議を取消し。訴訟費用は会社の負担)

本ページでは、当事者を「対象会社A」(決議の取消しを求められた株式会社)、「株主B」及び「株主C」(決議の取消しを求めた相続人)、「故株主D」(株主Bの兄弟姉妹であり、株主Cの配偶者であった故人)並びに「被相続人E」及び「被相続人F」(株主B及び故株主Dの親)と表記します。本記事は上記判決の解説です。上訴の有無や確定を確認した旨の表示ではありません。

事案の概要

判決文によれば、事案の概要は次のとおりです。

  • 対象会社Aは、不動産賃貸を主たる業務とする取締役会設置会社です。発行済株式の総数は25,000株であり、定款には、譲渡による株式の取得について取締役会の承認を要する旨の定めがありました。
  • 被相続人Eは対象会社Aの株式1,500株を、被相続人Fは500株を保有していました。被相続人Eは平成2年11月16日に死亡し、被相続人Fが遺産分割によってその1,500株を取得しました。
  • 被相続人Fは平成14年3月17日に死亡し、株主Bと故株主Dが相続によって各1,000株を取得しました。故株主Dは平成18年4月27日に死亡し、株主Cが相続によってその1,000株を取得しました。
  • 株主Bと故株主Dは、株券を提示して株主名簿の名義書換を請求しましたが、対象会社Aが応じなかったため、平成18年4月13日、名義書換を求める訴訟を提起しました。故株主Dの死亡後は、株主Cがこの訴訟を受け継ぎました。
  • 名義書換を求める訴訟において、対象会社Aは、請求原因事実を認めながら、会社の設立目的、従前の紛争の経緯、訴訟前の交渉経緯等を理由として、請求は権利濫用であると主張しました。第一審判決(平成18年12月27日言渡し)は請求をいずれも認容し、控訴審判決(東京高等裁判所平成19年7月26日言渡し)も控訴を棄却し、その後この訴訟は確定しました。
  • 対象会社Aの定款は、毎年2月末日の最終の株主名簿に記載された議決権を有する株主を、その営業年度に関する定時株主総会において権利を行使することができる株主とすると定めていました。
  • 対象会社Aは、平成19年4月18日に定時株主総会(以下「本件総会」といいます。)を開催し、「当会社は,相続その他の一般承継により当会社の株式を取得した者に対し,当該株式を当会社に売り渡すことを請求することができる。」との定款規定を新設する決議(以下「本件決議」といいます。)をしました。対象会社Aは、株主B及び株主Cに本件総会の招集通知を送付していませんでした。
  • 本件総会では、新設した規定に基づき、株主Cに対する株式売渡請求の議案も上程され、可決されました。対象会社Aは、同日付けの内容証明郵便で株主Cに対し1,000株の売渡しを請求し、売買価格の協議が調わなかったとして、同年5月8日に株式売買価格決定の申立てをしました。

請求の内容

株主B及び株主Cは、対象会社Aに対し、本件総会における定款の一部変更のうち、相続人等に対する売渡しの請求の規定を新設する旨の決議の取消しを求めました。

争点

  1. 対象会社Aが株主名簿の名義書換を不当に拒絶したか否か(株主B及び株主Cが基準日の株主名簿に記載されていないことを対象会社Aが主張できるか)。
  2. 招集通知の欠缺があっても、裁判所の裁量により請求を棄却すること(裁量棄却)が認められるか。

当事者の主張

対象会社Aの主張

  • 株主B及び株主Cは、本件総会の基準日である平成19年2月28日の時点で株主名簿に株主として記載されていなかったので、招集通知を送付しなかった。
  • 当時は名義書換を求める訴訟が係属中であり、判決確定前に株主と認めることはできず、招集通知を送付しなかったことはやむを得なかったから、手続的な瑕疵はごく軽微である。
  • 本件総会の出席株主9名の議決権2万1,000個はすべて議案に賛成しており、株主B及び株主Cの2,000株が議決権を行使しても、決議の成立に影響はなかった。

株主B及び株主Cの主張

  • 対象会社Aは基準日以前から名義書換を不当に拒絶しており、株主名簿に記載されていないことを主張することは許されない。
  • 対象会社Aは故意に名義書換を拒絶し、株主Cに対する売渡請求を決議することを企てて招集通知をしなかったのであり、定款変更は重大な事項であるから、裁量棄却は認められない。

判断の枠組み

裁判所は、まず、定款の定めにより本件総会の基準日は平成19年2月28日となり、本件総会において議決権を行使できる株主は、原則として同日時点の株主名簿に記載された株主であることを確認しました。そのうえで、対象会社Aによる名義書換の拒絶が不当拒絶に当たるかを検討し、不当拒絶に当たる場合には、会社は株主名簿に記載されていないことを主張できないという枠組みで判断しました。

裁量棄却については、違反事実が重大でないか否かをまず検討し、重大でないとはいえない場合には、違反事実が決議に影響を及ぼさないものであるか否かを判断するまでもなく裁量棄却は認められないという順序で判断しています。

裁判所の判断の理由

名義書換の拒絶は不当拒絶に当たること

裁判所は、名義書換を求める訴訟において、第一審判決が「被告主張の事実が,本件請求を権利濫用であると評価すべき事由になるとは到底認められない。」と述べ、控訴審判決も「本件株式名義書換請求を権利濫用に当たるとは到底評価することはできない。」と述べていることから、対象会社Aによる名義書換の拒絶は「全く理由がなかったのであるから,不当拒絶というほかはない。」と判断しました。

そのため、対象会社Aは、基準日である平成19年2月28日において株主B及び株主Cが株主名簿に記載されていないことを主張することはできず、株主B及び株主Cは、名義書換なくして株主であることを主張できるとしました。

招集通知の欠缺は決議の取消原因となること

対象会社Aが株主B及び株主Cに本件総会の招集通知を送付していないことから、裁判所は、本件決議には、一部の株主に対する招集通知がされていないという会社法第299条に違反する取消原因があると判断しました。

裁量棄却は認められないこと

裁判所は、株主B及び株主Cが有する株式数2,000株は発行済株式の総数25,000株の8%であり、このような招集通知の欠缺の割合に照らすと、違反事実が重大ではないということはできないと判断しました。

対象会社Aは、訴訟の係属中であり招集通知の送付はやむを得なかったと主張しました。しかし、裁判所は、株主B及び株主Cが株主名簿に記載されていなかったのは対象会社Aによる名義書換の不当拒絶のためであり、また、招集通知を送付する時点では請求を認容した第一審判決が言い渡されていたことから、たとえ判決の確定前であったとしても、招集通知の送付が期待できないとか、送付しなかったことがやむを得なかったという評価はできないとしました。

そのうえで、裁判所は、違反事実が決議に影響を及ぼさないものであるか否かを判断するまでもなく、裁量棄却の主張は理由がないと判断しました。

結論

裁判所は、株主B及び株主Cの請求を認容し、本件総会における定款の一部変更の件のうち、相続人等に対する売渡しの請求の規定を新設する旨の決議を取り消しました。訴訟費用は対象会社Aの負担とされました。

判決の読み方と実務上の着眼点

名義書換を拒絶されている相続人の立場

本判決によれば、会社が全く理由なく名義書換を拒絶していた場合、会社は、相続人が基準日の株主名簿に記載されていないことを理由として招集通知を省略することはできません。本件では、名義書換を求める訴訟で第一審の認容判決が出ていたことが、判断の理由の一つとされています。名義書換を拒絶されている相続人にとっては、名義書換を求める手続を早期に進めておくことが、その後の株主総会の手続を争ううえでも意味を持つことになります。

相続人として確認しておくべき事項

本判決が扱っていない事項

  • 本判決が取り消したのは、相続人等に対する売渡しの請求の定めを新設する定款変更決議です。本件総会で可決された株主Cに対する株式売渡請求の議案の効力や、対象会社Aが申し立てた株式売買価格決定申立事件の帰結については、判決文に判断は示されていません。
  • 本判決は、違反事実が決議に影響を及ぼさないものであるか否かについては、判断するまでもないとして判断していません。
  • 本判決は、売渡しの請求の期間制限や、株式の売買価格の算定方法については判断していません。
  • 本判決は地方裁判所の判決であり、同種の問題について上級審の判断を示したものではありません。

よくあるご質問

質問1 株主名簿の名義書換が済んでいない相続人にも、株主総会の招集通知は送られなければならないのですか。

本判決は、会社が名義書換を全く理由なく拒絶していた事案について、会社は相続人が基準日の株主名簿に記載されていないことを主張できず、相続人は名義書換なくして株主であることを主張できると判断しました。そのうえで、招集通知を送付しなかったことを会社法第299条違反の取消原因としています。名義書換が未了となっている理由によって結論が異なり得るため、個別の事情に応じた検討が必要です。

質問2 持株比率が小さくても、招集通知の欠缺を理由に決議を取り消すことができますか。

本判決は、招集通知を受けなかった株主の株式が発行済株式の総数の8%であった事案で、違反事実が重大ではないということはできないとして、会社の裁量棄却の主張を退けました。出席株主全員が賛成していたという会社の主張があっても、決議への影響を判断するまでもなく裁量棄却は認められないとしています。

質問3 名義書換を求める訴訟がまだ確定していなければ、会社は招集通知を送らなくてもよいのですか。

本判決は、招集通知を送付する時点で請求を認容する第一審判決が言い渡されていたことを指摘し、確定前であったとしても、招集通知を送付しなかったことがやむを得なかったという評価はできないと判断しました。

質問4 本判決によって、相続人に対する売渡しの請求そのものも無効になったのですか。

本判決の主文が取り消したのは、相続人等に対する売渡しの請求の定めを新設する定款変更決議です。同じ株主総会で可決された売渡請求の議案や、その後の株式売買価格決定申立事件がどうなったかについては、判決文には記載がありません。

本記事の根拠条文

  • 会社法第130条第2項、第174条から第176条まで、第299条
  • 会社法第831条(株主総会等の決議の取消しの訴え。裁量棄却は同条第2項)
  • 民事訴訟法第61条

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執筆者

弁護士法人M&A総合法律事務所 代表弁護士 土屋勝裕(東京弁護士会所属 登録番号26775)

平成23年に最高裁判所において株式買取請求権に関する逆転判決を得た弁護士であります。長島・大野・常松法律事務所に在籍した後、慶應義塾大学ビジネス・スクール及びペンシルベニア大学ウォートン校に留学し、ファイナンス理論並びにM&A及び不動産を専攻しました。不動産投資信託(J-REIT)の上場案件にも関与しております。

主として取り扱う分野 M&A、株式買取請求権、非上場株式の価格の決定、企業価値評価、事業承継及び企業法務

所在地 〒105-6017 東京都港区虎ノ門4丁目3番1号 森トラスト城山トラストタワー17階/電話番号 03-6435-8418/受付時間 8:00-21:00(土日祝含む)

本記事の記載は一般的な法律情報であり、個別の事案に関する法律上の助言ではありません。記載した経歴は事実の記述であり、個別の事件の結果を保証するものではありません。

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