家族信託は遺留分を免れる手段になるか―信託の一部を公序良俗違反で無効とした東京地方裁判所平成30年9月12日判決の解説

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本ページは、死亡の13日前に締結された家族信託について、収益の分配が想定されない不動産を信託財産に含めた部分を公序良俗に反して無効とし、遺留分減殺の対象は受益権であると判断した裁判例を、判決本文に基づいて解説するページです。家族信託と遺留分の関係の全体は、次のページで整理しています。
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家族信託(民事信託)は、財産の管理と承継の方法として広く利用されるようになりました。他方で、「信託にしておけば、特定の相続人に財産を集中させても遺留分を請求されない」という説明がされることもあります。本ページでは、死亡直前に締結された信託契約について、信託の一部を公序良俗に反して無効とし、遺留分減殺の対象は受益権であると判断した東京地方裁判所平成30年9月12日判決を、判決本文に記載された内容に基づいて解説します。
裁判例の基本情報
| 裁判所・裁判日 | 東京地方裁判所 平成30年9月12日判決 |
|---|---|
| 事件番号 | 平成27年(ワ)第24934号 |
| 事件名 | 共有権確認等請求事件 |
| 審級 | 第一審 |
| 結論 | 一部認容(信託の一部を無効として登記の抹消を命じ、遺留分減殺に基づく持分一部移転登記、価額弁償及び精算金の支払を命じ、その余は棄却)。訴訟費用は10分の3を原告、10分の7を被告の負担 |
本ページでは、当事者を「委託者」(信託をした父。平成27年2月18日死亡)、「長男」(原告)、「二男」(被告。信託の受託者)及び「二女」と表記します。委託者の相続人は、長男、二女及び二男の3名です。本ページは上記判決の解説であり、上訴の有無や判決の確定を確認した旨の表示ではありません。
事案の概要
判決本文によれば、事案の概要は次のとおりです。
- 委託者は、平成10年1月23日、自宅等の不動産を妻に相続させ、妻が先に死亡したときは二男に相続させる旨の公正証書遺言をしていました。妻は平成15年9月23日に死亡しました。
- 委託者は、平成27年1月25日、腰痛で動けなくなり精査のため入院し、同月31日までに胃がんの末期状態と診断されました。
- 入院中の平成27年2月1日、委託者は、二女に全財産の3分の1に相当する財産を、二男に全財産の3分の2に相当する財産を、それぞれ死因贈与する契約を締結しました。
- 同月5日、委託者は、二男を受託者とし、自らが所有する全ての不動産と金銭300万円を信託財産とする信託契約を締結しました。委託者は、その13日後に死亡しました。
- 長男は、信託と死因贈与の無効を主張し、あわせて遺留分減殺を請求して、二男を被告として提訴しました。
委託者が有していた財産
判決が認定した委託者の財産は、次のとおりです(固定資産税評価額は平成27年度のものです。)。
| 区分 | 内容 | 収益の状況等 |
|---|---|---|
| ①自宅と敷地 | 居宅、物置及び敷地(4筆で約538坪)。固定資産税評価額合計3億5241万5200円 | 道路沿いの一部を駐車場(10台分ほど)として賃貸。賃料収入は年間100万円から180万円程度 |
| ②賃貸共同住宅2棟と敷地 | 固定資産税評価額は、1棟目が合計5933万2510円、2棟目が合計6341万6730円 | 賃料収入は、1棟目が年間450万円から470万円、2棟目が年間500万円から600万円程度 |
| ③後に売却された不動産 | 固定資産税評価額合計1億2508万5460円 | 相続税の納付のため、相続人3名の合意により売却 |
| ④倉庫敷地と私道敷地 | 葬儀社に無償で貸している倉庫の敷地とその付近の私道(非課税) | 売却も賃貸による収益も現実的に不可能 |
| ⑤山林 | 固定資産税評価額2万4874円 | 売却も賃貸による収益も現実的に不可能 |
| 不動産以外 | 1億3000万円余りの預貯金、有価証券等 | 信託財産には含まれていない(信託財産とされた金銭は300万円) |
信託契約の内容
判決本文が認定した信託契約の内容は、次のとおりです(判決が要約して摘示したものです。)。
民事信託契約(平成27年2月5日) 信託の目的(判決の認定による要旨)
委託者の死亡後も、その財産を受託者が管理・運用することによって、二男及びその直系血族が家を継ぎ、お墓・仏壇を守っていってほしいとの委託者の意思を反映した財産管理を継続すること。祭祀を承継する二男において、その子孫を中心として管理、運用することにより、末永く家が繁栄していくことを望む旨が記載された。
民事信託契約 信託財産・受託者の権限(判決の認定による要旨)
信託の目的財産は、委託者所有の全ての不動産及び300万円とする。将来、信託不動産の売却・賃貸その他の運用により得られた金銭等も目的財産とする。受託者は、信託不動産の維持・保全・修繕又は改良を自らの裁量で行う。受託者は、信託不動産を無償で使用することができる。信託金銭は、信託不動産の公租公課・修繕費その他維持管理の費用の支払及び受益者の身上監護のために使うことができる。
民事信託契約 受益者(判決の認定による要旨)
当初受益者は委託者とする。委託者の死亡により、委託者の権利は消滅する。委託者死亡後の受益権の取得の順位及び割合は、第一順位を長男6分の1、二女6分の1、二男6分の4とし、第二順位を二男の子らが均等に取得するものとする。受益権を有する者が死亡した場合には、その者の受益権は消滅し、次順位の者が新たな受益権を取得する。受益者の意思決定は、信託法第105条の規定にかかわらず、二女が行う。
民事信託契約 受益権の内容と取得請求(判決の認定による要旨)
受益者は、信託不動産の売却代金、賃料等、信託不動産より発生する経済的利益を受けることができる。受益者が複数となった場合は、受益者の一人は他の受益者に対して当該受益者の有する受益権持分の一部若しくは全部の取得を請求することができる。取得する受益権の価格は、最新の固定資産税評価額をもって計算した額とする。
このほか、判決は、二男が死亡等により受託者としての任務を果たせない場合には二男の長男を新受託者とする定めがあったことも認定しています。長男と二女に与えられた受益権の割合(各6分の1)は、遺留分の割合と同じでした。
事案の経緯(時系列)
| 年月日 | 出来事 |
|---|---|
| 平成10年1月23日 | 委託者が公正証書遺言をする(不動産を妻に、妻が先に死亡したときは二男に相続させる。)。 |
| 平成15年9月23日 | 委託者の妻が死亡する。 |
| 平成27年1月7日まで | 委託者が信託銀行に相続について相談していた(遅くともこの時点で相談していたと認定)。 |
| 平成27年1月25日 | 委託者が精査のため入院する。見当識障害はなく、理解力は良好であった。 |
| 平成27年1月31日 | 医師が長男、二男及び二女に、委託者は胃がんの末期状態で数日中にも死亡する可能性があると説明する。 |
| 平成27年2月1日 | 二女の依頼を受けた司法書士が病室を訪れ、死因贈与契約が締結される(二女に3分の1、二男に3分の2)。 |
| 平成27年2月2日 | 委託者が信託銀行の担当者を病室に呼んで説明を受け、司法書士からも信託の説明を受ける。委託者は司法書士の説明した信託の方法を選ぶ。 |
| 平成27年2月5日 | 委託者と二男が「民事信託契約書」に署名し、信託契約が成立する。同日、公証人が病室を訪れ、委託者が死因贈与と信託を自らの意思でした旨の宣誓を認証する。 |
| 平成27年2月18日 | 委託者が死亡する。 |
| 平成27年3月10日 | 二男が信託を原因とする所有権移転登記及び信託登記をする。 |
| 平成27年7月24日 | 長男の、平成10年の遺言に基づく遺留分減殺の意思表示が二男に到達する。 |
| 平成27年12月16日 | 二男が、長男が納付すべき相続税4649万7300円を支払う(判決は、このうち売却代金の分配金を充てた分を除く911万0863円を、二男が立て替えたものと認定)。 |
| 平成28年1月23日 | 長男が、死因贈与又は信託により遺留分を侵害されたとして遺留分減殺の意思表示をする。 |
| 平成30年9月12日 | 本判決。 |
相続人3名は、相続税の納付資金を捻出するため、売却代金を受益権の割合に従って分配することを合意した上で、③の不動産を譲渡費用控除後の合計2億2431万8619円で売却しました。売却代金の6分の1に相当する3738万6437円は、長男の相続税の納付に充てられました。
請求の内容
- 主位的に、信託は委託者の意思無能力又は公序良俗違反により無効であるとして、信託に基づく所有権移転登記及び信託登記の抹消を求めました。死因贈与も意思無能力により無効であるとして、平成10年の遺言による遺贈に対する遺留分減殺等を求めました。
- 予備的に、死因贈与が有効である場合には死因贈与に対する遺留分減殺による持分の移転登記と、不動産以外の遺産についての価額弁償を求めました。
- 信託が有効である場合には、信託に対する遺留分減殺により信託財産の一部が長男に移転するとして、信託財産引継ぎを原因とする登記を求めました。
- あわせて、売却した不動産の代金の精算金の支払を求めました。
二男は、意思能力はあり、信託は公序良俗に反せず、遺留分減殺の対象は受益権であって、長男は6分の1の受益権を得ているから遺留分の侵害はないと主張しました。また、長男のために立て替えた相続税等の債権による相殺を主張しました。
争点
- 信託及び死因贈与の当時、委託者に意思能力があったか。
- 信託は公序良俗に反するか(利益相反、信託制度の濫用・遺留分制度の潜脱、憲法違反)。
- 信託が有効である場合、遺留分減殺の対象は信託財産か受益権か。
- 減殺の割合、価額弁償の額、受益権と不動産の評価。
- 売却した不動産の代金の精算金の額と、立替金による相殺の可否。
裁判所の判断
意思能力はあったとされたこと
裁判所は、入院時に見当識障害がなく理解力が良好であったこと、2月2日には自ら呼んだ信託銀行の担当者から説明を聞くなど自発的に検討していたこと、2月8日までの診療記録に意識障害等の記載がないことから、死因贈与及び信託の時点で委託者が意思能力を欠く状態にあったとは認められないと判断しました。
長男は、委託者は遺産をおおむね3等分しようと考えていたと主張しましたが、裁判所は、信託銀行が示した資料は法定相続分を示すものにすぎず、遺言公正証書の案も作成段階のものであるとし、むしろ委託者が毎年行っていた子らへの金銭の贈与のうち長男への贈与額は二女及び二男への各贈与額の半分程度であったと認定して、この主張を採用しませんでした。
その結果、信託又は死因贈与と抵触する平成10年の遺言は撤回されたものとみなされ(民法第1023条)、平成10年の遺言を前提とする請求はいずれも理由がないとされました。
収益の分配が想定されない不動産を含めた部分は公序良俗に反し無効とされたこと
裁判所は、①自宅と敷地、④倉庫敷地と私道、⑤山林について、売却も、価値に見合う賃貸収益も現実的に不可能であり、それは信託の当時から想定された事態であったとして、委託者はこれらの不動産から得られる経済的利益を分配することを信託の当時から想定していなかったと認定しました。
その上で、裁判所は、次の点を指摘しました。
- 信託に先立つ死因贈与は、長男の遺留分を侵害する内容であった。
- 信託は、長男に遺留分割合と同じ割合の受益権を与えるにとどまるものであった。
- 長男が遺留分減殺請求をして受益権の割合が増えても、①④⑤の不動産から経済的利益が生じない限り、増えた割合に見合う利益を得ることは不可能である。
- 受益権の取得請求の価格は最新の固定資産税評価額とされており、取得請求によっても不動産の価値に見合う利益を得ることはできない。
裁判所は、委託者が①④⑤の不動産を信託財産に含めたのは、「外形上、原告に対して遺留分割合に相当する割合の受益権を与えることにより、これらの不動産に対する遺留分減殺請求を回避する目的であったと解さざるを得ない」とし、「経済的利益の分配が想定されない上記①、④及び⑤の各不動産を目的財産に含めた部分は、遺留分制度を潜脱する意図で信託制度を利用したものであって、公序良俗に反して無効である」と判断しました。
二男は、家の墓や仏壇を護るための土地の一体的な管理や、後継ぎ遺贈型の受益者連続信託の活用を主張しましたが、裁判所は、土地の一体的な管理は遺贈等によっても可能であり、信託法上認められた受益者連続信託であっても、遺留分減殺請求権の行使を妨げる内容の信託が許されることになるものではないとしました。自宅の余剰敷地に賃貸物件を建てる計画があったとの主張についても、計画が具体的に進められたことを認めるに足りる証拠はないとしました。
その余の部分は有効とされたこと
他方、②の賃貸共同住宅、③の売却された不動産及び信託金銭300万円に係る部分については、長男は経済的利益を享受することができ、信託金銭も維持管理の費用等に充てるものとして合理的であるとして、無効とすべき事情はないとされました。信託は一部無効にとどまり、全体が無効とされたわけではありません。
受託者である二男が信託目的に従うと必然的に第一順位の受益者の利益に反するという利益相反の主張や、男系子孫優先の「家」制度の実現を目指すもので憲法に反するとの主張は、採用されませんでした。
遺留分減殺の対象は受益権とされたこと
裁判所は、「信託契約による信託財産の移転は、信託目的達成のための形式的な所有権移転にすぎないため、実質的に権利として移転される受益権を対象に遺留分減殺の対象とすべきである」と判断しました。長男は、本件の信託は遺留分制度の潜脱を狙ったものであり、実質は受託者への死因贈与に類似するとして信託財産の移転を減殺の対象とすべきと主張しましたが、有効とされた部分は遺留分制度の潜脱とは認められないとして、採用されませんでした。
受益権と不動産の評価
| 対象 | 裁判所の評価 | 理由の要点 |
|---|---|---|
| 賃貸共同住宅1棟目の受益権 | 8720万円 | 不動産会社による収益価格の試算(8720万円から9470万円)の下限 |
| 賃貸共同住宅2棟目の受益権 | 9400万円 | 収益価格の試算(9400万円から1億0300万円)の下限 |
| 売却された不動産の受益権 | 売却代金(譲渡費用控除後) | - |
| 信託金銭の受益権 | 300万円 | - |
| 自宅と敷地 | 6億8000万円 | 更地としての成約予想価格(6億4715万円から7億1527万円)のほぼ中間値 |
| 倉庫敷地と私道 | 0円 | 現況公衆用道路として非課税、相続税申告時の評価も0円 |
| 山林 | 29万8488円 | 相続税申告時の評価額 |
長男は、受益権の取得請求の価格が固定資産税評価額とされていることから、受益権も固定資産税評価額で評価すべきと主張しましたが、裁判所は、受益者は信託不動産の売却や運用による経済的利益の分配を受けることができるとして、この主張を採用しませんでした。
遺留分の計算と認容額
裁判所は、有効な部分の信託は死因贈与に類似するものとして、無効な部分の不動産は死因贈与により二男が3分の2、二女が3分の1を取得したものとして、遺留分を計算しました。遺留分算定の基礎となる財産は12億3647万6382円とされ、長男の遺留分侵害額は1億3774万5377円、信託及び死因贈与の減殺率は590万0886分の80万6861とされました。
精算金については、二男が売却代金から得た分配金1億4954万5746円に減殺率を乗じた2044万8222円が認められ、二男の立替金債権(相続税の立替金911万0863円及び生花代2万1600円の合計913万2463円)との相殺後の残額が1131万5759円とされました。葬儀の喪主を務めた二男が支払った香典返しの代金等は、二男が負担すべきものとされました。
結論
裁判所は、次のとおり判断しました。
- ①自宅と敷地、④倉庫敷地と私道、⑤山林について、信託に基づく所有権移転登記及び信託登記の抹消を命じる。
- これらの不動産について、死因贈与の遺留分減殺を原因として、長男の持分を590万0886分の80万6861とする持分一部移転登記を命じる。
- 二男は長男に対し、価額弁償として1246万4862円及び平成30年1月16日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金を支払う。
- 二男は長男に対し、売却した不動産の精算金として1131万5759円を支払う。
- その余の請求は棄却する。
判決の読み方と実務上の着眼点
信託を使っても遺留分を当然には免れられません
本判決は、遺留分権利者に遺留分割合と同じ割合の受益権を形式上与えていても、その受益権から経済的利益が生じない財産を信託財産に含めた部分については、遺留分制度を潜脱する意図によるものとして無効となり得ることを示しました。後継ぎ遺贈型の受益者連続信託であることも、この結論を左右しませんでした。
無効とされたのは「一部」です
本判決は信託全体を無効としたのではなく、収益の分配が想定されない不動産を含めた部分に限って無効としました。賃貸物件や売却された不動産、信託金銭に係る部分は有効とされ、その部分については受益権を遺留分減殺の対象として計算しています。本判決を「家族信託が無効とされた事例」と一括りに理解するのは正確ではありません。
遺留分を主張する側として確認すべき事項
- 信託財産のうち、収益を生む財産と生まない財産を区別し、各財産から受益者が実際にどのような経済的利益を受けられるかを確認すること。
- 受益権の取得請求の価格の定め、受益者の意思決定の方法、受託者による無償使用の定め等、受益権の価値を左右する条項を確認すること。
- 信託の前後に締結された死因贈与や遺言との関係を整理すること。
- 受益権の評価について、固定資産税評価額か、収益還元による価格かなど、評価の方法を検討すること。遺留分の計算の全体は、遺留分の計算の方法とは?類型別の遺留分割合及び侵害額請求の方法で整理しています。
本判決が扱っていない事項
- 本判決は、平成30年法律第72号による改正(令和元年7月1日施行)前の遺留分減殺請求の制度を前提とした判断です。現在の遺留分侵害額請求(金銭の支払を求める制度)の下で、同じ判断がそのまま当てはまるかは、別途検討を要します。
- 本判決は、信託財産に収益を生まない不動産が含まれる場合に常に無効となると判断したものではありません。本件では、信託に先立つ死因贈与の内容、受益権の割合が遺留分割合と同じであったこと、取得請求の価格の定め等を総合して判断されています。
- 信託が有効とされた不動産について、遺留分減殺に基づいて長男の受益権の割合がどれだけ増えるかの確認は、本件では求められておらず、判決も判断していません。
- 第二順位以降の受益者に受益権が移る場面(いわゆる二次相続)における遺留分の扱いについて、本判決は判断していません。
- 本判決は地方裁判所の判決であり、同種の問題について上級審の判断を示したものではありません。
よくあるご質問
質問1 家族信託をすれば、遺留分を請求されることはないのですか。
本判決は、遺留分制度を潜脱する意図で信託制度を利用した部分を公序良俗に反して無効としました。また、有効な部分についても受益権を遺留分減殺の対象としています。信託をしたことだけで遺留分の問題がなくなるわけではありません。
質問2 本判決は信託契約の全部を無効としたのですか。
いいえ。無効とされたのは、経済的利益の分配が想定されない自宅と敷地、倉庫敷地と私道、山林を信託財産に含めた部分です。賃貸物件、売却された不動産及び信託金銭300万円に係る部分は有効とされました。
質問3 遺留分の計算では、受益権はどのように評価されましたか。
賃貸物件の受益権は、収益価格の試算の下限で評価されました。受益権の取得請求の価格が固定資産税評価額とされていても、受益者は売却や運用による経済的利益の分配を受けられることから、固定資産税評価額で評価すべきとの主張は採用されませんでした。
質問4 死亡の直前に締結された信託は、意思能力がないとして無効になりませんか。
本判決では、入院時の看護記録や診療記録、委託者が自ら信託銀行の担当者を呼んで説明を受けていたこと等から、意思能力は否定されませんでした。意思能力の有無は、診療記録等の資料に基づいて個別に判断されます。
本記事の根拠条文
- 民法第90条(公序良俗)、第1023条(前の遺言と後の遺言との抵触等)
- 民法第1031条(遺留分の減殺請求。平成30年法律第72号による改正前のもの)
- 民法第1046条(遺留分侵害額の請求。現行法)
- 信託法第91条(受益者の死亡により他の者が新たに受益権を取得する旨の定めのある信託の特例)、第105条(受益者が複数の信託における受益者の意思決定の方法)
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