定款に売渡しの請求の定めがあるかの確認方法と削除のための特別決議
父の会社の株式を相続いたしましたが、経営陣から「定款により、相続した株式は会社に売り渡していただく」と言われました。定款を見たことがございませんので、そのような定めが本当にあるのか分かりません。このようなご相談を、当事務所はしばしばお受けしております。
先に結論を申し上げます。相続人等に対する売渡しの請求は、定款にその定めがある場合に限り行うことができるものでございます(会社法第174条)。定款は、株主又は債権者であれば、その閲覧又は謄本の交付を請求することができます(会社法第31条第2項)。そして、当該の定めを将来にわたって除きたい場合には、定款の変更、すなわち株主総会の特別決議が必要となります(会社法第466条、第309条第2項)。本記事では、定めの有無の確認の方法と、削除のための手続を整理いたします。
第1節 定款に定めがなければ請求はできません
1 条文の定め
株式会社は、相続その他の一般承継により当該株式会社の株式(譲渡制限株式に限ります)を取得した者に対し、当該株式を当該株式会社に売り渡すことを請求することができる旨を定款で定めることができるものとされております(会社法第174条)。
すなわち、この請求は定款の定めを根拠とするものでございまして、定めがない会社は請求をすることができません。会社が口頭で「そういう決まりになっている」と述べたとしても、定款に定めがなければ、法律上の請求としての効力を有しません。
2 対象は譲渡制限株式に限られます
会社法第174条は、対象を譲渡制限株式に限っております。譲渡による株式の取得について会社の承認を要する旨の定款の定めがない株式については、この請求の対象となりません。種類株式発行会社においては、どの種類の株式に譲渡の制限が付されているかを確認する必要がございます。
第2節 定めの有無を確認する方法
1 定款の閲覧又は謄本の交付の請求
株式会社は、定款を本店及び支店に備え置かなければならないものとされております(会社法第31条第1項)。株主及び債権者は、会社の営業時間内はいつでも、定款の閲覧の請求、謄本又は抄本の交付の請求等をすることができます(同条第2項)。会社が定めた費用を支払うことが必要となる場合がございます。
請求は書面により行い、請求の日、内容、送付の方法を記録に残します。内容証明郵便によることが有用でございます。
2 登記事項証明書からは分かりません
株式の譲渡の制限に関する規定は登記事項でございますので、登記事項証明書により譲渡制限株式であるか否かを確認することができます。他方、相続人等に対する売渡しの請求に関する定款の定めは、登記事項ではございません。したがって、登記事項証明書のみでは、この定めの有無を確認することができません。定款そのものを入手する必要がございます。
3 被相続人の手元の資料
被相続人が役員又は支配株主であった場合、その手元に定款の写しが残されていることがございます。株主総会の招集の通知、議事録の写し、税理士との間のやり取りの記録等も、定款の変更の経過を知る手がかりとなります。
4 会社が定款を見せない場合
会社が正当な理由がないのに定款の閲覧等を拒んだ場合には、過料に処せられることがございます(会社法第976条)。それでも応じない場合には、定款の閲覧謄写等を求める訴えの提起又は仮処分の申立てを検討いたします。なお、会社が「あなたは株主名簿に載っていないから株主ではない」と述べる場合には、まず名義書換を請求することが出発点となります。
第3節 定めがあった場合の期間の確認
定めがあることが確認された場合、次に確認すべきは期間でございます。会社は、相続その他の一般承継があったことを知った日から1年を経過したときは、売渡しの請求をすることができないものとされております(会社法第176条第1項ただし書)。
起算点は、相続が開始した日ではなく、会社が相続の事実を知った日でございます。同族会社においては、経営陣が被相続人の死亡を直ちに知ることが通常でございますので、死亡の日から1年を経過している場合には、この点を主張する余地がございます。
第4節 定めを削除するための特別決議
1 定款の変更
相続人等に対する売渡しの請求に関する定款の定めを除くには、定款の変更が必要でございます。定款の変更は、株主総会の決議によらなければならないものとされております(会社法第466条)。この決議は、特別決議によることとされております(会社法第309条第2項)。
特別決議は、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の3分の2以上に当たる多数をもって行うものとされております(会社法第309条第2項)。定款でこれを上回る割合を定めている場合には、その割合によります。
2 削除の効果は将来に向かってのみ及びます
定款の定めを削除いたしましても、既にされた売渡しの請求の効力が当然に失われるものではございません。したがって、削除は、請求を受ける前に行ってこそ意味を有いたします。
3 株主総会の招集の請求
相続人が議決権の過半数に相当する株式を保有していても、取締役が株主総会を招集しなければ決議はできません。総株主の議決権の100分の3以上の議決権を有する株主は、取締役に対し、株主総会の目的である事項及び招集の理由を示して、株主総会の招集を請求することができます(会社法第297条第1項)。公開会社でない会社においては、6か月前から引き続き有することを要しないものとされております(同条第2項)。請求の後、遅滞なく招集の手続が行われない場合等には、裁判所の許可を得て、株主自らが招集することができます(同条第4項)。
4 速さが結論を分けます
会社が先に売渡しの請求の決議をしてしまいますと、相続人は当該決議において議決権を行使することができません(会社法第175条第2項)。したがって、定款の定めの削除を目指す場合には、会社の側の動きより先に手続を進める必要がございます。
第5節 確認の順序
| 段階 | 内容 |
|---|---|
| 第1 | 登記事項証明書により、譲渡制限株式であるかを確認いたします |
| 第2 | 名義書換を請求し、株主としての地位を明確にいたします |
| 第3 | 定款の閲覧又は謄本の交付を請求いたします(会社法第31条第2項) |
| 第4 | 相続人等に対する売渡しの請求の定めの有無を確認いたします |
| 第5 | 会社が相続を知った日から1年を経過しているかを検討いたします |
| 第6 | 定めがあり、期間内である場合、削除のための株主総会の招集を検討いたします |
よくあるご質問
質問1 登記事項証明書を見ましたが、売渡しの請求の定めは載っていません。定めはないということですか。
相続人等に対する売渡しの請求に関する定款の定めは、登記事項ではございません。登記事項証明書に記載がないことをもって、定めがないと判断することはできません。定款そのものを確認する必要がございます。
質問2 会社が定款を見せてくれません。
株主及び債権者は、会社の営業時間内はいつでも、定款の閲覧等を請求することができます(会社法第31条第2項)。正当な理由がないのに拒んだ場合には、過料に処せられることがございます(会社法第976条)。会社が株主として扱わないことを理由とする場合には、まず名義書換を請求いたします。
質問3 定めを削除すれば、既に受けた請求も無効になりますか。
定款の変更は将来に向かって効力を生じるものでございまして、既にされた請求の効力が当然に失われるものではございません。既に請求を受けている場合には、請求そのものの効力を争う道と、売買価格を争う道とを検討することになります。
質問4 過半数を相続していれば、削除の決議は必ず通りますか。
特別決議は、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の3分の2以上に当たる多数をもって行うものとされております(会社法第309条第2項)。過半数のみでは足りない場合がございます。また、遺産分割が未了の間は、権利行使者の指定が必要となります(会社法第106条)。
本記事の根拠条文
会社法
- 第31条第1項・第2項(定款の備置き及び閲覧等)
- 第106条(共有者による権利の行使)
- 第174条(相続人等に対する売渡しの請求に関する定款の定め)
- 第175条第2項(議決権の排除)
- 第176条第1項ただし書(1年の期間の制限)
- 第297条第1項・第2項・第4項(株主による株主総会の招集の請求)
- 第309条第2項(株主総会の特別決議)
- 第466条(定款の変更)
- 第976条(過料に処すべき行為)
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本記事は一般的な制度の説明であり、結論は事案ごとに異なります。同種の事案において同じ結果となることを保証するものではありません。個別の事情については、弁護士にご相談ください。
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