受託者がお金の出入りを説明せず、受け取るはずのお金も支払わない場合の対処法

受託者が賃料収入や預金残高を説明せず、受益者への生活費又は収益分配を減らしている場合、親族間の感情対立だけでなく、信託契約上の分配条件と信託法上の受託者の義務を確認する必要があります。
信託財産の総額と、現在受益者へ支払われるべき金額は同じではありません。修繕費、租税公課、借入金返済、受託者報酬及び合理的な留保がある場合がある一方、受託者の固有費用又は利益相反取引が混入している可能性もあります。
収支不開示・分配停止で確認する受益権と契約条件
- 相談者が現在の受益者その他の権利者であるか
- 契約上の給付内容、分配時期、費用負担、報酬及び留保の定め
- 信託財産の収入、支出、残高、債務及び税金
- 受託者が作成・保存した帳簿、財産状況開示資料及び計算書
- 受託者又はその関係者との取引、貸付け、売却又は報酬支払の有無
- 開示又は分配を求めた経緯と受託者の回答
受託者の報告・帳簿作成義務と受益者の閲覧請求
受託者は信託法及び信託行為に従い、善管注意義務、忠実義務、分別管理義務等を負います。信託法第37条は帳簿等の作成、報告及び保存を定め、第38条は一定の受益者等による閲覧等の請求を定めています。請求者、対象資料、拒絶事由及び契約の定めを確認し、親族又は相続人であるという理由だけで無制限の閲覧権があるとはしません。
任務違反がある場合には、信託法第40条等に基づく損失補塡又は原状回復等が問題となり、著しい損害が生ずるおそれがある行為については差止めの要件も検討します。受託者の解任は強い措置であり、委託者・受益者の合意、裁判所による解任の要件、委託者死亡後の扱い及び後任者を確認します。
開示請求の対象を具体化します
「すべて見せてほしい」という要求だけでは、対象期間、対象財産及び必要性が不明確になりやすいため、信託専用口座、賃料台帳、管理委託料、修繕費、税金、借入金返済、受託者報酬及び分配履歴等に区分します。受託者が複数の不動産又は事業を管理している場合は、信託財産に関係する資料と固有財産の資料を分けます。
分配額の計算順序
まず契約上の受益債権の内容と給付時期を確認します。次に対象期間の総収入から、信託財産に帰属することが確認できる費用、債務返済、租税公課、合理的留保等を区分し、既払分配額を控除します。受託者が主張する費用は、支出したというだけで当然に控除できるとは限らず、契約、信託目的、相当性及び証憑を確認します。
利益相反取引を別表にします
受託者本人、受託者の家族又は関係会社への売却、貸付け、管理委託、修繕発注又は報酬支払がある場合は、通常の第三者取引と分けて整理します。契約上の許容条項、受益者の承認、価格・条件の相当性及び開示を確認します。利益相反に当たる可能性があることと、取引が当然に無効又は損害全額が賠償対象となることは同じではありません。
開示後の対応を先に想定します
資料開示を受けること自体が最終目的ではありません。開示後に、未払分配、使途不明金、任務違反取引、会計上の誤り又は単なる説明不足のどれが判明したかを整理します。誤りが是正可能であれば計算・分配・管理方法の合意を検討し、重大又は継続的な違反であれば差止め、損失補塡、原状回復、解任等を検討します。
受託者交代後の空白を防ぎます
解任又は辞任だけを先行させると、賃料回収、債務支払、修繕又は税務申告が止まる可能性があります。後継受託者の指定、候補者の就任承諾、財産・印鑑・電子認証・帳簿の引継ぎ及び登記・金融機関手続を準備します。受託者の責任追及と信託事務の継続を分けて設計します。
消滅時効と証拠保存
未払給付、損失補塡その他の請求には、権利の性質に応じた期間制限が問題となります。古い口座履歴や領収書が取得できなくなる前に、対象期間を決めて保存を求めます。電子データは作成者、作成日時及び原本性を確認し、表計算だけでなく裏付け資料も確保します。相手方へ具体的請求をする時点では、金額の根拠と起算点を確認します。
収支と未払分配額の確認に必要な資料
- 信託契約書と財産目録
- 信託専用口座、賃料入金口座及び支出口座の明細
- 帳簿、確定申告書、固定資産税・修繕費・保険料等の資料
- 分配記録、受領額の計算、受託者報酬の資料
- 関連当事者との売買、貸付け、管理委託契約等
- 開示請求書、電子メール及び受託者の回答
開示・給付請求と受託者の任務違反への対応
- 対象期間と対象資料を特定した報告・閲覧請求
- 契約に基づく給付又は分配の請求
- 不明支出、利益相反取引及び固有財産との混同の調査
- 任務違反行為の差止め、損失補塡又は原状回復等の検討
- 受託者の辞任・解任及び新受託者への引継ぎ
- 信託終了・清算による抜本的解決の検討
収支調査の工程と専門家費用の確認
最初に、争いのある期間、収入、確認済み費用及び既払額を表にします。資料開示後に請求額が変わる可能性があります。緊急の売却又は送金がある場合は、通常の収支確認と並行して処分の差止め等を検討します。会計処理、税務申告又は不動産管理に専門的確認が必要な場合は、弁護士業務と区分して検討します。
賃料収入から分配差額を計算する仮想例
仮想計算例 年間賃料600万円、契約と資料で確認できる費用180万円、合理的な留保60万円で、残額を2名の受益者へ同率分配すると仮定すると、分配原資は360万円、各人の基礎額は180万円です。各人が80万円だけ受領した場合の差額は100万円ですが、この差額が直ちに請求額又は損害額になるわけではありません。追加費用、既払金、税務及び契約上の条件を確認します。これは説明のための仮想計算です。
収支開示・分配請求についてよくある御質問
相続人なので口座を全部見せてもらえますか
相続人の地位と信託法上の受益者等の地位を区別します。契約及び現在の権利を確認します。
受託者報酬は自由に取れますか
契約、信託法上の報酬規定及び実際の事務を確認します。受託者が一方的に任意の金額を取得できるとは限りません。
分配しないだけで直ちに解任できますか
分配義務、違反の程度、是正可能性、解任要件及び後任者を検討します。
信託紛争の法律相談をお考えの皆様へ
信託契約書、公正証書、財産目録、相手方からの通知等、手元にある資料と現在の問題をお知らせください。民事信託・家族信託の紛争相談で取扱内容と進め方を御確認いただき、お問い合わせフォームから現在の問題と緊急の期限をお知らせください。
相談料と受任後の弁護士費用は、相談内容、対象財産、必要な調査及び手続に応じて確認します。資料不足や関係者間の争いにより期間も変わるため、一定期間での解決又は一定の結果をお約束するものではありません。
参照法令
信託法第29条から第31条まで、第34条、第37条、第38条、第40条、第44条及び第58条。
契約締結後の信託紛争に関する御相談
民事信託・家族信託の紛争相談の御案内に、対応方法、必要資料、費用・期間の確認事項を整理しています。
このページの位置付けと関連する解説
受託者に対する資料の請求に関するメインのページです。本ページは、相続に備えた信託の財産から分配を受ける立場の方が収支の資料を求める手順をご説明します。信託そのものの仕組みは民事信託及び家族信託の利点と欠点をご参照ください。
