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本人が信託契約を理解していなかった場合の意思能力の確認と財産回復

認知症の診断を受けた親が、特定の子を受託者とする信託契約を締結し、多額の財産や不動産の管理権限を移していたことが後から判明することがあります。公正証書が作成され、信託登記が完了している場合でも、家族が抱く疑問は解消されないことがあります。

判断の中心は、診断名や契約時の年齢だけではなく、契約締結時に本人が当該契約の内容と結果を理解して意思表示できたかです。遺言能力と契約上の意思能力は根拠条文及び対象行為が異なるため、同じ基準であると断定しません。

目次

締結時の意思能力を調べるための確認事項

  • 契約締結日と、公正証書作成、登記、送金等の各実行日
  • 本人が信託財産、受託者の権限、受益者、終了及び承継先を理解していたか
  • 契約前後の診療、介護認定、生活状況及び財産管理の状況
  • 誰が専門家へ依頼し、誰が面談に同席し、説明と意思確認がどのように行われたか
  • 契約後も本人が財産を管理していたか、受託者がどのような行為をしたか
  • 相談者が受益者、相続人、委託者の代理人等のどの立場にあるか

意思能力を欠いた法律行為の無効と信託契約の効力

民法第3条の2は、意思能力を有しなかったときの法律行為を無効としています。意思能力は契約締結時を基準に、行為の内容・難易度、本人の理解、医学的資料及び周辺事情から検討します。認知症の診断又は要介護認定があるだけで当然に無効となるわけではなく、反対に、公正証書又は登記があるだけで有効性が確定するわけでもありません。

信託契約が無効となる場合の財産返還、登記の回復、受託者が第三者と行った取引の効力等は別途検討を要します。全部無効、条項の一部無効、契約解釈、取消しその他の主張を混同せず、請求できる者と相手方を整理します。

意思能力を時点と内容から検討します

問題となるのは、現在の状態ではなく、原則として信託契約を締結した時点の意思能力です。契約締結、公正証書作成、信託登記、預金移替え及び不動産売却の日が異なる場合には、それぞれの行為について確認します。信託財産が少額の預金だけの場合と、複数の不動産、受益者連続、受託者の広範な処分権限を含む場合では、本人が理解すべき内容の複雑さも異なります。

医学的資料だけでなく生活状況も確認します

診療録、認知機能検査、処方薬、要介護認定及び介護記録は重要ですが、契約当日の会話、財産の認識、銀行取引、従前の契約行動及び家族への説明も検討します。資料は本人のプライバシー及び取得権限に配慮し、適法に取得します。契約後に症状が悪化したことだけで、締結時の能力がなかったと結論付けることはできません。

説明者と同席者の役割を整理します

契約を提案した者、専門家へ依頼した者、費用を支払った者、本人へ説明した者及び公証人面談へ同席した者を特定します。特定の受益者又は受託者候補が説明を主導した場合でも、それだけで不当な働きかけが認定されるわけではありません。しかし、本人の希望と異なる条項、利益の偏り、説明資料の欠如又は本人単独での意思確認がなかった事情は、契約経緯を評価する資料になります。

有効・無効の二択に限定しません

条項の文言が不明確な場合は契約解釈が問題となり、一部の条項だけが効力を欠く可能性もあります。詐欺、錯誤、公序良俗その他の主張が問題となる場合も、各要件、主張できる者、期間制限及び第三者との関係を確認します。契約の有効性を争うことが本人の現在の生活又は財産管理にどのような影響を与えるかも検討します。

第三者への処分がある場合

受託者が信託不動産を第三者へ売却し、又は担保を設定した場合、信託契約の無効又は受託者の権限違反だけで当然に第三者との取引が失効するとは限りません。登記、相手方の認識、信託法上の第三者保護及び売却代金の所在を確認します。財産そのものの回復が難しい場合には、受託者等に対する金銭請求と区別します。

本人の利益を中心に手続を選びます

親族間で相続予定の公平を争っていても、本人が生存中であれば本人の生活、療養及び財産保全が中心です。本人に意思能力がない場合、誰が本人のために権利を行使できるかを確認し、成年後見人等の選任が必要かを検討します。相続開始後は、相続人の地位と信託上の地位を分け、訴訟当事者と請求対象を整理します。

契約締結時の理解を示す医学的資料と説明記録

  • 信託契約書、公正証書、作成過程の草案
  • 説明資料、録音、電子メール、面談記録及び請求書
  • 適法に取得した診療録、診断書、要介護認定資料、介護記録
  • 本人の日記、手紙、金融取引記録、従前の財産管理状況
  • 登記事項証明書、口座履歴、売買契約書その他の契約後の処分資料
  • 親族関係図、遺言書及び他の財産承継文書

契約効力を争う場合の請求と財産保全

  • 契約の効力・解釈に関する調査と通知
  • 財産処分が迫る場合の保全措置の検討
  • 契約無効等に基づく登記・財産の回復請求
  • 受託者の任務違反又は不当利得等の請求との整理
  • 有効性を争う一方で将来の管理体制を確保する方法
  • 契約作成関与者の説明義務等を別途検討

証拠収集・財産保全の工程と費用の確認

医学的資料の取得には時間を要することがあります。処分が迫っている場合は、すべての資料が揃う前でも、対象財産、処分予定日、契約及び登記を優先して確認します。訴訟では、締結時の能力に関する証拠を時系列化し、契約内容の複雑性と本人の具体的な理解を検討します。結果は個別証拠に左右されます。

公正証書と本人の認識が食い違う仮想事例

仮想事例 父は認知症の診断後、長男を受託者とし、自宅と預金を信託する公正証書を作成しました。父は契約後も自宅を自分の名義だと思い、預金の移転も理解していない発言をしていました。他方、契約時の公証人面談記録には受け答えが記載されていました。この場合、診断名又は公正証書の一方だけで結論を出さず、契約の説明、父の理解、前後の行動及び財産処分を総合して検討します。これは仮想事例です。

信託契約の意思能力についてよくある御質問

診断書がなければ争えませんか

診療録、介護記録、金融取引、説明記録及び周囲の認識等も資料になります。ただし、どの資料が重要かは事案によります。

公証人が確認しているので有効ではないですか

公証人の関与は重要な事情ですが、個別の意思能力又は契約解釈に関する争いを当然に排除するものではありません。

相続開始前でも相談できますか

本人の利益を守る必要がある場合は、生前から契約・管理状況を確認する意味があります。ただし、相談者が行使できる権利は立場により異なります。

信託紛争の法律相談をお考えの皆様へ

信託契約書、公正証書、財産目録、相手方からの通知等、手元にある資料と現在の問題をお知らせください。民事信託・家族信託の紛争相談で取扱内容と進め方を御確認いただき、お問い合わせフォームから現在の問題と緊急の期限をお知らせください。

相談料と受任後の弁護士費用は、相談内容、対象財産、必要な調査及び手続に応じて確認します。資料不足や関係者間の争いにより期間も変わるため、一定期間での解決又は一定の結果をお約束するものではありません。

参照法令

民法第3条の2。

契約締結後の信託紛争に関する御相談

民事信託・家族信託の紛争相談の御案内に、対応方法、必要資料、費用・期間の確認事項を整理しています。


このページの位置付けと関連する解説

信託契約と本人の意思能力に関するメインのページです。本ページは、相続や事業承継に備えた契約の締結時に判断能力が問われる場面の確認と財産の回復をご説明します。制度の利点と欠点は民事信託及び家族信託の利点と欠点をご参照ください。

執筆者

弁護士法人M&A総合法律事務所 代表弁護士 土屋勝裕(東京弁護士会所属 登録番号26775)

平成23年に最高裁判所において株式買取請求権に関する逆転判決を得た弁護士であります。長島・大野・常松法律事務所に在籍した後、慶應義塾大学ビジネス・スクール及びペンシルベニア大学ウォートン校に留学し、ファイナンス理論並びにM&A及び不動産を専攻しました。不動産投資信託(J-REIT)の上場案件にも関与しております。

主として取り扱う分野 M&A、株式買取請求権、非上場株式の価格の決定、企業価値評価、事業承継及び企業法務

所在地 〒105-6017 東京都港区虎ノ門4丁目3番1号 森トラスト城山トラストタワー17階/電話番号 03-6435-8418/受付時間 8:00-21:00(土日祝含む)

本記事の記載は一般的な法律情報であり、個別の事案に関する法律上の助言ではありません。記載した経歴は事実の記述であり、個別の事件の結果を保証するものではありません。

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