売渡しの請求には1年の期限があります
父が亡くなってから1年以上が経過した後に、会社から突然、相続した株式を売り渡すよう求める書面が届きました。今からでも応じなければならないのでしょうか。このようなご相談を、当事務所はしばしばお受けしております。
先に結論を申し上げます。相続人等に対する売渡しの請求には、期間の制限がございます。会社は、相続その他の一般承継があったことを知った日から1年を経過したときは、この請求をすることができません(会社法第176条第1項ただし書)。起算点は、相続が開始した日ではなく、会社が相続の事実を知った日でございます。同族会社においては、経営陣が被相続人の死亡を直ちに知ることが通常でございますので、死亡の日から1年を経過している場合には、期間の経過を主張する余地がございます。
第1節 1年の期間の定め
会社法第176条第1項は、会社は、会社法第175条第1項各号に掲げる事項を定めたときは、同項第2号の者に対し、同項第1号の株式を売り渡すことを請求することができる旨を定めた上、ただし書において、当該会社が相続その他の一般承継があったことを知った日から1年を経過したときは、この限りでない旨を規定しております。
したがって、1年を経過した後にされた請求は、効力を有しないことになります。
第2節 起算点は「会社が知った日」でございます
1 相続の開始の日ではございません
条文は「相続その他の一般承継があったことを知った日」と定めております。したがって、被相続人が死亡した日ではなく、会社がその事実を知った日から起算いたします。
2 会社が知った日をどのように示すか
会社が相続の事実を知った日は、次のような事情から推認され得ます。
- 会社の名義による香典、供花又は弔電
- 社葬の実施又は会社の関係者の葬儀への参列
- 被相続人の死亡後に開催された取締役会又は株主総会の議事録の記載
- 被相続人の役員としての退任の登記の申請の日
- 相続人と会社との間のやり取りの記録
- 会社が相続人に対して送付した書面
同族会社においては、被相続人が代表取締役であることが多く、その死亡を会社が知らなかったという説明は、通常は成り立ちにくいところでございます。
第3節 期間の経過を主張する場合の手順
1 書面により回答いたします
期間の経過を主張する場合には、書面によりその旨を通知し、記録に残します。内容証明郵便によることが有用でございます。
2 20日の期間にも留意いたします
期間の経過を主張する場合であっても、会社がこれを争う可能性がございます。売買価格の決定の申立ての期間は、請求があった日から20日でございます(会社法第177条第2項)。期間の経過の主張が認められなかった場合に備え、この20日をどのように扱うかを、あらかじめ検討しておく必要がございます。
3 他の争い方も併せて検討いたします
1年の経過のほかにも、定款に売渡しの請求の定めがないこと(会社法第174条)、株主総会の決議を欠くこと又は決議に瑕疵があること(会社法第175条第1項、第831条第1項)、分配可能額を超えること(会社法第461条第1項)といった主張が考えられます。いずれか一つに絞る必要はございません。
第4節 期限の一覧
| 事項 | 期限 | 根拠条文 |
|---|---|---|
| 会社による売渡しの請求 | 相続その他の一般承継があったことを知った日から1年 | 会社法第176条第1項ただし書 |
| 売買価格の決定の申立て | 請求があった日から20日 | 会社法第177条第2項 |
| 株主総会の決議の取消しの訴え | 決議の日から3か月 | 会社法第831条第1項 |
| 相続税の申告 | 相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月 | 相続税法第27条第1項 |
よくあるご質問
質問1 会社は「死亡を知ったのは最近だ」と述べています。
会社が知った日がいつであるかは、事案の事情に照らして判断されます。香典、弔電、社葬、退任の登記、議事録の記載等から、より早い時期に知っていたことを示す余地がございます。
質問2 1年を過ぎていれば、何もしなくてよいのですか。
会社が期間の経過を争うことがございますので、書面により明確に回答し、記録を残すことが必要でございます。また、売買価格の決定の申立ての20日の期間にも留意する必要がございます。
質問3 相続の開始から1年ではないのですか。
条文は「相続その他の一般承継があったことを知った日」と定めております。会社が知った日が起算点でございます。会社が長期間これを知らなかった場合には、相続の開始から1年を経過していても請求がされ得ることになります。
本記事の根拠条文
会社法
- 第174条(相続人等に対する売渡しの請求に関する定款の定め)
- 第175条第1項(売渡しの請求の決定)
- 第176条第1項ただし書(1年の期間の制限)
- 第177条第2項(売買価格の決定の申立て)
- 第461条第1項(分配可能額による制限)
- 第831条第1項(株主総会の決議の取消しの訴え)
相続税法 第27条第1項(相続税の申告書の提出期限)
内部リンク
送客先のご案内のページ 相続した株式に売渡しの請求を行使され、安く取り上げられそうでお困りの方へ
弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談
弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)では、相続した株式について会社から売渡しの請求を受けた相続人の方からのご相談をお受けしております。期間の経過の主張、定款及び株主総会の決議の調査、売買価格の決定の申立てまで、ご依頼者の側の代理人としてお引き受けいたします。当事務所は、相続人及び株主の側のお立場でこの類型の案件を取り扱っており、同一の案件について会社の側と相続人の側の双方を代理することはございません。
詳しくは、相続した株式に売渡しの請求を行使され、安く取り上げられそうでお困りの方へのご案内のページをご覧ください。
- 電話番号 03-6435-8418
- 受付時間 8時00分から21時00分まで
- 土曜日・日曜日・祝日も受付いたします
- ご相談は事前予約制です
弁護士費用については、当ウェブサイトの弁護士費用一覧のページをご覧ください。
ご相談の際に、会社から届いた請求の書面及びその封筒、被相続人の死亡が分かる戸籍関係の書類、会社の登記事項証明書、香典返し又は弔電の記録をご用意いただけますと検討が早く進みます。これらがお手元にないことを理由にご相談をお断りすることはございません。なお、税務上の取扱いについては税理士にご確認ください。
本記事は一般的な制度の説明であり、結論は事案ごとに異なります。同種の事案において同じ結果となることを保証するものではありません。個別の事情については、弁護士にご相談ください。
必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。
このページの位置付けと、関連するページ
本ページは、相続をめぐる紛争及び相談に関する解説のうちの一つです。全体像は、次の中核となるページを御覧ください。
同じ主題を扱う関連ページ
- 遺産相続の手続を期限別に整理した進行表と必要書類の一覧
- 名義書換未了の相続人が株主であることを会社に認めさせる方法
- 疎遠な相続人及び所在の分からない相続人がいる場合の遺産分割の進め方
- 譲渡制限株式について株式譲渡承認請求を行う場合の手順と期限
- 準共有株式の権利行使者の指定と売渡しの請求
- 相続財産の使い込みについて返還を求める場合の法律構成と期間の制限
- 相続財産の使い込みを防ぐための生前の備えと相続開始後における証拠の保全
- 会社が買取りを拒む場合に最初に確認すべき5つの事項
- 事業承継及び会社の相続における専門家の役割分担と弁護士に相談すべき場面
- 遺産の使い込みが発覚した!遺産遣い込み返還請求について!
- 相続の基礎知識
- 相続財産・遺産・預金の使い込み(隠匿・横領・着服)!
具体的な御相談をお考えの皆様へ
本ページの主題に関し、当事務所の取扱内容、対応の進め方及び費用の考え方は、次の御案内のページに整理しています。あわせて御覧ください。

