専門家が作成した信託契約書に問題がある場合の契約の修正と専門家の責任

司法書士、弁護士、金融機関その他の専門家に依頼して信託契約を作成した後、説明された承継先と契約条項が異なる、予定した変更ができない、税負担が生じた、受託者を交代できないなどの問題が判明することがあります。
専門家が関与したことだけで契約が適切であるとも、不備があるとも断定できません。まず、依頼された業務が契約設計まで含むのか、登記申請その他の限定された業務なのかを確認します。そのうえで、契約自体を是正する方法と、作成関与者に損害賠償等を求める問題を分けます。
作成関与者の責任を検討する前の確認事項
- 依頼者、契約当事者、説明を受けた者及び費用を支払った者
- 委任契約、見積書、業務範囲及び免責・注意事項
- 依頼時に伝えた財産承継の目的、家族構成及び税務上の前提
- 草案の修正履歴、質問と回答、面談又は意思確認の方法
- 完成した信託契約、登記、金融機関手続及び実際の運用
- 現に生じた不利益、是正可能性、追加費用及び因果関係
依頼範囲と注意義務違反・損害・因果関係
契約関係に基づく請求では、民法第415条の債務不履行責任及び受任者の善管注意義務等が問題となり、契約関係がない者からの請求では民法第709条の不法行為責任等を検討します。いずれも、依頼範囲、注意義務違反、損害及び因果関係の立証が必要です。契約条項に改善の余地があることと、直ちに賠償責任が成立することは同じではありません。
登記が受理されたことは、登記申請に必要な形式が整ったことを示す資料にはなりますが、財産承継の目的、税務、受益者間の調整又は将来の運用まで適切であることを保証するものではありません。他方、登記申請のみを依頼された者に、依頼されていない総合的設計上の責任を当然に負わせることもできません。
依頼範囲を文書で確定します
相談、契約案作成、公正証書化、信託登記、金融機関手続、税務助言及び運用支援は別の業務です。委任契約、見積書、請求書、業務説明、電子メール及び面談記録から、誰がどの業務を引き受けたかを確認します。複数の専門家が関与した場合は、各人の担当範囲、情報共有及び最終確認者を区別します。
依頼目的が伝わっていたか
依頼者が希望したのが、本人の生活費確保、認知症後の管理、特定財産の承継、事業承継、遺留分対策又は税負担の軽減のいずれであったかを確認します。専門家がその目的と家族関係・財産構成を認識していたか、リスク及び代替手段をどこまで説明したかを資料から検討します。後から生じた希望を当初からの依頼内容として扱いません。
契約是正を優先すべき場面
条項に問題があっても、委託者等が生存し、必要な同意と意思能力があり、税務・登記上も許容される場合は、変更又は終了によって目的を回復できることがあります。賠償請求だけを行っても、受託者の権限、分配又は承継先は直りません。財産の処分又は期限が迫っている場合は、責任追及の通知より先に保全・是正を検討します。
損害を項目ごとに計算します
信託財産の減少、不要となった作成費用、契約是正の追加費用、余分な税負担、取引機会の喪失等を分けます。契約又は財産を回復できた部分と賠償請求を二重に合算しません。税負担については、適法な代替設計を採用した場合の課税関係、修正申告・更正の可能性及び税理士費用を確認します。将来の不確実な利益をそのまま損害としません。
因果関係と依頼者側の判断
説明義務違反又は契約作成上の問題があっても、適切な説明を受けていればどの選択をしたか、他の専門家の助言、依頼者の指示、契約後の変更事情及び受託者の独自行為を確認します。損害が契約条項ではなく受託者の任務違反から生じた場合は、作成関与者と受託者の責任を区別します。
苦情・懲戒・民事請求の違い
所属団体への苦情又は懲戒申立ては、職務規律上の問題を扱う手続であり、契約変更、財産返還又は損害賠償を直接実現する手続とは限りません。民事請求では、契約関係、注意義務、損害、因果関係及び期間制限を主張立証します。どの手続を選ぶかは、求める結果と緊急性を基準に判断します。
契約設計の依頼内容と説明経緯を示す資料
- 委任契約書、見積書、請求書及び業務説明書
- 相談申込書、家族関係図、財産一覧及び依頼目的の記録
- 契約草案、修正履歴、電子メール及び面談記録
- 最終契約書、公正証書、登記申請書類及び登記事項証明書
- 税務説明又は金融機関説明に用いられた資料
- 是正費用、税負担、処分損失その他の損害を示す資料
契約是正・受託者への請求・作成関与者への責任追及
- 信託契約の解釈・変更・終了による是正
- 受託者に対する開示、分配、原状回復等の請求
- 作成関与者への説明請求及び協議
- 債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償請求の検討
- 懲戒・苦情申立てと民事上の損害回復を区別
- 税理士、司法書士、不動産鑑定士等との役割分担
損害拡大防止と責任調査の工程・費用
責任追及を先行させると、契約又は財産の是正が遅れる場合があります。財産処分の防止、信託関係の正常化、損害の拡大防止及び賠償請求の証拠保全を並行して検討します。損害額は信託財産総額と同じではなく、回復済みの財産、追加費用、税務上の影響等を整理します。消滅時効その他の期間制限も個別に確認します。
依頼目的と残余財産条項が異なる仮想事例
仮想事例 父は、長女に賃貸不動産を管理させ、父の死亡後は長男と長女へ同額の価値を承継させたいと伝えて契約作成を依頼しました。しかし、完成契約では残余財産がすべて長女に帰属する条項となっていました。この場合、父の依頼内容、草案確認、説明、父の理解、契約変更の可否及び現実の損害を確認します。条項が希望と異なるだけで直ちに関与者の賠償責任が確定するわけではありません。これは仮想事例です。
信託契約の作成不備についてよくある御質問
司法書士が作った信託契約は不備が多いのですか
職種一般を根拠に不備の有無を判断することはできません。個別の依頼範囲、契約条項、説明及び運用を確認します。
懲戒申立てをすれば損害を回収できますか
懲戒手続と民事上の損害賠償は目的・要件が異なります。損害回復には別途の請求と立証が必要です。
信託財産の全額を損害として請求できますか
財産の回復可能性、契約是正、実際の減少額、追加費用及び因果関係を確認します。財産総額が当然に損害額となるわけではありません。
信託紛争の法律相談をお考えの皆様へ
信託契約書、公正証書、財産目録、相手方からの通知等、手元にある資料と現在の問題をお知らせください。民事信託・家族信託の紛争相談で取扱内容と進め方を御確認いただき、お問い合わせフォームから現在の問題と緊急の期限をお知らせください。
相談料と受任後の弁護士費用は、相談内容、対象財産、必要な調査及び手続に応じて確認します。資料不足や関係者間の争いにより期間も変わるため、一定期間での解決又は一定の結果をお約束するものではありません。
参照法令
民法第415条、第644条及び第709条。
契約締結後の信託紛争に関する御相談
民事信託・家族信託の紛争相談の御案内に、対応方法、必要資料、費用・期間の確認事項を整理しています。
このページの位置付けと関連する解説
信託契約の不備と作成者の責任に関するメインのページです。本ページは、事業承継や相続に備えた契約に瑕疵が疑われる場合の是正の手順をご説明します。信託を用いる利点と欠点は民事信託及び家族信託の利点と欠点をご参照ください。
