家族信託の契約内容を変えたい・信託を終わらせたい場合の条件と手続

「遺言の代わりになる」と説明されて信託契約を作成した後、家族関係、財産又は介護方針が変わり、契約を直したいという相談があります。また、委託者の死亡後に信託は終わったはずなのに、不動産の名義変更や預金の引渡しが進まない場合もあります。
信託の変更、終了及び終了後の清算は別の問題です。委託者が生存しているか、受益者が誰か、契約に変更権限と終了事由がどう書かれているかを確認せずに、遺言の撤回と同じ感覚で処理することはできません。
変更・終了の判断に先立ち確認する契約条項
- 契約に変更できる者、同意を要する者及び変更できる事項が定められているか
- 委託者、受託者及び受益者が生存し、意思表示できる状態か
- 委託者死亡時に受益権を取得する者と残余財産を受け取る者が区別されているか
- 終了事由が発生したか、又は当事者の合意・裁判所の命令等を検討すべきか
- 清算受託者、債務の弁済、最終計算及び残余財産の引渡しが完了しているか
信託法上の変更・終了と残余財産の帰属
信託法第149条は、信託の目的に反しないことが明らかな場合等の変更を定めていますが、契約の別段の定めと当事者の地位を確認する必要があります。信託法第163条以下は終了事由等を定めています。終了後は清算手続に入り、残余財産は契約上指定された残余財産受益者又は帰属権利者等へ帰属します。指定が欠けていても直ちに信託全体が無効となるのではなく、信託法第182条の補充規定を検討します。
委託者死亡時に受益権を取得する定めでは、信託法第90条と契約の別段の定めが重要です。「委託者が死亡すれば信託は必ず終了する」「死亡後は相続人全員の共有になる」という一般化はできません。
変更したい理由を条項へ結び付けます
家族関係が変わった、当初予定した受託者が対応できない、不動産を売却したい、受益者の生活費が不足した、承継先が先に死亡したなど、変更希望の理由を具体化します。そのうえで、受益者、受託者、信託財産、給付内容、変更権限、終了事由又は残余財産条項のどこを変更する必要があるかを特定します。希望を抽象的に述べるだけでは、必要な同意と税務・登記への影響を判断できません。
委託者死亡前後を分けます
委託者が生存中で意思能力を有する場合でも、契約の別段の定めにより単独変更できないことがあります。委託者が死亡している場合は、相続人が委託者の権限を当然に承継するとは限りません。受益者変更権、契約変更権、委託者の地位の承継及び残余財産の指定を個別に確認します。死亡後受益者がまだ受益者としての権利を有していない段階もあり、将来の承継予定者というだけで現在の変更に同意できるとは限りません。
変更と新しい信託の設定を比較します
既存信託の一部変更で目的を達成できる場合と、既存信託を終了・清算して別の仕組みを設ける必要がある場合があります。終了前に新しい契約を作ると、同じ財産について権限が重複し、金融機関や登記の手続が止まる可能性があります。既存契約の効力、債務、賃貸借、担保権、税務上の取得時期及び変更後の管理者を比較します。
終了事由があっても管理を放置しません
終了事由が発生しても、未収賃料の回収、債務・税金・費用の支払、最終計算、受益者への報告、残余財産の引渡し及び登記が残ります。清算受託者の権限と責任を確認し、終了前と同じ目的で新規取引を続けないようにします。残余財産を受け取る者について争いがある場合は、処分又は分配を急がず、契約と補充規定を検討します。
受託者交代だけで足りる場合があります
問題が受託者の高齢、病気、死亡、辞任又は管理能力に限られるときは、信託全体を終了せず、後継受託者又は新受託者へ交代する方法を検討します。後任者の選任方法、就任承諾、財産・帳簿の引継ぎ、登記及び金融機関の手続を確認します。後任候補が形式的に指定されていても、現実に就任可能か、利益相反がないか及び事務を遂行できるかを確認します。
税務及び遺留分を後回しにしません
受益者の変更、受益権の内容の変更、信託終了及び残余財産の移転は、贈与税又は相続税等の課税関係に影響する場合があります。また、承継先の変更により遺留分をめぐる問題が発生する可能性もあります。契約上変更可能であることと、税務・相続上望ましいことは同じではありません。実行日と課税時期を税理士と確認します。
変更・清算の相談に必要な契約と財産資料
- 信託契約書、公正証書、変更契約書
- 委託者・受託者・受益者の生死と関係を示す資料
- 財産目録、登記事項証明書、金融機関資料
- 変更を求めた通知、相手方の回答及び作成関与者の説明資料
- 信託債務、未払費用、税金及び残余財産の計算資料
合意による変更から清算までの対応方法
- 契約に定めた方法による変更
- 委託者・受託者・受益者間の合意による変更又は終了の検討
- 信託目的の達成不能その他の終了事由の確認
- 受託者又は清算受託者に対する計算・引渡しの請求
- 後継受託者の選任又は清算実務の遂行
- 不動産登記、金融機関手続及び税務申告との工程調整
変更・終了の工程と費用の確認
変更の必要性だけでなく、変更後の受益者、税務、登記及び管理体制まで検討します。終了の場合は、終了事由の確認、債権債務の整理、最終計算、残余財産の確定、引渡し及び登記という順序になります。関係者の合意が得られない場合には、裁判所の関与が可能か、誰が申立て又は請求を行えるかを個別に検討します。
承継予定者が先に死亡した場合の仮想事例
仮想事例 母が自宅と賃貸不動産を長女に信託し、母を当初受益者、母の死亡後は長男を受益者とする契約を締結しました。その後、長男が先に死亡し、契約にはその後の受益者が明確に書かれていませんでした。母の希望だけで新しい承継先を決められるかは、信託法第90条、変更権限の条項、長男の地位及び残余財産条項を確認して判断します。これは仮想事例です。
信託の変更・終了についてよくある御質問
委託者はいつでも変更できますか
信託の類型と契約の別段の定めによります。委託者という地位だけから常に単独変更できるとは限りません。
受託者が死亡すると信託も終了しますか
受託者の任務は終了し得ますが、信託自体の終了とは別です。後継受託者又は新受託者の選任を確認します。
終了後の不動産は自動的に名義変更されますか
残余財産の帰属が定まっても、清算と登記手続が必要です。担保権、賃貸借及び税務も確認します。
信託紛争の法律相談をお考えの皆様へ
信託契約書、公正証書、財産目録、相手方からの通知等、手元にある資料と現在の問題をお知らせください。民事信託・家族信託の紛争相談で取扱内容と進め方を御確認いただき、お問い合わせフォームから現在の問題と緊急の期限をお知らせください。
相談料と受任後の弁護士費用は、相談内容、対象財産、必要な調査及び手続に応じて確認します。資料不足や関係者間の争いにより期間も変わるため、一定期間での解決又は一定の結果をお約束するものではありません。
参照法令
信託法第149条、第163条、第164条、第177条及び第182条。
契約締結後の信託紛争に関する御相談
民事信託・家族信託の紛争相談の御案内に、対応方法、必要資料、費用・期間の確認事項を整理しています。
このページの位置付けと関連する解説
民事信託及び家族信託の変更と終了に関するメインのページです。本ページは、事業承継と相続に備えて設けた信託を見直す場合の条件と清算の進め方をご説明します。信託の仕組みの全体は民事信託及び家族信託の利点と欠点をご参照ください。
