準共有株式の価格決定申立てと権利行使者の指定―長野地方裁判所令和3年10月8日決定の解説

この記事の位置付け
本ページは、相続により準共有状態となった株式について、特別支配株主の株式売渡請求に対する売買価格決定の申立てを一部の相続人が単独で行うことができるかを判断した裁判例を、決定文に基づいて解説するページです。準共有株式の権利行使者の指定全般については、次のページで整理しています。
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非上場会社の株式は、相続が発生した後、遺産分割が終わらないまま長期間放置されることが少なくありません。その間に会社の支配株主が少数株主を締め出す手続(いわゆるスクイーズアウト)を行った場合、相続人の一人が売買価格に不満があるとして裁判所に価格決定を申し立てることができるかが問題となります。本ページでは、この点について判断した長野地方裁判所令和3年10月8日決定を、決定文に記載された内容に基づいて解説します。
裁判例の基本情報
| 裁判所・裁判日 | 長野地方裁判所 令和3年10月8日決定 |
|---|---|
| 事件番号 | 令和3年(ヒ)第2号 |
| 事件名 | 株式売買価格決定申立事件 |
| 結論 | 申立て却下(手続費用は申立人の負担) |
本ページでは、当事者を「対象会社A」(株式売渡請求の対象となった株式会社)、「特別支配株主B」(株式売渡請求を行った株主であり、本件手続の利害関係参加人)、「株主C」(株式の名義上の株主であった故人)及び「申立人D」(価格決定を申し立てた相続人)と表記します。本ページは上記決定の解説であり、抗告の有無や決定の確定を確認した旨の表示ではありません。
事案の概要
決定文によれば、事案の概要は次のとおりです。
- 対象会社Aは印刷業を営む株式会社であり、発行済株式総数は45,000株でした。日刊新聞の発行等を営む特別支配株主Bは、そのうち41,145株(約91.4%)を保有していました。
- 株主Cは対象会社Aの株式3,000株(約6.7%)を保有していましたが、昭和53年に死亡しました。その後、複数回の相続を経て、申立人Dは株主Cの株式を相続により取得したと主張しました。
- 特別支配株主Bは、令和2年12月24日、対象会社Aに対し、売渡株式の対価を1株500円、取得日を令和3年1月29日とする株式売渡請求の通知を行い、対象会社Aは同日これを承認し、令和3年1月5日に売渡株主に対する通知を行いました。
- 申立人Dは、令和3年1月27日、裁判所に対し売渡株式の売買価格の決定を申し立て、1株5,651円が相当であると主張しました。特別支配株主Bは1株500円が相当であると主張しました。
争点
- 申立人Dに価格決定の申立てをする資格(申立適格)があるか。
- 売渡株式の売買価格をいくらと定めるべきか(修正簿価純資産法による評価、退職給付引当金及び土壌汚染対策費用の扱い、土地の評価、保有上場株式の評価等)。
裁判所の判断
申立人Dは準共有者の一人にとどまること
裁判所は、申立人Dが株主Cの株式を単独で相続したことは認められないとし、申立人Dは株式の準共有者の一人にすぎず、その持分は最大でも15分の1にとどまると判断しました。
価格決定の申立ては「株式についての権利の行使」に当たること
会社法第106条本文は、株式が二以上の者の共有に属するときは、共有者は権利を行使する者一人を定め、会社に通知しなければ、その株式についての権利を行使することができないと定めています。申立人Dは、価格決定の申立ては会社に対する権利行使ではなく、特別支配株主に対して公正な対価を求めるものにすぎないと主張しました。
しかし、裁判所は、会社法第179条の8第1項に基づく売買価格決定の申立ても、会社法第106条本文の「株式についての権利を行使する」場合に当たると判断し、申立人Dの主張を採用しませんでした。本件では権利行使者の指定及び通知がされていないため、申立人Dはこの方法によって申立適格を得ることはできません。
価格決定の申立ては保存行為に当たらないこと
次に、裁判所は、共有者が単独で行うことのできる保存行為として申立てが許されるかを検討し、「売渡株式の売買価格決定の申立ては当該株式の売買価格を高めることを目的としてなされるものであるうえ、特別支配株主が対象会社に対する株式売渡請求で定めた株式の対価よりも低い価格で決定がなされることも理論上はあり得ることに照らすと、少なくとも保存行為の範疇にとどまるものではない」と判断しました。
その上で、本件では、管理行為として持分の価格の過半数による同意があったことも、変更行為として準共有者全員の同意があったことも認められないとして、申立ては不適法であると判断しました。
結論
裁判所は、申立人Dには申立適格がないとして申立てを却下しました。このため、売買価格の算定(争点2)については判断されていません。
決定の読み方と実務上の着眼点
遺産分割未了の株式とスクイーズアウト
本決定によれば、遺産分割が未了で株式が準共有状態にある場合、相続人の一人が単独で価格決定を申し立てても、権利行使者の指定及び会社への通知がない限り、また保存行為として扱うこともできない以上、申立ては不適法とされるおそれがあります。株式売渡請求の手続では、取得日の20日前の日から取得日の前日までという短い期間内に申立てを行う必要があるため、相続人間で権利行使者を定めておくことが極めて重要となります。
相続人として準備しておくべき事項
- 株式の帰属(単独相続か、準共有か)と各相続人の相続分を、戸籍等の資料により早期に確定しておくこと。
- 準共有状態にある場合には、持分の価格の過半数により権利行使者を定め、会社に通知しておくこと。権利行使者の指定については、準共有株式の権利行使者の指定と売渡しの請求で整理しています。
- 名義株主の死亡から長期間が経過している場合には、相続関係が複雑になっていることが多いため、早い段階で遺産分割を進めること。
本決定が扱っていない事項
- 本決定は、売渡株式の売買価格の評価方法については判断していません。
- 本決定は、令和3年法律第24号による改正(令和5年4月1日施行)前の民法の共有に関する規定を前提とした判断です。
- 本決定は地方裁判所の決定であり、同種の問題について上級審の判断を示したものではありません。
よくあるご質問
質問1 遺産分割が終わっていない株式について、相続人の一人が価格決定を申し立てることはできますか。
本決定は、権利行使者の指定及び通知がない状態での単独の申立てを不適法として却下しました。準共有者の一人が単独で申し立てる場合には、本決定の考え方によれば申立てが認められないおそれがあります。
質問2 価格決定の申立てはなぜ保存行為に当たらないのですか。
本決定は、価格決定の申立てが売買価格を高めることを目的とするものであり、理論上は株式売渡請求で定められた対価よりも低い価格で決定される可能性もあることを理由としています。
質問3 権利行使者はどのように定めればよいですか。
準共有株式の権利行使者の指定は、持分の価格に従いその過半数で決するのが一般的な理解です。具体的な手順については個別の事情に応じて検討が必要です。
本記事の根拠条文
- 会社法第106条、第179条の8第1項
- 民法第251条、第252条、第264条(本決定当時)
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