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事業承継の争いの対策とは?遺言、事業承継信託及び遺留分の特例

この記事の位置付け

事業承継の争いを予防する手立てに関するメインのページです。本ページは、遺言、事業承継信託及び遺留分の特例という三つの備えを並べ、選び方をご説明します。公的な支援制度は別のページをご参照ください。

▶ 事業承継税制の仕組みと相続税及び贈与税の負担を軽減する条件

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本記事は、自分の死後に相続人の間で会社の株式をめぐる争いが起きないよう、後継者への承継の方法を設計しておきたいオーナー経営者の方に向けたものです。

遺言、生前贈与、事業承継信託により後継者に株式を集めても、他の相続人から遺留分侵害額の請求を受けることがあり、2019年7月1日以後に開始した相続では金銭の支払が求められます。遺留分の放棄や遺留分に関する民法の特例を含めて備えることが必要です。以下、順にご説明します。

事業承継においては、後継者に自社株式を集中的に相続させる必要がありますが、オーナーが生前に何も対策を打たないと、死後に「争族」が起こりがちです。

この記事では、事業承継の「争族」対策として、「遺言」「事業承継信託」「遺留分特例」を紹介し、特に注意しなければならない遺留分侵害額請求とその対策を考えていきます。

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本稿は、相続人の間に紛争が生じることを防ぐという観点から、遺言、事業承継信託及び遺留分に関する民法の特例を用いて後継者へ自社の株式を承継させる方法、とりわけ事業承継信託の仕組みと遺留分への備えについて解説するものです。生前贈与及び遺言により株式を承継させる場合に実際に踏むべき手続、すなわち贈与契約書に記載すべき事項、意思能力の確認、遺言の方式、遺言執行者、譲渡制限株式の承認及び株主名簿の名義書換については 生前贈与及び遺言により後継者へ株式を承継させる場合の手続と留意点 をご参照ください。

目次

事業承継の「争族」対策に必須の遺言・事業承継信託・遺留分特例について

事業承継では、後継者が安定して意思決定に関与できるよう、議決権の構成を確認します。株式数の割合だけで判断せず、株式の種類、議決権の有無、定款及び決議事項ごとの要件を確認する必要があります。

そのような事態に陥らないように、オーナーが生前にできる対策としては次の方法が挙げられます。

  1. 遺言
  2. 生前贈与
  3. 事業承継信託
  4. 遺留分特例

遺言

1つ目の対策として、オーナーが生前に遺言書を作成しておく方法は、最も一般的といえます。

遺言がない場合は、相続人間の遺産分割協議を行い、合意できなければ調停・審判等を検討します。法定相続分だけで個々の財産の取得者が自動的に決まるわけではありません。オーナーの思い通りに遺産が分割されるとは限りません。しかし、生前に遺言書を作成しておけば、それに従って相続人が遺産を相続します。

遺言には次の3種類があります。

  • 自筆証書遺言:遺言の内容・日付・名前を自筆で記して押印すれば作成可
  • 公正証書遺言:公証役場で、公証人に要件を確認してもらいながら作成
  • 秘密証書遺言:内容は秘密のまま、遺言が存在することのみ公証人が証明

「争族」を避けたいのなら、公正証書遺言を作成しましょう。ほかの形式の場合、遺言内容を作るのが素人である被相続人のため、必要な要件を満たさずに遺言が無効になったり、複数の解釈が可能な書き方をしたりして、無用なトラブルにつながる可能性があるからです。

生前贈与&相続時精算課税制度

2つ目の対策である「生前贈与」とは、名前の通り生前に財産を渡すことです。生前贈与では、後継者が自社株式の取得対価を支払わないですむのはメリットですが、税率が高い贈与税を納める義務が生じるのはデメリットです。

しかし、中小企業の事業承継が円滑に進むように政府が施行した「事業承継税制」を活用すれば、一定割合の贈与税・相続税が猶予されます。

法人版事業承継税制には一般措置と特例措置があります。一般措置と特例措置では対象株数、猶予割合、期限等が異なり、会社・後継者・取得方法等の要件と継続的な手続の確認が必要です。制度の選択を一律に「親族間・株式の3分の2まで」と説明することはできません。

事業承継税制など、さまざまな制度を活用して相続税対策を取れば、後継者が支払う相続税額は大きく変わってきます。後述する遺留分に配慮して揉めない相続を行うには、まず法律のプロである弁護士に相談し、必要なら弁護士経由で税理士と連携することが大切です。

相続時精算課税を選択する方法もあります。2024年1月1日以後の対象贈与には年110万円の基礎控除が設けられ、別途、累計2,500万円の特別控除があります。相続時の加算や控除、適用対象者及び選択手続を確認し、暦年課税と比較して検討します。

事業承継信託

3つ目の対策である「事業承継信託」について解説します。

まず「信託」とは、相手を信頼して委託(業務などを依頼)することであり、特に、財産の管理や運用を信頼できる相手に委託する制度のことです。

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事業承継信託の信託契約の作成

信託は次の三者から構成され、委託者と受託者の間で交わされるのが「信託契約」です。

委託者:もっている財産を預ける(信託する)人

受託者:財産の管理・運用を頼まれる(信託される)人

受益者:財産から生じた利益を、受託者から受け取る人(委託者と同一人物でも可)

事業承継信託の信託の種類

信託には、信託会社等が営業として引き受けるものと、民事信託として利用されるものがあります。

商事信託:一般に信託銀行・信託会社等が営業として引き受ける信託を指します。

民事信託:家族等が関与する財産管理・承継に利用されます。家族信託はその一般的な呼称の一つです。報酬の有無だけで信託業の該当性は決まりません。

事業承継を目的とする信託は、金融機関の商品に限られません。誰が受託者となるか、適法に引受けができるか、株式と受益権をどのように扱うかを設計します。

事業承継信託の遺言代用信託とは

事業承継信託にはいくつかの方法がありますが、代表的なものとして「遺言代用信託」を紹介します。遺言代用信託において、関係する三者は次のようになります。

委託者:現オーナー

受託者:信託銀行など

受益者:現オーナー

第2受益者:後継者

信託銀行を利用する設計では、現オーナーが委託者兼当初受益者となり、自社株式を信託する方法があります。ただし、議決権の行使・指図と配当の分配の仕組みは、商品と契約によって異なります。

オーナーの死亡後も信託を継続して後継者が受益権を取得する設計と、死亡を終了事由として残余財産を給付する設計は区別します。死亡による終了や後継者への株式交付が全ての信託に共通するわけではありません。

遺言代用信託は承継時の停滞に備える選択肢ですが、議決権の行使者、後継受託者、株主名簿及び会社機関の手続まで確認する必要があります。受益権の取得と取締役等の地位の承継は同じではなく、信託契約だけで経営の空白を必ず防げるものではありません。

「争族」を避けるには「遺留分」対策が不可欠

ここまで、後継者に自社株式を集中させるための対策として、遺言・生前贈与・事業承継信託を紹介してきました。しかし、この3つの対策においては「遺留分」の存在について注意する必要があります。

遺留分は、兄弟姉妹以外の相続人について一定の利益を保護する制度です。2019年7月1日以後に開始した相続では、原則として遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを請求します。請求だけで自社株式を当然に分割する制度ではありません。

さらに、遺留分を算定する基礎財産には、生前贈与や遺贈をされた財産(特別受益)も含まれる点に注意が必要です。

全相続財産の1/2(相続人が直系尊属のみの場合は1/3)が、全遺留分の合計(総体的遺留分)として確保されます。そこから個別の遺留分(個別的遺留分)を計算するには、総体的遺留分に法定相続割合を掛け算します。

遺言・生前贈与・事業承継信託しても「遺留分」の問題は発生する

たとえば、後継者の長男が自社株式を、次男が同額の不動産を相続する遺言を作成したとしましょう。

法定相続人:長男(後継者)・次男

自社株式:4000万円(長男が相続)

不動産:4000万円(次男が相続)

この仮定例で、相続時の自社株式が1億6,000万円、不動産が4,000万円で、他に財産・債務・贈与等がないとします。次男の個別的遺留分は5,000万円となり、不動産4,000万円を取得していれば差額1,000万円の侵害額が問題になります。現在の制度では金銭の支払いが基本であり、株式が請求によって当然に分散するわけではありません。

自社株式の価値が上昇した場合には、遺留分侵害額の評価と支払資金の確保が問題となり得ます。株式評価と承継方法を併せて検討します。

遺留分の放棄

「遺留分の放棄」は、被相続人の生前に、相続人が遺留分侵害額請求をする権利をあらかじめ放棄する手続きです。具体的には、オーナーなどが後継者以外の相続人に、遺留分を放棄するよう頼んでおく方法などが考えられます。

相続開始前の遺留分放棄には家庭裁判所の許可が必要です(民法第1049条)。本人の自由な意思、放棄する範囲及び事情を確認する必要があり、家族間で頼んだだけで効力が生じるものではありません。

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遺留分特例

このような遺留分の問題に対処して事業承継を円滑に進めるために、中小企業庁は2008年から「経営承継円滑化法」を施行しています。そのうちの一つが「遺留分に関する民法の特例」(民法特例)です。

遺留分権利者全員の合意と所要の手続を経ること等を前提に、後継者が贈与等により取得した株式について、次のような合意を利用できます。単に遺言で将来相続させる株式について、家族の合意だけで特例が適用されるわけではありません。

  1. 除外合意:自社株式を遺留分算定基礎財産に含まない
  2. 固定合意:遺留分算定基礎財産に算入する自社株式の価額を、合意時の時価に固定
  3. 付随合意:除外合意・固定合意と併せ、所定の要件のもとで次の財産等を遺留分算定基礎財産から除外する合意
  • 後継者:自社株式以外の財産
  • 非後継者:贈与された財産

先ほどの例を使って説明します。

自社株式:4,000万円の時点で長男に贈与し、適法に特例の手続を完了した後、相続時に1億6,000万円へ上昇したとの仮定

不動産:4000万円(次男が相続)

除外合意の場合は、自社株式が除外されるので、遺留分算定基礎財産は4000万円です。それぞれの個別的遺留分は、4000万円×1/2×1/2=1000万円となります。

固定合意の場合は、自社株式の価額が4000万円に固定されるので、遺留分算定基礎財産は8000万円です。それぞれの個別的遺留分は、8000万円×1/2×1/2=2000万円となります。どちらの場合も、自社株式の価値が上昇しても影響を受けません。

付随合意は、除外合意・固定合意のいずれか、ないし両方を選んだうえで選択できるオプションのようなものです。この民法特例では後継者が有利になってしまうため、非後継者には不公平感が生じ、同意を得るのが難しくなりがちです。そのため、非後継者においても、贈与などで得た財産を基礎財産から外せるようになっています。

信託を含む承継設計を見直すときの確認事項

遺言、民事信託、生前贈与、種類株式、生命保険、任意後見等は、目的と効力発生時期、変更方法、税務及び紛争時の手続が異なります。信託契約だけで全ての目的を達成できると考えず、会社と家族双方の事情を確認します。

既に信託契約を締結している場合は、契約書と変更書類、定款・株主名簿、株式評価資料、遺言、贈与の記録を照合します。信託の是正、受託者への請求、作成に関与した専門家への責任追及は、根拠と相手方が異なります。作成者の職種だけで責任が決まるわけではありません。

契約内容や管理・分配、財産承継で対立が生じている方は、民事信託・家族信託の契約内容や財産承継に関する法律相談を御覧ください。

一次資料:信託法、民法、国税庁・法人版事業承継税制、国税庁・相続時精算課税制度、中小企業庁・経営承継円滑化法による支援。

まとめ

後継者に自社株式を集中的に相続させるために、オーナーが生前にできる対策には、「遺言」「生前贈与」「事業承継信託」「遺留分特例」が挙げられます。

遺言や生前贈与は一般的ですが、「争族」トラブルを生まないためには、公正証書遺言の作成や事業承継税制の活用など、専門家によりよい対策をアドバイスしてもらうのが効果的です。事業承継信託を検討する場合は、受益権の取得と株式・議決権・会社機関の手続を区別し、承継時に必要な対応を設計します。

この3つの対策においては、後継者以外の相続人から遺留分侵害額請求を受けないように手を打っておく必要があります。事前に相続人全員の合意を得て、遺留分特例を活用できる環境を作っておくことが大切です。

「争族」を避けて事業承継を円滑に進めるには、後継者以外の相続人に対する配慮が求められます。相続のプロである弁護士なら、豊富な実例をもとに適切な対策をアドバイスできますので、ぜひ相談してみてください。

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本ページの主題に関し、当事務所の取扱内容、対応の進め方及び費用の考え方は、次のご案内のページに整理しています。あわせてご覧ください。

執筆者

弁護士法人M&A総合法律事務所 代表弁護士 土屋勝裕(東京弁護士会所属 登録番号26775)

平成23年に最高裁判所において株式買取請求権に関する逆転判決を得た弁護士であります。長島・大野・常松法律事務所に在籍した後、慶應義塾大学ビジネス・スクール及びペンシルベニア大学ウォートン校に留学し、ファイナンス理論並びにM&A及び不動産を専攻しました。不動産投資信託(J-REIT)の上場案件にも関与しております。

主として取り扱う分野 M&A、株式買取請求権、非上場株式の価格の決定、企業価値評価、事業承継及び企業法務

所在地 〒105-6017 東京都港区虎ノ門4丁目3番1号 森トラスト城山トラストタワー17階/電話番号 03-6435-8418/受付時間 8:00-21:00(土日祝含む)

本記事の記載は一般的な法律情報であり、個別の事案に関する法律上の助言ではありません。記載した経歴は事実の記述であり、個別の事件の結果を保証するものではありません。

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