事業承継に関する公的な支援制度の枠組みと利用に際しての法律上の留意点
事業承継について、国の支援制度があると聞きました。どのようなものがあり、当社は利用することができるのでしょうか。このようなご相談を、当事務所はしばしばお受けしております。
先に結論を申し上げます。中小企業の事業承継に関する公的な支援は、中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律を中心として、4つの区分に整理されております。すなわち、課税の取扱いに関する支援、金融に関する支援、遺留分に関する民法の特例、及び所在の分からない株主に関する会社法の特例でございます。これらに加えて、予算に基づく補助の制度がございます。本記事では、これらの制度の枠組みと、利用に際しての法律上の留意点を申し上げます。なお、税率、控除の額、補助の額その他の数値は、改正により変動いたしますので、本記事においては記載いたしません。具体的な取扱いにつきましては、税理士又は所管の行政機関にご確認ください。
第1節 支援制度の全体像
中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律
この法律は、中小企業の代表者の死亡等に起因する経営の承継が中小企業の事業活動の継続に影響を及ぼすことに鑑み、遺留分に関する民法の特例、金融の支援、及びその他の措置を講ずることを目的とするものでございます。事業承継に関する公的な支援の中核をなす法律でございます。
4つの区分
第1は、非上場株式等についての贈与税及び相続税の納税の猶予及び免除の制度でございます。一般に事業承継税制と呼ばれております。第2は、金融の支援でございまして、信用保証の特例及び政府系金融機関による融資の特例がございます。第3は、遺留分に関する民法の特例でございます。第4は、所在の分からない株主に関する会社法の特例でございます。
共通する構造
これらの制度は、いずれも、都道府県知事又は経済産業大臣の認定又は確認を受けることを要件としております。すなわち、要件を満たすかどうかを行政機関が判断し、その判断を受けて初めて効果が生ずるという構造でございます。したがいまして、申請の時期、提出すべき書類、認定の後の報告の義務について、あらかじめ確認しておく必要がございます。
中小企業者の範囲
これらの制度の対象となる中小企業者の範囲は、業種ごとに、資本金の額又は従業員の数によって定められております。具体的な基準につきましては、所管の行政機関にご確認ください。
第2節 課税の取扱いに関する支援の枠組み
制度の性質
非上場株式等についての贈与税及び相続税の納税の猶予及び免除の制度は、後継者が先代の経営者から非上場株式等を取得した場合において、一定の要件のもとで、その株式等に対応する贈与税又は相続税の納付を猶予し、一定の事由が生じたときにこれを免除するものでございます。
免除ではなく猶予でございます
この制度の要点は、直ちに税が免除されるものではなく、まず納付が猶予されるという点にございます。猶予の期間中に一定の事由が生じますと、猶予が打ち切られ、猶予されていた税額及び利子税を納付しなければなりません。したがいまして、制度を利用するかどうかは、猶予が打ち切られる事由が生ずるおそれの程度を見込んだうえで判断すべきものでございます。
継続的な要件及び報告の義務
制度の適用を受けた後も、一定の期間、雇用の維持その他の要件を満たし、かつ、行政機関及び税務署に対して継続的に報告又は届出をする義務がございます。これらを怠りますと、猶予が打ち切られることがございます。制度の利用は、単発の手続ではなく、長期にわたる管理を伴うものでございます。
税務の判断は税理士にご確認ください
適用の要件、猶予される税額の計算、猶予が打ち切られる事由の該当性は、いずれも税務上の判断でございます。税理士にご確認ください。当事務所は、税務の申告の代理を行うものではございません。
第3節 遺留分に関する民法の特例
制度の趣旨
後継者に株式を集中させますと、他の相続人の遺留分を侵害することがございます。遺留分権利者は、受遺者又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができますので(民法第1046条第1項)、後継者が多額の金銭の支払を求められ、株式を手放さざるを得なくなる事態が生じ得ます。この特例は、これを回避するための制度でございます。
除外の合意
推定相続人の全員の合意により、後継者が先代の経営者から取得した株式の価額を、遺留分を算定するための財産の価額に算入しない旨を定めることができます。これによって、当該株式は遺留分の算定の基礎から外れます。
固定の合意
推定相続人の全員の合意により、遺留分を算定するための財産の価額に算入すべき株式の価額を、合意の時における価額に固定する旨を定めることができます。承継の後に後継者の努力によって株式の価額が上昇した場合に、その上昇分が遺留分の算定に影響しないようにするものでございます。
手続
これらの合意は、書面によってしなければならず、かつ、経済産業大臣の確認及び家庭裁判所の許可を受けなければ、その効力を生じません。推定相続人の全員の合意を要しますので、既に相続人の間に対立がある事案におきましては、利用が困難でございます。逆に申しますと、対立が生ずる前の段階で着手すべき制度でございます。
第4節 金融に関する支援
制度の枠組み
事業承継に際して資金を要する場合につきまして、信用保証協会の保証の別枠を設ける特例、及び政府系金融機関による代表者個人に対する融資の特例が定められております。いずれも、都道府県知事の認定を受けることが要件とされております。
資金を要する場面
後継者が他の相続人から株式を買い取る場合、後継者が遺留分侵害額の請求に応じて金銭を支払う場合、相続税の納付のために資金を要する場合、会社が自己株式を取得する場合などが、これに当たります。
個人保証との関係
借入れに際しては、通常、代表者の個人保証が求められます。事業承継の局面におきましては、前経営者の保証を解除し、後継者が新たに保証をするという処理を併せて検討することとなります。経営者の個人保証の在り方につきましては、関係団体によってガイドラインが策定されており、金融機関の実務において参照されております。
第5節 所在の分からない株主に関する会社法の特例
会社法の原則
会社法は、株主に対する通知又は催告が継続して5年以上到達せず、かつ、その株主が継続して5年間剰余金の配当を受領しなかった場合には、会社がその株式を競売し、又は法定の手続により売却することができる旨を定めております。会社が自ら買い取ることも、一定の手続のもとで認められております。
特例による期間の短縮
中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律は、事業承継のために必要である場合において、都道府県知事の認定を受けたときは、この期間を1年に短縮する特例を定めております。先代からの相続によって株主が分散し、所在の分からない株主が生じている会社につきまして、株式を集約する手段となり得ます。
所在不明の株主が生ずる原因
創業から長期間を経た会社におきましては、当初の株主に相続が繰り返され、現在の株主が誰であるかを会社が把握していないことがございます。株主名簿が更新されていない会社におきましては、この問題が顕在化いたします。第三者への株式の譲渡を検討する段階で判明することが多うございます。
第6節 補助の制度の一般的な性質
予算に基づく制度でございます
事業承継に関する補助の制度は、法律に基づく恒常的な制度ではなく、予算に基づいて年度ごとに実施されるものでございます。したがいまして、対象となる経費の範囲、申請の期間、補助の額はいずれも年度によって変動いたします。本記事において具体的な数値を記載しないのは、このためでございます。
公募の期間が限られております
補助の制度は、公募の期間が限られていることが通例でございます。事業承継の手続と公募の時期とが合致しない場合には、利用することができません。制度の利用を前提として計画を立てることは、相当ではございません。
最新の情報をご確認ください
対象となる事業者の範囲、対象となる経費、申請の手続につきましては、所管の行政機関が公表する最新の情報をご確認ください。
第7節 制度の利用に際しての法律上の留意点
制度の利用は目的ではございません
支援制度の利用が可能であることと、それが当該会社にとって最善の方法であることとは、別のことでございます。課税の猶予の制度を利用するために、本来であれば第三者に譲渡すべき事案において親族内の承継を選択するというのは、順序が逆でございます。まず承継の方針を定め、その方針に適合する制度があれば利用するという順序が正しゅうございます。
長期の義務を伴います
課税の猶予の制度は、長期にわたる要件の維持及び報告の義務を伴います。将来において会社を第三者に譲渡する可能性がある場合、事業の再編を予定している場合には、猶予が打ち切られる事由に該当するおそれがございます。あらかじめ検討を要します。
推定相続人の全員の合意を要する制度がございます
遺留分に関する民法の特例は、推定相続人の全員の合意を要します。既に相続人の間に対立がある事案におきましては、事実上利用することができません。制度の利用を検討するのであれば、対立が生ずる前の段階で着手する必要がございます。
認定の要件と法律上の効力とは別でございます
行政機関の認定を受けたことは、その手続が私法上有効であることを意味するものではございません。株式の譲渡について会社の承認を得ていない、株主総会の決議に瑕疵がある、といった問題は、認定によって治癒されるものではございません。会社法上の手続を適正に履践することが前提でございます。
第8節 弁護士にご相談いただく意味
支援制度の利用に関する手続のうち、課税の取扱いに関する部分は税理士の、行政機関に対する申請の部分は事案によっては行政書士の領分でございます。当事務所が扱いますのは、その前提となる法律関係の整理でございます。すなわち、株主が誰であるかの確定、株式の譲渡に関する会社法上の手続、遺留分の処理、定款の整備、推定相続人との合意の形成でございます。
これらが整っていないまま制度の利用のみを先行させますと、後に手続の効力が争われ、あるいは推定相続人から異議が述べられることとなります。当事務所は、事業承継の方針の決定から、株式の承継に関する法律関係の整理、遺言及び定款の整備、並びに相続が開始した後の紛争の解決までをお引き受けしております。
よくあるご質問
補助の額はどの程度でしょうか
年度によって変動いたしますので、本記事では申し上げられません。所管の行政機関が公表する最新の情報をご確認ください。
課税の猶予の制度を利用すれば、税を納めなくてよいのでしょうか
直ちに免除されるものではなく、まず納付が猶予されるものでございます。一定の事由が生じますと猶予が打ち切られ、猶予されていた税額及び利子税を納付しなければなりません。詳細は税理士にご確認ください。
遺留分に関する特例を使いたいのですが、相続人の一人が反対しております
推定相続人の全員の合意を要しますので、利用することができません。この場合には、遺言による設計、原資の確保、株式以外の財産の配分の調整といった他の方法を検討いたします。
株主の一部と連絡がつきません
会社法の定める手続によるほか、都道府県知事の認定を受けることによって期間を短縮する特例がございます。株主名簿の整備と併せてご相談ください。
費用はどの程度かかりますか
会社の規模、株主の数、採る方法によって異なります。弁護士費用につきましては、当ウェブサイトの弁護士費用一覧のページをご覧ください。
本記事の根拠条文
中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律(遺留分に関する民法の特例、金融の支援、所在の分からない株主に関する会社法の特例)
民法 第1046条第1項(遺留分侵害額の請求)
会社法 第197条(株式の競売等)
弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談
弁護士法人M&A総合法律事務所では、事業承継の方針の決定、株主の確定及び株主名簿の整備、株式の承継に関する会社法上の手続、遺留分の処理、遺言及び定款の整備、並びに相続が開始した後の紛争の解決についてご相談をお受けしております。
- 電話番号 03-6435-8418
- 受付時間 8時00分から21時00分まで
- 土曜日・日曜日・祝日も受付いたします
- ご相談は事前予約制です
弁護士費用については、当ウェブサイトの弁護士費用一覧のページをご覧ください。
ご相談の際に、会社の定款、登記事項証明書、株主名簿、直近の計算書類、及び推定相続人の関係が分かる資料をご用意いただけますと検討が早く進みます。なお、税務上の取扱いについては税理士にご確認ください。
本記事は一般的な制度の説明でございまして、個別の事案における結論を保証するものではございません。具体的な対応につきましては、事案の内容に即して弁護士にご相談ください。
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