後継者が不在の場合に廃業を選ぶ前に検討すべき法律上の選択肢と決定の時期

会社を経営しておりますが、子は既に別の職に就いており、事業を継ぐ意思がございません。従業員にも適当な者がおりません。このまま自分が引退するときは、会社を畳むほかないのでしょうか。あるいは、経営者である父が高齢となったが、後継者が決まっていない。このまま相続が開始したらどうなるのか。このようなご相談を、当事務所はしばしばお受けしております。

先に結論を申し上げます。後継者が不在であることは、直ちに廃業を意味するものではございません。会社を存続させたまま経営を他者に委ねる方法、株式のみを第三者に譲り渡す方法、事業だけを譲り渡す方法がございます。他方、これらがいずれも困難である場合には、会社の解散及び清算という選択がございます。重要でありますのは、これらの選択肢には、それぞれ要する期間が異なり、かつ、経営者の判断能力及び生存が前提となるものが多いということでございます。何も決めないまま相続が開始いたしますと、株式が相続人の間で準共有の状態となり、会社の意思決定そのものが停止するおそれがございます。本記事では、後継者が不在である場合の選択肢を法律上の手続の観点から整理し、どの順序で検討し、いつまでに何を決めておくべきかを申し上げます。

目次

第1節 何も決めないまま相続が開始した場合に生ずること

 株式は相続人の準共有となります

被相続人が保有していた株式は、遺産分割が調うまでの間、相続人の共有に属します(民法第898条第1項)。株式が2人以上の者の共有に属するときは、共有者は、当該株式についての権利を行使する者1人を定め、株式会社に対し、その者の氏名又は名称を通知しなければ、当該株式についての権利を行使することができません(会社法第106条)。権利を行使する者の指定は、共有者の持分の価格に従いその過半数をもって決するものと解されております。

 議決権の行使ができなくなるおそれがございます

したがいまして、相続人の間で意見が一致しない場合には、権利を行使する者を定めることができず、議決権を行使することができない状態が生じます。経営者が過半数の株式を保有していた会社におきましては、これによって株主総会の決議が成立せず、役員の選任もできないという事態に至ります。会社の意思決定が停止いたしますと、金融機関との取引、取引先との継続的な契約、許認可の維持のいずれにも支障が生じます。

 代表者が不在となる場合

経営者が唯一の取締役であった場合には、その死亡によって取締役が不在となります。役員が欠けた場合には、任期の満了又は辞任により退任した役員が、なお役員としての権利義務を有する旨の規定がございますが、死亡の場合にはこれが適用されません。この場合には、一時役員の職務を行うべき者の選任を裁判所に申し立てることを検討せざるを得ません。

 株式が分散いたします

遺産分割が調いましても、相続人が複数ある事案におきましては、株式が分散することが少なくございません。事業に関与しない相続人が株式を保有することとなりますと、その後の経営に関する意思決定において同意を要する場面が生じ、また将来において株式の買取りを求められることがございます。

 したがいまして、生前に決めておくことが要点でございます

以下に申し上げる選択肢のうち、第三者への株式の譲渡、事業の譲渡、及び会社の解散のいずれも、経営者が判断能力を有し、かつ生存していることを前提とするものでございます。相続が開始した後に、相続人がこれらを行うことは、不可能ではございませんが、著しく困難となります。

第2節 検討の順序

 まず事業に価値があるかを見極めます

事業を継続することに価値があるのか、それとも既に価値が失われているのかによって、採るべき方向が分かれます。営業利益が継続的に計上されているか、取引先との関係が経営者個人に依存していないか、許認可を要する事業である場合にその要件を満たす人員が確保できるか、といった点が判断の材料となります。

 次に承継の相手方を探索いたします

事業に価値があるのであれば、親族、役員及び従業員、第三者の順に、承継の相手方を探索いたします。この順序は絶対のものではございませんが、事業の内容の理解の程度、従業員及び取引先の受け止め、手続の簡便さという観点からは、この順序が穏当でございます。

 いずれも困難である場合に、清算を検討いたします

承継の相手方が見つからない場合、又は事業を継続することに価値がない場合には、会社の解散及び清算を検討いたします。この場合におきましても、債務超過であるかどうかによって、手続が分かれます。

 時間の見込み

第三者への株式の譲渡は、相手方の探索から契約の締結まで、相当の期間を要することが通例でございます。事業の譲渡も同様でございます。会社の解散及び清算につきましても、債権者に対する公告の期間を含め、相当の期間を要します。したがいまして、経営者が高齢である事案におきましては、早期に着手することが不可欠でございます。

第3節 親族内の承継

 最も手続が簡便でございます

子その他の親族が事業を承継する場合には、株式の承継は相続又は生前の贈与若しくは譲渡によることとなり、手続としては最も簡便でございます。取引先及び金融機関の受け止めも良好であることが多うございます。

 株式を後継者に集中させる必要がございます

もっとも、相続人が複数ある場合には、株式が分散するおそれがございます。後継者に株式を集中させるためには、遺言によって後継者に相続させる旨を定めておくこと、生前に贈与又は譲渡をしておくこと、種類株式を活用することなどが考えられます。

 遺留分への配慮

株式を後継者に集中させますと、他の相続人の遺留分を侵害することがございます。遺留分権利者は、受遺者又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができますので(民法第1046条第1項)、後継者が多額の金銭の支払を求められ、その原資を確保するために株式を手放さざるを得なくなるという事態が生じ得ます。

 遺留分に関する民法の特例

中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律は、一定の要件のもとで、推定相続人の全員の合意及び経済産業大臣の確認並びに家庭裁判所の許可を得て、後継者が取得した株式を遺留分を算定するための財産の価額に算入しない旨の合意、又はその価額をあらかじめ固定する旨の合意をすることができる制度を定めております。前者を除外の合意、後者を固定の合意と申します。要件が厳格でございますが、遺留分をめぐる将来の紛争を予防する手段として有効でございます。

 税務の取扱いについて

株式の贈与又は譲渡に伴う課税の取扱いにつきましては、税理士にご確認ください。当事務所は、税務の申告の代理を行うものではございません。

第4節 役員又は従業員への承継

 事業の理解という点では有利でございます

長年にわたり会社に勤めてきた役員又は従業員が事業を承継する場合には、事業の内容、取引先との関係、従業員の状況について既に理解がございますので、承継の後の混乱が小さうございます。

 株式の取得の資金が課題となります

他方で、株式を取得するための資金を後継者が確保することができるかが、最大の課題でございます。会社の規模によっては、個人が調達することのできる額を超えることがございます。この場合には、持株会社を設立して借入れによって株式を取得する方法、複数の役員が共同で取得する方法、段階的に取得する方法などが検討されます。

 経営者の個人保証の引継ぎ

会社の借入れについて前経営者が個人として保証をしている場合には、その処理が問題となります。後継者に保証を求められることが通例でございますが、後継者にとっては重い負担でございまして、承継を断念する理由となることがございます。この点につきましては、第9節において改めて申し上げます。

 従前の経営者との関係

従前の経営者が株式の一部を保有したまま退任する場合には、その後の意思決定において対立が生ずることがございます。退任の後の関与の在り方、株式の残りの部分の処理の時期及び方法をあらかじめ定めておくことが望ましゅうございます。

第5節 第三者への株式の譲渡

 会社を存続させたまま経営を委ねる方法でございます

株式の全部又は過半数を第三者に譲り渡す方法でございます。会社そのものは存続いたしますので、従業員の雇用、取引先との契約、許認可のいずれも原則として維持されます。廃業と比較した場合の最も大きな利点は、この点にございます。

 譲渡の制限

中小企業の株式には、譲渡による取得について会社の承認を要する旨の定款の定めが置かれていることが通例でございます。この場合には、株主は、会社に対して譲渡の承認を請求し、その承認を得る必要がございます。会社が承認をしない場合には、会社又は会社が指定する者が買い取ることとなります。

 株式が分散している場合

先代からの相続によって株式が分散している場合には、譲受人は通常、株式の全部の取得を求めますので、少数株主から株式を集約する作業を要します。この作業に長期間を要し、又は一部の株主の協力が得られないために、譲渡そのものが実現しない事案がございます。株式の分散は、後継者不在の会社にとって、廃業を余儀なくされる典型的な原因の一つでございます。

 手続の流れ

相手方の探索、秘密保持に関する契約の締結、基本的な条件の確認、買主による調査、契約の締結、代金の支払及び株式の引渡しという順序で進むのが通例でございます。買主による調査におきましては、契約関係、労務、許認可、訴訟の有無、簿外の債務の有無などが確認されます。

 準備しておくべきこと

株主名簿の整備、株券を発行する旨の定めがある場合の株券の所在の確認、議事録の整備、契約書の整備、労務に関する記録の整備は、いずれも早期に着手しておくべきものでございます。これらが整っていない会社は、調査の段階で価格の減額を求められ、又は取引そのものが中止されることがございます。

第6節 事業の譲渡

 会社は残し、事業のみを譲り渡す方法でございます

株式を譲り渡すのではなく、事業に属する資産、負債、契約上の地位及び従業員を、個別に譲り渡す方法でございます。会社そのものは譲渡人のもとに残りますので、譲渡の後に解散及び清算をすることとなるのが通例でございます。

 譲受人にとっての利点

株式の譲渡におきましては、譲受人は会社の権利義務を包括的に承継いたしますので、簿外の債務、過去の税務上の問題、係属中の紛争についても引き継ぐこととなります。事業の譲渡におきましては、承継する対象を契約によって限定することができますので、譲受人にとってはこれらの危険を避けることができます。したがいまして、簿外の債務の有無に不安がある会社につきましては、事業の譲渡の方式が採られることがございます。

 手続

事業の全部の譲渡、又は事業の重要な一部の譲渡につきましては、株主総会の特別決議を要します。譲渡に反対する株主は、会社に対し、自己の有する株式を公正な価格で買い取ることを請求することができます。

 個別の移転を要します

事業の譲渡におきましては、資産、契約及び従業員が当然に移転するものではございません。不動産については所有権の移転の登記、債権については債務者に対する通知又はその承諾、契約上の地位については相手方の承諾、従業員については個別の同意が、それぞれ必要でございます。取引先の数が多い会社におきましては、この作業に相当の負担を要します。

 許認可は原則として承継されません

許認可は、原則として事業の譲渡によって当然に承継されるものではございません。譲受人において改めて取得することを要します。許認可を要する事業におきましては、この点が方式の選択を左右いたします。

第7節 会社の解散及び清算

 解散の決議

株式会社は、株主総会の決議によって解散いたします(会社法第471条第3号)。この決議は、特別決議によることを要します。解散をいたしましても、会社は直ちに消滅するものではなく、清算の目的の範囲内において存続いたします。

 清算人

解散をいたしますと、清算人が就任し、現務の結了、債権の取立て及び債務の弁済、残余財産の分配という職務を行います。定款に定めがある場合又は株主総会において選任した場合を除き、取締役が清算人となるのが原則でございます。

 債権者に対する公告

清算人は、清算株式会社の債権者に対し、一定の期間内にその債権を申し出るべき旨を官報に公告し、かつ、知れている債権者には各別にこれを催告しなければなりません。この期間は、2箇月を下ることができません(会社法第499条第1項)。この公告の期間があるため、清算の結了までには一定の期間を要します。

 残余財産の分配及び清算の結了

債務を弁済した後に残余の財産がある場合には、これを株主に分配いたします。清算が結了いたしましたら、決算報告を株主総会に提出して承認を受け、清算結了の登記を申請いたします。

 解散を選ぶ場合の検討事項

解散を選ぶ場合であっても、事業に属する資産のうち価値のあるものを個別に譲り渡し、その代金を清算の原資とすることが考えられます。何も譲り渡さずに廃棄するよりも、株主に分配することのできる残余財産が増加いたします。また、従業員の再就職の支援、取引先に対する説明の時期及び方法についても、あらかじめ計画を立てておく必要がございます。

 解散に伴う税務の取扱い

解散及び清算に伴う課税の取扱いにつきましては、税理士にご確認ください。当事務所は、税務の申告の代理を行うものではございません。

第8節 債務超過である場合の手続

 通常の清算によることができません

清算株式会社の財産がその債務を完済するのに足りないことが明らかになったときは、清算人は、直ちに破産手続開始の申立てをしなければならないものとされております。債務超過である場合には、通常の清算の手続によって処理することができません。

 特別清算

清算の遂行に著しい支障を来すべき事情がある場合、又は債務超過の疑いがある場合には、裁判所は、申立てにより、特別清算の開始を命じます(会社法第510条)。特別清算は、裁判所の監督のもとで行われる清算の手続でございまして、債権者との間の協定又は個別の和解によって処理いたします。主要な債権者の同意が得られる見込みがある場合に用いられます。

 破産

債務者が支払不能又は債務超過にあるときは、破産手続開始の決定がされます。破産管財人が選任され、財産を換価して債権者に配当いたします。債権者の同意を要しませんので、同意が得られる見込みのない場合には、この手続によることとなります。

 いずれによるかの判断

債務の内容、主要な債権者の意向、財産の内容、経営者の個人保証の有無によって、いずれの手続によるべきかが分かれます。判断を誤りますと、経営者個人の生活の再建にも影響いたしますので、早期に検討することが必要でございます。

第9節 経営者の個人保証の処理

 保証は相続の対象となります

経営者が会社の借入れについて個人として連帯保証をしている場合、その保証人としての地位は、相続によって相続人に承継されます。相続人が保証の存在を知らないまま単純承認をいたしますと、後に多額の請求を受けることがございます。相続の承認又は放棄を判断すべき3か月の期間内に、必ず確認すべき事項でございます。

 承継の際の取扱い

事業を承継する場合には、前経営者の保証を解除し、後継者が新たに保証をするという処理がされることが通例でございます。もっとも、前経営者と後継者の双方が保証をした状態が継続する例もございます。金融機関との交渉によって、これを整理する必要がございます。

 経営者保証に関するガイドライン

経営者の個人保証の在り方につきましては、関係団体によってガイドラインが策定されております。法令ではございませんが、金融機関の実務において参照されております。法人と経営者個人との資産及び経理が明確に分離されていること、財務の状況が良好であること、適時適切に情報が開示されていることといった要素が、保証を求めない、又は保証を解除する判断の材料とされております。

 早期の整備が有効でございます

法人と個人との資産及び経理の分離は、短期間で実現できるものではございません。会社が経営者個人の不動産を賃借している場合、経営者個人が会社に貸付けをしている場合、経営者の個人的な支出が会社の経費に含まれている場合などにつきまして、時間をかけて整理する必要がございます。承継を検討し始めた段階で着手すべき事項でございます。

第10節 株式の分散を防ぐための法律上の手当て

 譲渡制限の定め

株式の譲渡による取得について会社の承認を要する旨を定款に定めておくことによって、望まない者が株主となることを一定の限度で防ぐことができます。もっとも、相続その他の一般承継による取得につきましては、この定めは及びません。

 相続人等に対する売渡しの請求

譲渡制限株式を相続その他の一般承継により取得した者に対し、当該株式を会社に売り渡すことを請求することができる旨を、定款に定めることができます(会社法第174条)。この定めがある場合には、会社は、株主総会の決議によって、相続人に対し売渡しを請求することができます。株式が事業に関与しない相続人に分散することを防ぐ手段でございます。

 この定めには危険も伴います

他方で、この定めは、後継者である相続人に対しても行使され得ます。経営者が死亡した後、後継者以外の株主が株主総会を招集し、後継者が相続した株式について売渡しを請求するという事態が生じ得ます。売渡しの請求に係る株主総会の決議におきましては、当該相続人は原則として議決権を行使することができないからでございます。定款にこの定めを置く場合には、この危険を踏まえた設計を要します。

 種類株式の活用

剰余金の配当、残余財産の分配、議決権の行使に関する事項その他の事項につき内容の異なる2以上の種類の株式を発行することができます(会社法第108条第1項)。議決権制限株式を事業に関与しない相続人に、議決権のある株式を後継者に割り当てるといった設計が考えられます。もっとも、種類株式を導入するには定款の変更を要し、既存の株主の権利に影響いたしますので、慎重な検討が必要でございます。

 信託の活用

信託を用いて、株式の議決権の行使を受託者に委ね、経済的な利益を相続人に帰属させるという設計も可能でございます。経営者の判断能力が低下した場合に備える手段としても機能いたします。導入に際しては、税務上の取扱いを含めて検討すべき事項が多うございます。

第11節 既に相続が開始してしまった場合に相続人が採り得る手段

 まず権利を行使する者を定めます

株式が相続人の準共有の状態にある場合には、まず、権利を行使する者1人を定め、会社に通知いたします(会社法第106条)。この指定は、共有者の持分の価格に従いその過半数をもって決するものと解されておりますので、相続人の全員の同意までは要しません。会社の意思決定を再開させるための第一歩でございます。

 役員の不在への対応

取締役が不在となった場合には、株主総会を招集して新たに取締役を選任いたします。株主総会を招集することができない状態にある場合には、裁判所に対し、一時取締役の職務を行うべき者の選任を申し立てることを検討いたします。

 会社の帳簿等の確認

相続人が会社の経営に関与していなかった場合には、まず会社の財務の状況を把握する必要がございます。株主は、計算書類等の閲覧又は謄本の交付を請求することができ(会社法第442条第3項)、また、総株主の議決権の一定の割合以上を有する株主は、会計帳簿等の閲覧又は謄写を請求することができます(会社法第433条第1項)。

 会社から売渡しを請求された場合

定款に相続人等に対する売渡しの請求に関する定めがある場合には、相続の後に会社から売渡しを請求されることがございます。この場合、売買価格は会社と相続人との協議によって定めますが、協議が調わないときは、請求があった日から20日以内に、裁判所に対して売買価格の決定の申立てをすることができます(会社法第177条第2項)。この20日という期間は極めて短うございますので、書面を受け取りましたら直ちにご相談ください。

 相続の放棄という選択

会社が債務超過であり、かつ被相続人が個人として保証をしている場合には、相続の放棄を検討することとなります。自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に判断しなければなりません(民法第915条第1項)。会社の財務の状況の把握に時間を要する場合には、家庭裁判所に対して期間の伸長を申し立てることができます。

第12節 意思決定の時間軸

 経営者が60歳代である段階

この段階におきましては、選択肢が最も広うございます。親族内の承継を検討する時間があり、役員又は従業員を育成する時間があり、第三者への譲渡を検討する時間もございます。法人と個人との資産及び経理の分離、株主名簿及び議事録の整備といった、時間を要する作業に着手するのに適した時期でございます。

 経営者が70歳代である段階

この段階におきましては、承継の相手方を具体的に定め、株式の移転の方法を決定すべき時期でございます。第三者への譲渡を検討する場合には、相手方の探索に相当の期間を要しますので、着手を先延ばしにすることはできません。併せて、遺言を作成し、株式の帰属を定めておくことが必要でございます。

 経営者が判断能力を失った場合

経営者が認知症等により判断能力を失いますと、株式の譲渡も、遺言の作成も、会社の解散の決議もできなくなります。成年後見人が選任されたといたしましても、成年後見人は本人の財産の保全を職務といたしますので、事業の承継のための積極的な処分は困難でございます。この段階に至りますと、選択肢は著しく狭まります。判断能力を有する間に決定しておくことが、決定的に重要でございます。

 早期の着手が選択肢を広げます

本記事において申し上げた選択肢のうち、廃業を回避することのできる方法は、いずれも準備に相当の期間を要するものでございます。逆に申しますと、廃業を余儀なくされる事案の多くは、事業に価値がなかったためではなく、準備の時間が足りなかったために生じております。

第13節 生前に整えておくべき事項

 遺言による株式の帰属の指定

後継者が定まっている場合には、遺言によって、当該後継者に株式を相続させる旨を定めておきます。相続人の間に対立が予想される事案におきましては、公正証書遺言によることをお勧めしております。株式以外の財産についても併せて定め、他の相続人との均衡に配慮いたします。

 遺留分の原資の確保

株式を後継者に集中させる場合には、他の相続人の遺留分を侵害することが少なくございません。生命保険を活用して後継者が金銭を取得することができるようにしておく、退職慰労金の支給の方針を定めておくなど、遺留分侵害額の請求に応ずるための原資を確保しておくことが考えられます。

 株主名簿及び議事録の整備

株主名簿が長年にわたり更新されていない会社は少なくございません。名義株の存否、既に死亡した株主の相続関係、株券を発行する旨の定款の定めの有無を確認し、整理しておく必要がございます。これらが整っていないために、承継の局面において取引が中止された事案がございます。

 法人と個人との資産の分離

会社が経営者個人の不動産を使用している場合には、賃貸借契約を締結して賃料を定めます。経営者個人が会社に貸付けをしている場合には、その処理の方針を定めます。これらの整理は、承継のためのみならず、経営者の個人保証の解除に向けた交渉においても意味を有します。

 従業員及び取引先への説明の時期

承継の検討をしていることを、いつ、誰に、どのように伝えるかは、実際上、極めて重要でございます。時期を誤りますと、従業員の離職、取引先の離反を招き、事業の価値そのものが損なわれます。他方、あまりに遅くなりますと、不信を招きます。事案に応じた計画を立てる必要がございます。

第14節 弁護士にご相談いただく意味

後継者が不在である会社の将来を決めることは、経営の問題であると同時に、相続の問題でございます。株式をどのように承継させるか、遺留分をどのように処理するか、個人保証をどのように整理するか、定款にどのような定めを置くかは、いずれも法律上の判断を要する事項でございまして、かつ、相互に関連しております。株式を後継者に集中させる設計をいたしましても、遺留分の原資を確保しておかなければ、結局は株式を手放さざるを得なくなります。

また、これらの多くは、経営者が判断能力を有し、生存している間でなければ行うことができません。相続が開始した後に相続人が採り得る手段は、著しく限られております。当事務所は、後継者が不在である会社につきまして、選択肢の整理、株式の承継の設計、遺言及び定款の整備、個人保証に関する交渉、株式の譲渡又は事業の譲渡の実行、並びに解散及び清算の手続までをお引き受けしております。また、既に相続が開始し、株式が準共有の状態にある事案、会社から売渡しを請求された事案につきましても、相続人の側の代理人としてお引き受けしております。

第15節 解散を選択した場合の従業員及び取引先への対応

 従業員との雇用契約の終了

事業の廃止に伴って従業員を解雇する場合には、労働契約法及び労働基準法の定めるところに従って手続を行う必要がございます。使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少なくとも30日前にその予告をしなければならず、予告をしない使用者は、平均賃金を基礎として算定される予告手当を支払わなければならないものとされております(労働基準法第20条第1項)。事業の廃止を理由とする解雇でありましても、この手続を省略することはできません。

 再就職の支援

従業員の再就職の支援は、法律上の義務ではございませんが、円滑な廃業のためには極めて重要でございます。取引先又は同業の会社に受入れを打診する、時期を早めに知らせて準備の期間を確保する、といった対応が考えられます。事業の譲渡の方式による場合には、譲受人が従業員を受け入れることが前提となりますので、雇用の維持という観点からは、解散よりも優れております。

 取引先との継続的な契約の終了

継続的な取引の関係にある取引先との契約につきましては、契約書に定められた予告の期間を確認いたします。定めがない場合であっても、長期間にわたり継続してきた取引を一方的に終了させる場合には、相当の予告の期間を要するものと解される場合がございます。突然の通知は、損害賠償の請求を招くことがございます。

 賃借している事業所の明渡し

事業所を賃借している場合には、賃貸借契約の解約の申入れの期間、原状回復の範囲、保証金又は敷金の返還の条件を確認いたします。原状回復に要する費用が想定を超えることがございますので、清算の計画を立てる段階で見込んでおく必要がございます。

よくあるご質問

 子が事業を継がないと申しております。廃業するほかありませんか

そうとは限りません。役員又は従業員への承継、第三者への株式の譲渡、事業の譲渡という選択肢がございます。いずれも準備に相当の期間を要しますので、早期の検討をお勧めしております。

 後継者を決めないまま相続が開始いたしますとどうなりますか

株式が相続人の準共有の状態となり、権利を行使する者を定めることができない場合には、議決権を行使することができなくなります。役員の選任もできず、会社の意思決定が停止するおそれがございます。

 株式が親族に分散しております

第三者への譲渡を検討する場合には、株式を集約する作業を要します。この作業に長期間を要することが多うございますので、承継を検討し始めた段階で着手すべきでございます。

 会社の借入れについて私が保証をしております

保証人としての地位は相続によって承継されます。承継の局面におきましては、金融機関との交渉によって保証を整理する必要がございます。法人と個人との資産及び経理の分離が、その前提となります。

 会社を解散するにはどの程度の期間を要しますか

債権者に対する公告の期間として2箇月を下ることのできない期間が定められておりますので、少なくともこれを要します。実際には、資産の換価、契約の終了、従業員の処遇の決定に要する期間を加えることとなりますので、事案によって大きく異なります。

 債務超過でございます

通常の清算の手続によることはできません。特別清算又は破産の手続を検討することとなります。いずれによるかは、主要な債権者の意向、財産の内容、個人保証の有無によって判断いたします。

 費用はどの程度かかりますか

採る方法、会社の規模、株主の数によって異なります。弁護士費用につきましては、当ウェブサイトの弁護士費用一覧のページをご覧ください。税務上の取扱いにつきましては税理士にご確認ください。

本記事の根拠条文

会社法

  • 第106条(共有者による権利の行使)
  • 第108条第1項(異なる種類の株式)
  • 第174条(相続人等に対する売渡しの請求に関する定款の定め)
  • 第177条第2項(売買価格の決定の申立て)
  • 第433条第1項(会計帳簿の閲覧等の請求)
  • 第442条第3項(計算書類等の閲覧等の請求)
  • 第471条第3号(株主総会の決議による解散)
  • 第499条第1項(債権者に対する公告等)
  • 第510条(特別清算の開始の命令)

民法

  • 第898条第1項(共同相続の効力)
  • 第915条第1項(相続の承認又は放棄をすべき期間)
  • 第1046条第1項(遺留分侵害額の請求)

中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律(遺留分に関する民法の特例)

信託法(信託の制度)

弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談

弁護士法人M&A総合法律事務所では、後継者が不在である中小企業につきまして、選択肢の整理、株式の承継の設計、遺言及び定款の整備、株式の譲渡又は事業の譲渡の実行、並びに解散及び清算の手続についてご相談をお受けしております。また、既に相続が開始し、株式が相続人の準共有の状態にある事案、会社から株式の売渡しを請求された事案につきましても、相続人の側の代理人としてお引き受けしております。

  • 電話番号 03-6435-8418
  • 受付時間 8時00分から21時00分まで
  • 土曜日・日曜日・祝日も受付いたします
  • ご相談は事前予約制です

弁護士費用については、当ウェブサイトの弁護士費用一覧のページをご覧ください。

ご相談の際に、会社の定款、登記事項証明書、株主名簿、直近の計算書類、借入れ及び保証に関する資料、並びに推定相続人の関係が分かる資料をご用意いただけますと検討が早く進みます。なお、税務上の取扱いについては税理士にご確認ください。

本記事は一般的な制度の説明でございまして、個別の事案における結論を保証するものではございません。具体的な対応につきましては、事案の内容に即して弁護士にご相談ください。

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