事業承継及び会社の相続における専門家の役割分担と弁護士に相談すべき場面

事業承継について相談したいのですが、税理士に相談すべきなのか、弁護士に相談すべきなのか、公的な窓口に相談すべきなのかが分かりません。このようなご相談を、当事務所はしばしばお受けしております。
先に結論を申し上げます。事業承継に関与する専門家の役割は、法律によって区分されております。すなわち、法律事務の取扱いは弁護士の、税務の代理及び税務書類の作成は税理士の、登記の申請の代理は司法書士の業務でございまして、それぞれ他の資格を有しない者が業として行うことは禁じられております。したがいまして、事業承継の全体を1つの資格の者が処理することはできず、複数の専門家が分担することとなります。問題は、どの段階で誰に相談するかという順序でございます。相続人の間に対立がない事案と、対立がある事案又は対立が予想される事案とでは、相談すべき順序が異なります。本記事では、この点を整理いたします。
第1節 役割が分かれている理由
資格に基づく業務の区分
弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができません(弁護士法第72条)。同様に、税理士でない者は税務代理、税務書類の作成及び税務相談を業として行うことができず、司法書士でない者は登記に関する手続の代理等を業として行うことができません。
この区分は依頼者の保護のためのものでございます
この区分は、資格を有する者の職域を守るためのものではなく、専門的な知識を有しない者が他人の重要な法律関係に関与することによる弊害を防ぐためのものでございます。したがいまして、依頼をする側におきましても、どの事項をどの専門家に委ねるべきかを理解しておくことに意味がございます。
事業承継は複数の領分にまたがります
事業承継におきましては、株式の帰属という法律の問題、その評価及び課税という税務の問題、不動産及び会社の登記という登記の問題が、同時に生じます。したがいまして、複数の専門家が関与することが避けられません。
第2節 弁護士の領分
相続人の間の対立に関する事項
遺産分割の協議、調停及び審判、遺留分侵害額の請求、遺言の効力を争う訴訟、財産の使い込みに関する請求は、いずれも弁護士の領分でございます。相続人の間に対立がある場合、又は将来において対立が予想される場合には、まず弁護士にご相談ください。
会社法上の手続
株式の譲渡の承認、株主総会の招集及び決議、種類株式の導入、定款の変更、相続人等に対する売渡しの請求に関する定めの設計は、いずれも会社法上の判断を要する事項でございます。手続に瑕疵がありますと、後に決議の効力が争われることとなります。
契約の作成及び交渉
株式の譲渡に関する契約、事業の譲渡に関する契約、株主間の合意に関する契約の作成及び交渉は、弁護士の領分でございます。表明及び保証の内容、解除の事由、損害の賠償の範囲をどのように定めるかによって、後に生ずる危険の分配が変わります。
遺言及び信託の設計
遺言の内容の設計、遺留分を踏まえた配分の検討、遺言執行者の指定、信託の設計は、弁護士の領分でございます。公正証書遺言の作成そのものは公証人が行いますが、どのような内容とすべきかは公証人が助言する事項ではございません。
紛争が生じた場合の代理
交渉、調停、訴訟及び非訟の各手続における代理は、弁護士のみが行うことができます。紛争が現に生じている場合には、他の選択肢はございません。
第3節 税理士の領分
申告及び納税に関する事項
相続税及び贈与税の申告、被相続人に係る所得税の申告、法人税の申告は、税理士の領分でございます。当事務所は、税務の申告の代理を行うものではございません。
財産の税務上の評価
非上場株式の税務上の評価、不動産の税務上の評価は、税理士の領分でございます。なお、税務上の評価額と、遺産分割又は株式の譲渡において用いるべき価額とは、必ずしも一致するものではございません。この点は、実務上しばしば誤解される点でございます。
課税の猶予の制度に関する事項
非上場株式等についての贈与税及び相続税の納税の猶予及び免除の制度につきましては、適用の要件、猶予される税額の計算、猶予が打ち切られる事由の該当性のいずれも税務上の判断でございます。税理士にご確認ください。
第4節 司法書士の領分
登記の申請の代理
相続による不動産の所有権の移転の登記、会社の役員の変更の登記、定款の変更に伴う登記の申請の代理は、司法書士の領分でございます。当事務所は、登記の申請の代理を行うものではございません。
登記の前提となる法律関係は弁護士の領分でございます
誰が相続人であるか、遺産分割の内容をどのように定めるか、遺言の効力に問題がないかは、登記の前提となる法律関係の問題でございます。この点に争いがある場合には、まず弁護士にご相談ください。
第5節 公認会計士及びその他の関与者
公認会計士
財務に関する調査、企業の価値の算定は、公認会計士が行うことがございます。第三者への株式の譲渡におきまして、買主の側の依頼により財務に関する調査が行われるのが通例でございます。
公的な相談の窓口
国は、中小企業の事業承継に関する相談に応ずるための窓口を各都道府県に設置しております。初期の段階における情報の提供、支援制度の紹介、承継の相手方に関する情報の提供を受けることができます。もっとも、個別の法律関係についての判断、契約の作成、紛争の解決を行うものではございません。
金融機関及び仲介を行う事業者
金融機関及び仲介を行う事業者が、第三者への承継の相手方を紹介することがございます。これらの者は、取引を成立させることを目的としておりますので、その助言は、依頼者の利益のみを考慮したものとは限りません。契約の内容につきましては、別途、弁護士による確認を受けることが望ましゅうございます。
第6節 相談の順序
相続人の間に対立がない事案
相続人が1人である場合、又は相続人の間に対立がなく、承継の方針についても合意がある場合には、税理士及び司法書士のみで手続が完結することがございます。この場合には、まず税理士にご相談いただき、必要に応じて登記の手続に移るという順序で差し支えございません。
対立がある事案又は対立が予想される事案
相続人の間に既に対立がある場合、後継者以外の相続人が株式の取得を求めている場合、遺言の効力に疑義がある場合、株式が分散している場合には、まず弁護士にご相談ください。分割の内容が定まっていない段階で申告又は登記を先行させますと、後に是正を要することとなります。
会社の側から相談を受ける場合と相続人の側から相談を受ける場合
会社と相続人との利益は、しばしば相反いたします。会社が相続人に対して株式の売渡しを請求する場面が、その典型でございます。同一の専門家が双方に助言をすることは相当ではございませんので、いずれの立場に立つのかを明確にしたうえでご相談ください。
複数の専門家の間の連携
実際の事案におきましては、方針を定める段階で弁護士が関与し、価額及び課税の見込みについて税理士の意見を求め、手続が定まった段階で司法書士に登記を依頼するという流れとなることが多うございます。それぞれが独立して助言をいたしますと、方針が一致せず、依頼者が判断に窮することとなりますので、早い段階で全体の方針を定めておくことが有益でございます。
第7節 弁護士に相談すべき典型的な場面
会社から株式の売渡しを請求された場合
定款に相続人等に対する売渡しの請求に関する定めがある場合、相続の後に会社から売渡しを請求されることがございます。売買価格の決定の申立てには、請求があった日から20日以内という短い期間の制限がございます(会社法第177条第2項)。直ちにご相談ください。
株式が相続人の準共有の状態にある場合
権利を行使する者を定めることができず、議決権を行使することができない状態にある場合には、会社の意思決定が停止いたします。速やかな対応を要します。
会社の帳簿を見せてもらえない場合
株式を相続したものの、会社が財務の状況を明らかにしない場合には、計算書類等の閲覧又は謄本の交付の請求、会計帳簿等の閲覧又は謄写の請求を検討いたします。
被相続人が会社の借入れについて保証をしている場合
保証人としての地位は相続によって承継されます。相続の承認又は放棄の判断に直結いたしますので、3か月の期間内にご相談ください。
遺言の内容に納得できない場合
遺言の効力を争うか、遺留分侵害額の請求をするかの選択を要します。遺留分侵害額の請求権には1年という短い期間の制限がございますので、早期にご相談ください。
第8節 弁護士にご相談いただく意味
事業承継及び会社の相続におきまして、当事務所が最も多くご相談をお受けいたしますのは、既に手続が進んでしまった後の事案でございます。分割の内容が定まらないまま申告がされ、あるいは一部の相続人の主導で登記がされ、これを是正するために改めて手続を要するという事案でございます。方針を定める段階で法律関係を整理しておけば、避けることのできたものが少なくございません。
当事務所は、株主の確定及び株主名簿の整備、株式の承継の設計、遺言及び定款の整備、遺留分の処理、株式の譲渡又は事業の譲渡の実行、並びに相続が開始した後の遺産分割及び株式をめぐる紛争の解決についてご相談をお受けしております。税務及び登記につきましては、それぞれの専門家にご依頼いただくこととなりますが、方針の全体につきましては当事務所において整理いたします。
よくあるご質問
まず誰に相談すればよろしいでしょうか
相続人の間に対立がない事案であれば税理士に、対立がある事案又は対立が予想される事案であれば弁護士にご相談ください。判断がつかない場合には、弁護士にご相談いただければ、必要に応じて他の専門家への依頼の要否を含めてご説明いたします。
弁護士は税務の申告もしてくれますか
いたしません。税務の代理及び税務書類の作成は税理士の業務でございます。当事務所は税務の申告の代理を行うものではございません。
弁護士は登記もしてくれますか
いたしません。登記の申請の代理は司法書士の業務でございます。当事務所は登記の申請の代理を行うものではございません。
公的な窓口に相談すれば足りますか
初期の段階における情報の提供としては有益でございます。もっとも、個別の法律関係についての判断、契約の作成、紛争の解決を行うものではございませんので、これらを要する段階に至りましたら、弁護士にご相談ください。
費用はどの程度かかりますか
事案の内容によって異なります。弁護士費用につきましては、当ウェブサイトの弁護士費用一覧のページをご覧ください。
本記事の根拠条文
弁護士法 第72条(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)
税理士法 第52条(税理士業務の制限)
司法書士法 第73条(非司法書士等の取締り)
会社法
- 第106条(共有者による権利の行使)
- 第177条第2項(売買価格の決定の申立て)
- 第433条第1項(会計帳簿の閲覧等の請求)
- 第442条第3項(計算書類等の閲覧等の請求)
民法 第915条第1項(相続の承認又は放棄をすべき期間)、第1048条(遺留分侵害額請求権の期間の制限)
弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談
弁護士法人M&A総合法律事務所では、事業承継及び会社の相続に関する法律関係の整理、株式の承継の設計、遺言及び定款の整備、並びに相続が開始した後の紛争の解決についてご相談をお受けしております。
- 電話番号 03-6435-8418
- 受付時間 8時00分から21時00分まで
- 土曜日・日曜日・祝日も受付いたします
- ご相談は事前予約制です
弁護士費用については、当ウェブサイトの弁護士費用一覧のページをご覧ください。
ご相談の際に、会社の定款、登記事項証明書、株主名簿、直近の計算書類、遺言書の写し、及び推定相続人の関係が分かる資料をご用意いただけますと検討が早く進みます。なお、税務上の取扱いについては税理士にご確認ください。
本記事は一般的な制度の説明でございまして、個別の事案における結論を保証するものではございません。具体的な対応につきましては、事案の内容に即して弁護士にご相談ください。
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