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遺言の効力を争っている間の株主総会と議決権 仮処分、決議の取消し及び売渡しの請求への備え

公開 2026年10月26日更新 2026年10月30日

▶ 自社株式を1人に相続させる遺言に納得できない場合の対応 遺言の無効の主張と遺留分侵害額の請求

父の遺言は無効だと考え、兄を相手に争っています。ところが兄は、遺言に基づいて株式の名義を自分に書き換え、株主総会を開いて自分の妻を取締役に選任し、私を取締役から外しました。裁判の結論が出るまで、このまま見ているしかないのでしょうか。当事務所には、このようなご相談が寄せられています。

遺言の効力の争いは、調停と訴訟を経て結論が出るまでに年単位の時間がかかることがあります。その間も会社は動き、株主総会で役員が選任され、重要な決定が行われます。争いの結論を待つだけでは、勝っても会社の実態が変わってしまっていることがあります。

結論から申し上げます。遺言の効力を争っている間、会社は通常、株主名簿の記載に従って株主を扱いますので、名義書換を済ませた側が議決権を行使します。これを止めるには、裁判所に議決権の行使を禁止する仮処分を申し立てる方法があります。すでに行われた決議は、決議の日から3か月以内であれば取消しの訴えで争えます。会社が他の相続人に株式の売渡しを請求してくる可能性にも備える必要があります。以下、順を追ってご説明します。

争いの間、株式は誰のものとして扱われるか

遺言が有効なら承継者、無効なら準共有

遺言が有効であれば、指定された株式は指定された相続人が承継します。遺言が無効であれば、株式は相続人全員の準共有となり、議決権を行使するには、共有者の中から権利を行使する者1人を定めて会社に通知しなければなりません(会社法第106条)。結論が出るまで、どちらの状態かは確定しません。

会社は株主名簿に従って扱います

株式を取得した者は、会社に株主名簿の名義書換を請求します(会社法第133条)。会社は実務上、株主名簿の記載に従って招集の通知を送り、議決権の行使を受け付けます。遺言に基づいて名義書換がされると、遺言の効力が争われていても、名義人が議決権を行使するのが通常です。準共有の場合の権利行使者の指定は、準共有株式の権利行使者の指定と売渡しの請求でご説明しています。

議決権の行使を止める仮処分

議決権行使禁止の仮処分

裁判所に、名義人による議決権の行使を禁止する仮処分を申し立てる方法があります。これは仮の地位を定める仮処分(民事保全法第23条第2項)の一種で、遺言が無効であることの疎明と、議決権の行使を放置すると著しい損害又は急迫の危険が生じることの疎明が必要です。認められる場合は、担保の提供を求められることが通常です(民事保全法第14条第1項)。

名義書換の段階での対応

名義書換の前であれば、会社に対し、遺言の効力が争われていることを書面で通知し、名義書換に慎重な対応を求めることが考えられます。会社がこれに応じる義務を当然に負うわけではありませんが、後に紛争となった場合の会社の対応の評価に関わります。

相続した株式が準共有となり、権利行使者の指定や議決権の行使でお困りの方は、次のページを御覧ください。

すでに行われた株主総会の決議を争う

決議の取消しの訴え

招集の手続や決議の方法が法令若しくは定款に違反し、又は著しく不公正なときなどは、株主等は、決議の日から3か月以内に、訴えをもって決議の取消しを請求できます(会社法第831条第1項)。3か月を過ぎると取消しを求めることはできませんので、招集の通知が届かなかった場合も含め、決議の内容を早く把握することが重要です。

決議の不存在・無効の確認の訴え

株主総会が実際には開かれていない場合や、決議の内容が法令に違反する場合は、決議の不存在又は無効の確認を求める訴えが考えられます(会社法第830条)。準共有の状態にある株式の共有者が、権利行使者の指定がないまま訴えを提起できるかは、事情により判断が分かれます。

議事録と登記の確認

株主は、株主総会の議事録の閲覧又は謄写を請求できます(会社法第318条第4項)。役員の変更は登記されますので、会社の履歴事項全部証明書を定期的に取得し、役員の変更の有無を確かめます。

相続人等に対する売渡しの請求への備え

譲渡制限株式について、定款に定めがあれば、会社は、相続により株式を取得した者に対し、その株式を会社に売り渡すことを請求できます(会社法第174条)。この請求は、会社が相続があったことを知った日から1年以内に限られます(会社法第176条第1項)。売渡しの請求をする株主総会の決議では、請求の相手方となる相続人は議決権を行使できません(会社法第175条第2項)。遺言の効力の争いの最中に、会社の支配を握った側が、この制度を使って他の相続人から株式を買い取ろうとすることがあります。定款の定めを早めに確認し、売買価格の決定の申立て(会社法第177条第2項)を含めた対応を準備します。

相続した株式について、会社から売渡しの請求を受けてお困りの方は、次のページを御覧ください。

お手元の資料と経緯をお聞きし、進め方の順序をお示しします。

会社の財産を守る方法

争いの間に、名義人の側が自分の役員報酬を大幅に増額したり、会社の財産を親族の会社に移したりすることがあります。株主として、役員の責任の追及等の訴え(株主代表訴訟。会社法第847条)や、取締役の違法な行為の差止めの請求(会社法第360条)が考えられますが、いずれも株主であることが前提です。遺言の効力が争われている状態では、株主としての地位そのものが争点となるため、どの手段が使えるかを個別に検討します。

いま確認していただきたいこと

  • 株主名簿の名義書換がすでにされているか
  • 直近の株主総会の日付と決議の内容(取消しの訴えは決議の日から3か月以内)
  • 会社の履歴事項全部証明書による役員の変更の有無
  • 定款に相続人等に対する売渡しの請求の定めがあるか
  • 会社が相続を知った日(売渡しの請求の1年の期間に関わります)

よくあるご質問

遺言の効力を争っていると会社に伝えれば、兄は議決権を行使できなくなりますか。

当然には行使できなくなりません。会社は通常、株主名簿の記載に従って扱います。議決権の行使を止めるには、裁判所に議決権行使禁止の仮処分を申し立てる必要があります。

仮処分には、どのくらいの担保が必要ですか。

担保の額は裁判所が事案に応じて定めます(民事保全法第14条第1項)。株式の価値や会社の規模によって異なりますので、申立ての前に見込みを検討します。

招集の通知が届かないまま、株主総会が開かれていました。

招集の手続の違反は、決議の取消しの理由となり得ます(会社法第831条第1項第1号)。取消しの訴えは決議の日から3か月以内に提起する必要があります。

会社から株式を売り渡すよう請求されました。応じなければなりませんか。

定款に定めがあり、会社が相続を知った日から1年以内にされた請求であれば、売渡しの対象となり得ます(会社法第174条、第176条第1項)。価格に合意できなければ、裁判所に売買価格の決定を申し立てることができます(会社法第177条第2項)。

遺言が無効と決まれば、それまでの決議はすべて無効になりますか。

当然にすべてが無効となるわけではありません。決議の取消しの訴えには3か月の期間があるため、争いの結論を待たずに、個別の決議ごとに争う必要があるかを検討します。

出典

  • 会社法(平成17年法律第86号)第106条、第133条、第174条、第175条第2項、第176条第1項、第177条第2項、第318条第4項、第360条、第830条、第831条第1項、第847条
  • 民事保全法(平成元年法律第91号)第14条第1項、第23条第2項
  • e-Gov法令検索(デジタル庁) 法令の条文の確認に用いています。

弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談

弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)は、非上場株式の相続に注力し、遺言の効力の争いと並行して、議決権行使禁止の仮処分、株主総会の決議の取消しの訴え、売渡しの請求への対応まで、ご依頼者の代理人としてご相談をお受けしています。同一の案件について、利害の対立する双方を代理することはありません。

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ご相談の際に、遺言書の写し、会社の定款、履歴事項全部証明書、株主総会の招集の通知や議事録をご用意いただけば、検討が早く進みます。これらがお手元にないことを理由にご相談をお断りすることはありません。なお、税務上の取扱いについては税理士にご確認ください。

本記事は一般的な制度の説明であり、結論は事案ごとに異なります。同種の事案において同じ結果となることを保証するものではありません。個別の事情については、弁護士にご相談ください。

必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。

この記事の位置付け

遺言の効力を争っている間の株主総会と議決権に関するメインのページです。本ページは、非上場株式の相続において、争いの間に会社の支配が固まることを防ぐ仮処分や、株主総会の決議を争う方法をご説明します。遺言の無効と遺留分の全体像は別のページをご参照ください。

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執筆者

弁護士法人M&A総合法律事務所 代表弁護士 土屋勝裕(東京弁護士会所属 登録番号26775)

2024年(令和6年)10月に最高裁判所において株式買取請求権に関する逆転判決を得た弁護士です。長島・大野・常松法律事務所に在籍した後、慶應義塾大学ビジネス・スクール及びペンシルベニア大学ウォートン校に留学し、ファイナンス理論並びにM&A及び不動産を専攻しました。不動産投資信託(J-REIT)の上場案件にも関与しています。

主として取り扱う分野 M&A、株式買取請求権、非上場株式の価格の決定、企業価値評価、事業承継及び企業法務

所在地 〒105-6017 東京都港区虎ノ門4丁目3番1号 森トラスト城山トラストタワー17階/電話番号 03-6435-8418/受付時間 8:00-21:00(土日祝含む)

本記事の記載は一般的な法律情報であり、個別の事案に関する法律上の助言ではありません。記載した経歴は事実の記述であり、個別の事件の結果を保証するものではありません。

著書

非上場会社における少数株主対策の手法と実務
『非上場会社における少数株主対策の手法と実務』(日本法令)
中堅・中小企業のためのM&Aトラブル事例と実務対策
『中堅・中小企業のためのM&Aトラブル事例と実務対策』(清文社)
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