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自社株式を1人に相続させる遺言に納得できない場合の対応 遺言の無効の主張と遺留分侵害額の請求

公開 2026年10月26日更新 2026年10月30日

▶ 「株式は全部長男に相続させる」と書かれた遺言で自社株式を承継した場合に、会社に株主として扱われるまでに行うこと

父が亡くなり、遺言書を開けてみると「会社の株式はすべて長男に相続させる」と書かれていました。父は晩年、物忘れがひどくなっていましたし、以前は「株式は兄弟で分ける」と話していました。会社の株式は父の財産の大半を占めています。このまま兄の言うとおりにするしかないのでしょうか。当事務所には、このようなご相談が寄せられています。

同族会社の株式は、相続財産の中で最も価値が大きいことが多い一方、市場で売却できず、会社の経営の支配に直結します。そのため、自社株式を後継者1人に集める遺言は珍しくありませんが、他の相続人から見れば、取り分の大半を失う結果になります。

結論から申し上げます。遺言に納得できない場合の手段は、遺言そのものの効力を争う「遺言の無効の主張」と、遺言を前提に金銭を求める「遺留分侵害額の請求」の2つです。両者は二者択一ではなく、無効を主張しながら、無効が認められない場合に備えて遺留分侵害額の請求の意思表示を1年以内にしておくことが重要です。以下、順を追ってご説明します。

自社株式を1人に相続させる遺言の効力

遺産分割を経ずに株式が承継されます

「特定の財産を特定の相続人に相続させる」旨の遺言は、民法上「特定財産承継遺言」と呼ばれます(民法第1014条第2項)。この遺言が有効であれば、指定された株式は、遺産分割の協議を経ることなく、相続の開始と同時に指定された相続人に承継されると解されています。他の相続人が遺産分割の協議に応じなければ株式が動かない、という関係にはありません。

会社との関係では名義書換が行われます

株式を承継した相続人は、会社に株主名簿の名義書換を請求します(会社法第133条)。名義書換がされると、会社は通常、その相続人を株主として扱い、株主総会の招集の通知を送り、議決権の行使を受け付けます。承継した側の手続は、「株式は全部長男に相続させる」と書かれた遺言で自社株式を承継した場合に、会社に株主として扱われるまでに行うことで詳しくご説明しています。

最初に確かめること 遺言は有効か

遺言をした時の遺言能力

遺言者は、遺言をする時においてその能力を有しなければなりません(民法第963条)。遺言能力とは、遺言の内容とその結果を理解し判断できる能力をいいます。認知症の診断があったことだけで直ちに無効となるわけではなく、医療記録・介護記録、遺言の内容の複雑さ、作成の経緯などから判断されます。争い方と集めるべき資料は、認知症の親の遺言で自社株式が1人に承継された場合 遺言能力の争い方と集めるべき資料でご説明しています。

法律の定める方式

遺言は、民法に定める方式に従わなければすることができません(民法第960条)。自筆証書遺言は、遺言者が全文、日付及び氏名を自書し、印を押さなければなりません(民法第968条第1項)。ただし、財産目録は自書を要しません(同条第2項)。公正証書遺言は、証人2人以上の立会いの下で公証人が作成します(民法第969条)。日付の記載がない、押印がない、本文の一部がパソコンで作成されている、といった自筆証書遺言は、方式を欠くものとして効力が争われます。

内容の異なる遺言がないか

前の遺言と後の遺言が抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなされます(民法第1023条第1項)。遺言書が複数ある場合や、遺言の後に父が株式を誰かに譲渡していた場合は、どの遺言のどの部分が効力を持つかを確かめる必要があります。内容の異なる遺言が複数見つかった場合の自社株式の帰属 撤回とみなされる部分と生前の株式の譲渡をご参照ください。

検認と法務局の保管制度

自筆証書遺言の保管者は、相続の開始を知った後、遅滞なく家庭裁判所に検認を請求しなければなりません(民法第1004条第1項)。検認は遺言書の状態を確認する手続であり、遺言の有効性を判断する手続ではありません。検認を経たことは、遺言が有効であることを意味しません。なお、法務局に保管された自筆証書遺言は検認を要しません(法務局における遺言書の保管等に関する法律第11条)。

遺言が有効な場合 遺留分侵害額の請求

兄弟姉妹以外の相続人には遺留分があります

兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分を算定するための財産の価額に、直系尊属のみが相続人である場合は3分の1、それ以外の場合は2分の1を乗じ、さらに各自の法定相続分を乗じた額の遺留分を有します(民法第1042条)。例えば、相続人が子2人のみであれば、各自の遺留分は4分の1です。

株式の返還ではなく金銭の請求です

令和元年7月1日以後に開始した相続では、遺留分を侵害された相続人は、受遺者又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求できます(民法第1046条第1項)。株式そのものを取り戻す請求ではありません。後継者に株式を残したまま金銭で解決できる点は、会社の経営の安定とも両立します。

金額は株式の時価で決まります

遺留分侵害額は、相続開始の時の株式の時価を基に算定します。非上場株式の時価は、相続税の申告に用いる相続税評価額(財産評価基本通達による評価額)とは別のものであり、会社の純資産や収益力によっては大きく異なります。計算の方法と株式の評価は、自社株式を後継者に集中させた場合の遺留分侵害額請求と株式の評価で詳しくご説明しています。

自社株式を特定の相続人に承継させる遺言に納得できない方は、次のページを御覧ください。

無効の主張と遺留分侵害額の請求を並行させる

1年の期間に注意してください

遺留分侵害額の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは、時効によって消滅します。相続開始の時から10年を経過したときも同様です(民法第1048条)。遺言の無効を争っていることだけでは、この期間の進行は止まらないと考えておくべきです。無効を主張する場合でも、内容証明郵便により、無効が認められない場合に備えて遺留分侵害額を請求する旨の意思表示をしておきます。

手続の順序

遺言の無効確認も遺留分侵害額の請求も、まず家庭裁判所の調停を申し立てるのが原則です(家事事件手続法第257条第1項)。調停が成立しない場合は、遺言無効確認の訴えや遺留分侵害額請求の訴えを提起します。遺言無効確認の訴えの一般的な流れは、遺言無効確認訴訟により相続財産を取り戻す方法とは?をご参照ください。

どちらを主にするかの判断

遺言能力や方式に明らかな問題があり、資料もそろう場合は、遺言の無効を主にします。無効となれば株式は相続人全員の準共有となり、遺産分割の対象となります。他方、無効の主張が難しい場合は、遺留分侵害額の請求で株式の時価を正面から争う方が、早く確実な解決につながることがあります。どちらを主にするかは、資料を見たうえで判断します。

お手元の資料と経緯をお聞きし、進め方の順序をお示しします。

会社の経営との関係

争っている間も会社は動きます

遺言に基づいて名義書換がされると、株式を承継した相続人が株主総会で議決権を行使し、役員を選任することができます。争っている間に会社の支配が固まることを防ぐ方法は、遺言の効力を争っている間の株主総会と議決権 仮処分、決議の取消し及び売渡しの請求への備えでご説明しています。

株式の評価に必要な資料

株式の時価を算定するには、会社の決算書や資産の内容が必要です。株式を承継しなかった相続人は株主ではないため、会社法上の閲覧の権利を使えない場合があります。資料を入手する方法は、株式を承継しなかった相続人が遺留分の算定のために会社の資料を入手する方法をご参照ください。

相続した会社の株式や経営を、他の相続人や役員に囲い込まれてお困りの方は、次のページを御覧ください。

いま確認していただきたいこと

  • 相続の開始と遺言の内容を知った日(遺留分侵害額の請求の1年の起算点に関わります)
  • 遺言書の種類(自筆証書遺言か公正証書遺言か)と、日付、押印、自書の有無
  • 遺言をした当時の遺言者の診断、入院・介護の状況
  • 遺言書が他にもないか(法務局の保管制度及び公証役場の遺言検索の照会)
  • 会社の株主名簿の名義書換がすでにされているか
  • 相続税の申告書の控えと、申告に用いた株価の評価明細書

よくあるご質問

遺言で株式を相続しなかった私は、会社の株主ではないのですか。

遺言が有効であれば、指定された株式は指定された相続人が承継し、他の相続人は株主となりません。遺言が無効であれば、株式は相続人全員の準共有となり、遺産分割の対象となります。どちらになるかが争いの出発点です。

遺言の無効を主張している間に、遺留分の期限が過ぎることはありますか。

あります。遺留分侵害額の請求権は、相続の開始と遺留分を侵害する遺贈等を知った時から1年で時効により消滅します(民法第1048条)。無効を主張する場合も、期間内に遺留分侵害額を請求する旨の意思表示をしておくべきです。

検認を経た遺言は、有効と決まったのですか。

決まっていません。検認は遺言書の状態を確認して偽造等を防ぐための手続であり、遺言の有効性を判断するものではありません。検認の後でも遺言の無効を争うことはできます。

公正証書遺言でも、無効を主張できますか。

主張できる場合があります。公正証書遺言は方式の不備が生じにくいものの、遺言をした時に遺言能力を欠いていれば無効となり得ます(民法第963条)。作成当時の医療記録等から判断します。

遺留分として株式を渡してもらうことはできますか。

遺留分侵害額の請求は金銭の支払を求めるものです(民法第1046条第1項)。当事者が合意すれば、金銭に代えて株式を受け取ることも考えられますが、支払った側に譲渡所得の課税が生じ得るなど税務上の影響がありますので、税理士にご確認ください。

兄は相続税評価額で遺留分を計算すると言っています。

遺留分の算定に用いるのは相続開始の時の時価であり、相続税評価額とは別のものです。会社の純資産や収益力によっては、時価が相続税評価額を大きく上回ることがあります。

出典

  • 民法(明治29年法律第89号)第960条、第963条、第968条、第969条、第1004条、第1014条、第1023条、第1042条、第1046条、第1048条
  • 家事事件手続法(平成23年法律第52号)第257条第1項
  • 会社法(平成17年法律第86号)第133条
  • 法務局における遺言書の保管等に関する法律(平成30年法律第73号)第11条
  • e-Gov法令検索(デジタル庁) 法令の条文の確認に用いています。

弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談

弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)は、非上場株式の相続に注力し、自社株式を特定の相続人に相続させる遺言について、遺言の有効性の検討、遺言無効確認の調停及び訴訟、遺留分侵害額の請求まで、ご依頼者の代理人としてご相談をお受けしています。同一の案件について、利害の対立する双方を代理することはありません。

株式についての遺言でお困りの方は、株式の遺言をめぐるトラブルに関するご案内のページをご覧ください。

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ご相談の際に、遺言書の写し、相続税の申告書の控え、会社の履歴事項全部証明書、直近の計算書類、遺言をした当時の診断や介護の状況が分かる資料をご用意いただけば、検討が早く進みます。これらがお手元にないことを理由にご相談をお断りすることはありません。なお、税務上の取扱いについては税理士にご確認ください。

本記事は一般的な制度の説明であり、結論は事案ごとに異なります。同種の事案において同じ結果となることを保証するものではありません。個別の事情については、弁護士にご相談ください。

必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。

この記事の位置付け

自社株式を1人の相続人に相続させる遺言に納得できない相続人の対応に関するメインのページです。本ページは、非上場株式の相続において、遺言の無効の主張と遺留分侵害額の請求をどう組み合わせるかをご説明します。遺言で株式を承継した側の名義書換の手続は別のページをご参照ください。

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執筆者

弁護士法人M&A総合法律事務所 代表弁護士 土屋勝裕(東京弁護士会所属 登録番号26775)

2024年(令和6年)10月に最高裁判所において株式買取請求権に関する逆転判決を得た弁護士です。長島・大野・常松法律事務所に在籍した後、慶應義塾大学ビジネス・スクール及びペンシルベニア大学ウォートン校に留学し、ファイナンス理論並びにM&A及び不動産を専攻しました。不動産投資信託(J-REIT)の上場案件にも関与しています。

主として取り扱う分野 M&A、株式買取請求権、非上場株式の価格の決定、企業価値評価、事業承継及び企業法務

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本記事の記載は一般的な法律情報であり、個別の事案に関する法律上の助言ではありません。記載した経歴は事実の記述であり、個別の事件の結果を保証するものではありません。

著書

非上場会社における少数株主対策の手法と実務
『非上場会社における少数株主対策の手法と実務』(日本法令)
中堅・中小企業のためのM&Aトラブル事例と実務対策
『中堅・中小企業のためのM&Aトラブル事例と実務対策』(清文社)
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