準共有株式の権利行使者の指定と売渡しの請求
父が亡くなり、相続人は3人でございます。遺産分割の協議はまだ終わっておりません。その間に、会社から相続した株式について売渡しの請求を受けました。会社は「権利行使者の届出がないので、株主として扱えない」と述べております。このようなご相談を、当事務所はしばしばお受けしております。
先に結論を申し上げます。遺産分割が終わるまでの間、株式は相続人の準共有に属します。共有者は、当該株式についての権利を行使する者1人を定め、会社に対しその者の氏名又は名称を通知しなければ、当該株式についての権利を行使することができません(会社法第106条本文)。ただし、会社が当該権利の行使に同意した場合は、この限りでないものとされております(同条ただし書)。他方、相続人等に対する売渡しの請求は、権利行使者の指定がされていなくても、会社の側から行うことができます。すなわち、相続人の側は権利を行使できないのに、会社の側は請求を進められるという非対称が生じます。本記事では、この局面の整理と対応の順序を説明いたします。
第1節 遺産分割が終わるまでの株式の帰属
相続財産の共有
相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属するものとされております(民法第898条第1項)。株式についても、遺産分割が終わるまでの間は、相続人の準共有に属することになります。
この段階においては、各相続人が自らの法定相続分に相当する株式を単独で保有しているわけではございません。株式の全体が相続人全員の準共有に属しております。
権利行使者の指定
株式が2人以上の者の共有に属するときは、共有者は、当該株式についての権利を行使する者1人を定め、会社に対しその者の氏名又は名称を通知しなければ、当該株式についての権利を行使することができません(会社法第106条本文)。
権利行使者の指定は、判例上、共有持分の価格に従い、その過半数をもって決するものと解されております。すなわち、相続人全員の合意までは要しないと解されておりますが、過半数の合意は必要でございます。相続人が2人で持分が等しい場合には、過半数に達しないため指定ができないという事態が生じ得ます。
会社が同意した場合
会社法第106条ただし書は、会社が当該権利の行使に同意した場合には、権利行使者の指定及び通知がなくても権利を行使することができる旨を定めております。もっとも、会社が同意するか否かは会社の判断によりますので、相続人と対立している会社が同意することは期待しにくいところでございます。
第2節 売渡しの請求は権利行使者の指定を待ちません
請求の相手方
会社は、定款の定めに基づき、相続その他の一般承継により譲渡制限株式を取得した者に対し、当該株式を売り渡すことを請求することができます(会社法第174条、第176条第1項)。この請求は、相続人が権利行使者を指定していない段階であっても、会社の側から行うことができます。
生じる非対称
その結果、次のような非対称が生じます。相続人の側は、権利行使者の指定がなければ議決権を行使することも、株主としての権利を行使することもできません。他方、会社の側は、売渡しの請求の株主総会の決議を行い、請求を実行することができます。しかも、請求の相手方となる株主は、当該株主総会において議決権を行使することができません(会社法第175条第2項)。
すなわち、相続人の間で権利行使者の指定について協議が難航している間に、会社の側が手続を完了させてしまうという事態が生じ得ます。相続人の間の対立が、会社にとって有利に働く構造でございます。
20日の期間は待ってくれません
売買価格の決定の申立ては、売渡しの請求があった日から20日以内にしなければならないものとされております(会社法第177条第2項)。この期間は、相続人の間の協議の状況によって延びるものではございません。権利行使者の指定に手間取っている間に期間が経過することのないよう、期限を管理する必要がございます。
第3節 対応の順序
まず権利行使者を指定いたします
相続人の間で協議を行い、持分の価格の過半数により権利行使者を定め、会社に通知いたします。相続人の間で争いがある場合であっても、売渡しの請求への対応という限られた目的については利害が一致することが少なくございません。誰を指定するかについて合意ができないときは、目的を限定した上で合意を試みることが考えられます。
権利行使者を指定できない場合
持分の過半数に達しないために指定ができない場合には、遺産分割の調停又は審判の申立てを検討することになります。もっとも、これには相応の期間を要しますので、売買価格の決定の申立ての期間に間に合わないことがございます。
また、権利行使者の指定がされていない状態であっても、会社に対して名義書換を請求し、相続人であることを明らかにしておくことは可能でございます。相続その他の一般承継により株式を取得した者は、単独で株主名簿記載事項の記載又は記録を請求することができるものとされております。
保存行為との関係
共有物の保存行為は、各共有者が単独ですることができるものとされております(民法第252条第5項)。売渡しの請求への対応のうち、いかなる行為が保存行為に当たるかは事案により異なり、断定できるものではございません。この点については、権利行使者の指定を得ることを優先しつつ、並行して法的な整理を行うことが実務的でございます。
第4節 確認すべき事項
| 事項 | 確認の方法 | 根拠条文 |
|---|---|---|
| 相続人の範囲及び法定相続分 | 戸籍関係の書類 | 民法の相続に関する規律 |
| 株式が準共有であるか | 遺産分割の協議の状況 | 民法第898条第1項 |
| 権利行使者の指定及び通知の有無 | 会社への通知の控え | 会社法第106条 |
| 定款の売渡しの請求の定め | 定款の閲覧謄本交付の請求 | 会社法第31条第2項、第174条 |
| 売渡しの請求の書面が到達した日 | 封筒、配達の記録 | 会社法第177条第2項 |
第5節 権利行使者の指定及び通知の段階
権利行使者の指定は、相続人の間における内部の決定と、会社に対する通知との2つの部分から成ります。いずれか一方が欠けますと、会社に対して権利を行使することができません(会社法第106条本文)。段階ごとに整理いたします。
| 段階 | 行うこと | 相手方 | 留意点 |
|---|---|---|---|
| 第1 | 戸籍により相続人の範囲を確認し、持分を算出いたします | 市区町村 | 遺言の有無を必ず確認いたします。遺言があれば帰属が異なり得ます |
| 第2 | 対象となる株式の種類及び数を確定いたします | 会社、被相続人の手元の資料 | 株主名簿及び法人税の確定申告書に添付される同族会社等の判定に関する明細により確認いたします |
| 第3 | 誰を権利行使者とするかを協議いたします | 他の相続人 | 共有物の管理に関する行為として、持分の価格に従いその過半数で決するものと解されております |
| 第4 | 指定の内容を書面にいたします | 他の相続人 | 指定に同意した相続人の署名押印を得ます。対象の株式及び権利行使者の氏名を明記いたします |
| 第5 | 権利行使者の氏名を会社に通知いたします | 会社 | 到達を確認できる方法によります。通知の控え及び配達の記録を保存いたします |
| 第6 | 会社が権利行使者を株主として取り扱うかを確認いたします | 会社 | 会社が受領を拒み、又は応答しない場合には、書面によりその理由を明らかにするよう求めます |
なお、権利行使者の指定は、株式そのものの帰属を定めるものではございません。誰が最終的に当該株式を取得するかは、遺産分割により定まります。指定を受けたことをもって株式を取得したことにはなりませんし、逆に指定を受けなかったことをもって取り分が減ることもございません。
第6節 相続人の間で意見が分かれる場合の分岐
権利行使者の指定は、相続人の足並みが揃わない場面でこそ問題となります。状況ごとに取り得る対応を整理いたします。
| 状況 | 取り得る対応 | 留意点 |
|---|---|---|
| 持分の価格の過半数の賛成が得られる | その者を権利行使者として指定し、会社に通知いたします | 指定に反対した相続人がいる場合でも、指定は効力を生ずるものと解されております |
| 持分が同数であり決し得ない | 遺産分割の調停又は審判を申し立て、株式の帰属そのものの確定を図ります | 時間を要しますので、次に述べる期間の管理を並行して行う必要がございます |
| 他の相続人と連絡が取れない | 所在の調査を行った上で、指定の協議を試みます | 所在が明らかでない場合には、不在者の財産の管理に関する制度の利用を検討いたします |
| 他の相続人が会社の側に付いている | 会社と当該相続人との関係を踏まえ、単独で行い得る手段を検討いたします | 保存行為に当たるものにつきましては、各共有者が単独で行い得ると解されております |
| 指定を待たずに会社が売渡しの請求をしてきた | 指定の有無にかかわらず、売買価格の決定の申立ての期間の管理を優先いたします | 当該期間は、権利行使者の指定を待ってはくれません(会社法第177条第2項) |
| 会社が権利行使者以外の者による権利の行使に同意している | 同意の有無及びその範囲を書面により確認いたします | 同意がある場合には、指定がなくとも権利を行使し得ることとされております(会社法第106条ただし書) |
よくあるご質問
質問1 相続人が2人で、持分が2分の1ずつです。権利行使者を指定できますか。
権利行使者の指定は、共有持分の価格に従い、その過半数をもって決するものと解されております。持分が等しい2人の場合、合意ができなければ過半数に達しないことになります。この場合には、遺産分割の手続を進めることを検討いたします。
質問2 権利行使者に指定されると、その者が単独で株式を処分できるのですか。
権利行使者は、株式についての権利を行使する者として会社との関係で扱われるものでございます。共有者の間の内部の関係において、その者が自由に処分し得ることを意味するものではございません。内部の関係については、共有及び相続に関する規律によります。
質問3 会社が権利行使者の届出を受け取ってくれません。
通知は書面により行い、送付の記録を残します。会社が受領を拒む場合には、内容証明郵便によることが有用でございます。会社が受領を拒んだ事実自体が、その後の手続における事情となり得ます。
質問4 遺産分割が終わるまで、売渡しの請求は待ってもらえますか。
会社法は、遺産分割の終了を売渡しの請求の要件としておりません。会社は、相続その他の一般承継があったことを知った日から1年以内であれば、請求をすることができます(会社法第176条第1項)。遺産分割の未了は、請求を妨げる事由とはなりません。
質問5 権利行使者の指定に反対いたしました。私の意見は反映されないのでしょうか。
会社に対する関係では、権利行使者の行為が効力を有することとなります。もっとも、共有者の内部におきましては、権利行使者は共有者の間で決定された方針に従うべきものと解されております。したがいまして、議決権の行使の内容、資料の請求の要否等につきまして、あらかじめ書面により取決めをしておくことが肝要でございます。
質問6 指定を終える前に、会社から株主総会の招集の通知が届きました。どうすればよろしいですか。
直ちに指定の協議を行い、会社に通知することを試みます。総会の期日までに間に合わない場合には、会社に対し、権利を行使することについて同意を求めることが考えられます(会社法第106条ただし書)。会社がこれに応じない場合には、決議の効力を争う余地が残るかどうかを別途検討いたします。
本記事の根拠条文
会社法
- 第31条第2項(定款の閲覧等)
- 第106条(共有者による権利の行使)
- 第174条(相続人等に対する売渡しの請求に関する定款の定め)
- 第175条第2項(議決権の排除)
- 第176条第1項(売渡しの請求及び1年の期間の制限)
- 第177条第2項(売買価格の決定の申立て)
民法 第252条第5項(保存行為)、第898条第1項(相続財産の共有)
内部リンク
送客先のご案内のページ 相続した株式に売渡しの請求を行使され、安く取り上げられそうでお困りの方へ
弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談
弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)では、遺産分割が終わらないうちに会社から売渡しの請求を受けた相続人の方からのご相談をお受けしております。権利行使者の指定に関する協議、会社への通知、名義書換の請求、定款の閲覧謄本交付の請求、売買価格の決定の申立てまで、ご依頼者の側の代理人としてお引き受けいたします。当事務所は、相続人及び株主の側のお立場でこの類型の案件を取り扱っており、同一の案件について会社の側と相続人の側の双方を代理することはございません。
詳しくは、相続した株式に売渡しの請求を行使され、安く取り上げられそうでお困りの方へのご案内のページをご覧ください。
- 電話番号 03-6435-8418
- 受付時間 8時00分から21時00分まで
- 土曜日・日曜日・祝日も受付いたします
- ご相談は事前予約制です
弁護士費用については、当ウェブサイトの弁護士費用一覧のページをご覧ください。
ご相談の際に、被相続人の出生から死亡までの戸籍関係の書類、遺産分割の協議に関する資料、会社から届いた請求の書面及びその封筒、会社の登記事項証明書をご用意いただけますと検討が早く進みます。これらがお手元にないことを理由にご相談をお断りすることはございません。なお、税務上の取扱いについては税理士にご確認ください。
本記事は一般的な制度の説明であり、結論は事案ごとに異なります。同種の事案において同じ結果となることを保証するものではありません。個別の事情については、弁護士にご相談ください。
必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。
このページの位置付けと、関連するページ
本ページは、相続をめぐる紛争及び相談に関する解説のうちの一つです。全体像は、次の中核となるページを御覧ください。
同じ主題を扱う関連ページ
- 遺産相続の手続を期限別に整理した進行表と必要書類の一覧
- 名義書換未了の相続人が株主であることを会社に認めさせる方法
- 疎遠な相続人及び所在の分からない相続人がいる場合の遺産分割の進め方
- 譲渡制限株式について株式譲渡承認請求を行う場合の手順と期限
- 相続財産の使い込みについて返還を求める場合の法律構成と期間の制限
- 相続財産の使い込みを防ぐための生前の備えと相続開始後における証拠の保全
- 会社が買取りを拒む場合に最初に確認すべき5つの事項
- 売渡しの請求には1年の期限があります
- 事業承継及び会社の相続における専門家の役割分担と弁護士に相談すべき場面
- 遺産の使い込みが発覚した!遺産遣い込み返還請求について!
- 相続の基礎知識
- 相続財産・遺産・預金の使い込み(隠匿・横領・着服)!
具体的な御相談をお考えの皆様へ
本ページの主題に関し、当事務所の取扱内容、対応の進め方及び費用の考え方は、次の御案内のページに整理しています。あわせて御覧ください。

