「会社を継がせる」「財産の一切を長男に」と書かれた遺言に自社株式は含まれるか 遺言の文言の解釈と最高裁判所の判例

▶ 自社株式を1人に相続させる遺言に納得できない場合の対応 遺言の無効の主張と遺留分侵害額の請求
父の自筆の遺言には「会社は長男に継がせる。残りの財産は兄弟で仲良く分けること」としか書かれていませんでした。兄は、会社を継がせるとは会社の株式をすべて相続させるという意味だと言います。私は、父は社長の地位を兄に譲りたいという希望を書いたにすぎないと思います。会社の株式は父の財産の大半を占めています。当事務所には、このようなご相談が寄せられています。
自筆の遺言では、「会社を継がせる」「事業を任せる」「財産の一切を長男に」「工場は長男に」のように、日常の言葉で書かれていることが少なくありません。オーナー経営者にとって会社と自分の財産は一体のものに見えていても、法律上は、会社の財産は会社のものであり、遺言者が持っているのは会社の株式です。文言が株式を含むかどうかで、会社の経営の支配と相続人の取り分が大きく変わります。
結論から申し上げます。遺言の文言が自社株式を含むかどうかは、文言を形式的に読むだけでなく、遺言書の全体の記載との関連、遺言書を作成した当時の事情及び遺言者の置かれていた状況などを考慮して、遺言者の真意を探究して判断されます(最高裁判所昭和58年3月18日判決)。「財産の一切」は通常株式を含みますが、「会社を継がせる」という文言は、株式の承継を定めたものか、経営の地位についての希望を述べたものかが争われます。会社名義の工場や預金は会社の財産であり、遺言で処分できるのは原則として遺言者が持つ株式です。以下、順を追ってご説明します。
遺言の解釈に関する最高裁判所の判例
遺言者の真意を探究します
最高裁判所は、遺言の解釈に当たっては、遺言書の文言を形式的に判断するだけでなく、遺言者の真意を探究すべきであり、遺言書の特定の条項を解釈するに当たっても、その条項と遺言書の全記載との関連、遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況などを考慮して、その条項の趣旨を確定すべきであるとしています(最高裁判所昭和58年3月18日判決)。
文言を前提に、作成の経緯も考慮します
また、遺言の解釈に当たっては、遺言書に表明されている遺言者の意思を尊重して合理的にその趣旨を解釈すべきであり、可能な限り有効となるように解釈することがその意思に沿うものであって、そのためには、遺言書の文言を前提にしながらも、遺言者が遺言書の作成に至った経緯及びその置かれた状況等を考慮することも許されるとしています(最高裁判所平成5年1月19日判決)。出発点は遺言書の文言であり、文言から離れて遺言者の意思を推測するものではない点に注意が必要です。
財産の所有の状況も考慮されます
遺言書に遺贈の目的として単に「不動産」と記載され、その所在場所として遺言者の住所が書かれていた事案で、遺言者がその住所地にある土地及び建物を所有していたなどの事実関係の下では、建物のみを遺贈する意思を表示したものと解することはできないとされた例があります(最高裁判所平成13年3月13日判決)。遺言者が当時どのような財産を持っていたかは、文言の範囲を確かめる重要な資料になります。
「財産の一切を長男に」と書かれている場合
「財産の一切」「全財産」という文言は、通常、遺言者が持つ会社の株式、会社への貸付金、個人名義の不動産や預金を含みます。最高裁判所は、特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言について、遺贈であることが明らかであるか遺贈と解すべき特段の事情がない限り、遺産分割の方法の指定と解され、何らの行為を要せずに被相続人の死亡の時に直ちに相続により承継されるとしています(最高裁判所平成3年4月19日判決)。相続人の1人に「財産の一切を相続させる」とある遺言も、株式を含む遺産のすべてをその相続人に承継させる趣旨と解されるのが通常です。他方、相続人以外の者に「財産の一切を遺贈する」とあれば包括遺贈となり、受遺者は相続人と同一の権利義務を有します(民法第990条)。相続人以外の者への遺贈と会社の承認の関係は、相続人以外の者に自社株式を遺贈する遺言と会社の譲渡の承認 特定遺贈と包括遺贈、「相続させる」遺言との違いでご説明しています。
なお、遺言者の債務については、相続分の指定がされた場合でも、債権者は各相続人に対し法定相続分に応じて権利を行使できます(民法第902条の2)。会社の借入れについての保証債務などは、遺言の文言だけでは、他の相続人が債権者に対する責任を免れない点に注意が必要です。
遺言書の効力や内容をめぐって、相続人の間で争いが生じている方は、次のページを御覧ください。
「会社を継がせる」「事業を任せる」と書かれている場合
経営の地位は遺言では決まりません
取締役は株主総会の決議によって選任し(会社法第329条第1項)、取締役会設置会社では取締役会が取締役の中から代表取締役を選定します(会社法第362条第3項)。取締役会を置かない会社では、定款、定款の定めに基づく取締役の互選又は株主総会の決議によって代表取締役を定めます(会社法第349条第3項)。そのため、遺言で「長男を社長にする」と書いても、それだけで長男が社長になるわけではありません。この文言が遺言として意味を持つのは、株式の承継を定めたものと解される場合です。
株式の承継を定めたものと読めるか
「会社を継がせる」が株式の承継を定めたものかどうかは、次のような事情から判断されることになります。
- 遺言者が会社の株式の大半を持ち、株式を承継させなければ会社を継がせることができない状況であったか
- 遺言書の他の条項との関係(「残りの財産は兄弟で分ける」と書かれている場合、何が「残り」に当たるか)
- 遺言者が生前、株式を後継者に集める意向を家族や顧問税理士に示していたか
- 遺言の作成に至った経緯(後継者の決定、事業承継の相談の記録など)
- 株式以外の財産の状況と、各相続人に残される財産の割合
株式の承継と解されない場合
文言が株式の承継を定めたものと解されなければ、株式は「残りの財産」として遺産分割の対象となり、遺産分割が終わるまで相続人全員の準共有となります。準共有の株式の議決権を行使するには、権利を行使する者1人を定めて会社に通知しなければなりません(会社法第106条)。その手続は、準共有株式の権利行使者の指定と売渡しの請求でご説明しています。
自社株式を特定の相続人に承継させる遺言に納得できない方は、次のページを御覧ください。
会社の財産と株式の区別
会社名義の財産は遺産ではありません
会社は遺言者とは別の法人ですので、会社名義の工場の土地建物、機械、預金、在庫は会社の財産であり、遺言者の遺産ではありません。「工場と機械は長男に」と書かれていても、それが会社名義の財産であれば、遺言で直接処分することはできません。このような文言が株式の承継の趣旨を含むかどうかが、解釈の問題になります。
遺言者の個人名義の事業用の財産
反対に、会社が使っている土地や建物が遺言者の個人名義である場合は、遺言者の遺産です。会社への貸付金も遺言者の財産です。「事業用の財産は長男に」という文言が、株式だけを指すのか、会社が使う個人名義の不動産や会社への貸付金も含むのかは、登記や決算書で財産の名義を確かめた上で判断します。
複数の会社や組織の変更がある場合
遺言者が複数の会社の株式を持っていた場合や、遺言の作成後に持株会社の設立などで株式の銘柄が変わった場合も、どの会社の株式が文言に含まれるかが問題になります。遺言の作成後の変化については、内容の異なる遺言が複数見つかった場合の自社株式の帰属 撤回とみなされる部分と生前の株式の譲渡をご参照ください。
お手元の資料と経緯をお聞きし、進め方の順序をお示しします。
解釈に争いがある場合の進め方
名義書換と会社の対応
文言の解釈に争いがあると、会社は、どの相続人を株主として扱うべきか判断に迷い、名義書換に慎重になることがあります。遺言で株式を承継した相続人の名義書換の手続は、「株式は全部長男に相続させる」と書かれた遺言で自社株式を承継した場合に、会社に株主として扱われるまでに行うことでご説明しています。
協議、調停及び訴訟
まず相続人の間で、遺言書の全体と作成の経緯の資料を示して協議します。協議がまとまらなければ、遺産分割の調停の中で遺産の範囲として話し合うことや、株式が自分に帰属することの確認を求める訴えなどで決着をつけることになります。
遺留分の期間に注意してください
解釈の結果、株式が他の相続人に承継されることになれば、兄弟姉妹以外の相続人は遺留分侵害額を請求できます(民法第1046条第1項)。この請求権は、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは、時効によって消滅します(民法第1048条)。解釈を争っている間も期間は進むと考えておくべきですので、解釈が認められない場合に備えて、遺留分侵害額を請求する旨の意思表示をしておきます。
いま確認していただきたいこと
- 遺言書の全文(株式、会社、事業、財産について書かれた部分のすべて)
- 遺言者が当時持っていた株式の会社名と株式の数(株主名簿、法人税の申告書に添付された株主の明細)
- 会社が使っている不動産の登記の名義(会社名義か遺言者の個人名義か)
- 会社への貸付金の有無と金額(決算書の勘定科目内訳書)
- 他の遺言書、遺言者のメモや手紙、事業承継について相談した記録
- 相続の開始と遺言の内容を知った日
よくあるご質問
「会社を継がせる」と書かれていれば、株式はすべて兄のものになりますか。
当然にそうなるわけではありません。遺言書の全体の記載、作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況などから、株式の承継を定めたものかどうかが判断されます(最高裁判所昭和58年3月18日判決)。
「財産の一切」には、会社の土地や建物も含まれますか。
会社名義の土地や建物は会社の財産であり、遺言者の遺産ではありませんので含まれません。遺言者が持つ会社の株式は含まれます。会社が使っている不動産でも、遺言者の個人名義であれば遺産に含まれます。
遺言書以外の手紙や生前の発言も、解釈の資料になりますか。
なり得ます。最高裁判所は、遺言書の文言を前提にしながらも、遺言者が遺言書の作成に至った経緯及びその置かれた状況等を考慮することも許されるとしています(最高裁判所平成5年1月19日判決)。ただし、文言から離れた解釈は認められにくいです。
解釈が決まるまで、株主総会の議決権は誰が行使するのですか。
会社は通常、株主名簿の記載に従って扱います。遺言に基づいて名義書換がされていなければ、株式は相続人全員の準共有として、権利を行使する者の指定が必要になります(会社法第106条)。
解釈を争っている間も、遺留分の期間は進みますか。
進むと考えておくべきです。遺留分侵害額の請求権は、相続の開始と遺留分を侵害する遺贈等を知った時から1年で時効により消滅します(民法第1048条)。解釈が認められない場合に備えて、期間内に請求の意思表示をしておきます。
出典
- 民法(明治29年法律第89号)第902条の2、第990条、第1046条第1項、第1048条
- 会社法(平成17年法律第86号)第106条、第329条第1項、第349条第3項、第362条第3項
- 最高裁判所昭和58年3月18日判決 裁判所ウェブサイトの裁判例検索で確認しています。
- 最高裁判所平成3年4月19日判決 裁判所ウェブサイトの裁判例検索で確認しています。
- 最高裁判所平成5年1月19日判決 裁判所ウェブサイトの裁判例検索で確認しています。
- 最高裁判所平成13年3月13日判決 裁判所ウェブサイトの裁判例検索で確認しています。
- e-Gov法令検索(デジタル庁) 法令の条文の確認に用いています。
弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談
弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)は、非上場株式の相続に注力し、遺言の文言が自社株式を含むかどうかの検討、作成の経緯の資料の収集、遺産の範囲の争い、遺留分侵害額の請求まで、ご依頼者の代理人としてご相談をお受けしています。同一の案件について、利害の対立する双方を代理することはありません。
株式についての遺言でお困りの方は、株式の遺言をめぐるトラブルに関するご案内のページをご覧ください。
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ご相談の際に、遺言書の写し、会社の履歴事項全部証明書、株主名簿の写し、会社が使っている不動産の登記事項証明書、直近の決算書をご用意いただけば、検討が早く進みます。これらがお手元にないことを理由にご相談をお断りすることはありません。なお、税務上の取扱いについては税理士にご確認ください。
本記事は一般的な制度の説明であり、結論は事案ごとに異なります。同種の事案において同じ結果となることを保証するものではありません。個別の事情については、弁護士にご相談ください。
必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。
この記事の位置付け
遺言の文言が自社株式を含むかどうかの解釈に関するメインのページです。本ページは、非上場株式の相続において、「会社を継がせる」「財産の一切を長男に」などの文言の読み方、会社の財産と株式の区別、遺言の解釈に関する最高裁判所の判例をご説明します。遺言の無効と遺留分の全体像は別のページをご参照ください。
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