内容の異なる遺言が複数見つかった場合の自社株式の帰属 撤回とみなされる部分と生前の株式の譲渡

▶ 自社株式を1人に相続させる遺言に納得できない場合の対応 遺言の無効の主張と遺留分侵害額の請求
父の遺品を整理していたところ、「会社の株式は長男と次男に半分ずつ相続させる」とする公正証書遺言と、それより後の日付で「会社の株式はすべて長男に相続させる」とする自筆の遺言が見つかりました。どちらの遺言に従えばよいのでしょうか。当事務所には、このようなご相談が寄せられています。
オーナー経営者は、後継者の選定や家族の状況の変化に応じて、遺言を何度も書き直すことがあります。遺言が複数ある場合、どの遺言のどの部分が効力を持つかによって、会社の株式の帰属と経営の支配が決まります。
結論から申し上げます。遺言が複数ある場合でも、後の遺言が前の遺言のすべてを失わせるわけではありません。前の遺言と後の遺言が抵触する部分に限り、後の遺言で撤回したものとみなされます。また、遺言の後に遺言者が株式を生前に譲渡していた場合も、その部分は撤回したものとみなされます。まず全ての遺言を集め、作成の日付と内容を照らし合わせることが出発点です。以下、順を追ってご説明します。
遺言はいつでも撤回できます
遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができます(民法第1022条)。公正証書遺言を自筆証書遺言で撤回することもできます。遺言の種類による優劣はなく、作成の日付の先後が基準となります。
撤回とみなされる場合
前の遺言と後の遺言が抵触する場合
前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなされます(民法第1023条第1項)。冒頭の例では、株式の帰属について両方の遺言が抵触しますので、後の自筆の遺言が有効であれば、株式は長男が承継します。他方、前の遺言にあった不動産や預金の定めは、後の遺言と抵触しない限り効力を保ちます。
遺言の後に株式を生前に譲渡した場合
遺言が遺言後の生前処分その他の法律行為と抵触する場合にも、その抵触する部分は撤回したものとみなされます(民法第1023条第2項)。例えば、「株式はすべて次男に相続させる」と遺言した後に、遺言者が生前に株式の一部を長男に贈与していれば、贈与した部分については遺言を撤回したものとみなされます。株式の生前の贈与や譲渡の有無は、株主名簿、株式の譲渡承認の取締役会議事録、贈与契約書、贈与税の申告の有無で確かめます。
遺言書を破棄した場合
遺言者が故意に遺言書を破棄したときは、その破棄した部分については遺言を撤回したものとみなされます(民法第1024条)。
撤回した遺言は原則として復活しません
撤回された遺言は、その撤回の行為が撤回され、又は効力を生じなくなるに至ったときであっても、原則としてその効力を回復しません(民法第1025条本文)。ただし、その行為が錯誤、詐欺又は強迫による場合は別です(同条ただし書)。
全ての遺言を集める方法
法務局の保管制度
法務局に保管されている自筆証書遺言は、相続人等が遺言書保管事実証明書の交付を請求して、保管の有無を確かめることができます(法務局における遺言書の保管等に関する法律第10条)。保管されていれば、遺言書情報証明書の交付を請求して内容を確認します(同法第9条)。
公証役場の遺言検索
平成元年以降に作成された公正証書遺言は、全国の公証役場で検索を依頼できます。相続人であることを示す戸籍謄本等が必要です。
自宅や会社の金庫
オーナー経営者は、遺言書を会社の金庫や顧問税理士に預けていることがあります。会社の関係者に確認を求めることも考えられます。
遺言書の効力や内容をめぐって、相続人の間で争いが生じている方は、次のページを御覧ください。
自社株式に特有の問題
株式の数や会社の組織が変わっている場合
遺言の作成後に、株式の分割や併合、会社の合併、持株会社の設立などで、遺言者が持つ株式の数や銘柄が変わっていることがあります。「A社の株式」と書かれた遺言が、組織再編の後の持株会社の株式に及ぶかどうかは、遺言の解釈の問題となります。遺言者の意思を、遺言書の文言と作成当時の事情から確かめます。
遺言執行者の指定の違い
前の遺言と後の遺言で、遺言執行者の指定が異なることがあります。遺言執行者の指定も、抵触する限りで後の遺言が優先します。遺言執行者が誰かは、名義書換の請求や遺産の管理の主体に関わります。
名義書換の先後
一方の相続人が、自分に有利な遺言に基づいて先に名義書換を済ませていることがあります。名義書換は会社に対する手続であり、どの遺言が有効かを決めるものではありません。後の遺言が見つかった場合は、名義書換の是正を求めることになります。
お手元の資料と経緯をお聞きし、進め方の順序をお示しします。
遺留分は変わらず問題になります
どの遺言が有効と判断されても、その遺言で取り分を失った兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分侵害額を請求できます(民法第1046条第1項)。遺言の有効性の争いが長引く場合に備えて、1年の期間内に遺留分侵害額を請求する旨の意思表示をしておくべきです(民法第1048条)。詳しくは自社株式を1人に相続させる遺言に納得できない場合の対応 遺言の無効の主張と遺留分侵害額の請求をご参照ください。
遺言や生前贈与で取り分がなくなり、遺留分侵害額の請求を検討している方は、次のページを御覧ください。
いま確認していただきたいこと
- 見つかった全ての遺言の種類、作成日、株式についての記載
- 法務局の保管の有無と、公証役場の遺言検索の結果
- 遺言の後に遺言者が株式を贈与又は譲渡した事実の有無(株主名簿、贈与契約書、贈与税の申告)
- 遺言の作成後の株式の分割・併合や組織再編の有無
- 各遺言の遺言執行者の指定
よくあるご質問
公正証書遺言の後に作られた自筆の遺言でも、優先されますか。
遺言の種類による優劣はありません。自筆証書遺言が方式を満たして有効であれば、抵触する部分については、後の自筆証書遺言が優先します(民法第1023条第1項)。
後の遺言にない財産は、前の遺言どおりになりますか。
前の遺言のうち、後の遺言と抵触しない部分は効力を保ちます。抵触するのは、同じ財産について異なる定めをしている部分などです。
父は遺言の後に株式の一部を兄に贈与していました。
遺言の後の生前の贈与と抵触する部分は、遺言を撤回したものとみなされます(民法第1023条第2項)。他方、その贈与は、遺留分の算定や特別受益の問題として考慮されることがあります。
日付のない遺言は、どう扱われますか。
自筆証書遺言は日付の自書が必要であり(民法第968条第1項)、日付のない遺言は方式を欠くものとして効力が争われます。
兄が先に名義書換を済ませてしまいました。
名義書換は、どの遺言が有効かを決めるものではありません。後の遺言が有効であれば、会社と兄に対して名義書換の是正を求めることになります。
出典
- 民法(明治29年法律第89号)第968条第1項、第1022条、第1023条、第1024条、第1025条、第1046条第1項、第1048条
- 法務局における遺言書の保管等に関する法律(平成30年法律第73号)第9条、第10条
- 日本公証人連合会 遺言検索システムの案内
- e-Gov法令検索(デジタル庁) 法令の条文の確認に用いています。
弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談
弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)は、非上場株式の相続に注力し、複数の遺言がある場合の株式の帰属の検討、名義書換の是正、遺言無効確認の調停及び訴訟、遺留分侵害額の請求まで、ご依頼者の代理人としてご相談をお受けしています。同一の案件について、利害の対立する双方を代理することはありません。
株式についての遺言でお困りの方は、株式の遺言をめぐるトラブルに関するご案内のページをご覧ください。
- 電話番号 03-6435-8418
- 受付時間 8:00-21:00(土日祝含む)
- ご相談は事前予約制です
ご相談の際に、見つかった全ての遺言書の写し、会社の株主名簿又は履歴事項全部証明書、株式の贈与に関する資料をご用意いただけば、検討が早く進みます。これらがお手元にないことを理由にご相談をお断りすることはありません。なお、税務上の取扱いについては税理士にご確認ください。
本記事は一般的な制度の説明であり、結論は事案ごとに異なります。同種の事案において同じ結果となることを保証するものではありません。個別の事情については、弁護士にご相談ください。
必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。
この記事の位置付け
内容の異なる遺言が複数見つかった場合の自社株式の帰属に関するメインのページです。本ページは、非上場株式の相続において、撤回とみなされる部分の見分け方と、遺言の後に株式が譲渡された場合の扱いをご説明します。遺言の無効と遺留分の全体像は別のページをご参照ください。
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