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後継者に自社株式を安く売っていた場合の遺留分 不相当な対価による譲渡が贈与とみなされる場合と株式の評価

公開 2026年10月26日更新 2026年10月30日

▶ 自社株式を後継者に集中させた場合の遺留分侵害額請求と株式の評価

父は亡くなる5年前に、会社の株式のすべてを、後継者である兄に1株あたり数百円で売っていました。兄は「売買であって贈与ではないから、遺留分とは関係ない」と言います。しかし、会社は賃貸用の不動産を多く持っており、株式の価値は売買の代金の何倍もあったはずです。父の遺産はほとんど残っていません。当事務所には、このようなご相談が寄せられています。

事業承継では、贈与税の負担を避けるため、自社株式を後継者に贈与するのではなく、相続税評価額や額面に近い価格で売買する方法がとられることがあります。売買の形式をとっていても、代金が株式の価値に比べて著しく低ければ、他の相続人から見れば、実質的に財産を後継者に移したのと変わりません。

結論から申し上げます。後継者への株式の売買であっても、対価が不相当に低く、売主と買主の双方が遺留分権利者に損害を加えることを知っていた場合には、その売買は代金を負担の価額とする負担付贈与とみなされ、株式の価額から代金を差し引いた額が遺留分を算定するための財産の価額に加えられます(民法第1045条第2項)。争点は、対価が不相当といえるか、双方が損害を加えることを知っていたか、株式の価額をいくらとみるかの3点です。以下、順を追ってご説明します。

遺留分を算定するための財産と生前の贈与

遺留分を算定するための財産の価額は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額に、その贈与した財産の価額を加えた額から、債務の全額を控除した額です(民法第1043条第1項)。加えられる贈与は、原則として相続開始前の1年間にしたものに限られますが、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは、それより前の贈与も加えられます(民法第1044条第1項)。相続人に対する贈与については、「1年」が「10年」となり、婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与に限られます(同条第3項)。

売買が贈与とみなされる場合

不相当な対価による有償行為

不相当な対価をもってした有償行為は、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってしたものに限り、その対価を負担の価額とする負担付贈与とみなされます(民法第1045条第2項)。負担付贈与の価額は、その目的の価額から負担の価額を控除した額とされます(同条第1項)。

計算の例

例えば、相続開始の時の価額が2億円と評価される株式を、父が兄に2,000万円で売っていた場合、要件を満たせば、2億円から2,000万円を差し引いた1億8,000万円が、贈与した財産の価額として遺留分を算定するための財産の価額に加えられます。相続人が兄と弟の2人で、他に遺産がなければ、弟の遺留分は4分の1ですので、4,500万円が弟の遺留分の額となります(民法第1042条)。

代金が実際には支払われていない場合

売買契約書があっても、代金が支払われていない場合や、支払われた代金が後に父から兄に戻されている場合は、売買の形をとった贈与であると主張することが考えられます。代金の支払の記録と、その後の父の預金の動きを確かめます。

自社株式をめぐって、遺留分侵害額の請求を受け、又は請求を検討している方は、次のページを御覧ください。

要件1 対価が不相当であること

対価が不相当かどうかは、売買の時の株式の価額と代金とを比べて判断することになると考えられます。非上場株式には市場の価格がないため、売買の時の会社の純資産、収益力、配当の状況などから価額を検討します。相続税や贈与税の計算に用いる評価額(財産評価基本通達による評価額)で売買していたとしても、それだけで対価が相当であったことにはなりません。会社が含み益のある不動産を持っている場合などは、相続税評価額と時価が大きく異なることがあります。評価の考え方は、相続した株式の評価を弁護士に依頼して争うとき 相続税評価額と遺産分割の価格は違いますでご説明しています。

要件2 当事者双方が損害を加えることを知っていたこと

売主である父と買主である後継者の双方が、遺留分権利者に損害を加えることを知っていたことが必要です。この点は、請求する側が主張し、証明する必要があると解されています。次のような事情が、知っていたことをうかがわせる事情として検討されます。

  • 父の財産の大半が会社の株式であり、売買の後に父の手元に残る財産が少ないことが見込まれていたこと
  • 後継者が役員として会社の財務の内容を知っており、株式の価値と代金の差を認識できたこと
  • 代金の決め方に合理的な根拠がなく、株式の価額の算定書なども作られていないこと
  • 売買が父の高齢又は病気の時期に行われ、将来財産が増える見込みがなかったこと

期間の制限との関係

第1045条第2項により負担付贈与とみなされるのは、当事者双方が損害を加えることを知ってした場合に限られます。そのため、第1044条第1項の後段により、売買が相続開始の1年前(相続人に対するものは10年前)より前であっても、算入の対象となると考えられます。ただし、後継者が相続人である場合は、同条第3項により、婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与の価額に限られます。事業を承継させるための自社株式の移転がこれに当たるかも、事案に応じて検討します。

株式の評価の基準時

対価が不相当かどうかは売買の時を基準に判断することになると考えられますが、遺留分を算定するための財産に加える額は、相続開始の時の株式の価額を基に算定するのが実務の扱いです。受贈者の行為によって財産の価格に増減があった場合も、相続開始の時においてなお原状のままであるものとみなして価額を定めます(民法第1044条第2項、第904条)。売買の後に会社の業績が伸びた場合や、反対に後継者の経営によって会社の価値が下がった場合に、どの時点のどの事情を評価に織り込むかが争点となります。遺留分侵害額の計算と株式の評価の全体は、自社株式を後継者に集中させた場合の遺留分侵害額請求と株式の評価をご参照ください。

遺産分割での非上場株式の評価額をめぐって、他の相続人と争いが生じている方は、次のページを御覧ください。

お手元の資料と経緯をお聞きし、進め方の順序をお示しします。

誰に、どの順序で請求するか

遺留分権利者は、受遺者又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求できます(民法第1046条第1項)。受遺者と受贈者があるときは受遺者が先に負担し、受贈者が複数あるときは後の贈与の受贈者から順に負担します(民法第1047条第1項第1号、第3号)。受贈者が相続人である場合は、目的の価額から自己の遺留分の額を控除した額が負担の限度となります(同項)。裁判所は、受遺者又は受贈者の請求により、支払について相当の期限を許与することができます(同条第5項)。

1年の期間に注意してください

遺留分侵害額の請求権は、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは、時効によって消滅します。相続開始の時から10年を経過したときも同様です(民法第1048条)。売買があったことを知っていた場合、いつ遺留分を侵害するものと知ったといえるかが争われることがありますので、早めに請求の意思表示をしておくべきです。

遺留分に関する民法の特例との関係

中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律は、旧代表者の推定相続人と後継者の全員の合意により、後継者が旧代表者から贈与等により取得した株式等の価額を遺留分を算定するための財産の価額に算入しないことなどを定める制度を設けています(同法第4条第1項)。条文上、合意の対象は贈与又は相続により取得した株式等とされており、売買により取得した株式は対象として定められていません。制度の概要は、事業承継における遺留分の特例とは?使用の方法をご参照ください。

税務上の取扱い

著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた場合には、対価とその財産の時価との差額に相当する金額を、譲渡した者から贈与により取得したものとみなすと定められています(相続税法第7条)。後継者への低い価格での売買は、売買の時に贈与税の課税が問題となっていることがあります。贈与税の申告の有無は、遺留分の検討の資料にもなります。具体的な課税関係は、税理士にご確認ください。

いま確認していただきたいこと

  • 株式の売買契約書と、代金の支払の記録(振込の記録、父の預金の取引履歴)
  • 代金の決め方(株式の価額の算定書、税理士の意見書の有無)
  • 売買の当時の会社の決算書と、会社が所有する不動産の内容
  • 売買の当時の父の財産の状況と健康の状態
  • 贈与税の申告の有無
  • 相続の開始と、売買があったことを知った日

よくあるご質問

売買であっても、遺留分の計算の対象になるのですか。

対価が不相当で、売主と買主の双方が遺留分権利者に損害を加えることを知っていた場合は、代金を負担の価額とする負担付贈与とみなされ、対象となります(民法第1045条第2項)。

相続税評価額で売買していれば、不相当な対価ではないのですか。

相続税評価額での売買であっても、それだけで相当な対価であったことにはなりません。遺留分の検討では、売買の時の株式の価額と代金を比べます。会社の資産の内容によっては、相続税評価額と時価が大きく異なります。

何年も前の売買でも、対象になりますか。

第1045条第2項が適用される場合は当事者双方の認識が要件となるため、第1044条第1項の後段により、1年(相続人に対するものは10年)より前の売買でも対象となると考えられます。後継者が相続人である場合は、生計の資本としての贈与に当たるかも検討します。

父と兄が損害を加えることを知っていたことは、どのように示すのですか。

父の財産に占める株式の割合、売買の後に残る財産の見込み、兄が会社の財務を知っていたこと、代金の決め方などの事情を、売買契約書、決算書、預金の取引履歴などの資料から示していきます。

遺留分として株式を返してもらうことはできますか。

遺留分侵害額の請求は、金銭の支払を求めるものです(民法第1046条第1項)。当事者が合意すれば、金銭に代えて株式を受け取ることも考えられますが、税務上の影響がありますので、税理士にご確認ください。

出典

  • 民法(明治29年法律第89号)第904条、第1042条、第1043条第1項、第1044条、第1045条、第1046条第1項、第1047条、第1048条
  • 中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律(平成20年法律第33号)第4条第1項
  • 相続税法(昭和25年法律第73号)第7条
  • e-Gov法令検索(デジタル庁) 法令の条文の確認に用いています。

弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談

弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)は、非上場株式の相続に注力し、後継者への生前の株式の譲渡について、対価の相当性と株式の評価の検討、遺留分侵害額の請求、調停及び訴訟まで、ご依頼者の代理人としてご相談をお受けしています。同一の案件について、利害の対立する双方を代理することはありません。

株式の遺留分でお困りの方は、株式の遺留分をめぐるトラブルに関するご案内のページをご覧ください。

  • 電話番号 03-6435-8418
  • 受付時間 8:00-21:00(土日祝含む)
  • ご相談は事前予約制です

ご相談の際に、株式の売買契約書、代金の支払の記録、売買の当時の会社の決算書、相続税の申告書の控え、会社の履歴事項全部証明書をご用意いただけば、検討が早く進みます。これらがお手元にないことを理由にご相談をお断りすることはありません。なお、税務上の取扱いについては税理士にご確認ください。

本記事は一般的な制度の説明であり、結論は事案ごとに異なります。同種の事案において同じ結果となることを保証するものではありません。個別の事情については、弁護士にご相談ください。

必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。

この記事の位置付け

後継者に自社株式を低い価格で譲渡していた場合の遺留分に関するメインのページです。本ページは、非上場株式の相続において、不相当な対価による譲渡が負担付贈与とみなされる要件、期間の制限、株式の評価をご説明します。遺留分侵害額の計算の全体と株式の評価の方法は別のページをご参照ください。

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執筆者

弁護士法人M&A総合法律事務所 代表弁護士 土屋勝裕(東京弁護士会所属 登録番号26775)

2024年(令和6年)10月に最高裁判所において株式買取請求権に関する逆転判決を得た弁護士です。長島・大野・常松法律事務所に在籍した後、慶應義塾大学ビジネス・スクール及びペンシルベニア大学ウォートン校に留学し、ファイナンス理論並びにM&A及び不動産を専攻しました。不動産投資信託(J-REIT)の上場案件にも関与しています。

主として取り扱う分野 M&A、株式買取請求権、非上場株式の価格の決定、企業価値評価、事業承継及び企業法務

所在地 〒105-6017 東京都港区虎ノ門4丁目3番1号 森トラスト城山トラストタワー17階/電話番号 03-6435-8418/受付時間 8:00-21:00(土日祝含む)

本記事の記載は一般的な法律情報であり、個別の事案に関する法律上の助言ではありません。記載した経歴は事実の記述であり、個別の事件の結果を保証するものではありません。

著書

非上場会社における少数株主対策の手法と実務
『非上場会社における少数株主対策の手法と実務』(日本法令)
中堅・中小企業のためのM&Aトラブル事例と実務対策
『中堅・中小企業のためのM&Aトラブル事例と実務対策』(清文社)
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