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「株式を遺贈する代わりに母を扶養すること」と書かれた遺言 負担付遺贈による自社株式の承継と負担が履行されない場合の取消し

公開 2026年10月26日更新 2026年10月30日

▶ 自社株式を1人に相続させる遺言に納得できない場合の対応 遺言の無効の主張と遺留分侵害額の請求

父の遺言には「会社の株式はすべて長男に遺贈する。長男は、その負担として、母が生きている間、母に毎月20万円を支払い、母を扶養すること」と書かれていました。兄は株式を取得して社長になりましたが、1年ほどで母への支払を止めてしまいました。父の遺言は、このまま守られないままになるのでしょうか。当事務所には、このようなご相談が寄せられています。

オーナー経営者は、会社の株式を後継者1人に集める代わりに、後継者に配偶者の生活の面倒を見させたり、会社の借入れについての個人保証を引き継がせたりすることで、家族の間の公平を図ろうとすることがあります。このような遺言は、後継者が負担を履行しない場合に、残された家族が何をできるかが問題になります。

結論から申し上げます。株式を遺贈する代わりに一定の義務を負わせる遺言は負担付遺贈であり、受遺者は、遺贈の目的である株式の価額を超えない限度で、負担を履行する責任を負います(民法第1002条第1項)。受遺者が負担を履行しないときは、相続人は相当の期間を定めて履行を催告し、期間内に履行がなければ、家庭裁判所に遺言の取消しを請求できます(民法第1027条)。取消しは会社の経営の支配にも影響しますので、履行を求める方法と比べて判断します。以下、順を追ってご説明します。

負担付遺贈とは

負担の例

負担付遺贈は、受遺者に財産を与える代わりに、受遺者に一定の義務を負わせる遺贈です。自社株式の承継では、次のような負担が見られます。

  • 配偶者に毎月一定額を支払う、配偶者を扶養する
  • 他の相続人に一定の金銭を支払う
  • 会社の金融機関からの借入れについて、遺言者が負っていた保証を引き継ぐ
  • 遺言者が会社に貸し付けていた金銭の扱いについて定める

負担の内容が具体的かどうか

「母の面倒を見ること」のように内容が抽象的な負担は、何をすれば履行したことになるのかが争われます。金額、支払の期間、支払の方法が具体的に書かれているかどうかで、履行を求める場面の進め方が変わります。遺言の文言の読み方は、「会社を継がせる」「財産の一切を長男に」と書かれた遺言に自社株式は含まれるか 遺言の文言の解釈と最高裁判所の判例をご参照ください。

「相続させる」遺言に負担が付されている場合

「株式は長男に相続させる。長男は母を扶養すること」のように、「相続させる」遺言に負担が付されていることもあります。この場合に負担付遺贈の規定がそのまま適用されるかについては、見解が分かれています。遺言の文言全体から、遺言者が何を求めていたかを確かめます。

受遺者の責任の範囲

株式の価額を超えない限度で責任を負います

負担付遺贈を受けた者は、遺贈の目的の価額を超えない限度においてのみ、負担した義務を履行する責任を負います(民法第1002条第1項)。非上場株式の価額は市場の価格がないため、負担の総額が株式の価額を超えるかどうかが争われる場合は、株式の評価が問題になります。

遺贈を放棄した場合

受遺者は、遺言者の死亡後、いつでも遺贈を放棄できます(民法第986条第1項)。受遺者が遺贈を放棄したときは、遺言に別段の意思表示がない限り、負担の利益を受けるべき者が自ら受遺者となることができます(民法第1002条第2項)。冒頭の例で兄が遺贈を放棄すれば、母が株式の受遺者となる道があり、会社の経営の支配が移る可能性があります。

限定承認や遺留分との関係

負担付遺贈の目的の価額が相続の限定承認又は遺留分回復の訴えによって減少したときは、受遺者は、遺言に別段の意思表示がない限り、その減少の割合に応じて負担した義務を免れます(民法第1003条)。令和元年7月1日以後に開始した相続では、遺留分の請求は遺留分侵害額に相当する金銭の支払の請求となっていますので(民法第1046条第1項)、この規定がどのように当てはめられるかは個別に検討が必要です。なお、受遺者が負担する遺留分侵害額の限度を計算する際の遺贈の目的の価額は、負担の価額を控除して算定します(民法第1047条第2項、第1045条第1項)。

遺言書の効力や内容をめぐって、相続人の間で争いが生じている方は、次のページを御覧ください。

負担が履行されない場合

まず履行を求めます

負担の利益を受けるべき者は、受遺者に対し、負担の履行を求めることができると解されています。冒頭の例では、母が兄に対して約束された金銭の支払を求めることになります。交渉で解決しなければ、訴えを提起して支払を求めることも考えられます。

遺言の取消しの請求

負担付遺贈を受けた者がその負担した義務を履行しないときは、相続人は、相当の期間を定めて履行の催告をすることができ、その期間内に履行がないときは、負担付遺贈に係る遺言の取消しを家庭裁判所に請求できます(民法第1027条)。催告は、後に証明できるよう内容証明郵便で行います。取消しの審判は、相続を開始した地を管轄する家庭裁判所が扱い(家事事件手続法第39条、別表第1の108の項、第209条第1項)、家庭裁判所は、受遺者及び負担の利益を受けるべき者の陳述を聴かなければなりません(同法第210条第1項第2号)。

取消しが認められた場合の株式の行方

負担付遺贈に係る遺言が取り消されると、遺贈は効力を失い、受遺者が受けるべきであった株式は相続人に帰属すると解されています(民法第995条参照)。株式は相続人全員の準共有となり、遺産分割の対象となります。遺産分割が終わるまでの議決権の行使には、権利を行使する者1人の指定と会社への通知が必要です(会社法第106条)。受遺者が社長として会社を経営している場合は、取消しによって会社の支配が不安定になることもあります。取消しを求めるか、履行を求めるにとどめるかは、会社の状況も踏まえて判断します。

会社の借入れの保証を引き継がせる負担

保証債務は相続人が承継します

オーナー経営者が会社の金融機関からの借入れについて負っていた保証債務は、相続財産に含まれ、相続人が承継します(民法第896条、第899条)。遺言で相続分の指定がされていても、債権者は、各相続人に対し、法定相続分に応じて権利を行使できます(民法第902条の2)。「保証を長男が引き継ぐこと」と遺言に書かれていても、それだけで他の相続人が金融機関に対する保証債務を免れるわけではありません。

引継ぎには金融機関の関与が必要です

他の相続人が保証債務を免れるには、受遺者が免責的債務引受をすることについて金融機関が契約し又は承諾すること(民法第472条第2項、第3項)や、金融機関が受遺者との間で新たに保証契約を結び、他の相続人の保証債務を免除することが必要になります。保証契約は書面でしなければ効力を生じません(民法第446条第2項)。事業のための貸金等の債務を個人が保証する場合は、原則として事前に公正証書で保証の意思を表示する必要がありますが、主たる債務者である会社の取締役や、議決権の過半数を有する者などは除かれます(民法第465条の6、第465条の9)。

引継ぎが行われない場合

受遺者が金融機関との手続を行わず、他の相続人が保証人のままとなっている場合は、負担の不履行として、履行の催告と遺言の取消しの請求(民法第1027条)を検討できます。社長の会社への貸付金や保証債務が遺留分の計算にどう影響するかは、社長の会社への貸付金、死亡退職金及び生命保険金は遺留分の計算に入るかでご説明しています。

お手元の資料と経緯をお聞きし、進め方の順序をお示しします。

株式の承継の手続

負担付遺贈であっても、株式を遺贈により取得することに変わりはありません。譲渡制限株式の特定遺贈では、会社の承認の手続が問題になります。詳しくは相続人以外の者に自社株式を遺贈する遺言と会社の譲渡の承認 特定遺贈と包括遺贈、「相続させる」遺言との違いをご参照ください。負担付遺贈の相続税の課税価格の計算では、負担の額の扱いが問題になりますので、税理士にご確認ください。

分散した株式を後継者へ集約する方法を確かめたい方は、次のページを御覧ください。

いま確認していただきたいこと

  • 遺言の文言(「遺贈する」か「相続させる」か、負担の内容、金額、期間)
  • 負担の履行の状況が分かる資料(振込の記録、受遺者とのやり取り)
  • 遺言者が会社の借入れについて負っていた保証の内容と、金融機関の対応
  • 遺言執行者の指定の有無
  • 株主名簿の名義書換がすでにされているか
  • 会社の定款の譲渡制限の定め

よくあるご質問

兄が母への支払を止めました。母は兄に支払を求められますか。

負担の利益を受けるべき者は、受遺者に負担の履行を求めることができると解されています。交渉で解決しなければ、訴えを提起することも考えられます。並行して、相続人は、催告の上で遺言の取消しを家庭裁判所に請求することもできます(民法第1027条)。

遺言が取り消されると、株式はどうなりますか。

遺贈が効力を失い、株式は相続人に帰属すると解されています(民法第995条参照)。株式は相続人全員の準共有となり、遺産分割の対象となります。

負担の総額が株式の価値を上回る場合も、全額を履行しなければなりませんか。

受遺者は、遺贈の目的の価額を超えない限度においてのみ、負担を履行する責任を負います(民法第1002条第1項)。非上場株式の価額をどう評価するかが問題になります。

遺言には「保証は長男が引き継ぐ」とありますが、私が保証人のままです。

遺言だけでは、金融機関に対する保証債務を免れることはできません(民法第902条の2)。受遺者に金融機関との手続を求め、行われなければ、負担の不履行として催告と遺言の取消しの請求を検討します。

兄が遺贈を放棄した場合はどうなりますか。

遺言に別段の意思表示がない限り、負担の利益を受けるべき者が自ら受遺者となることができます(民法第1002条第2項)。そうでなければ、遺贈の目的であった株式は相続人に帰属します(民法第995条)。

出典

  • 民法(明治29年法律第89号)第446条第2項、第465条の6、第465条の9、第472条、第896条、第899条、第902条の2、第986条第1項、第995条、第1002条、第1003条、第1027条、第1045条第1項、第1046条第1項、第1047条第2項
  • 家事事件手続法(平成23年法律第52号)第39条、別表第1の108の項、第209条第1項、第210条第1項第2号
  • 会社法(平成17年法律第86号)第106条
  • e-Gov法令検索(デジタル庁) 法令の条文の確認に用いています。

弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談

弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)は、非上場株式の相続に注力し、負担付遺贈による自社株式の承継について、負担の内容の検討、履行の請求、遺言の取消しの審判の申立て、遺留分侵害額の請求まで、ご依頼者の代理人としてご相談をお受けしています。同一の案件について、利害の対立する双方を代理することはありません。

株式についての遺言でお困りの方は、株式の遺言をめぐるトラブルに関するご案内のページをご覧ください。

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  • 受付時間 8:00-21:00(土日祝含む)
  • ご相談は事前予約制です

ご相談の際に、遺言書の写し、負担の履行の状況が分かる資料、保証契約書の写し、会社の履歴事項全部証明書をご用意いただけば、検討が早く進みます。これらがお手元にないことを理由にご相談をお断りすることはありません。なお、税務上の取扱いについては税理士にご確認ください。

本記事は一般的な制度の説明であり、結論は事案ごとに異なります。同種の事案において同じ結果となることを保証するものではありません。個別の事情については、弁護士にご相談ください。

必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。

この記事の位置付け

負担付遺贈による自社株式の承継に関するメインのページです。本ページは、非上場株式の相続において、「株式を遺贈する代わりに母を扶養すること」「会社の借入れの保証を引き継ぐこと」といった負担の効力、受遺者の責任の範囲、負担が履行されない場合の遺言の取消しの請求をご説明します。遺言の無効と遺留分の全体像は別のページをご参照ください。

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執筆者

弁護士法人M&A総合法律事務所 代表弁護士 土屋勝裕(東京弁護士会所属 登録番号26775)

2024年(令和6年)10月に最高裁判所において株式買取請求権に関する逆転判決を得た弁護士です。長島・大野・常松法律事務所に在籍した後、慶應義塾大学ビジネス・スクール及びペンシルベニア大学ウォートン校に留学し、ファイナンス理論並びにM&A及び不動産を専攻しました。不動産投資信託(J-REIT)の上場案件にも関与しています。

主として取り扱う分野 M&A、株式買取請求権、非上場株式の価格の決定、企業価値評価、事業承継及び企業法務

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本記事の記載は一般的な法律情報であり、個別の事案に関する法律上の助言ではありません。記載した経歴は事実の記述であり、個別の事件の結果を保証するものではありません。

著書

非上場会社における少数株主対策の手法と実務
『非上場会社における少数株主対策の手法と実務』(日本法令)
中堅・中小企業のためのM&Aトラブル事例と実務対策
『中堅・中小企業のためのM&Aトラブル事例と実務対策』(清文社)
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