先代経営者から株式を承継した後も先代経営者が経営に干渉してくる場合の対応

先代である父から株式の全部の贈与を受け、代表取締役に就任してから半年が経ちました。ところが先代は毎朝これまでどおり出社し、仕入先へ直接発注を指示し、金融機関の担当者を自室に呼んで面談を続けています。従業員は決裁を求めて後継者ではなく先代の部屋へ向かい、稟議書は後継者の目に触れないまま処理されています。このような御相談を、当事務所は数多くお受けしています。

株式の承継と、業務を執行する権限の承継とは、別々の手続によって行われます。株式は、生前贈与、遺言又は遺産分割によって移ります。これに対して業務を執行する権限は、取締役の選任及び代表取締役の選定という機関の決定によって定まります。先代が取締役又は代表取締役として登記に残っている限り、株式が移ったことのみを理由として、その権限が消えることはありません。

結論から申し上げます。先代の干渉を止めることができるかどうかは、先代がどの資格で会社に関与しているのかを登記事項証明書と株主名簿によって確定し、その資格ごとに手続を選び分けることに懸かっています。会社法第339条第1項は、役員はいつでも株主総会の決議によって解任することができると定め、同法第362条第2項第3号は、代表取締役の解職を取締役会の職務としています。以下、順に御説明します。

本記事が扱う場面と、扱わない場面

事業の承継の後に生ずる紛争は、後継者が地位を保っている場面と、既に地位を失った場面とで採るべき手段が異なりますので、次のとおり切り分けます。

目次

株式は移ったのに、決定権が移っていないという場面

先代の干渉は、外形が同じであっても、法的な根拠によって三つに分かれます。第一は、先代が取締役又は代表取締役として在任していることに基づくものです。第二は、先代が株式の一部を保有し続けていることに基づくものです。第三は、法律上の根拠を伴わない事実上の関与であり、相談役、顧問又は肩書のない元経営者としての振る舞いがこれに当たります。

この三つは、止めるための手続がそれぞれ異なります。第一は機関の決定によって地位を動かすほかなく、第二は議決権の数の問題として扱い、第三は社内の指揮命令の系統を明示し契約関係を整理することで足ります。取締役会設置会社において業務を執行するのは、代表取締役及び取締役会の決議によって選定された取締役です(会社法第363条第1項)。まず、いま止めたいと考えている行為が、どの根拠から生じているのかを書き出してください。

まず、登記と株主名簿の現況を確認します

取得すべき書類は四つです。会社の履歴事項全部証明書、定款、株主名簿、及び直近数年分の株主総会及び取締役会の議事録です。証明書からは、取締役及び代表取締役の氏名、就任及び退任の年月日、取締役会設置会社である旨の登記の有無が分かります。定款からは、役員の任期、代表取締役の選定の方法、株主総会の定足数に関する定めが分かります。

取締役会設置会社では、株主総会は会社法に規定する事項及び定款で定めた事項に限り決議をすることができます(会社法第295条第2項)。取締役会を置かない会社では、株主総会は会社に関する一切の事項について決議をすることができます(同条第1項)。この違いによって、開くべき会議体が変わります。株主名簿については、贈与契約書、遺言書、遺産分割協議書といった承継の原因となった書面と突き合わせ、名義書換が完了しているかを確認します。名簿を見ないまま議決権の数を前提に計画を立てますと、途中で崩れます。

先代が取締役として残っている場合に生ずる問題

先代が代表取締役として在任している場合、その権限は限定されていません。代表取締役は、会社の業務に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有します(会社法第349条第4項)。仕入先との契約も借入れも会社の行為として効力を生じ、後継者が社内で異を唱えても、対外的な効力を止めることはできません。取締役は原則として会社を代表しますが、他に代表取締役を定めた場合はこの限りではありませんので(同条第1項)、代表権の有無は登記によって確定します。

代表取締役の地位を解くのは、取締役会設置会社では取締役会の決議です(会社法第362条第2項第3号)。この決議は取締役の頭数によりますので、後継者が株式の全部を保有していても、取締役会の構成が先代の側で占められていれば成立しません。構成そのものを変えるには、株主総会に戻ることになります。あわせて、先代の任期がいつ満了するかを先に確認してください。任期の満了によって退任するのであれば、解任の手続を採る必要はありません。

先代が株式の一部を保有したまま残っている場合

問題となるのは議決権の割合です。役員を選任し、又は解任する株主総会の決議は、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の過半数をもって行わなければなりません(会社法第341条)。この定足数は、定款によっても3分の1未満に引き下げることができません。3分の1を超える議決権が先代に残っている場合には、特別決議を要する事項を単独で阻止されます。監査役の解任は特別決議によりますので(会社法第309条第2項第7号)、先代の側近が監査役として残る会社では、この割合が意味を持ちます。

相手方が採る典型的な反論は、名義の帰属を争うものです。名義は書き換えたが、資金を出したのは自分であり、真実の株主は自分である、という主張がされます。これに備えて、贈与契約書、贈与税の申告書、譲渡の承認に関する議事録、名義書換の請求書、その後の配当の受領の記録を、承継の直後の段階で一括して保全してください。

先代が相談役又は顧問として残っている場合

相談役及び顧問は、会社法が定める機関ではありません。役員は株主総会の決議によって選任されますが(会社法第329条第1項)、相談役及び顧問はこの選任の対象ではなく、会社との間の契約に基づく地位にすぎません。その契約は委任に当たります(民法第643条)。したがって、職務の範囲、報酬、期間、終了の事由は契約書によって定めるほかなく、書面がなければ、範囲は無限定なものとして扱われかねません。

重要なのは、相談役及び顧問には業務を執行する権限がないという点です(会社法第363条第1項)。相談役の指示に従う義務は、従業員にはありません。明示がなければ、指揮命令の系統は二重になります。職務権限規程において決裁の権限者を明示し、書面によって全従業員へ周知してください。あわせて、社用車、秘書、事務室、交際費、携帯電話の使用料が契約の根拠なく支出されていないかを洗い出し、報酬に含まれるものと会社が別途負担するものとを区分します。

取引先及び金融機関への説明の順序

説明は、主要な取引金融機関、主要な取引先、従業員、その他の関係者という順序で行います。金融機関を最初に置くのは、代表者の変更が与信の判断に直結し、かつ先代の個人保証の取扱いを協議する必要があるためです。この協議を後回しにしますと、先代が金融機関に対して独自の説明を続け、会社の窓口が二つあるという状態が固定します。

説明すべき事項は、代表者の変更が登記に反映されていること、発注書及び契約書の名義、銀行への届出印及び代表者印の保管者、稟議及び決裁の権限者、並びに会社に対する連絡先です。会社としての意思表示は代表取締役が行うこと(会社法第349条第4項)を、書面によって伝えてください。してはならないのは、先代の言動の不当性を取引先へ説明することです。内部に対立があるという情報は、与信の縮小と従業員の離職を招きます。伝えるべきは、誰が決定権者であるかという一点です。

退任を求める場合と、解任による場合との違い

地位を離れてもらう方法は三つあります。任期の満了による退任、本人の意思による辞任、そして解任です。役員は、いつでも株主総会の決議によって解任することができます(会社法第339条第1項)。もっとも、解任された者は、その解任について正当な理由がある場合を除き、会社に対し、解任によって生じた損害の賠償を請求することができます(同条第2項)。損害として主張されるのは、残存する任期に対応する報酬に相当する額ですから、任期の残りが長いほど、請求の額は大きくなります。

解任の議案が先代の議決権によって否決される場合には、役員の解任の訴えという手段があります。役員の職務の執行に関して不正の行為又は法令若しくは定款に違反する重大な事実があったにもかかわらず、解任の議案が株主総会において否決されたときは、総株主の議決権の100分の3以上の議決権を6箇月前から引き続き有する株主は、その株主総会の日から30日以内に、訴えをもって解任を請求することができます(会社法第854条第1項)。まず議案を上程して否決を得るという手順を踏まなければ、この訴えを提起することはできません。

話合いによって整理する場合に書面へ落とす事項

合意によって整理する場合には、次の事項を一通の書面にまとめます。退任し、又は辞任する日。退職慰労金の額、支払の時期及び方法並びにその支給に必要な会社の手続を経ることを条件とする旨。退任した後に相談役又は顧問として関与するのであれば、その職務の範囲、期間、報酬及び終了の事由。この関与は委任の契約となりますので(民法第643条)、終期を定めない定め方を避けます。

あわせて、社用車、社宅及び事務室の鍵、代表者印、銀行への届出印、通帳、法人名義のカード、パソコン、顧客名簿を個別に列挙し、返還の期限を定めます。金融機関に対する個人保証の解除に向けて協力して協議に当たる旨、会社の情報の取扱い並びに競業を差し控える期間及び範囲、並びに以後は業務に関する指示を従業員に対して行わない旨も定めます。債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は損害の賠償を請求することができます(民法第415条第1項)。書面に義務として明記されていなければ、この請求の前提を欠きます。

なぜ「そのうち収まる」と考えてはならないのか

期間の制限が定められている手続があるためです。株主総会の招集の手続又は決議の方法が法令若しくは定款に違反し、又は著しく不公正なときは、決議の取消しを訴えによって請求することができますが、この訴えは決議の日から3箇月以内に提起しなければなりません(会社法第831条第1項第1号)。先代が後継者に招集の通知をせずに株主総会を開き、役員の構成を変えていた場合、3箇月を経過すれば、その決議を争うことはできなくなります。

次に、証拠が失われます。取締役は、その任務を怠ったときは、会社に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負います(会社法第423条第1項)。この責任を追及するには、稟議書、発注書、預金の取引の記録、契約書、取締役会の議事録が必要ですが、保存の期間が経過すれば廃棄され、担当していた従業員も退職します。親子の間の問題であるとして記録を残さないことが、最も避けるべき対応です。指示を受けた日、内容、同席者を、その都度書き留めてください。

弁護士に任せられる範囲と、依頼の時期

当事務所がお引き受けするのは、登記事項証明書、定款、株主名簿及び議事録の点検、先代がどの資格で関与しているかの整理、株主総会及び取締役会の招集の手続の設計と議事録の作成、代理人としての通知の発送、合意書の作成と交渉、決議の取消しの訴え、役員の解任の訴え、並びに会社法第423条第1項に基づく責任の追及です。

他方、株式の評価並びに贈与税及び相続税の取扱いは税務の領域に属しますので、顧問の税理士又は資産税を取り扱う税理士に確認していただいております。御依頼をいただく時期として最も望ましいのは、株主総会又は取締役会を開く前です。決議を経た後では、3箇月又は30日という期間の中で動かざるを得ず、選べる手段が狭まります。招集の通知を発する前に、議案の内容、定足数、議決権の数、議事録の記載を点検しておけば、そもそも争いの生じない決議とすることができます。

いま確認していただきたいこと

  • 履歴事項全部証明書により、先代が取締役又は代表取締役として登記されているか、任期がいつ満了するかを確認してください。
  • 定款により、取締役会設置会社であるか、代表取締役をどの会議体が選定するかを確認してください。
  • 株主名簿と承継の原因となった書面とを突き合わせ、先代に残っている議決権の割合を確認してください。
  • 相談役又は顧問として残っている場合には、契約書の有無、職務の範囲、期間及び報酬を確認してください。
  • 個人保証の名義と、銀行への届出印及び代表者印の保管者を確認してください。
  • 先代からの指示について、日付、内容及び同席者を記録に残し始めてください。

よくあるご質問

株式の全部を承継していれば、先代を取締役から外すことができますか。

株主総会の決議によって解任することができます(会社法第339条第1項)。もっとも、代表取締役の地位を解くのは取締役会の決議によりますので(会社法第362条第2項第3号)、どちらの会議体を開くべきかを先に確定する必要があります。

先代が代表取締役のままです。まず何をすべきですか。

履歴事項全部証明書と定款を取得し、代表権の有無と任期の満了の時期を確認してください。代表取締役である以上、その対外的な行為は会社の行為として効力を生じますので(会社法第349条第4項)、取引先及び金融機関への説明を同時に進めます。

解任すると損害賠償を請求されると聞きました。

解任について正当な理由がある場合を除き、解任された者は会社に対して損害の賠償を請求することができます(会社法第339条第2項)。任期の満了が近いのであれば、解任を避け、後任の選任のみを議案とする方法を検討します。

先代が株式の3分の1を保有しています。何ができますか。

役員の選任及び解任は会社法第341条の要件によりますので、後継者が過半数を保有していれば決議は成立します。他方、監査役の解任のように特別決議を要する事項は(会社法第309条第2項第7号)、単独で阻止される可能性があります。

相談役として残ってもらう場合、何を決めておくべきですか。

相談役は会社法上の機関ではなく、委任の契約に基づく地位です(民法第643条)。職務の範囲、期間、報酬、終了の事由、会社が負担する費用の範囲、及び従業員に対して業務の指示を行わない旨を、契約書に明記してください。

おわりに

先代の干渉が続く場面で最初にすべきことは、感情の整理ではなく、資格の確定です。先代が取締役として関与しているのか、株主として関与しているのか、それとも何の権限もない事実上の関与なのか。この区別ができれば、開くべき会議体、必要な議決権の数、守るべき期間が定まります。

区別をしないまま時間だけが経過しますと、決議の取消しの訴えの3箇月、役員の解任の訴えの30日という期間が過ぎ、証拠が散逸し、社内の運用が固まります。承継は、株式が移った時点ではなく、決定の権限が移り、それが社内外に認識された時点で完了します。登記事項証明書と定款を手元に置いて、今日から順に確認を始めてください。必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。

先代経営者の経営への干渉に関する御相談
弁護士法人M&A総合法律事務所 電話番号 03-6435-8418
受付時間 8:00-21:00(土日祝含む)

出典

  • 会社法第295条第1項及び第2項(株主総会の権限)、第309条第2項第7号(株主総会の決議)、第329条第1項(選任)
  • 会社法第339条第1項及び第2項(解任)、第341条(役員の選任及び解任の株主総会の決議)
  • 会社法第349条第1項及び第4項(株式会社の代表)、第362条第2項第3号(取締役会の権限等)、第363条第1項(取締役会設置会社の取締役の権限)
  • 会社法第423条第1項(役員等の株式会社に対する損害賠償責任)、第831条第1項第1号(株主総会等の決議の取消しの訴え)、第854条第1項(株式会社の役員の解任の訴え)
  • 民法第415条第1項(債務不履行による損害賠償)、第643条(委任)

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