事業を承継した直後に解任された場合に採り得る手段
父から事業を承継し、代表取締役に就任いたしました。ところが、就任から1年も経たないうちに臨時株主総会が招集され、解任されてしまいました。株式は相続いたしましたが、他の相続人及び古参の役員が結束しており、議決権では及びませんでした。役員報酬も大幅に減額されております。このようなご相談を、当事務所はしばしばお受けしております。
先に結論を申し上げます。役員は、いつでも、株主総会の決議によって解任することができるものとされております(会社法第339条第1項)。したがって、議決権の多数を制されている限り、解任そのものを法律上阻むことは困難でございます。争い方は3つに分かれます。第1は、解任の決議の手続に瑕疵がある場合に、決議の取消し又は不存在を主張する道でございます。第2は、解任に正当な理由がない場合に、損害の賠償を請求する道でございます(会社法第339条第2項)。第3は、株主としての地位に基づき、資料の請求、株主総会の招集の請求、株式の買取りの交渉等を進める道でございます。本記事では、この3つを順に整理いたします。
第1節 なぜ承継の直後に解任が生じるのか
1 議決権と経営の地位とは別でございます
事業を承継したという事実は、必ずしも議決権の多数を承継したことを意味いたしません。遺言により株式が分散している場合、遺産分割が未了である場合、あるいは古参の役員や取引先が株式を保有している場合には、後継者が議決権の多数を確保できていないことがございます。
2 準共有の間の脆弱性
遺産分割が終わるまでの間、株式は相続人の準共有に属します。共有者は、当該株式についての権利を行使する者1人を定め、会社に対しその者の氏名又は名称を通知しなければ、当該株式についての権利を行使することができません(会社法第106条本文)。権利行使者の指定ができていない間は、後継者は議決権を行使することができず、他の株主のみで決議が成立し得ます。
3 任期の満了という経路
解任の決議によらずとも、任期の満了に際して再任されないという方法もございます。公開会社でない会社においては、定款により取締役の任期を選任後10年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで伸長することができるものとされております(会社法第332条第2項)。定款における任期の定めを確認する必要がございます。
第2節 解任の決議の適法性を検証いたします
1 招集の手続
株主総会を招集するには、原則として、株主に対して招集の通知を発しなければならないものとされております(会社法第299条第1項)。取締役会設置会社においては、招集する株主総会の日時及び場所、目的である事項等を取締役会の決議によって定めなければなりません(会社法第298条第1項及び第4項)。これらを欠く場合には、招集の手続に法令の違反があることになります。
2 決議の要件
役員の解任の決議は、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数(3分の1以上の割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の過半数をもって行うものとされております(会社法第341条)。監査役の解任については、株主総会の特別決議によるものとされております(会社法第309条第2項)。定款で要件を加重している場合には、その定めによります。
3 争う手段と期間
| 状況 | 手段 | 期間の制限 | 根拠条文 |
|---|---|---|---|
| 株主総会が現実に開催されていない | 決議の不存在の確認の訴え | ありません | 会社法第830条第1項 |
| 招集の通知を欠く等の手続の瑕疵 | 決議の取消しの訴え | 決議の日から3か月 | 会社法第831条第1項 |
| 特別の利害関係を有する者の議決権行使により著しく不当な決議 | 決議の取消しの訴え | 決議の日から3か月 | 会社法第831条第1項第3号 |
3か月という期間は、解任の通知を受けてから対応を検討するには短うございます。解任の事実を知った時点で、直ちに検討に着手する必要がございます。
第3節 正当な理由がない解任と損害の賠償
1 条文の定め
解任された役員は、その解任について正当な理由がある場合を除き、会社に対し、解任によって生じた損害の賠償を請求することができるものとされております(会社法第339条第2項)。
2 正当な理由の有無
正当な理由の有無は、解任の当時の事情に照らして判断されます。職務の執行における法令又は定款の違反、著しい能力の不足、心身の故障といった事情が主張されることがございます。他方、経営の方針の相違、感情的な対立、先代の関係者との軋轢といった事情のみでは、正当な理由に当たらないと判断される場合がございます。もっとも、結論は事案により異なり、断定できるものではございません。
3 賠償の範囲
賠償の範囲は、一般に、残任期間に受けるべきであった報酬等を基礎として検討されます。任期の残りが長いほど、金額は大きくなり得ます。役員退職慰労金の取扱いは、支給の基準の有無及び株主総会の決議の有無により異なります。具体的な金額は事案により異なりますので、一律に申し上げることはできません。
4 主張を支える資料
解任の議案に付された理由、株主総会の議事録、取締役会の議事録、業績の推移を示す資料、就任以後の業務の実績を示す資料等を確保いたします。会社の側が後から理由を追加してくることがございますので、決議の当時にいかなる理由が示されていたかを記録しておくことが重要でございます。
第4節 役員報酬の減額
取締役の報酬等のうち額が確定しているものについては、定款に定めていないときは、株主総会の決議によって定めるものとされております(会社法第361条第1項)。
株主総会の決議等により各取締役の報酬の具体的な金額が確定した後は、その金額は会社と取締役との間の契約の内容となり、取締役の同意なく一方的に減額することはできないものと解されております。したがって、承継の直後に役員報酬が一方的に減額された場合には、減額の効力を争い、差額の支払を求める余地がございます。
もっとも、報酬の総額のみが株主総会で定められ、各取締役への配分が取締役会に一任されている会社が多うございます。この場合の取扱いは、配分の決定の経緯により異なります。
第5節 株主としての地位から採り得る手段
1 資料の請求
役員の地位を失っても、株主としての地位は残ります。株主は、計算書類等の閲覧又は謄本の交付を請求することができます(会社法第442条第3項)。株主名簿の閲覧又は謄写(会社法第125条第2項)、株主総会の議事録の閲覧又は謄写(会社法第318条第4項)も請求することができます。持株の割合が要件を満たす場合には、会計帳簿又はこれに関する資料の閲覧又は謄写を請求することができます(会社法第433条第1項)。
2 株主総会の招集の請求
総株主の議決権の100分の3以上の議決権を有する株主は、取締役に対し、株主総会の目的である事項及び招集の理由を示して、株主総会の招集を請求することができます(会社法第297条第1項)。公開会社でない会社においては、6か月前から引き続き有することを要しないものとされております(同条第2項)。請求の後、遅滞なく招集の手続が行われない場合等には、裁判所の許可を得て、株主自らが招集することができます(同条第4項)。
3 役員の解任の訴え
役員の職務の執行に関し不正の行為又は法令若しくは定款に違反する重大な事実があったにもかかわらず、当該役員を解任する旨の議案が株主総会において否決されたときは、総株主の議決権の100分の3以上の議決権を6か月前から引き続き有する株主等は、当該株主総会の日から30日以内に、訴えをもって当該役員の解任を請求することができます(会社法第854条第1項)。公開会社でない会社においては、6か月前から引き続き有することを要しないものとされております(同条第2項)。
4 業務の執行に関する検査役
会社の業務の執行に関し、不正の行為又は法令若しくは定款に違反する重大な事実があることを疑うに足りる事由があるときは、総株主の議決権の100分の3以上の議決権を有する株主等は、会社の業務及び財産の状況を調査させるため、裁判所に対し、検査役の選任の申立てをすることができます(会社法第358条第1項)。
5 株式の買取りの交渉
経営から排除された以上、株式を保有し続ける実益が乏しいと判断される場合には、株式の換価を検討することになります。譲渡制限株式については、株式譲渡承認請求を行い、会社が承認しない場合には、会社又は指定買取人が買い取ることになります(会社法第140条)。売買価格について協議が調わないときは、一定の期間内に裁判所に対して売買価格の決定の申立てをすることができます(会社法第144条)。
第6節 保全と時間の管理
解任の決議の効力を争う場合には、判決の確定までに相応の期間を要します。その間に会社の財産が処分され、又は新たな決議が重ねられることがございます。取締役の職務の執行を停止し、職務代行者を選任する仮処分の申立て(民事保全法第23条第2項)を検討いたします。この仮処分がされたときは、その旨の登記がされるものとされております(会社法第917条)。
| 事項 | 期限 | 根拠条文 |
|---|---|---|
| 株主総会の決議の取消しの訴え | 決議の日から3か月 | 会社法第831条第1項 |
| 役員の解任の訴え | 議案が否決された株主総会の日から30日 | 会社法第854条第1項 |
| 報酬等の請求権の消滅時効 | 債権に関する一般の規律によります | 民法第166条第1項 |
| 相続税の申告 | 相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月 | 相続税法第27条第1項 |
第7節 弁護士にご相談いただく意味
この類型において最も多い誤解は、「事業を承継したのだから地位は守られる」というものでございます。会社法上、役員の地位は株主総会の決議に依存しており、承継の事実によって保護されるものではございません。したがって、争点は「地位を守れるか」ではなく、「いかなる主張により、いかなる回復を図るか」に移ります。
また、決議の取消しの訴えの3か月、役員の解任の訴えの30日といった短い期間が設けられておりますので、事実関係の調査と手続の選択とを同時に進める必要がございます。解任の直後は精神的な負担も大きい時期でございますが、期間は待ってくれません。
さらに、この問題は役員の地位のみで完結いたしません。株式の帰属、遺産分割、遺留分、役員報酬、貸付金の精算、会社が使用している個人の財産といった事項が同時に問題となります。全体を通じた解決の形を設計することが有効でございます。
具体的な進め方は、定款の内容、株主構成、遺産分割の状況、解任の議案に付された理由、報酬の決定の経緯等により異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してまいりました実務上のノウハウにも属するため、本記事では詳細を開示しておりません。
第8節 会社の側から想定される「正当な理由」の主張と、これに対する反論
損害の賠償を請求いたしますと、会社の側から解任に正当な理由があった旨の主張がされることが通例でございます。よく見られる主張と、これに対する反論の枠組みを整理いたします。いずれも結論は事案により異なりますので、あくまで検討の出発点としてご覧ください。
| 会社の側から想定される主張 | 反論の枠組み | 確認すべき資料 |
|---|---|---|
| 経営の能力を欠いておりました | 抽象的な能力の評価は、それ自体では理由となりにくいものでございます。いかなる事実に基づく評価であるのか、その事実が在任の期間中に生じたものであるのかを問います | 取締役会の議事録、業績の推移を示す資料、指摘を受けた記録 |
| 業績が悪化いたしました | 業績の悪化と当該役員の職務の執行との関連を問います。承継の直後であれば、その期間に生じた事情によるものといえるかが争点となります | 承継の前後の計算書類、悪化の原因を示す資料 |
| 経営の方針が対立しておりました | 方針の相違それ自体は、直ちに正当な理由に当たるものとは解されておりません。対立の内容が、職務の執行における具体的な支障として現れていたかを問います | 取締役会の議事録、方針に関する提案及び決議の記録 |
| 健康上の理由により職務の執行が困難でございました | 現に職務の執行に支障が生じていた事実の有無を問います。欠勤の状況、代替の措置の有無を確認いたします | 出勤の記録、診断書、代替の措置に関する記録 |
| 不正な行為又は法令若しくは定款に違反する行為がございました | 指摘される行為の具体的な内容、その時期、会社に生じた損害の有無を問います。解任の後に持ち出された事情である場合には、その経緯も問題となります | 指摘の対象とされた取引の資料、調査の報告書、解任の議案の記載 |
| 従業員及び取引先からの信頼を失っておりました | いかなる事実に基づくものであるかを問います。特定の者の意見にとどまるのか、客観的な支障として現れていたのかを区別いたします | 取引先とのやり取りの記録、社内の記録 |
解任の議案及び議事録に、いかなる理由が記載されていたのかは重要でございます。解任の当時に示されていなかった理由が、後になって持ち出された場合には、その点自体が主張の当否を判断する上での事情となります。議事録は早期に入手し、記載された理由を確定してください。
第9節 解任された役員が会社に対して有する債権及び負担の整理
解任は、地位の問題にとどまりません。会社との間の金銭に関する関係も併せて整理する必要がございます。見落とされやすい項目を掲げます。
1 未払の役員報酬
解任の日までに発生した報酬は、解任によって当然に消滅するものではございません。支給の日が到来していない分についても、発生の有無を確認いたします。支給の額及び時期は、株主総会の決議又はこれに基づく取決めにより定まりますので、その内容を確認してください。
2 退職に伴う金員
退職に伴う金員の支給につきましては、株主総会の決議を要するのが原則でございます。内規が設けられている会社では、その定めが判断の資料となります。決議がされない場合の取扱いは事案により異なりますので、内規及び従前の支給の例を確認いたします。
3 会社に対する貸付金
ご自身が会社に資金を貸し付けておられる場合には、その債権は解任によって影響を受けるものではございません。金額、返済の約定、これまでの返済の状況を確認いたします。会計帳簿への計上の有無も併せてご確認ください。
4 会社の債務についての個人保証
最も見落とされやすい項目でございます。役員を退いたとしても、保証人としての地位は当然には消滅いたしません。いかなる債務についていかなる範囲の保証をしているのかを確認し、金融機関に対して保証人の変更を求める交渉を行うことになります。会社の側に、保証を外すことについての協力を求めることも検討いたします。
5 会社に差し入れた担保
ご自身の財産を会社の債務の担保として差し入れておられる場合も同様でございます。担保の目的物、被担保債権の範囲を確認し、その解除に向けた協議を行います。前項と併せて、早期に着手すべき事項でございます。
よくあるご質問
質問1 解任は無効ではないのですか。
役員は、いつでも、株主総会の決議によって解任することができるものとされております(会社法第339条第1項)。決議の手続に瑕疵がない限り、解任そのものは有効でございます。手続の瑕疵がある場合には、決議の取消し又は不存在を主張することになります。
質問2 正当な理由がないと思います。何を請求できますか。
解任について正当な理由がある場合を除き、解任によって生じた損害の賠償を請求することができます(会社法第339条第2項)。賠償の範囲は、一般に残任期間に受けるべきであった報酬等を基礎として検討されます。
質問3 役員報酬を一方的に半額にされました。
株主総会の決議等により具体的な金額が確定した後は、取締役の同意なく一方的に減額することはできないものと解されております。減額の効力を争い、差額の支払を求める余地がございます。もっとも、報酬の決定の経緯により結論が異なります。
質問4 解任されましたが、株式は持ったままです。何ができますか。
株主としての権利は残ります。計算書類等の閲覧謄本交付の請求(会社法第442条第3項)、株主総会の招集の請求(会社法第297条第1項)、会計帳簿等の閲覧謄写の請求(会社法第433条第1項)等を検討いたします。株式の換価を望む場合には、株式譲渡承認請求(会社法第136条以下)を検討いたします。
質問5 決議から4か月が経過しました。
決議の取消しの訴えは、決議の日から3か月以内に提起しなければなりません(会社法第831条第1項)。もっとも、株主総会が現実に開催されていない場合には、決議の不存在の確認の訴え(会社法第830条第1項)による余地がございます。また、損害の賠償の請求(会社法第339条第2項)は、この3か月とは別に検討することができます。
質問6 解任の理由が議事録に書かれておりません。
記載がないこと自体が、直ちに解任を無効とするものではございません。もっとも、後になって理由が持ち出された場合には、その経緯が主張の当否を判断する上での事情となりますので、記載の有無は必ずご確認ください。
質問7 会社の借入れについて個人保証をしております。どうなりますか。
役員を退いたとしても、保証人としての地位は当然には消滅いたしません。金融機関に対して保証人の変更を求める交渉を行うことになりますが、会社の側の協力が必要となる場合がございます。解任に伴う他の交渉と併せて、早期に着手すべき事項でございます。
質問8 まず何から着手すべきでしょうか。
第1に、解任の決議に関する資料、すなわち招集の通知及び議事録を入手し、記載された理由を確定してください。第2に、期間の制限のある手段があるかを確認してください。第3に、前節に掲げた債権及び保証の状況を整理してください。この3つは、いずれも早期に行うほど選択肢が広がります。
本記事の根拠条文
会社法
- 第106条(共有者による権利の行使)
- 第125条第2項(株主名簿の閲覧等)
- 第136条以下(譲渡等の承認の請求)
- 第140条・第144条(会社又は指定買取人による買取り及び売買価格の決定)
- 第297条第1項・第2項・第4項(株主による株主総会の招集の請求)
- 第298条第1項・第4項(招集の決定)
- 第299条第1項(招集の通知)
- 第309条第2項(株主総会の特別決議)
- 第318条第4項(株主総会の議事録の閲覧等)
- 第332条第2項(取締役の任期の伸長)
- 第339条第1項・第2項(役員の解任及び損害の賠償)
- 第341条(役員の選任及び解任の決議の要件)
- 第358条第1項(業務の執行に関する検査役の選任)
- 第361条第1項(取締役の報酬等)
- 第433条第1項(会計帳簿の閲覧等の請求)
- 第442条第3項(計算書類等の閲覧等の請求)
- 第830条第1項(決議の不存在の確認の訴え)
- 第831条第1項(決議の取消しの訴え)
- 第854条第1項・第2項(役員の解任の訴え)
- 第917条(職務の執行の停止等の登記)
民事保全法 第23条第2項(仮の地位を定める仮処分命令)
民法 第166条第1項(債権等の消滅時効)
相続税法 第27条第1項(相続税の申告書の提出期限)
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