M&Aで会社が売却される際に少数株主だけ安い価格を提示された場合の対応
したがって、最初に確認すべきは、「どの手法によるのか」「株主総会が予定されているか」「効力発生日はいつか」という3点です。
第2節 株式の譲渡による場合
1 売却を強制されることはありません
支配株主が自らの株式を第三者に譲渡することは、その株主の自由です。他方、少数株主が自らの株式を譲渡するかどうかも、その株主が決めることです。会社法上、少数株主に譲渡を強制する制度はありません。
ただし、株主間の契約において、支配株主が第三者に譲渡する場合には他の株主も同一の条件で譲渡しなければならない旨が定められていることがあります。このような合意がある場合には、その効力が問題となりますので、過去に締結した書面を確認する必要があります。
2 買主が全部の株式を望む場合
買主は、通常、対象会社の全部の株式を取得することを望みます。少数株主が応じなければ、買主は、株式の併合、全部取得条項付種類株式の取得、特別支配株主の株式等売渡請求といった手法により、少数株主の株式を金銭に換えることを検討することになります。これらの手法においては、いずれも価格を争う制度が用意されております。
3 自ら譲渡を進める場合
譲渡制限株式を有する株主は、当該株式を他人に譲り渡そうとするときは、会社に対し、当該他人が当該株式を取得することについて承認をするか否かの決定をすることを請求することができます(会社法第136条)。
会社が承認をしない旨の決定をした場合において、株主が併せて会社又は指定買取人が買い取ることを請求していたときは、会社は自らこれを買い取るか、指定買取人を指定しなければなりません(会社法第140条第1項及び第4項)。会社が買い取る旨の通知をした場合、売買価格は当事者間の協議により定めますが、協議が調わないときは、当該通知があった日から20日以内に、裁判所に対して売買価格の決定の申立てをすることができます(会社法第144条第1項及び第2項)。
また、会社が請求の日から2週間以内に承認をするか否かの決定の内容を通知しなかった場合には、承認をする旨の決定をしたものとみなされます(会社法第145条第1号)。
第3節 組織再編等による場合
1 反対株主の株式買取請求
吸収合併、吸収分割、株式交換をする場合において、消滅株式会社等の反対株主は、当該会社に対し、自己の有する株式を公正な価格で買い取ることを請求することができます(会社法第785条第1項)。存続株式会社等の株主についても同様の制度が置かれており(会社法第797条)、新設合併、新設分割、株式移転についても同様です(会社法第806条)。
2 反対株主となるための手続
株主総会の決議を要する場合において反対株主となるには、当該株主総会に先立って当該行為に反対する旨を会社に対し通知し、かつ、当該株主総会において反対することが必要です(会社法第785条第2項第1号イ)。
すなわち、株主総会において反対するだけでは足りず、事前に反対する旨を通知しておく必要があります。この点を見落として買取請求ができなくなる例が少なくありません。
3 期限
| 事項 | 期限 | 根拠条文 |
|---|---|---|
| 会社による株主への通知又は公告 | 効力発生日の20日前まで | 会社法第785条第3項・第4項 |
| 株主総会に先立つ反対の通知 | 株主総会の前 | 会社法第785条第2項第1号イ |
| 株式買取請求 | 効力発生日の20日前の日から効力発生日の前日まで | 会社法第785条第5項 |
| 価格の決定の申立て | 効力発生日から30日以内 | 会社法第786条第2項 |
いずれも短い期間です。会社からの通知を受け取った時点で、直ちに検討を始める必要があります。
4 「公正な価格」
会社法は「公正な価格」という文言を用いております。組織再編による企業価値の増加が生じる場合には、その増加分を株主の間で公正に分配した価格を意味するものと理解されており、単に組織再編がなかったとしたならば有していたであろう価格に限られないと解されております。
したがって、支配株主が受け取る価格との差が、どのような理由によるものかが問題となります。
5 事業の譲渡の場合
事業の全部の譲渡その他の会社法第467条第1項各号に掲げる行為をする場合には、反対株主は、会社に対し、自己の有する株式を公正な価格で買い取ることを請求することができます(会社法第469条第1項)。価格の決定の申立てについても、同様の規律が置かれております(会社法第470条)。
第4節 少数株主を金銭に換える手法による場合
1 株式の併合
株式の併合により1株に満たない端数が生ずる場合において、反対株主は、会社に対し、自己の有する株式のうち1株に満たない端数となるものの全部を公正な価格で買い取ることを請求することができます(会社法第182条の4第1項)。
この請求は、効力発生日の20日前の日から効力発生日の前日までの間にしなければなりません(同条第4項)。価格について協議が調わないときは、効力発生日から30日以内に、裁判所に対して価格の決定の申立てをすることができます(会社法第182条の5第2項)。
また、株式の併合が法令又は定款に違反する場合において、株主が不利益を受けるおそれがあるときは、株主は、会社に対し、当該株式の併合をやめることを請求することができます(会社法第182条の3)。
2 全部取得条項付種類株式の取得
全部取得条項付種類株式の取得に関する株主総会の決議がされた場合、取得の対価に不服のある株主は、取得日の20日前の日から取得日の前日までの間に、裁判所に対し、取得の価格の決定の申立てをすることができます(会社法第172条第1項)。
この申立てをするには、当該株主総会に先立って反対する旨を会社に通知し、かつ、当該株主総会において反対することが必要とされております(同項第1号)。
3 特別支配株主の株式等売渡請求
会社の総株主の議決権の10分の9(これを上回る割合を定款で定めた場合はその割合)以上を有する株主は、他の株主の全員に対し、その有する株式の全部を売り渡すことを請求することができます(会社法第179条第1項)。この請求には対象会社の承認が必要です(会社法第179条の3第1項)。
売渡株主は、取得日の20日前の日から取得日の前日までの間に、裁判所に対し、売渡株式等の売買価格の決定の申立てをすることができます(会社法第179条の8第1項)。
また、一定の場合には、売渡株式等の全部の取得をやめることを請求することができます(会社法第179条の7)。
第5節 情報の入手
1 組織再編に関する事前の開示
組織再編をする会社は、一定の期間、契約の内容その他法務省令で定める事項を記載した書面等を本店に備え置かなければならず、株主は、その閲覧又は謄本の交付を請求することができるものとされております(会社法第782条等)。対価の相当性に関する事項が記載されますので、価格の妥当性を検討する上で重要な資料となります。
2 通常の株主権による情報の入手
| 対象 | 要件 | 根拠条文 |
|---|---|---|
| 定款 | 株主又は債権者 | 会社法第31条第2項 |
| 計算書類等 | 株主又は債権者 | 会社法第442条第3項 |
| 株主総会の議事録 | 株主又は債権者 | 会社法第318条第4項 |
| 株主名簿 | 請求の理由を明らかにして | 会社法第125条第2項 |
| 会計帳簿等 | 100分の3以上、請求の理由を明らかにして | 会社法第433条第1項 |
3 なぜ価格が異なるのかの確認
支配株主が受け取る対価には、株式の代金のほかに、役員退職慰労金、顧問料、競業避止に関する対価、表明及び保証に関する条項の対価といった要素が含まれていることがあります。これらは形式的には株式の代金ではありませんが、実質的には取引の総額の一部を構成いたします。
したがって、「1株当たりの価格が異なる」という事実を確認するだけでなく、取引の全体でどのような金銭が動いているかを把握することが必要です。
第6節 採り得る選択肢
| 選択肢 | 内容 | 根拠条文 |
|---|---|---|
| 提示された条件に応じる | 内容を精査した上で合意いたします | 当事者間の合意 |
| 応じずに株主として残る | 株式の譲渡による場合、応じる義務はありません | 事案によります |
| 反対の通知をした上で買取請求をする | 組織再編等の場合 | 会社法第785条第2項・第5項等 |
| 裁判所に価格の決定を求める | 協議が調わない場合 | 会社法第786条第2項、第172条第1項、第179条の8第1項、第182条の5第2項 |
| 譲渡等承認請求を行う | 譲渡制限株式について | 会社法第136条以下、第144条第2項 |
| 資料の開示を請求する | 事前の開示書面、計算書類等 | 会社法第782条、第442条第3項 |
| 手続の差止めを求める | 法令又は定款に違反する場合等 | 会社法第179条の7、第182条の3、第784条の2等 |
| 取締役の責任を追及する | 会社に損害が生じている場合 | 会社法第423条第1項、第847条第1項 |
いずれを選ぶかは、保有する株式の数と割合、M&Aの手法、効力発生日までの残りの期間、他の株主との関係、従前の経緯等により異なります。具体的な進め方は、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウにも属するため、本ページでは詳細を開示しておりません。
第7節 確認すべき期限と資料
1 期限
| 事項 | 期限 | 根拠条文 |
|---|---|---|
| 反対株主の株式買取請求(組織再編) | 効力発生日の20日前の日から前日まで | 会社法第785条第5項 |
| 価格の決定の申立て(組織再編) | 効力発生日から30日以内 | 会社法第786条第2項 |
| 端数となる株式の買取請求(株式の併合) | 効力発生日の20日前の日から前日まで | 会社法第182条の4第4項 |
| 価格の決定の申立て(株式の併合) | 効力発生日から30日以内 | 会社法第182条の5第2項 |
| 取得の価格の決定の申立て(全部取得条項付種類株式) | 取得日の20日前の日から前日まで | 会社法第172条第1項 |
| 売買価格の決定の申立て(株式等売渡請求) | 取得日の20日前の日から前日まで | 会社法第179条の8第1項 |
| 売買価格の決定の申立て(譲渡等承認請求) | 会社の通知があった日から20日以内 | 会社法第144条第2項 |
| 株主総会の決議の取消しの訴え | 決議の日から3か月以内 | 会社法第831条第1項 |
2 お手元でご確認いただきたい資料
- 会社又は仲介の会社から届いた書面の一切(提示された価格が分かるもの)
- 株主総会の招集の通知
- 現に効力を有する定款
- 株主名簿
- 直近3期分の計算書類
- 過去に締結した株主間の合意に関する書面
- 株式を取得した経緯が分かる資料
- 登記事項証明書
第8節 弁護士にご相談いただく意味
この場面で最も多い失敗は、期限の徒過です。反対株主の株式買取請求は効力発生日の20日前の日から前日までの間に行わなければならず(会社法第785条第5項)、その前提として、株主総会に先立って反対する旨を通知しておく必要があります(同条第2項第1号イ)。株主総会の通知を受け取ってから制度を調べ始めたのでは、間に合わないことがあります。
また、価格の妥当性を検討するには、会社の財務の状況とM&Aの取引の全体像を把握する必要があります。1株当たりの価格の差だけを見て判断することは適当でありません。役員退職慰労金その他の名目で支払われる金銭を含めた取引の総額を把握することが、検討の出発点となります。
当事務所は、株主及び相続人の側のお立場でこの類型の案件を取り扱っており、会社の側と株主の側の双方を代理することはありません。
よくあるご質問
質問1 売却に応じなければならないのですか。
株式の譲渡によってM&Aが行われる場合、少数株主に譲渡を強制する制度は会社法にありません。ただし、株主間の契約に定めがある場合には、その効力が問題となります。また、応じない場合、買主が株式の併合等の手法により少数株主の株式を金銭に換えることを検討することがあります。
質問2 社長より低い価格を提示されました。違法ではありませんか。
株式の譲渡は当事者間の合意によるものですので、異なる価格で合意すること自体が直ちに違法となるわけではありません。他方、組織再編、株式の併合、全部取得条項付種類株式の取得、特別支配株主の株式等売渡請求といった手法による場合には、公正な価格での買取りを請求し、又は裁判所に価格の決定を求める制度が用意されております。
質問3 株主総会で反対すれば買取りを請求できますか。
組織再編等の場合、反対株主となるには、株主総会に先立って反対する旨を会社に通知し、かつ、当該株主総会において反対することが必要です(会社法第785条第2項第1号イ)。事前の通知を欠くと、買取請求ができないこととなります。
質問4 「公正な価格」とはどのような価格ですか。
組織再編による企業価値の増加が生じる場合には、その増加分を株主の間で公正に分配した価格を意味するものと理解されております。具体的な金額は、会社の状況及び取引の内容に応じて、裁判所が判断することになります。事案により結論は異なります。
質問5 既に効力が発生してしまいました。
買取請求及び価格の決定の申立ての期限が経過している場合には、これらの手続を執ることができません。もっとも、手続に法令又は定款の違反がある場合には、株主総会の決議の効力を争う手続(会社法第830条、第831条)、取締役の責任を追及する手続(会社法第423条第1項、第847条第1項)を検討し得ることがあります。
本記事の根拠条文
会社法
- 第31条第2項(定款の閲覧等)
- 第125条第2項(株主名簿の閲覧等)
- 第136条、第140条第1項・第4項、第144条第1項・第2項、第145条第1号(譲渡等承認請求)
- 第172条第1項(全部取得条項付種類株式の取得の価格の決定の申立て)
- 第179条第1項、第179条の3第1項、第179条の7、第179条の8第1項(特別支配株主の株式等売渡請求、差止め、売買価格の決定の申立て)
- 第182条の3、第182条の4第1項・第4項、第182条の5第2項(株式の併合に係る差止め、買取請求、価格の決定の申立て)
- 第318条第4項(株主総会の議事録の閲覧等)
- 第423条第1項(役員等の会社に対する損害賠償責任)
- 第433条第1項(会計帳簿の閲覧等の請求)
- 第442条第3項(計算書類等の閲覧等)
- 第467条第1項、第469条第1項、第470条(事業譲渡等及び反対株主の買取請求)
- 第782条(吸収合併契約等に関する書面等の備置き及び閲覧等)
- 第784条の2(吸収合併等をやめることの請求)
- 第785条第1項・第2項・第3項・第4項・第5項(反対株主の株式買取請求)
- 第786条第2項(価格の決定の申立て)
- 第797条、第806条(存続株式会社等及び新設型再編における同様の規律)
- 第830条、第831条第1項(決議の不存在若しくは無効の確認の訴え、決議の取消しの訴え)
- 第847条第1項(責任追及等の訴えの提起の請求)
内部リンク
関連記事 第2層記事第33番(会社が決算書類を見せてくれない場合に相続人が採り得る手段)、第34番(計算書類の閲覧謄写の請求と会計帳簿の閲覧謄写の請求の違い)、第31番(自分にだけ買取りの機会が与えられなかった場合に採り得る手段)
既存記事 /archives/share_countermeasure/(スクイーズアウトへの対抗手段)、/archives/unlisted-share-fair-price/(適正価格の総論)、/archives/share_kaitoriseikyunagare/(株式買取請求権の流れ)
送客先ランディングページ /sharesozoku_manda_shousuu/(M&Aで会社が売却されるのに自分の株式だけ安く買い取られそうな方へ)
弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談
弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)では、M&Aにおいて少数株主だけ低い価格を提示された方からのご相談をお受けしております。手法の特定、期限の管理、事前の反対の通知、株式買取請求、裁判所に対する価格の決定の申立て、資料の開示の請求まで、株主の側の代理人としてお引き受けいたします。
詳しくは、M&Aで会社が売却されるのに自分の株式だけ安く買い取られそうな方に向けたご案内のページ(/sharesozoku_manda_shousuu/)をご覧ください。同ページでは、ご連絡をいただいた時点から効力発生日までの間に当事務所が行うこと、費用の目安、ご相談から受任までの流れをご説明しております。
- 電話番号 03-6435-8418
- 受付時間 8時00分から21時00分まで
- 土曜日・日曜日・祝日も受付いたします
ご相談の際に、会社又は仲介の会社から届いた書面、株主総会の招集の通知、現に効力を有する定款、株主名簿、直近3期分の計算書類、株主間の合意に関する書面をご用意いただけますと検討が早く進みます。これらがお手元にないことを理由にご相談をお断りすることはありません。なお、税務上の取扱いについては税理士にご確認ください。
本記事は一般的な制度の説明であり、結論は事案ごとに異なります。同種の事案において同じ結果となることを保証するものではありません。個別の事情については、弁護士にご相談ください。
必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。
必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。
このページの位置付けと、関連するページ
本ページは、非上場株式の相続に関する解説のうちの一つです。全体像は、次の中核となるページを御覧ください。
同じ主題を扱う関連ページ
- 後継者へ株式を集約するための手段の全体像と選択の順序
- オーナー社長の死亡後に経営陣が株式の集約を仕掛けてきた場合の防御
- 事業を承継した後継者が会社を売却しようとしている場合
- 会社が特定の株主から自己株式を取得する場合の売主追加請求権
- 相続人等に対する売渡しの請求を受けた相続人の防御の全体像
- 事業を承継した直後に解任された場合に採り得る手段
- 自分にだけ買取りの機会が与えられなかった場合に採り得る手段
- 自己株式の取得が株主総会の決議を欠く場合の効力
- 株主総会議事録を偽造されて登記が変わっていた場合の是正の手順
- 会社に自己株式の取得を求める場合の申入れの方法と交渉の順序
- 社長が亡くなり仲の悪い親族に株式が移転した場合の整理
- 非上場株式の相続のトラブルでお悩みの方へ|メリット・デメリットから対処法まで解説

