分散した株式を会社が自己株式として取得して集約する場合に確認すべき事項
分散した株式を整理するにあたり、会社の資金で買い取ってはどうかと提案を受けました。会社が買い取れば、後継者が個人で資金を用意する必要がないとのことでございます。何を確認しておくべきでしょうか。このようなご相談を、当事務所はしばしばお受けしております。
先に結論を申し上げます。会社による自己株式の取得に着手する前に、確認すべき事項は5つでございます。第1に、株主総会の特別決議が得られる見込みがあるか。第2に、他の株主の売主追加請求権が生じないか。第3に、分配可能額が足りるか。第4に、取得することができる期間の定めをどうするか。第5に、取得の後の議決権の割合がどうなるか。これらを確認せずに着手いたしますと、想定していなかった株主からも買い取ることとなり、又は手続が途中で止まることになります。
第1 株主総会の特別決議が得られるか
会社が特定の株主から自己株式を取得する場合には、株主総会の決議により、取得する株式の数、対価の内容及び総額、取得することができる期間を定めた上、当該特定の株主を定めることになります(会社法第156条第1項、第160条第1項)。この決議は特別決議によるものとされております(会社法第309条第2項)。
すなわち、議決権を行使することができる株主の議決権の3分の2以上に当たる多数が必要でございます。売却する当事者である株主は、当該決議について議決権を行使することができないものとされております。したがって、残りの株主の議決権により3分の2以上を確保し得るかを、あらかじめ計算しておく必要がございます。
第2 売主追加請求権が生じないか
会社は、特定の株主からの取得を株主総会の目的とする場合には、他の株主に対し、自己をも売主に加えたものを議案とすることを請求することができる旨を通知しなければならないものとされております(会社法第160条第2項)。株主は、これに基づき、自己をも売主に加えることを請求することができます(同条第3項)。
整理したい相手方のみを対象とするつもりが、他の株主が名乗り出ることにより、想定を超えた範囲を買い取ることとなるおそれがございます。
もっとも、公開会社でない会社が、相続その他の一般承継により当該会社の株式を取得した者からその株式を取得する場合において、当該株主が株主総会において当該株式について議決権を行使していないとき等の要件を満たすときは、これらの規定を適用しないものとされております(会社法第162条)。相続により分散した株式の整理においては、この特例の適用の可否が実務上の鍵となります。
第3 分配可能額が足りるか
自己株式の取得により株主に対して交付する金銭等の帳簿価額の総額は、当該行為がその効力を生ずる日における分配可能額を超えてはならないものとされております(会社法第461条第1項)。分配可能額は、剰余金の額を基礎として算定されるものでございます(同条第2項)。
不足する場合には、資本金の額の減少(会社法第447条第1項)又は準備金の額の減少(会社法第448条第1項)により剰余金を生じさせることが考えられますが、債権者の異議の手続を要し(会社法第449条)、1か月以上の期間がかかります。
第4 取得することができる期間をどう定めるか
株主総会の決議において定める「株式を取得することができる期間」は、1年を超えることができないものとされております(会社法第156条第1項第3号)。
資金の都合により複数回に分けて取得する場合には、1年の範囲内で計画を立てるか、又は年度をまたいで複数回の決議を行うことになります。
第5 取得の後の議決権の割合はどうなるか
会社が取得した自己株式については、議決権を有しないものとされております。したがって、会社が他の株主から株式を取得いたしますと、残る株主の議決権の割合が相対的に上昇いたします。後継者の議決権の割合がどこまで上がるかを、あらかじめ計算しておく必要がございます。
なお、自己株式の取得により発行済株式の総数が減少するものではございません。取得した株式を消却する場合には、別に手続を要します。
確認の一覧
| 確認事項 | 資料 | 根拠条文 |
|---|---|---|
| 特別決議の見込み | 株主名簿 | 会社法第309条第2項 |
| 売主追加請求権の有無 | 株主名簿、株主総会の議事録 | 会社法第160条第2項・第3項、第162条 |
| 分配可能額 | 直近の計算書類等 | 会社法第461条第1項・第2項 |
| 取得の期間 | 資金の計画 | 会社法第156条第1項 |
| 取得後の議決権の割合 | 株主名簿 | ― |
よくあるご質問
質問1 売却する株主も決議に参加できますか。
売却する当事者である株主は、当該決議について議決権を行使することができないものとされております。残りの株主の議決権により特別決議の要件を満たす必要がございます。
質問2 他の株主が名乗り出てきたらどうなりますか。
会社は、その株主からも買い取ることになります。分配可能額の範囲を超える場合には、取得の数を調整する必要が生じます。着手の前に、会社法第162条の特例の適用の可否を確認いたします。
質問3 会社に資金がない場合はどうしますか。
分配可能額が不足しているのか、手元の資金が不足しているのかを区別いたします。前者であれば資本金又は準備金の額の減少を検討いたしますが、債権者の異議の手続に1か月以上を要します(会社法第449条)。
質問4 取得した株式はどうなりますか。
会社が保有する自己株式については、議決権を有しないものとされております。消却する場合には、別に手続を要します。なお、税務上の取扱いにつきましては税理士にご確認ください。
本記事の根拠条文
会社法
- 第156条第1項(自己株式の取得に関する事項の決定及び取得することができる期間)
- 第160条第1項から第3項まで(特定の株主からの取得及び売主追加請求権)
- 第162条(相続人等からの取得の特例)
- 第309条第2項(株主総会の特別決議)
- 第447条第1項・第448条第1項・第449条(資本金及び準備金の額の減少)
- 第461条第1項・第2項(分配可能額による制限)
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本記事は一般的な制度の説明であり、結論は事案ごとに異なります。同種の事案において同じ結果となることを保証するものではありません。個別の事情については、弁護士にご相談ください。
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