自分にだけ買取りの機会が与えられなかった場合に採り得る手段
2 確認すべき事項
- 自己株式の取得を決議した株主総会がいつ開催されたか
- 招集の通知が自分に発せられていたか
- 決議が普通決議によるものか特別決議によるものか
- 特定の株主として誰が指定されたか
- 取得した株式の数と対価の総額(1株当たりの価格)
- 定款に売主追加請求権を排除する定めがあるか
- その定めがいつ設けられたか
3 株主名簿と貸借対照表の照合
自己株式の取得が行われた場合、貸借対照表の純資産の部に自己株式が計上されます。計算書類等の閲覧又は謄本の交付の請求(会社法第442条第3項)により、取得の事実と規模を確認することができます。株主名簿における株式の数の変動と併せて確認いたします。
4 登記による確認
自己株式の取得そのものは登記事項ではありませんが、自己株式の消却が行われた場合には発行済株式の総数が変動し、登記されます。登記事項証明書における発行済株式の総数の変動の履歴は、事実を推認する資料となります。
第2節 問題となり得る点
1 通知がされていない場合
会社が特定の株主から自己株式を取得する旨の決定をしようとするときは、法務省令で定める時までに、株主に対し、売主追加請求権を行使することができる旨を通知しなければならないとされております(会社法第160条第2項)。
この通知がされていない場合、株主総会の招集の手続又は決議の方法が法令に違反するとして、決議の取消しの訴えの対象となり得ます(会社法第831条第1項第1号)。
ただし、定款により売主追加請求権が排除されている場合(会社法第164条第1項)、又は相続人等からの取得の特則が適用される場合(会社法第162条)には、通知の義務が生じません。
2 招集の通知がされていない場合
そもそも株主総会の招集の通知が自分に発せられていない場合には、招集の手続が法令に違反するものとして、決議の取消しの訴えの対象となり得ます(会社法第299条第1項、第831条第1項第1号)。瑕疵の程度が著しい場合には、決議の不存在の確認の訴えの対象となることもあります(会社法第830条第1項)。
3 定款の定めの効力
会社は、会社法第160条第2項及び第3項の規定を適用しない旨を定款で定めることができますが、株式の発行後にこの定めを設け、又は変更するには、当該株式を有する株主全員の同意を要します(会社法第164条第2項)。
同意をしていないにもかかわらずこの定めが設けられている場合には、定款の定めの効力が問題となります。定款の変更を決議した株主総会の議事録及び同意書の有無を確認することになります。
4 株主平等の原則
株式会社は、株主を、その有する株式の内容及び数に応じて、平等に取り扱わなければならないとされております(会社法第109条第1項)。
もっとも、会社法は、特定の株主からの自己株式の取得という手続を明文で認めておりますので、特定の株主からのみ取得したこと自体が直ちに株主平等の原則に違反するわけではありません。売主追加請求権の制度は、まさにこの場面における株主の利益を調整するために設けられたものです。したがって、主張の中心は、所定の手続が履践されたかという点に置かれることになります。
5 取締役の責任
会社が不当に高い価格で特定の株主から株式を取得した場合には、取締役の会社に対する責任が問題となり得ます(会社法第423条第1項)。また、取得の対価の総額が分配可能額を超えていた場合には、金銭等の交付を受けた者及び業務執行者等が、会社に対し、交付を受けた金銭等の帳簿価額に相当する金銭を支払う義務を負うものとされております(会社法第462条第1項)。
第3節 採り得る手段
| 手段 | 内容 | 期限 | 根拠条文 |
|---|---|---|---|
| 資料の開示を請求する | 議事録、計算書類等、会計帳簿等 | ありません | 会社法第318条第4項、第442条第3項、第433条第1項 |
| 決議の取消しの訴え | 招集の手続又は決議の方法の法令違反等 | 決議の日から3か月 | 会社法第831条第1項 |
| 決議の不存在又は無効の確認の訴え | 決議が存在しない、内容が法令に違反する | ありません | 会社法第830条 |
| 取締役の責任を追及する訴えの提起の請求 | 会社に損害が生じている場合 | 会社の判断まで60日 | 会社法第847条第1項・第3項 |
| 株主総会の招集を請求する | 100分の3以上を保有する場合 | ありません | 会社法第297条第1項 |
| 会社との任意の買取交渉 | 自己株式の取得を求める協議 | ありません | 会社法第156条第1項 |
| 株式の譲渡承認を請求する | 第三者への譲渡について会社の承認を求めます | ありません | 会社法第136条以下 |
1 3か月という期限
決議の取消しの訴えは、決議の日から3か月以内に提起しなければなりません(会社法第831条第1項)。後になって事実を知った場合、この期間が既に経過していることが少なくありません。
期間が経過している場合には、決議の不存在又は無効の確認の訴え(会社法第830条)、取締役の責任の追及(会社法第847条)といった、期間の制限のない手段を検討することになります。
2 株式の譲渡承認請求という手段
会社が自己株式を取得してくれない場合、株主は、第三者への譲渡について会社の承認を求めるという手段を採り得ます。
譲渡制限株式を有する株主は、当該株式を他人に譲り渡そうとするときは、会社に対し、当該他人が当該株式を取得することについて承認をするか否かの決定をすることを請求することができます(会社法第136条)。会社が承認をしない旨の決定をした場合において、株主が併せて会社又は指定買取人が買い取ることを請求していたときは、会社は自らこれを買い取るか、指定買取人を指定しなければなりません(会社法第140条第1項及び第4項)。
会社が買い取る旨の通知をした場合、売買価格は当事者間の協議によって定めますが、協議が調わないときは、当該通知があった日から20日以内に、裁判所に対し、売買価格の決定の申立てをすることができます(会社法第144条第1項及び第2項)。
すなわち、この手続によれば、価格について裁判所の判断を求める道が開かれます。会社が取得の機会を与えなかったことへの対応としても、実際上の意味を持つ手段です。
3 任意の買取交渉
会社又は他の株主との間で、任意に売買の条件を協議するという方法もあります。具体的な交渉の方法は、株主構成、財務状況、株価、従前の経緯等により異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウにも属するため、本ページでは詳細を開示しておりません。
第4節 確認すべき期限と資料
1 期限
| 事項 | 期限 | 根拠条文 |
|---|---|---|
| 株主総会の決議の取消しの訴え | 決議の日から3か月以内 | 会社法第831条第1項 |
| 決議の不存在又は無効の確認の訴え | 期間の制限はありません | 会社法第830条 |
| 譲渡承認請求に対する会社の通知 | 請求の日から2週間以内 | 会社法第145条第1号 |
| 会社が買い取る場合の売買価格の決定の申立て | 通知があった日から20日以内 | 会社法第144条第2項 |
| 責任追及等の訴えの提起の請求に対する会社の判断 | 請求の日から60日 | 会社法第847条第3項 |
| 株主総会の議事録の備置き | 株主総会の日から10年間 | 会社法第318条第2項 |
2 お手元でご確認いただきたい資料
- 会社から届いた書面があればその一切
- 現に効力を有する定款
- 過去の株主総会の招集の通知及び議事録
- 株主名簿
- 直近3期分及び取得が行われた期の計算書類
- 登記事項証明書
- 株式を取得した経緯が分かる資料(相続、贈与、譲渡に関する書面)
第5節 弁護士にご相談いただく意味
この類型のご相談で最も多い障害は、「事実が分からない」という点です。会社の内部の情報が手元にないため、何が行われたのかを確認できず、そのまま時間が経過してしまいます。そして、3か月という期間が経過した後では、採り得る手段が限られます。
したがって、まず行うべきは、法令に基づく閲覧の請求により事実を確定することです。これらの請求には期限がありませんので、いつでも着手することができます。事実が確定して初めて、どの手段が有効かを判断することができます。
また、この問題は株式だけで完結いたしません。遺産分割、役員退職慰労金、会社と経営者個人との間の取引、会社が使用している不動産といった事項が同時に問題となることが多く、株式だけを切り離して処理いたしますと、かえって全体の解決が遠のくことがあります。当事務所は、株主及び相続人の側のお立場でこの類型の案件を取り扱っており、双方の代理を行うことはありません。
よくあるご質問
質問1 自分に声がかからなかったこと自体が違法ではありませんか。
会社法は、特定の株主からのみ自己株式を取得する手続を明文で認めております(会社法第160条第1項)。したがって、特定の株主からのみ取得したこと自体が直ちに違法となるわけではありません。問題となるのは、売主追加請求権に関する通知(会社法第160条第2項)がされたか、定款による排除が有効か、といった手続の点です。
質問2 決議から3か月以上が経過しております。
決議の取消しの訴えは提起し得ませんが(会社法第831条第1項)、決議が存在しない場合又は決議の内容が法令に違反する場合には、期間の制限なく確認の訴えを提起し得ることがあります(会社法第830条)。また、取締役の責任を追及する手段(会社法第847条)も検討し得ます。
質問3 議事録を見せてもらえません。
株主及び債権者は、会社の営業時間内はいつでも、株主総会の議事録の閲覧又は謄写を請求することができます(会社法第318条第4項)。この請求について、会計帳簿の閲覧等の請求のような拒絶の事由は定められておりません。応じていただけない場合には、裁判上の手続を検討することとなります。
質問4 自分の株式も買い取ってもらいたいのですが。
会社に対して買取りを求める権利が一般的に認められているわけではありません。もっとも、譲渡制限株式について第三者への譲渡の承認を請求し、会社が承認しない場合に会社又は指定買取人による買取りを求めるという手続があります(会社法第136条以下、第140条)。この場合、価格について協議が調わなければ、裁判所に対し売買価格の決定を求める申立てをすることができます(会社法第144条第2項)。
質問5 他の株主が受け取った価格と同じ価格で買い取ってもらえますか。
同じ価格となることが保証されているわけではありません。譲渡承認の手続における売買価格は、当事者間の協議により、協議が調わないときは裁判所の決定により定まります。もっとも、会社が他の株主から取得した価格は、株式の価値を検討する上での一つの資料となり得ます。
本記事の根拠条文
会社法
- 第31条第2項(定款の閲覧等)
- 第109条第1項(株主平等の原則)
- 第125条第2項(株主名簿の閲覧等)
- 第136条、第140条第1項・第4項、第144条第1項・第2項、第145条第1号(譲渡等承認請求、買取り、売買価格の決定、みなし承認)
- 第156条第1項、第160条第1項・第2項、第162条、第164条第1項・第2項(自己株式の取得、売主追加請求権及びその排除)
- 第297条第1項(株主総会の招集の請求)
- 第299条第1項(招集の通知)
- 第309条第2項第2号(特別決議)
- 第318条第2項・第4項(株主総会の議事録)
- 第371条第2項・第3項(取締役会の議事録)
- 第423条第1項(役員等の会社に対する損害賠償責任)
- 第433条第1項(会計帳簿の閲覧等の請求)
- 第442条第3項(計算書類等の閲覧等)
- 第462条第1項(分配可能額を超えた場合の支払義務)
- 第830条(決議の不存在又は無効の確認の訴え)
- 第831条第1項第1号(決議の取消しの訴え)
- 第847条第1項・第3項(責任追及等の訴えの提起の請求)
内部リンク
関連記事 第2層記事第30番(会社が特定の株主から自己株式を取得する場合の売主追加請求権)、第32番(自己株式の取得が株主総会の決議を欠く場合の効力)、第33番(会社が決算書類を見せてくれない場合に相続人が採り得る手段)
既存記事 /archives/unlisted-share-fair-price/(適正価格の総論)、/archives/minority-share-transfer-approval/(株式譲渡承認請求の手続の全体)
送客先ランディングページ /sharesozoku_urinushi_tsuika/(会社が自己株式を取得したのに自分には申込みの機会が与えられなかった方へ)
弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談
弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)では、会社が他の株主からのみ自己株式を取得し、自分には機会が与えられなかったという株主の方からのご相談をお受けしております。事実の調査のための閲覧の請求、決議の効力を争う手続、譲渡承認請求と売買価格の決定の申立て、任意の買取交渉まで、株主の側の代理人としてお引き受けいたします。
詳しくは、会社が自己株式を取得したのに申込みの機会が与えられなかった方に向けたご案内のページ(/sharesozoku_urinushi_tsuika/)をご覧ください。同ページでは、当事務所が行うこと、費用の目安、ご相談から受任までの流れをご説明しております。
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