種類株式を設定して後継者に議決権を集中させる場合の手続
後継者に経営を任せたいのですが、他の子にも財産としては公平に分けてやりたいと考えております。そのような場合に種類株式が使えると聞きました。どのような手続を踏めばよいのでしょうか。このようなご相談を、当事務所はしばしばお受けしております。
先に結論を申し上げます。会社は、剰余金の配当、議決権の行使その他の事項について異なる定めをした内容の異なる2以上の種類の株式を発行することができます(会社法第108条第1項)。後継者に議決権のある株式を、他の相続人に議決権制限株式を承継させるという設計により、経営の安定と財産の公平とを両立させ得る余地がございます。もっとも、種類株式を設けるには定款の変更が必要でございまして(会社法第466条、第309条第2項)、既に発行されている株式の内容を変更する場合には、当該株主の個別の同意を要すると解されております。すなわち、他の株主の協力なくして実現することは容易ではございません。本記事では、手続と留意点を整理いたします。
第1節 用い得る種類株式
| 種類 | 内容 | 用途 |
|---|---|---|
| 議決権制限株式 | 株主総会において議決権を行使することができる事項を制限いたします | 後継者以外の相続人に承継させます |
| 拒否権付種類株式 | 一定の事項について当該種類株主総会の決議を必要といたします | 先代が一定の期間、重要事項を確認いたします |
| 取得条項付株式 | 一定の事由が生じたことを条件として会社が取得することができます | 一定の事由が生じた場合に株式を回収いたします |
| 取得請求権付株式 | 株主が会社に対して取得を請求することができます | 株主に換価の機会を与えます |
| 剰余金の配当について優先する株式 | 配当において優先的な取扱いを受けます | 議決権を制限する代わりに配当で報います |
これらは、会社法第108条第1項各号に定められた事項に対応するものでございます。組み合わせて用いることもできます。
第2節 定款の変更が必要でございます
1 特別決議
種類株式を設けるには、定款において、その内容及び発行可能種類株式総数を定めなければならないものとされております(会社法第108条第2項)。定款の変更は、株主総会の決議によらなければならず(会社法第466条)、この決議は特別決議によるものとされております(会社法第309条第2項)。
2 種類株主総会
種類株式発行会社において、ある種類の株式の種類株主に損害を及ぼすおそれがあるときは、当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議がなければ、その効力を生じないものとされております(会社法第322条第1項)。定款により、この規定を適用しない旨を定めることができる場合がございますが、一定の事項については認められておりません(同条第3項及び第4項参照)。
3 既存の株式の内容の変更
既に発行されている株式について、その内容を議決権制限株式に変更する場合には、当該株主の権利を害することとなりますので、当該株主の個別の同意を要すると解されております。実務上は、株主の全員の同意を得て行うことが通例でございます。
また、既に発行されている株式を取得条項付株式とする定款の変更には、当該種類の株式を有する株主の全員の同意を得なければならないものとされております(会社法第111条第1項)。
すなわち、他の株主が反対している状況において、その株主の議決権のみを一方的に制限することはできません。この点を誤解されている方が少なくございません。
第3節 現実的な設計
他の株主の同意が得られない場合には、次のような設計が考えられます。
- 新たに議決権制限株式を発行し、これを他の相続人に承継させることを遺言に定める方法
- 先代がその保有する株式の全部について内容を定め、その上で承継の方法を定める方法(先代が単独で保有している場合には、その同意により内容の変更が可能でございます)
- 後継者以外の相続人には株式以外の財産を配分し、株式は後継者に集中させる方法
先代が発行済株式の全部を保有している段階で設計を行うことが、最も円滑でございます。株式が分散した後に議決権を制限することは、著しく困難となります。
第4節 拒否権付種類株式の留意点
会社は、ある種類の株式について、株主総会又は取締役会において決議すべき事項のうち、当該決議のほか、当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議があることを必要とするものと定めることができます(会社法第108条第1項第8号)。
先代が一定の期間これを保有し、後継者の経営を確認するという用い方がされることがございます。もっとも、次の点に留意を要します。
- 先代の判断能力が失われた場合、種類株主総会の決議ができなくなり、会社の意思決定が停止するおそれがございます
- 先代が死亡した場合、当該株式が相続の対象となり、意図しない者に承継されるおそれがございます
- 後にこれを解消しようとしても、種類株主総会の決議が必要となり、容易ではございません(会社法第322条第1項)
したがって、取得条項を付し、一定の事由が生じた場合には会社が取得することができるものとしておく等の手当てを、あらかじめ講じておく必要がございます。
第5節 手続の順序
| 段階 | 内容 |
|---|---|
| 第1 | 現在の株主構成及び定款の内容を確定いたします |
| 第2 | 実現したい状態を定め、用いる種類株式を選択いたします |
| 第3 | 必要な同意及び決議を確認いたします(特別決議、種類株主総会、個別の同意) |
| 第4 | 定款の変更の案を作成いたします |
| 第5 | 株主総会(及び必要な場合は種類株主総会)を招集し、決議いたします |
| 第6 | 登記を行います(種類株式の内容は登記事項でございます) |
| 第7 | 株主名簿を整備し、承継の方法(遺言等)を定めます |
登記の申請の手続につきましては、司法書士にご確認ください。当事務所は登記の申請の代理を行っておりません。また、税務上の取扱いにつきましては税理士にご確認ください。
第6節 手続に伴う期間及び期限
種類株式の設定は、定款の変更を伴いますので、いくつかの期間及び期限の管理が必要となります。起算点とともに整理いたします。
| 事項 | 起算点 | 期間又は期限 |
|---|---|---|
| 株主総会の招集の通知 | 株主総会の日 | 公開会社でない会社においては、原則としてその日の1週間前までに発します(会社法第299条第1項)。定款による短縮が認められる場合がございます |
| 株主に対する通知又は公告 | 効力発生日 | 効力発生日の20日前までに、株式の内容の変更に反対する株主に対する通知又は公告を行います(会社法第116条第3項・第4項) |
| 反対株主による株式買取請求 | 効力発生日 | 効力発生日の20日前の日から効力発生日の前日までの間に行います(会社法第116条第5項) |
| 買取価格の決定の申立て | 効力発生日 | 協議が調わない場合には、効力発生日から30日以内に、裁判所に対し価格の決定の申立てをすることができます(会社法第117条第2項) |
| 定款の変更に伴う登記 | 変更が生じた日 | 2週間以内に、本店の所在地において変更の登記の申請を要します(会社法第915条第1項) |
これらの期間は、いずれも定めが置かれているものでございまして、徒過いたしますと後から補うことができないものがございます。手続に着手する前に、効力発生日を定め、そこから逆算して日程を組むことをお勧めいたします。
よくあるご質問
質問1 反対している株主の議決権を制限できますか。
既に発行されている株式の内容を変更して議決権を制限する場合には、当該株主の個別の同意を要すると解されております。一方的に制限することはできません。
質問2 種類株式は登記されますか。
種類株式の内容及び発行可能種類株式総数は、登記事項とされております。したがって、取引の相手方にも明らかとなります。
質問3 拒否権付種類株式を先代が持ったままになるとどうなりますか。
先代の判断能力が失われた場合には種類株主総会の決議ができなくなり、死亡した場合には相続の対象となります。取得条項を付す等の手当てをあらかじめ講じておく必要がございます。
質問4 どの段階で設計すべきですか。
先代が発行済株式の全部又は大部分を保有している段階でございます。株式が分散した後は、他の株主の同意が必要となり、著しく困難となります。
質問5 既存の株主の同意を得ないまま株式の内容を変更できますか。
定款の変更には、株主総会の特別決議を要します。加えて、ある種類の株式の内容の変更が種類株主に損害を及ぼすおそれがある場合には、種類株主総会の決議を要することがございます。また、反対する株主には、株式の買取りを請求する権利が認められる場合がございます。全員の同意までは要しないものの、反対する株主が存在する場合には、買取りの負担が生ずることを前提としてご検討いただく必要がございます。
質問6 定款を変更した後、いつまでに登記をする必要がございますか。
変更が生じた日から2週間以内に、本店の所在地において変更の登記の申請を要します(会社法第915条第1項)。なお、登記の申請の代理は当事務所の取り扱う業務ではございませんので、司法書士にご依頼いただくことになります。
質問7 買取りを請求された場合、価格はどのように決まりますか。
まずは会社と当該株主との間の協議によります。協議が調わない場合には、効力発生日から30日以内に、裁判所に対し価格の決定の申立てをすることができます(会社法第117条第2項)。具体的な価格は、会社の状況及び株式の内容により異なりますので、あらかじめ申し上げることはできません。
本記事の根拠条文
会社法
- 第108条第1項・第2項(種類株式の内容及び定款の定め)
- 第111条第1項(取得条項付株式とする定款の変更)
- 第309条第2項(株主総会の特別決議)
- 第322条第1項(種類株主総会の決議)
- 第466条(定款の変更)
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