相続した非上場株式を換価するための手段の全体像
父から会社の株式を相続いたしました。配当は出ておりませんし、経営に関与する立場でもございません。株主総会の通知が届くだけで、実益がございません。会社に買取りを申し入れましたが、「その気はない」の一言で終わってしまいました。このようなご相談を、当事務所はしばしばお受けしております。
先に結論を申し上げます。相続した非上場株式を現金に換える手段は、大きく3つでございます。第1は、会社に自己株式として取得してもらう方法でございます(会社法第156条以下)。第2は、第三者に譲渡する方法でございます。譲渡制限株式については、会社に対して株式譲渡承認請求を行い、会社が承認しないときは、会社又は会社が指定する買取人が買い取ることになります(会社法第136条以下、第140条)。第3は、他の株主に譲渡する方法でございます。このうち、会社が任意に応じない場合に法的に前へ進められるのは、第2の経路でございます。この経路には短い期間が定められておりますので、手順を誤ることができません。本記事では、手段の全体像と選択の順序を整理いたします。
本稿は、相続した非上場株式を現金に換えるために採り得る手段、すなわち会社に自己株式として取得させる方法、株式譲渡承認請求により会社又は指定買取人に買い取らせる方法及び他の株主へ譲渡する方法の全体像と、その選択の順序について解説するものです。非上場株式の相続に関する基本的な知識、手続の流れ及び生じやすいトラブルの全般については 非上場株式の相続のトラブルでお悩みの方へ|メリット・デメリットから対処法まで解説 を、会社を承継する後継者の立場から見た自社の株式の相続の進め方については 自社株を相続するための進め方とは?相続対策やよくあるトラブルも解説 を御参照ください。
第1節 なぜ換価が難しいのか
1 市場がございません
非上場株式には、取引の市場がございません。買い手を自ら探す必要がございますが、少数の株式のみを買い受けても経営に関与できないため、第三者にとっての魅力に乏しうございます。
2 譲渡に会社の承認が必要でございます
中小の会社の株式には、譲渡による取得について会社の承認を要する旨の定めが付されていることが通例でございます。この場合、株主が任意に売却先を決めることができません。
3 会社に応じる義務がございません
会社は、株主から買取りを求められても、これに応じる義務を負うものではございません。「買い取る気はない」という回答は、それ自体としては違法ではございません。
4 情報が会社に偏在しております
価格の交渉をしようにも、会社の財務の状況が分からなければ、いくらが妥当かを述べることができません。
第2節 手段の全体像
| 手段 | 相手方 | 会社の同意 | 根拠条文 |
|---|---|---|---|
| 会社による自己株式の取得 | 会社 | 必要でございます | 会社法第156条、第160条 |
| 株式譲渡承認請求と会社又は指定買取人による買取り | 会社又は指定買取人 | 不要でございます | 会社法第136条以下、第140条 |
| 他の株主への譲渡 | 他の株主 | 承認が必要な場合がございます | 会社法第136条、第139条 |
| 第三者への譲渡 | 第三者 | 承認が必要でございます | 会社法第136条、第139条 |
| 会社の解散及び清算による残余財産の分配 | ― | 特別決議が必要でございます | 会社法第471条第3号、第309条第2項 |
このうち、会社の同意がなくとも手続を前へ進められるのは、株式譲渡承認請求の経路でございます。
第3節 会社に自己株式の取得を求める方法
1 手続
会社が特定の株主から自己株式を取得する場合には、株主総会の決議により、取得する株式の数、対価の内容及び総額、取得することができる期間を定めた上、当該特定の株主を定めることになります(会社法第156条第1項、第160条第1項)。この決議は特別決議によるものとされております(会社法第309条第2項)。
2 売主追加請求権
会社は、特定の株主からの取得を株主総会の目的とする場合には、他の株主に対し、自己をも売主に加えたものを議案とすることを請求することができる旨を通知しなければならないものとされております(会社法第160条第2項)。株主は、これに基づき、自己をも売主に加えることを請求することができます(同条第3項)。会社としては、想定した範囲を超えて買い取ることとなるおそれがあるため、この点を理由に消極的な姿勢を示すことがございます。
3 相続人等からの取得の特例
公開会社でない会社が、相続その他の一般承継により当該会社の株式を取得した者からその株式を取得する場合において、当該株主が株主総会において当該株式について議決権を行使していないとき等の要件を満たすときは、売主追加請求権に関する規定を適用しないものとされております(会社法第162条)。相続により取得した株式の換価においては、この特例の適用の可否が重要でございます。
4 財源の制限
自己株式の取得により株主に対して交付する金銭等の帳簿価額の総額は、当該行為がその効力を生ずる日における分配可能額を超えてはならないものとされております(会社法第461条第1項)。会社の分配可能額が不足していれば、この方法によることができません。
第4節 株式譲渡承認請求による方法
1 制度の要点
譲渡制限株式を譲渡しようとする株主は、会社に対し、当該株式を譲り受ける者に対して譲渡することについて承認をするか否かの決定をすることを請求することができます(会社法第136条)。この請求をする場合において、会社が承認をしない旨の決定をしたときは、会社又は指定買取人が当該株式を買い取ることを請求することができるものとされております(会社法第138条第1号ハ)。
これがこの制度の核心でございます。会社は、「譲渡も認めない、買取りもしない」という対応をとることができません。承認しないのであれば、会社又は指定買取人が買い取ることになります(会社法第140条)。
2 みなし承認
会社が、請求の日から2週間(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)以内に、承認をするか否かの決定の内容を通知しなかった場合には、承認をする旨の決定をしたものとみなされます(会社法第145条第1号)。会社が沈黙を続けても、株主に不利益が生じない仕組みとなっております。
3 買取りの通知と供託
会社が買い取る場合には、株主総会の特別決議により、買い取る旨及び買い取る株式の数を定めた上、株主に対して通知いたします(会社法第140条第1項及び第2項、第141条第1項、第309条第2項)。指定買取人を指定する場合には、その旨を通知いたします(会社法第140条第4項、第142条第1項)。通知に際しては、一定の額を供託し、供託を証する書面を交付することが求められております。
4 売買価格の決定
売買価格は、当事者の協議によって定めます。もっとも、会社又は株主は、買取りの通知があった日から20日以内に、裁判所に対し、売買価格の決定の申立てをすることができるものとされております(会社法第144条第2項)。この期間内に申立てがされない場合の取扱いについても規定が設けられておりますので、期間の管理が不可欠でございます。
5 譲り受ける者を定める必要がございます
この請求をするには、株式を譲り受ける者を定める必要がございます。現実に譲り受ける意思を有する者を確保することが、実務上の課題となります。
第5節 他の株主に譲渡する方法
他の株主、特に会社の経営に関与している株主は、持株の割合を高めることに関心を有していることがございます。この場合、相対の交渉により譲渡することが考えられます。譲渡制限株式については、定款において「株主に譲渡する場合には承認があったものとみなす」旨が定められていることがございますので、定款を確認いたします。
なお、他の株主に譲渡する場合であっても、価格の合意が必要でございます。会社の財務の資料を得た上で交渉することが望ましうございます。
第6節 資料を得るための手段
いずれの手段によるにしても、価格を検討するためには会社の財務の資料が必要でございます。
- 計算書類等の閲覧又は謄本の交付の請求(会社法第442条第3項)。法定の拒絶の事由は定められておりません
- 株主名簿の閲覧又は謄写の請求(会社法第125条第2項)
- 株主総会の議事録の閲覧又は謄写の請求(会社法第318条第4項)
- 会計帳簿又はこれに関する資料の閲覧又は謄写の請求(会社法第433条第1項)。持株の割合の要件及び拒絶の事由がございます
- 決算公告の確認(会社法第440条第1項)
- 会社の登記事項証明書の取得
株主名簿の名義が被相続人のままである場合には、まず名義書換を請求いたします。相続その他の一般承継により株式を取得した者は、単独で株主名簿記載事項の記載又は記録を請求することができるものとされております。
第7節 留意すべき点
1 相続人等に対する売渡しの請求
定款に相続人等に対する売渡しの請求の定めがある場合には、会社の側から株式の売渡しを請求されることがございます(会社法第174条)。この請求は、会社が相続その他の一般承継があったことを知った日から1年を経過したときはすることができません(会社法第176条第1項ただし書)。株主の側が動いたことを契機として会社が請求に踏み切ることがございますので、定款の確認は着手の前に行う必要がございます。
2 保有を続けるという選択
換価が実現しない場合には、株式を保有し続けることになります。この場合であっても、株主としての権利により会社の状況を把握し続けることは可能でございます。将来、会社が売却され、又は解散する局面において、株主としての地位が意味を持つことがございます。
3 相続の放棄との関係
相続の放棄は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内にしなければならないものとされております(民法第915条第1項)。株式に実益がないことを理由として放棄を検討する場合には、この期間に留意する必要がございます。ただし、放棄をすれば他の遺産も承継できなくなりますので、遺産の全体を踏まえて判断する必要がございます。
第8節 手続の順序
| 段階 | 内容 |
|---|---|
| 第1 | 遺産分割の状況を確認し、未了であれば権利行使者を定めます(会社法第106条) |
| 第2 | 名義書換を請求し、株主としての地位を確保いたします |
| 第3 | 定款を確認いたします(譲渡の制限、相続人等に対する売渡しの請求の定め) |
| 第4 | 計算書類等の閲覧謄本交付を請求し、価格の見通しを立てます |
| 第5 | 会社に対し、自己株式の取得を書面により申し入れます |
| 第6 | 応じない場合、株式譲渡承認請求を行います(会社法第136条、第138条) |
| 第7 | 買取りの通知があった日から20日以内に売買価格の決定の申立てを判断いたします(会社法第144条第2項) |
第9節 時間の管理
| 事項 | 期限 | 根拠条文 |
|---|---|---|
| 会社による承認の決定の通知 | 請求の日から2週間(しなければ承認とみなされます) | 会社法第145条第1号 |
| 売買価格の決定の申立て | 買取りの通知があった日から20日 | 会社法第144条第2項 |
| 相続人等に対する売渡しの請求 | 会社が相続を知った日から1年 | 会社法第176条第1項ただし書 |
| 相続の放棄又は限定承認 | 自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月 | 民法第915条第1項 |
| 相続税の申告 | 相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月 | 相続税法第27条第1項 |
第10節 会社の側から想定される主張と、これに対する反論の枠組み
会社に対して買取りを申し入れますと、次のような回答が返ってくることが多うございます。あらかじめ想定しておきますと、回答を受けてから対応を検討する時間を節約することができます。
| 会社の側の主張 | 検討すべき点 |
|---|---|
| 買い取る気はございません | 会社に応じる義務はございませんので、この回答自体を違法と申し上げることはできません。もっとも、株式譲渡承認請求の経路に入りますと、会社は承認をするか、会社又は指定買取人が買い取るかのいずれかを選ばなければならなくなります(会社法第138条第1号ハ、第140条) |
| 定款により譲渡が制限されておりますので、売却することはできません | 譲渡の制限は、譲渡を禁止するものではなく、会社の承認にかからしめるものでございます。会社が承認をしない旨の決定をする場合には、買取りの手続が続くことになります(会社法第140条) |
| 買い取る資金がございません | 分配可能額による制限は、会社が自己株式を取得する場合について定められたものでございます(会社法第461条第1項)。指定買取人による買取りの場合には、買い取る主体が会社ではございませんので、状況が異なる余地がございます |
| 先代との間で、株式は会社に無償で返すという約束があったと聞いております | そのような合意の存否及び内容は、書面その他の証拠により確かめる必要がございます。相続人が当然にこれに拘束されるとは限りません |
| 帳簿上の価額はごくわずかでございます | 売買価格は、当事者の協議により、協議が調わない場合には裁判所の決定によることになります(会社法第144条第2項)。会社の一方的な評価に拘束されるものではございません |
| 他の株主にも同じ条件で応じなければならなくなります | 売主追加請求権に関する規律の問題でございます。相続その他の一般承継により株式を取得した者からの取得につきましては、一定の要件の下にこれを適用しない旨の定めがございます(会社法第162条) |
いずれの主張に対しましても、口頭で応酬することには乏しい意味しかございません。請求は書面により行い、会社の回答も書面により受けることが、その後の手続の基礎となります。
第11節 事案の類型ごとの分岐
同じ「相続した株式を換価したい」というご相談でございましても、次の事情により採るべき順序が変わります。着手の前に、この5点を確かめます。
1 定款に相続人等に対する売渡しの請求の定めがあるかどうか
定めがある場合には、会社が相続その他の一般承継があったことを知った日から1年を経過するまでの間、会社の側から売渡しを請求される余地がございます(会社法第176条第1項ただし書)。この期間内に株主の側から積極的に働きかけますと、かえって会社の請求を誘発することがございますので、期間の経過を待つことの当否を含めて順序を検討いたします。
2 遺産分割が終わっているかどうか
終わっていない場合には、株式は相続人の準共有に属し、権利を行使する者1人を定めて会社に通知しなければ権利を行使することができません(会社法第106条本文)。他の相続人と対立している事案では、この段階で滞ることがございます。分割の協議と並行して、株式以外の遺産の帰すうも含めて方針を立てることになります。
3 保有する株式の割合
会計帳簿又はこれに関する資料の閲覧又は謄写の請求には、持株の割合の要件が定められております(会社法第433条第1項)。要件を満たさない場合には、法定の拒絶の事由が定められていない計算書類等の閲覧又は謄本の交付の請求(会社法第442条第3項)を中心に据え、決算公告及び登記事項証明書により補うことになります。
4 譲り受ける者を確保できるかどうか
株式譲渡承認請求は、株式を譲り受ける者を定めて行うものでございます。確保の見通しが立たない場合には、まず会社との交渉を尽くし、並行して譲受けの候補を検討することになります。
5 相続税の申告期限までの残りの期間
納税のための資金を株式の換価により確保する必要がある場合には、期限から逆算して工程を組み立てる必要がございます。承認の決定に2週間、価格の協議及び裁判所における手続に相応の期間を要しますので、早い段階で着手することが望ましうございます。
第12節 弁護士にご相談いただく意味
この類型において結論を左右するのは、経路の選択でございます。会社に「買ってください」と申し入れ続けても、会社に応じる義務はございません。他方、株式譲渡承認請求の経路に入れば、会社は承認するか、自ら又は指定買取人により買い取るかのいずれかを選ばなければなりません。この構造を理解した上で、いつ、いかなる書面を出すかを設計することが要でございます。
また、この経路には2週間及び20日という短い期間が定められております。会社からの通知を受けてから対応を検討していたのでは間に合わないことがございますので、あらかじめ準備しておく必要がございます。
さらに、定款に相続人等に対する売渡しの請求の定めがある場合には、株主の側が動いたことを契機として会社が請求に踏み切る余地がございます。着手の前に定款を確認し、順序を設計する必要がございます。
具体的な進め方は、定款の内容、株主構成、会社の財務の状態、遺産分割の状況、譲り受ける者の確保の見通し等により異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してまいりました実務上のノウハウにも属するため、本記事では詳細を開示しておりません。なお、税務上の取扱いにつきましては税理士にご確認ください。
よくあるご質問
質問1 会社に「買う気はない」と言われました。それで終わりですか。
終わりではございません。株式譲渡承認請求を行い、あわせて会社が承認をしない場合には会社又は指定買取人が買い取ることを請求する旨を明らかにいたしますと(会社法第138条第1号ハ)、会社は承認するか買い取るかのいずれかを選ばなければならなくなります。
質問2 譲り受ける人を見つけられません。
株式譲渡承認請求をするには、譲り受ける者を定める必要がございます。現実に譲り受ける意思を有する者を確保することが前提となります。この点をどのように整えるかは、事案により工夫を要します。
質問3 会社が返事をしません。
請求の日から2週間以内に承認をするか否かの決定の内容を通知しなかった場合には、承認をする旨の決定をしたものとみなされます(会社法第145条第1号)。沈黙は株主に不利益をもたらしません。
質問4 いくらで売れるのか、あらかじめ分かりますか。
非上場株式の価格は、会社の資産の状況、収益の状況、株式の保有の割合等により大きく異なります。あらかじめ確定的な金額を申し上げることはできません。まず計算書類等を入手し、見通しを立てることから始めます。
質問5 遺産分割が終わっていません。
遺産分割が終わるまでの間、株式は相続人の準共有に属します。共有者は、権利を行使する者1人を定め、会社に通知しなければ権利を行使することができません(会社法第106条本文)。まず権利行使者の指定について協議いたします。
本記事の根拠条文
会社法
- 第106条(共有者による権利の行使)
- 第125条第2項(株主名簿の閲覧等)
- 第136条(株主からの譲渡等の承認の請求)
- 第138条第1号(譲渡等の承認の請求の方法)
- 第139条(譲渡等の承認の決定)
- 第140条(会社又は指定買取人による買取り)
- 第141条第1項・第142条第1項(買取りの通知)
- 第144条第2項(売買価格の決定の申立て)
- 第145条第1号(承認をしたものとみなされる場合)
- 第156条第1項・第160条(自己株式の取得)
- 第162条(相続人等からの取得の特例)
- 第174条・第176条第1項(相続人等に対する売渡しの請求)
- 第309条第2項(株主総会の特別決議)
- 第318条第4項(株主総会の議事録の閲覧等)
- 第433条第1項(会計帳簿の閲覧等の請求)
- 第440条第1項(貸借対照表等の公告)
- 第442条第3項(計算書類等の閲覧等の請求)
- 第461条第1項(分配可能額による制限)
- 第471条第3号(株主総会の決議による解散)
民法 第915条第1項(相続の承認又は放棄をすべき期間)
相続税法 第27条第1項(相続税の申告書の提出期限)
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