遺留分侵害額の支払が決まった後の相続税の精算 更正の請求、期限後申告及び株式で支払う場合の課税

▶ 自社株式を後継者に集中させた場合の遺留分侵害額請求と株式の評価
兄に遺留分を請求し、調停で2,000万円を受け取ることになりました。兄は相続税の申告で会社の株式をすべて申告して納税しています。私は相続税を申告していませんが、受け取った金銭について相続税を払う必要があるのでしょうか。当事務所には、このようなご相談が寄せられています。
遺留分侵害額の支払の額が決まるのは、相続税の申告期限より後になることがほとんどです。そのため、すでにした申告を、支払った側と受け取った側の双方で精算する必要が生じます。支払の方法として株式を渡す場合には、さらに別の課税の問題が生じます。
結論から申し上げます。遺留分侵害額の支払の額が確定すると、支払った側は、確定を知った日の翌日から4か月以内に、相続税の更正の請求をして納め過ぎた税額の還付を受けることができます。受け取った側は、受け取った金額に応じて相続税の期限後申告又は修正申告をすることになります。金銭に代えて株式を渡すと、渡した側に譲渡所得の課税が生じ、事業承継税制の納税猶予を受けていれば猶予が打ち切られるおそれがありますので、合意の前に税理士と検討することが欠かせません。以下、順を追ってご説明します。
相続税の申告と遺留分の関係
相続税の申告書は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内に提出しなければなりません(相続税法第27条第1項)。遺留分侵害額の請求がされていても、申告期限は延びません。多くの場合、遺言どおりに財産を取得したものとして申告し、遺留分侵害額の支払が確定した後に精算します。
支払った側 更正の請求
遺留分侵害額の請求に基づき支払うべき金銭の額が確定したことにより、すでに申告した課税価格及び税額が過大となったときは、その事由が生じたことを知った日の翌日から4か月以内に、税務署長に対して更正の請求をすることができます(相続税法第32条第1項第3号)。支払った金額は、相続により取得した財産の価額から差し引かれます。4か月の期間を過ぎないよう、調停の成立や判決の確定の日を税理士と共有しておきます。
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受け取った側 期限後申告又は修正申告
遺留分侵害額の支払を受けたことにより、新たに相続税の申告書を提出すべき要件に該当することとなった者は、期限後申告書を提出することができ(相続税法第30条第1項)、すでに申告していた者で税額が不足することとなったものは、修正申告書を提出することができます(同法第31条第1項)。受け取った側が申告しない場合でも、支払った側の更正の請求に対応して、税務署長が決定又は更正をすることがあります(同法第35条第3項)。加算税や延滞税の扱いを含め、具体的な手続は税理士にご確認ください。
株式で支払う場合
渡した側に譲渡所得の課税が生じ得ます
令和元年7月1日以後に開始した相続では、遺留分侵害額の請求は金銭債権となりましたので、金銭に代えて株式を渡すことは、金銭債務の弁済に代えて資産を移転すること(代物弁済)となります。国税庁は、この場合、資産を渡した者は、その履行により消滅した債務の額に相当する価額でその資産を譲渡したものとして、譲渡所得の課税の対象となるとしています(所得税基本通達33-1の6)。株式の取得費が低い同族会社の株式では、多額の譲渡所得が生じることがあります。
受け取った側の取得費
金銭に代えて株式を受け取った者は、その株式を、消滅した債権の額に相当する価額で取得したものとして扱われます(所得税基本通達38-7の2)。将来その株式を売却する際の取得費に関わります。
会社の株主構成への影響
株式で支払うと、遺留分権利者が会社の株主となり、後継者の持株比率が下がります。譲渡制限株式であれば、会社の譲渡の承認が必要です(会社法第136条以下)。会社の経営の安定と、遺留分権利者の換金の希望の双方を考えると、株式での支払が適切な解決とは限りません。
自社株式をめぐって、遺留分侵害額の請求を受け、又は請求を検討している方は、次のページを御覧ください。
事業承継税制の納税猶予を受けている場合
後継者が非上場株式等についての相続税の納税猶予(租税特別措置法第70条の7の2等)を受けている場合、猶予の対象となった株式を遺留分侵害額の支払に充てて譲渡すると、猶予された税額の全部又は一部について猶予期限が確定し、納付が必要となるおそれがあります。金銭で支払う場合でも、その資金を会社から引き出す方法によっては、納税猶予の要件に影響することがあります。支払の方法を決める前に、税理士と個別に確認する必要があります。
お手元の資料と経緯をお聞きし、進め方の順序をお示しします。
合意書で定めておくこと
- 支払う金額と、相続税の精算をそれぞれの当事者が自己の負担で行うこと
- 株式で支払う場合の株式の数、評価額、譲渡の承認の手続
- 支払の期限と分割払の回数、遅れた場合の扱い
- 更正の請求や申告に必要な書類(調停調書の写し等)の相互の提供
いま確認していただきたいこと
- 相続税の申告の有無と、申告に用いた株式の評価額
- 遺留分侵害額の支払の額が確定した日(調停の成立の日又は判決の確定の日)
- 支払の方法(金銭か株式か)
- 後継者が事業承継税制の納税猶予を受けているか
よくあるご質問
遺留分として受け取った金銭にも、相続税がかかりますか。
相続により取得した財産として、相続税の課税の対象となります。受け取った金額に応じて、期限後申告又は修正申告をすることになります(相続税法第30条第1項、第31条第1項)。
支払った側は、いつまでに還付を求める必要がありますか。
支払うべき金額が確定したことを知った日の翌日から4か月以内に、更正の請求をする必要があります(相続税法第32条第1項第3号)。
株式で支払えば、現金を用意しなくて済むのではありませんか。
現金は不要になりますが、渡した側に譲渡所得の課税が生じ得ます(所得税基本通達33-1の6)。株式の取得費が低い場合は税額が大きくなることがありますので、税理士と事前に確認してください。
兄は事業承継税制の納税猶予を受けています。影響はありますか。
猶予の対象となった株式を支払に充てて譲渡すると、猶予された税額の納付が必要となるおそれがあります(租税特別措置法第70条の7の2等)。支払の方法の検討の前に確認が必要です。
相続税の精算の方法も、調停で決めることができますか。
当事者間の負担の取決めは合意書や調停調書に定めることができます。ただし、税務署に対する申告や更正の請求は、各当事者が法律の定める期間内に行う必要があります。
出典
- 相続税法(昭和25年法律第73号)第27条第1項、第30条第1項、第31条第1項、第32条第1項第3号、第35条第3項
- 所得税基本通達33-1の6、38-7の2(国税庁)
- 租税特別措置法(昭和32年法律第26号)第70条の7の2
- 会社法(平成17年法律第86号)第136条
- e-Gov法令検索(デジタル庁) 法令の条文の確認に用いています。
弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談
弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)は、非上場株式の相続に注力し、遺留分侵害額の請求について、金額の交渉、支払の方法の設計、合意書の作成、調停及び訴訟まで、税理士と連携してご依頼者の代理人としてご相談をお受けしています。同一の案件について、利害の対立する双方を代理することはありません。
株式の遺留分でお困りの方は、株式の遺留分をめぐるトラブルに関するご案内のページをご覧ください。
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ご相談の際に、遺言書の写し、相続税の申告書の控え、調停調書や合意書の案、会社の履歴事項全部証明書をご用意いただけば、検討が早く進みます。これらがお手元にないことを理由にご相談をお断りすることはありません。なお、税務上の取扱いについては税理士にご確認ください。
本記事は一般的な制度の説明であり、結論は事案ごとに異なります。同種の事案において同じ結果となることを保証するものではありません。個別の事情については、弁護士にご相談ください。
必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。
この記事の位置付け
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