株式を承継したのに前経営者が経営に干渉してくる場合

父から株式の大部分を承継し、代表取締役にも就任いたしました。ところが、父は「会長」という肩書きで出社を続け、社員に直接指示を出し、取引先にも自らが決定権を持つかのように振る舞っております。銀行の担当者も、いまだに父のところへ参ります。このようなご相談を、当事務所はしばしばお受けしております。

先に結論を申し上げます。この問題は、感情の問題として扱うと解決いたしません。整理すべきは、第1に株式の帰属、第2に会社の機関の構成、第3に対外的な代表権の外観の3点でございます。株式が真に承継されており、かつ前経営者が取締役でないのであれば、法律上、前経営者は会社の意思決定に関与する権限を有しておりません。他方、前経営者が取締役として残っている場合、拒否権付種類株式を保有している場合、又は株式の一部を留保している場合には、法律上の権限が現に存在いたしますので、対応の方法が異なります。本記事では、状況の類型ごとに整理いたします。

目次

第1節 まず事実を確定いたします

1 株式の帰属

生前贈与により株式を承継した場合には、贈与契約書、株主名簿の名義書換の記録、譲渡制限株式であれば会社の承認の決議(会社法第136条、第137条、第139条第1項)を確認いたします。名義書換が済んでいなければ、会社に対して株主であることを対抗することができません(会社法第130条第1項)。

「株式は譲った」と口頭で言われているのみで、名義書換も承認の決議もされていないという例が少なくございません。この場合、法律上は前経営者がなお株主でございますので、議決権も前経営者にございます。

2 会社の機関の構成

履歴事項全部証明書により、現在の取締役、代表取締役、監査役を確認いたします。「会長」「相談役」「顧問」といった肩書きは、会社法上の機関ではございません。これらの肩書きを有する者が取締役として登記されていないのであれば、会社法上、業務執行の決定に関与する権限を有しておりません。

3 種類株式の有無

会社は、ある種類の株式について、株主総会又は取締役会において決議すべき事項のうち、当該決議のほか、当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議があることを必要とするものと定めることができます(会社法第108条第1項第8号)。いわゆる拒否権付種類株式でございます。前経営者がこれを保有している場合には、後継者が議決権の多数を有していても、単独で決議をすることができません。定款及び登記により、種類株式の内容を確認いたします。

4 定款の定め

取締役の員数、任期、代表取締役の選定の方法、取締役会の有無、株主総会の招集の手続等を確認いたします。定款は、株主又は債権者であれば、その閲覧又は謄本の交付を請求することができます(会社法第31条第2項)。

第2節 前経営者が取締役でない場合

1 法律上の権限はございません

取締役でない者は、会社の業務執行の決定に関与する権限を有しておりません。したがって、社員に対する指示、取引の決定、資金の支出の指示は、いずれも法律上の根拠を欠くことになります。

2 対外的な外観の問題

会社は、代表取締役以外の取締役に社長、副社長その他株式会社を代表する権限を有するものと認められる名称を付した場合には、当該取締役がした行為について、善意の第三者に対してその責任を負うものとされております(会社法第354条)。取締役でない者についても、会社が代表権があるかのような外観を作出し、これを放置した場合には、取引の相手方との関係で会社が責任を負う余地がございます。

したがって、「会長」という肩書きの名刺、社内での呼称、対外的な文書における表示を放置することは、会社にとって危険でございます。名刺、ウェブサイト、契約書の署名欄、社内の掲示を整理する必要がございます。

3 実務上の対応

  • 取締役会又は株主総会において、業務執行の決定の権限の所在を明確にする決議を行います
  • 役職の呼称に関する社内の規程を整備し、会社法上の機関でない肩書きの意味を明示いたします
  • 主要な取引先及び金融機関に対し、代表者及び決裁の権限の所在を書面により通知いたします
  • 会社の実印、銀行の届出印、通帳、印鑑証明書の交付を受けるための書類の管理を、代表取締役の管理下に移します
  • 許認可の名義人、賃貸借契約の名義人、保険契約の名義人を確認し、必要な変更を行います

第3節 前経営者が取締役として残っている場合

1 義務の内容

会社と役員との関係は、委任に関する規定に従うものとされております(会社法第330条)。取締役は、善良な管理者の注意をもって職務を行う義務を負い(民法第644条)、また、法令及び定款並びに株主総会の決議を遵守し、会社のため忠実にその職務を行わなければならないものとされております(会社法第355条)。

取締役が自己又は第三者のために会社の事業の部類に属する取引をしようとするとき、及び会社と利益が相反する取引をしようとするときは、株主総会(取締役会設置会社にあっては取締役会)において、当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければなりません(会社法第356条第1項、第365条第1項)。前経営者が別会社を通じて取引を行っている場合には、この規律の適用を検討いたします。

2 解任

役員は、いつでも、株主総会の決議によって解任することができるものとされております(会社法第339条第1項)。後継者が議決権の多数を有するのであれば、解任の決議によることができます。ただし、解任について正当な理由がある場合を除き、解任された者は会社に対して損害の賠償を請求することができます(同条第2項)。前経営者の任期の残りが長い場合には、賠償の額が大きくなり得ますので、任期の満了を待つという選択も検討の対象となります。

3 代表取締役の選定

取締役会設置会社においては、代表取締役は取締役会の決議により選定いたします。取締役会の構成が前経営者に有利である場合には、まず株主総会において取締役の構成を改めることが先決となります。

第4節 拒否権付種類株式が残っている場合

前経営者が拒否権付種類株式を保有している場合、後継者が普通株式の全部を保有していても、定款で定められた事項については種類株主総会の決議が必要となります(会社法第108条第1項第8号)。役員の選任、重要な財産の処分、定款の変更等が対象とされていることが多うございます。

この状態を解消するには、当該種類株式を会社が取得するか、後継者が譲り受けるか、又は定款を変更して種類株式の内容を改めることが必要でございます。もっとも、定款の変更のうち、ある種類の株式の種類株主に損害を及ぼすおそれがあるものについては、当該種類株主を構成員とする種類株主総会の決議を要するものとされております(会社法第322条第1項)。すなわち、前経営者の同意なくして解消することは容易ではございません。

したがって、実務上は、前経営者との間で、取得の対価及び時期について合意を形成することが中心となります。

第5節 株式の一部が留保されている場合

「株式は譲った」と言いながら、実際には一部が前経営者の名義のまま残されていることがございます。この場合、前経営者は株主として議決権を有し、株主総会において反対することができます。また、株主として計算書類等の閲覧を請求し、会社の状況を把握し続けることができます。

後継者としては、残る株式の買取りについて交渉することになります。譲渡制限株式の譲渡には会社の承認が必要でございます(会社法第136条、第137条、第139条第1項)。会社が自己株式として取得する方法もございますが、他の株主の売主追加請求権(会社法第160条第2項及び第3項)及び分配可能額の制限(会社法第461条第1項)に留意する必要がございます。なお、税務上の取扱いにつきましては税理士にご確認ください。

第6節 整理の順序

段階 内容
第1 登記事項証明書及び定款により、機関の構成及び種類株式の有無を確認いたします
第2 株主名簿により、株式の帰属を確認いたします
第3 名義書換及び譲渡の承認の決議が済んでいるかを確かめます
第4 会社法上の権限の所在を整理し、決議により明確にいたします
第5 対外的な表示(名刺、掲示、契約書の署名欄等)を是正いたします
第6 取引先及び金融機関に対し、決裁の権限の所在を通知いたします
第7 残る株式又は種類株式の取得について交渉いたします

第7節 弁護士にご相談いただく意味

この類型において最も多い誤解は、「株式を承継したのだから経営権も自分にある」というものでございます。株式の承継が名義書換及び譲渡の承認の決議を経ていない場合、法律上は前経営者がなお株主でございます。また、拒否権付種類株式が残っていれば、議決権の多数を有していても単独では決議ができません。まず、法律上の権限が現に誰にあるのかを確定することが出発点でございます。

また、前経営者との対立は、親子又は親族の関係を背景といたしますので、正面からの対決が事業に及ぼす影響を考慮する必要がございます。社員、取引先、金融機関に動揺が生じますと、事業そのものが損なわれます。したがって、対外的な整理を静かに進めつつ、内部の権限の所在を法的に固めるという順序が有効な場合がございます。

具体的な進め方は、定款の内容、株主構成、種類株式の有無、機関の構成、前経営者の役職の有無等により異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してまいりました実務上のノウハウにも属するため、本記事では詳細を開示しておりません。

第8節 干渉の態様ごとの評価と対応

「干渉」と一口に申しましても、その態様により法律上の評価は異なり、採るべき対応も変わってまいります。よく見られる態様ごとに整理いたします。

干渉の態様 法律上の評価 採り得る対応
従業員に対して直接に指示を出す 取締役でない者による指示は、会社の意思決定としての効力を有するものではございません 指揮命令の系統を書面により周知し、代表取締役の決裁を要する事項を明示いたします
会社の事務所に常時出入りし、執務の場所を占めている それ自体が直ちに違法となるものではございませんが、権限があるかのような外観を生じさせます 執務の場所及び立場を整理し、必要に応じて肩書きの使用について取決めを行います
「会長」等の肩書きを用いて対外的な交渉を行う 権限があるかのような外観により、会社が責任を負うこととなる場合がございます 取引先に対し権限の範囲を通知し、契約を締結する権限を有する者を明示いたします
金融機関との従前の関係を用いて取引に介入する 会社を代表する権限は代表取締役にございます 金融機関に対し代表者の変更及び権限を有する者を通知し、届出の印鑑を整理いたします
取締役として在任し、取締役会において反対を続ける 取締役としての議決権の行使そのものは、権利の行使でございます 決議の要件を確認し、必要に応じて株主総会における解任を検討いたします
拒否権付種類株式を保有し、重要な決議を止める 定款の定めに基づく正当な権利の行使でございます 買取りの交渉、又は当該株式の内容の変更に関する協議を行います
会社の資産を私的に用いている 会社に対する損害が生じている場合には、その回復を求める余地がございます 使用の実態及び会社の負担額を資料により確定した上で、是正を求めます

いずれの態様につきましても、まず事実を記録に残すことが出発点となります。日時、相手方、内容を書き留め、書面又は電子メールによるやり取りは保存してください。後に手続によることとなった場合、この記録が判断の資料となります。

よくあるご質問

質問1 前経営者は取締役ではありません。指示を止めさせられますか。

取締役でない者は、会社の業務執行の決定に関与する権限を有しておりません。会社として、決裁の権限の所在を決議により明確にし、社内及び対外的な表示を是正することが対応の中心となります。

質問2 「会長」という肩書きに法律上の意味はありますか。

「会長」「相談役」「顧問」は、会社法上の機関ではございません。もっとも、代表権があるかのような外観を作出した場合には、取引の相手方との関係で会社が責任を負う余地がございます(会社法第354条参照)。肩書きの整理が必要でございます。

質問3 株式は生前贈与を受けましたが、名義書換をしていません。

株主名簿の名義書換をしなければ、会社に対して株主であることを対抗することができません(会社法第130条第1項)。また、譲渡制限株式であれば、会社の承認の決議が必要でございます(会社法第136条、第137条、第139条第1項)。早期に手続を済ませる必要がございます。

質問4 父が拒否権付種類株式を持っています。取り上げられますか。

一方的に取り上げることは容易ではございません。ある種類の株式の種類株主に損害を及ぼすおそれがある定款の変更には、当該種類株主総会の決議を要するものとされております(会社法第322条第1項)。取得の対価及び時期について合意を形成することが中心となります。

質問5 前経営者の言動を記録しておくべきでしょうか。

お残しいただくことをお勧めいたします。日時、場所、相手方、内容を簡潔に記載した記録で足ります。個々の言動は些細に見えましても、積み重なることにより実態を示す資料となります。書面及び電子メールは、その原本又は写しを保存してください。

質問6 取引先に対して、どのように説明すればよろしいですか。

代表者が交代した事実と、契約を締結する権限を有する者とを、書面により通知することが基本でございます。前経営者を非難する内容とする必要はございません。権限の所在を明確にすることが目的でございますので、事実を簡潔にお伝えいただければ足ります。

質問7 従業員が前経営者の指示に従ってしまいます。

長年の関係がある場合には、直ちに改まらないことが少なくございません。就業規則及び決裁の規程を整え、決裁を要する事項とその権限者を明示することにより、個人の関係ではなく手続によって業務が進む状態を作ることが有効でございます。

本記事の根拠条文

会社法

  • 第31条第2項(定款の閲覧等)
  • 第108条第1項第8号(拒否権付種類株式)
  • 第130条第1項(株式の譲渡の対抗要件)
  • 第136条・第137条・第139条第1項(譲渡等の承認)
  • 第160条第2項・第3項(売主追加請求権)
  • 第322条第1項(種類株主総会の決議)
  • 第330条(会社と役員との関係)
  • 第339条第1項・第2項(役員の解任及び損害の賠償)
  • 第354条(表見代表取締役)
  • 第355条(忠実義務)
  • 第356条第1項・第365条第1項(競業及び利益相反取引の制限)
  • 第461条第1項(分配可能額による制限)

民法 第644条(受任者の注意義務)

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