後妻とその家族に自社株式が承継された場合の対応

父は晩年に再婚しており、遺言により、会社の株式の大部分が後妻とその連れ子に承継されることとなりました。私は先妻の子で、20年にわたり会社の実務を担ってまいりました。経営に関与したことのない後妻の側が議決権の多数を握る結果となり、事業の継続に不安がございます。このようなご相談を、当事務所はしばしばお受けしております。

先に結論を申し上げます。この局面では、相続法上の主張と会社法上の対応とを同時に進める必要がございます。相続法の側では、遺言の効力、遺留分侵害額の請求(民法第1046条第1項)、特別受益の主張が検討の対象となります。会社法の側では、株主総会の運営、役員の地位、株式の買取りの交渉が問題となります。遺留分侵害額の請求は、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは時効によって消滅するものとされておりますので(民法第1048条)、期間の管理が要でございます。

目次

第1節 まず遺言及び承継の内容を確定いたします

1 遺言の種類及び保管の状況

公正証書による遺言であるか、自筆による遺言であるかにより、確認の方法が異なります。自筆による遺言については、原則として家庭裁判所の検認の手続が必要でございます(民法第1004条第1項)。ただし、法務局における保管の制度を利用している場合には、検認を要しないものとされております。

2 遺言の効力を争う余地

遺言をするには、遺言をする時においてその能力を有しなければならないものとされております(民法第963条)。被相続人が遺言の作成の当時に判断能力を欠いていたと考えられる事情がある場合には、遺言の無効を主張する余地がございます。診療の記録、介護の記録、当時の面会の状況等が資料となります。もっとも、無効の主張が認められるかは事案により異なり、断定できるものではございません。

3 承継された株式の数の確定

株主名簿及び登記を照合し、誰が何株を保有することとなったかを確定いたします。株主名簿の閲覧又は謄写は、請求の理由を明らかにして請求することができます(会社法第125条第2項)。

第2節 遺留分侵害額の請求

1 制度の概要

遺留分権利者及びその承継人は、受遺者又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができるものとされております(民法第1046条第1項)。現在の制度は、金銭の支払を求めるものでございまして、株式そのものの返還を求めるものではございません。

2 期間の制限

遺留分侵害額の請求権は、遺留分権利者が相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは、時効によって消滅いたします。相続の開始の時から10年を経過したときも、同様でございます(民法第1048条)。

期間内に権利を行使したことを明らかにするため、内容証明郵便により請求の意思表示を行い、記録を残すことが実務上の取扱いでございます。

3 株式の評価が争点となります

遺留分侵害額の算定においては、遺産である非上場株式の価額が問題となります。相続税の課税のための評価額と、遺留分の算定における価額とは、当然に一致するものではございません。会社の資産の状況、収益の状況、株式の保有の割合等により、評価は大きく異なり得ます。評価を争うためには、会社の財務の資料が必要でございます。

第3節 会社法上の対応

1 役員の地位

後妻の側が議決権の多数を握った場合、株主総会の決議により役員を解任することができます(会社法第339条第1項)。解任について正当な理由がある場合を除き、解任された者は会社に対して損害の賠償を請求することができるものとされております(同条第2項)。

2 株主総会の招集の請求

総株主の議決権の100分の3以上の議決権を有する株主は、取締役に対し、株主総会の目的である事項及び招集の理由を示して、株主総会の招集を請求することができます(会社法第297条第1項)。公開会社でない会社においては、6か月前から引き続き有することを要しないものとされております(同条第2項)。

3 資料の請求

計算書類等の閲覧又は謄本の交付を請求することができます(会社法第442条第3項)。持株の割合が要件を満たす場合には、会計帳簿又はこれに関する資料の閲覧又は謄写を請求することができます(会社法第433条第1項)。遺留分侵害額の算定にも、会社法上の対応にも、これらの資料が必要でございます。

4 株式の買取りの交渉

後妻の側が経営に関心を有していない場合には、後継者が株式を買い取る交渉が現実的な解決となることがございます。譲渡制限株式の譲渡には会社の承認が必要でございます(会社法第136条、第137条、第139条第1項)。会社が自己株式として取得する方法もございますが、他の株主の売主追加請求権(会社法第160条第2項及び第3項)及び分配可能額の制限(会社法第461条第1項)に留意する必要がございます。

第4節 期限の一覧

事項 期限 根拠条文
遺留分侵害額の請求 相続の開始及び侵害の事実を知った時から1年(相続の開始から10年) 民法第1048条
相続税の申告 相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月 相続税法第27条第1項
相続の放棄又は限定承認 自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月 民法第915条第1項
株主総会の決議の取消しの訴え 決議の日から3か月 会社法第831条第1項

第5節 議決権の多数を握られた場合に生じ得る事態と、その備え

株式の大部分が後妻の側に承継されますと、株主総会の決議は後妻の側の意向により定まります。実務上生じやすい事態と、これに対する備えを整理いたします。

生じ得る事態 備え
役員の改選により取締役の地位を失う 任期の満了の時期を確認いたします。正当な理由がない解任については、損害の賠償を請求し得る場合がございます。在任中に必要な資料を確保しておくことが肝要でございます
役員報酬を減額される 報酬の総額の枠及び配分の決定の手続を確認いたします。決定の手続に瑕疵がある場合には、会社法上の問題を生じ得ます
株主総会が形骸化し、説明を受けられない 株主としての権利により資料の請求を行います(第3節をご覧ください)。議案に対する質問は書面により提出し、回答の有無を記録いたします
会社が第三者に売却される 取引の形式により採り得る手段が異なります。通知又は招集の通知を受け取り次第、直ちに期間を確認いたします
新株が発行され、持株の割合が更に低下する 発行の手続、払込みの金額の相当性、募集の相手方を確認いたします。差止めの請求の制度が設けられております
被相続人に係る退職慰労金が支給されない 支給の根拠となる決議又は内規の有無を確認いたします。株式に関する交渉とは別個の項目として整理いたします
会社が自己株式を取得し、持株の割合が変動する 特定の株主から取得する場合には、自己をも売主に加えるよう請求し得る制度がございます。株主総会の招集の通知の記載を確認いたします
従業員及び取引先に対し、事実と異なる説明がされる 説明の内容及び時期を記録いたします。必要に応じ、書面により訂正を求めます

第6節 後妻の側から想定される主張と、反論の枠組み

後妻の側の主張 反論の枠組み
これが父の遺志である 遺言の効力を争う余地の有無を検討いたします(第1節をご覧ください)。遺言が有効であるとしても、遺留分侵害額の請求は妨げられません(民法第1046条第1項)
あなたは生前に十分な援助を受けている 援助の時期、内容及び金額を具体的に示すよう求めます。生前の贈与は、遺留分の算定においても考慮の対象となり得る事項でございます
経営は外部の者に任せるので心配は要らない 経営の担い手の問題と、株主としての権利の問題とは別でございます。株主として説明を求める権利は失われません
株式は渡さない 株式そのものの返還を求める制度ではございませんので、金銭による解決を求めることとなります(第2節をご覧ください)。株式の評価が中心の争点でございます
遺留分の分は金銭で支払うのだから、会社のことに口を出すな 支払を受けるまでの間、株主としての地位が当然に失われるものではございません。金額の算定のためにも、会社の資料は必要でございます
会社を売却して分配するので待ってほしい 売却の見込み、時期及び分配の方法が定まっていなければ、待つ理由とはなりません。期間の制限がございますので(民法第1048条)、権利の行使は先に行います
長年働いてきたと言うが、給与を受け取っていたはずだ 労務の提供に対する対価と、遺産分割又は遺留分における評価とは、次元を異にいたします。もっとも、無償又は著しく低い対価による労務の提供であった場合には、その事情を主張いたします

第7節 目指し得る解決の形

解決の形 内容 留意点
金銭による解決 遺留分侵害額に相当する金銭の支払を受けます 株式の評価が中心の争点となります。支払の時期、分割による場合の担保を定めます
株式による解決 合意により、株式の一部を取得いたします 譲渡制限株式である場合には譲渡の承認の手続を要します。少数の株式を保有し続けることの負担も考慮いたします
会社による自己株式の取得 会社が株式を取得し、その対価を受け取ります 分配可能額の制限及び売主追加請求権に留意いたします
事業の切り分け 担当してこられた部門を分離し、承継いたします 取引先、従業員、許認可及び債務の取扱いを個別に検討する必要がございます
役員としての地位の確保 一定の期間、役員として在任することを合意いたします 任期の満了により当然に終了いたしますので、期間及び再任の取扱いを明記いたします

いずれの形によるにしても、合意の内容は書面により明確に定めます。なお、税務上の取扱いにつきましては税理士にご確認ください。

よくあるご質問

質問1 遺言により株式が全部後妻に渡りました。何もできませんか。

遺留分権利者は、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができます(民法第1046条第1項)。ただし、期間の制限がございます(民法第1048条)。また、遺言の効力そのものを争う余地がある場合もございます。

質問2 株式そのものを取り戻せますか。

現在の制度における遺留分侵害額の請求は、金銭の支払を求めるものでございます。株式そのものの返還を当然に求め得るものではございません。株式の取得を望む場合には、買取りの交渉によることになります。

質問3 会社の資料を見せてもらえません。

株主であれば、計算書類等の閲覧又は謄本の交付を請求することができます(会社法第442条第3項)。株主として扱われない場合には、まず名義書換を請求いたします。

質問4 私は長年会社で働いてきました。その分は考慮されますか。

相続人が被相続人の事業に関する労務の提供等により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をしたときは、寄与分が問題となり得ます(民法第904条の2)。ただし、遺言がある場合の処理及び認められる範囲は事案により異なります。

質問5 役員を解任されそうです。

役員としての地位と、株主としての地位とは別でございます。解任の可否は議決権の数により定まりますが、正当な理由がない解任については、損害の賠償を請求し得る場合がございます。任期の満了の時期を確認し、在任中に必要な資料を確保してください。

質問6 新株を発行すると言われました。

発行の手続、払込みの金額の相当性及び募集の相手方を確認いたします。著しく不公正な方法による発行等については、差止めの請求の制度が設けられております。通知又は公告の内容を保存し、直ちに弁護士にご相談ください。

質問7 どこまでが遺留分の問題で、どこからが会社法の問題ですか。

被相続人から後妻の側への承継そのものを争うのが相続法の問題でございます。承継された後の会社の運営に対して株主として関与するのが会社法の問題でございます。両者は同時に進めるべきものでございまして、いずれかを待つ必要はございません。

本記事の根拠条文

民法

  • 第904条の2(寄与分)
  • 第915条第1項(相続の承認又は放棄をすべき期間)
  • 第963条(遺言能力)
  • 第1004条第1項(遺言書の検認)
  • 第1046条第1項(遺留分侵害額の請求)
  • 第1048条(遺留分侵害額の請求権の期間の制限)

会社法

  • 第125条第2項(株主名簿の閲覧等)
  • 第136条・第137条・第139条第1項(譲渡等の承認)
  • 第160条第2項・第3項(売主追加請求権)
  • 第297条第1項・第2項(株主による株主総会の招集の請求)
  • 第339条第1項・第2項(役員の解任及び損害の賠償)
  • 第433条第1項(会計帳簿の閲覧等の請求)
  • 第442条第3項(計算書類等の閲覧等の請求)
  • 第461条第1項(分配可能額による制限)
  • 第831条第1項(決議の取消しの訴え)

相続税法 第27条第1項(相続税の申告書の提出期限)

内部リンク

送客先のご案内のページ オーナー社長の死亡後、経営陣から株式の売渡しの請求を受けた後継者の方へ

弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談

弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)では、後妻及びその家族に自社株式が承継され、事業の継続にご不安のある方からのご相談をお受けしております。遺言の効力の検討、遺留分侵害額の請求、株主名簿及び計算書類等の閲覧謄本交付の請求、株式の買取りの交渉、株主総会に関する手続まで、ご依頼者の側の代理人としてお引き受けいたします。当事務所は、相続人及び株主の側のお立場でこの類型の案件を取り扱っており、同一の案件について会社の側と相続人の側の双方を代理することはございません。

詳しくは、オーナー社長の死亡後、経営陣から株式の売渡しの請求を受けた後継者の方へのご案内のページをご覧ください。

  • 電話番号 03-6435-8418
  • 受付時間 8時00分から21時00分まで
  • 土曜日・日曜日・祝日も受付いたします
  • ご相談は事前予約制です

弁護士費用については、当ウェブサイトの弁護士費用一覧のページをご覧ください。

ご相談の際に、遺言書の写し、被相続人の出生から死亡までの戸籍関係の書類、会社の履歴事項全部証明書、株主名簿、直近の計算書類等をご用意いただけますと検討が早く進みます。これらがお手元にないことを理由にご相談をお断りすることはございません。なお、税務上の取扱いについては税理士にご確認ください。

本記事は一般的な制度の説明であり、結論は事案ごとに異なります。同種の事案において同じ結果となることを保証するものではありません。個別の事情については、弁護士にご相談ください。

必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。

具体的な御相談をお考えの皆様へ

本ページの主題に関し、当事務所の取扱内容、対応の進め方及び費用の考え方は、次の御案内のページに整理しています。あわせて御覧ください。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

目次