納税資金の確保を理由とする買取交渉の進め方と期限の管理

相続税の納付のために、どうしても株式を現金に換える必要がございます。会社には事情を説明しておりますが、「検討する」と言われたまま数か月が過ぎました。申告の期限が近づいており、焦っております。このようなご相談を、当事務所はしばしばお受けしております。

先に結論を申し上げます。納税資金の確保を理由とする交渉においては、事情を訴えることよりも、期限から逆算した工程を示し、各段階に回答の期限を設けることが有効でございます。会社は、株主から買取りを求められても、これに応じる義務を負うものではございません。したがって、「困っている」という説明のみでは動きません。他方、会社の側にも、株式が外部に分散することを避けたいという事情がある場合がございます。この点を踏まえ、いつまでに何を決していただきたいかを書面により明示することが要でございます。本記事では、工程の組立てと期限の管理を整理いたします。

目次

第1節 期限から逆算いたします

1 最終の期限

相続税の申告は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内にしなければならないものとされております(相続税法第27条第1項)。この期限は、会社の対応により延びるものではございません。

2 逆算した工程

期限までの残り 行うべきこと
10か月 相続の開始。登記事項証明書の取得、定款の閲覧謄本交付の請求
9か月 名義書換の請求。遺産分割が未了であれば権利行使者について協議
8か月 計算書類等の閲覧謄本交付の請求
7か月 価格の見通しの検討、会社への書面による申入れ
6か月から5か月 会社との協議。臨時株主総会の招集を求めます
4か月 協議が進まない場合、法的な経路への移行を判断いたします
3か月 株式譲渡承認請求。会社は2週間以内に決定の内容を通知する必要がございます
2か月 買取りの通知。20日以内に売買価格の決定の申立てを判断いたします

この工程は目安でございます。会社が資料を開示しない場合、遺産分割が難航する場合には、さらに時間を要します。

第2節 書面に記載すべき事項

1 事情ではなく期限を示します

「納税資金が必要である」という事情のみを述べても、会社に法律上の義務は生じません。むしろ、次の事項を明示することが有効でございます。

  • 保有する株式の種類及び数
  • 会社に対し自己株式の取得を求める旨
  • いつまでに回答をいただきたいか
  • 回答が得られない場合には株式譲渡承認請求を行う予定である旨
  • 相続税の申告の期限が到来する時期

2 臨時株主総会の招集を求めます

会社が特定の株主から自己株式を取得するには、株主総会の決議を要します(会社法第156条第1項、第160条第1項、第309条第2項)。会社が「次の定時株主総会で」と述べる場合には、臨時株主総会によることが可能である旨を指摘いたします。

また、総株主の議決権の100分の3以上の議決権を有する株主は、取締役に対し、株主総会の目的である事項及び招集の理由を示して、株主総会の招集を請求することができます(会社法第297条第1項)。公開会社でない会社においては、6か月前から引き続き有することを要しないものとされております(同条第2項)。請求の後、遅滞なく招集の手続が行われない場合等には、裁判所の許可を得て、株主自らが招集することができます(同条第4項)。

3 会社の負担が小さいことを示します

公開会社でない会社が、相続その他の一般承継により当該会社の株式を取得した者からその株式を取得する場合において、当該株主が株主総会において当該株式について議決権を行使していないとき等の要件を満たすときは、売主追加請求権に関する規定を適用しないものとされております(会社法第162条)。他の株主が名乗り出るおそれがないことを示すことは、会社にとって重要な情報でございます。

第3節 会社の側の事情を踏まえます

会社が消極的である理由は、多くの場合、次のいずれかでございます。

理由 対応
分配可能額が不足している 計算書類等により確認し、資本金又は準備金の額の減少を提案いたします(会社法第447条、第448条)
手元の資金が不足している 支払の時期を分けること、複数年に分けて取得することを提案いたします
他の株主にも買取りの機会を与えなければならないと考えている 会社法第162条の特例の適用の可否を示します
価格に折り合いがつかない 計算書類等に基づく根拠を示し、協議を継続いたします
手続の負担を避けたい 必要な手続を具体的に示し、負担が限定的であることを説明いたします

第4節 期限に間に合わない場合

交渉が長引き、申告の期限までに現金を得られない見込みとなった場合には、次の対応を並行して検討いたします。

  • 遺産分割において、納税資金を要する相続人に預貯金を多く配分するよう協議いたします
  • 被相続人が会社に対して有していた貸付金の回収を検討いたします
  • 納付の方法につきましては、税理士にご相談ください。当事務所は税務の申告及び相談を行っておりません

また、法的な経路に移行した場合であっても、売買価格の決定の手続には相応の期間を要します。申告の期限に間に合うとは限りませんので、この点はあらかじめご理解いただく必要がございます。

第5節 相続人が複数である場合の交渉の進め方

相続人が複数あり、いずれも納付のための資金を必要としている場合には、交渉の組立てが一段と難しくなります。次の点をあらかじめ整理しておきます。

1 共同して交渉するか、各別に交渉するか

相続人が共同して申し入れる場合には、会社にとって一度の手続で処理し得るという利点がございます。他方、会社が取得し得る株式の数には分配可能額による制限がございますので(会社法第461条第1項)、全員の希望を満たすことができない場合がございます。この場合には、誰の株式をいくら取得するのかについて、相続人の間で先に順位又は割合を定めておく必要がございます。定めのないまま交渉に入りますと、会社に対して統一した意思を示すことができず、交渉が停滞いたします。

2 一部の相続人のみが売却を希望する場合

会社が特定の株主から自己株式を取得する場合には、他の株主に対し、自己をも売主に加えたものを議案とすることを請求することができる旨を通知しなければならないものとされております(会社法第160条第2項及び第3項)。もっとも、相続その他の一般承継により株式を取得した者からの取得につきましては、一定の要件の下にこの規定を適用しないものとされております(会社法第162条)。売却を希望しない相続人がある場合には、この特例の適用の有無により、会社の手続の負担が変わります。

3 遺産分割が未了である場合

分割が調うまでの間、株式は相続人の準共有に属し、権利を行使する者1人を定めて会社に通知しなければ権利を行使することができません(会社法第106条本文)。権利行使者の指定は、共有物の管理に関する事項として、持分の価格に従いその過半数をもって決するものと解されております。相続人の間の対立により指定ができない場合には、まずこの点を解消する必要がございます。会社が「相続人の間でお決めいただかなければ対応できない」と述べて時間を稼ぐことがございますので、指定と通知は早期に済ませておくことが望ましうございます。

よくあるご質問

質問1 「相続税が払えない」と伝えれば会社は動きますか。

会社に法律上の義務は生じません。回答の期限を明示し、応じない場合の次の手続を明らかにすることが有効でございます。

質問2 定時株主総会まで待つよう言われました。

自己株式の取得の決議は、臨時株主総会によることも可能でございます。また、株主として株主総会の招集を請求することも考えられます(会社法第297条第1項)。

質問3 期限までに現金化できなかった場合、どうなりますか。

相続税の申告及び納付の取扱いにつきましては、税理士にご確認ください。法律事務所としては、遺産分割による調整及び他の資産からの回収を検討いたします。

質問4 交渉はどのくらいの期間を見ておけばよいですか。

会社が任意に応じる場合でも、株主総会の招集及び決議を含め数か月を要します。法的な経路によらざるを得ない場合には、さらに長期に及びます。期間を確約することはできません。

本記事の根拠条文

会社法

  • 第136条・第138条第1号(譲渡等の承認の請求)
  • 第144条第2項(売買価格の決定の申立て)
  • 第145条第1号(承認をしたものとみなされる場合)
  • 第156条第1項・第160条第1項(自己株式の取得)
  • 第162条(相続人等からの取得の特例)
  • 第297条第1項・第2項・第4項(株主による株主総会の招集の請求)
  • 第309条第2項(株主総会の特別決議)
  • 第442条第3項(計算書類等の閲覧等の請求)
  • 第447条第1項・第448条第1項(資本金及び準備金の額の減少)
  • 第461条第1項(分配可能額による制限)

相続税法 第27条第1項(相続税の申告書の提出期限)

内部リンク

送客先のご案内のページ 巨額の相続税がかかるのに会社が株式を買い取ってくれずお困りの方へ

弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談

弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)では、相続税の納税資金を確保するため会社との買取りの交渉を進めたい相続人の方からのご相談をお受けしております。工程の設計及び期限の管理、名義書換の請求、計算書類等の閲覧謄本交付の請求、書面による申入れ、臨時株主総会の招集の請求、株式譲渡承認請求まで、ご依頼者の側の代理人としてお引き受けいたします。当事務所は、相続人及び株主の側のお立場でこの類型の案件を取り扱っており、同一の案件について会社の側と相続人の側の双方を代理することはございません。

詳しくは、巨額の相続税がかかるのに会社が株式を買い取ってくれずお困りの方へのご案内のページをご覧ください。

  • 電話番号 03-6435-8418
  • 受付時間 8時00分から21時00分まで
  • 土曜日・日曜日・祝日も受付いたします
  • ご相談は事前予約制です

弁護士費用については、当ウェブサイトの弁護士費用一覧のページをご覧ください。

ご相談の際に、会社の履歴事項全部証明書、定款の写し、直近の計算書類等、会社とのやり取りの記録、相続税の試算の資料をご用意いただけますと検討が早く進みます。これらがお手元にないことを理由にご相談をお断りすることはございません。なお、税務上の取扱いについては税理士にご確認ください。

本記事は一般的な制度の説明であり、結論は事案ごとに異なります。同種の事案において同じ結果となることを保証するものではありません。個別の事情については、弁護士にご相談ください。

必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。

具体的な御相談をお考えの皆様へ

本ページの主題に関し、当事務所の取扱内容、対応の進め方及び費用の考え方は、次の御案内のページに整理しています。あわせて御覧ください。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

目次