相続税の物納及び延納と自社株式の換価との比較
相続税の納付について、税理士からは「延納又は物納という方法もある」と説明を受けました。他方、弁護士からは「会社に株式を買い取らせる方法がある」と言われました。どちらを選べばよいのでしょうか。このようなご相談を、当事務所はしばしばお受けしております。
先に結論を申し上げます。これらは択一の関係にあるものではございません。延納及び物納は、相続税をいかに納付するかという納付の方法の問題でございます。他方、自社株式の換価は、納税に充てる資金をいかに確保するかという資金の問題でございます。実務においては、換価の交渉を進めつつ、期限に間に合わない場合に備えて納付の方法を検討するという併行の対応が採られることがございます。なお、延納及び物納の要件、手続、有利不利の判断につきましては、税理士にご確認ください。当事務所は税務の申告及び相談を行っておりません。本記事では、法律事務所の観点から、それぞれの前提となる事項と、判断の順序を整理いたします。
第1節 3つの方法の位置付け
| 方法 | 性質 | 担当 | 法律上の前提 |
|---|---|---|---|
| 自社株式の換価 | 資金の確保 | 法律事務所 | 株主としての地位、会社又は買主の確保 |
| 延納 | 納付の方法 | 税理士 | 財産の権利関係の確定、担保の提供が求められる場合がございます |
| 物納 | 納付の方法 | 税理士 | 財産の権利関係の確定、争いのない状態であること |
すなわち、換価は資金を作る手段であり、延納及び物納は納付の仕方でございます。目的が異なりますので、比較の対象として並べる際には注意を要します。
第2節 法律事務所の観点から見た前提
1 いずれの方法にも遺産分割の確定が関わります
遺産分割が終わるまでの間、株式は相続人の準共有に属します。共有者は、当該株式についての権利を行使する者1人を定め、会社に対しその者の氏名又は名称を通知しなければ、当該株式についての権利を行使することができません(会社法第106条本文)。したがって、換価を進めるには、まず遺産分割又は権利行使者の指定が必要でございます。
延納及び物納につきましても、財産の権利関係が確定していることが前提として求められる場合がございます。要件の詳細につきましては税理士にご確認ください。いずれにしても、相続人の間の争いを解決することが出発点となる点は共通でございます。
2 権利関係に争いがある財産
被相続人の名義でありながら会社が使用している資産、境界に争いのある土地、担保が設定されている資産、共有となっている資産等については、権利関係の整理を要します。この整理は法律事務所の職務でございます。
3 非上場株式の取扱い
物納の対象となる財産及びその順位につきましては、相続税法に定めがございます。非上場株式が現実に物納の対象として認められるかは、事案により異なりますので、税理士にご確認ください。法律事務所としては、譲渡制限の有無、名義書換の状況、株主名簿の整備の状況といった、株式に関する法律上の状態を整えることを担当いたします。
第3節 判断の順序
| 段階 | 内容 | 担当 |
|---|---|---|
| 第1 | 相続人の範囲及び遺産の全体を把握いたします | 法律事務所 |
| 第2 | 相続税の概算を把握いたします | 税理士 |
| 第3 | 納税に充て得る現金及び容易に換価し得る財産を確認いたします | 双方 |
| 第4 | 不足額を確定いたします | 双方 |
| 第5 | 自社株式の換価の見通しを立てます | 法律事務所 |
| 第6 | 期限に間に合わない場合の納付の方法を検討いたします | 税理士 |
| 第7 | 遺産分割において納税資金の配分を調整いたします | 法律事務所 |
第4節 換価の見通しをどのように立てるか
換価の見通しは、次の点により定まります。
- 定款に譲渡の制限があるか、相続人等に対する売渡しの請求の定めがあるか(会社法第174条)
- 会社に分配可能額があるか(会社法第461条第1項)
- 会社が任意に応じる姿勢を示しているか
- 会社が応じない場合に、株式譲渡承認請求の経路を用い得るか(会社法第136条、第138条第1号ハ、第140条)
- 譲り受ける者を確保し得るか
- 遺産分割が確定しているか
これらのうち、会社が任意に応じる場合には比較的短期間で現金化し得ますが、法的な経路によらざるを得ない場合には、売買価格の決定の手続を含め、相応の期間を要します。したがって、期限に間に合わない可能性を早い段階で見極め、税理士と共有する必要がございます。
第5節 遺産分割による調整
最も速い解決は、遺産分割において、納税資金を要する相続人に預貯金その他の換価が容易な財産を多く配分することでございます。相続人の間で合意が得られるのであれば、会社との交渉を待つ必要がございません。
もっとも、後継者が株式を承継し、他の相続人が預貯金を承継するという分割は、遺産の構成によっては公平を欠く結果となることがございます。株式の評価をいくらと見るかにより、各相続人の取り分が大きく変わりますので、評価に関する協議が必要となります。
第6節 併行して進める場合の役割の分担
換価の交渉と納付の方法の検討とを併行して進める場合には、いずれの事項をいずれの専門家が担うのかを、あらかじめ定めておく必要がございます。担当が曖昧なまま日数が経過し、いずれの手続も進んでいなかったという事態は避けなければなりません。
| 事項 | 担当 | 着手の時期の目安 |
|---|---|---|
| 相続財産及び債務の把握、遺産分割の方針の決定 | 相続人及び法律事務所 | 相続の開始の直後 |
| 相続税の額の試算、納付の方法の検討 | 税理士 | 相続の開始の直後 |
| 会社の定款、計算書類等の入手 | 法律事務所 | 相続の開始の直後 |
| 会社に対する自己株式の取得の申入れ | 法律事務所 | 資料の入手の後、速やかに |
| 延納又は物納の要件の検討及び手続 | 税理士 | 申告の期限の相当の期間前 |
| 株式譲渡承認請求その他の法的手続 | 法律事務所 | 交渉が奏功しないことが明らかとなった時点 |
| 遺産分割の協議、調停又は審判 | 法律事務所 | 協議が調わないことが明らかとなった時点 |
| 相続税の申告及び納付 | 税理士 | 申告の期限まで |
第7節 併行して進める場合に生じやすい行き違い
1 交渉の見通しが共有されていない場合
会社との交渉が奏功する見込みが乏しいにもかかわらず、その旨が税理士に伝わっておりませんと、納付の方法の検討が遅れることがございます。逆に、納付の方法の手続が進んでいることが法律事務所に伝わっておりませんと、交渉の期限の設定を誤ることがございます。少なくとも月に1度は、双方の進捗を突き合わせることが望ましうございます。
2 遺産分割の帰すうが定まっていない場合
いずれの手段によるにいたしましても、その前提として、当該財産が誰に帰属するのかが定まっている必要がございます。分割の協議が調わないまま期限が近づいている場合には、その旨を早期に共有し、それぞれの手続について採り得る対応を確かめておく必要がございます。
3 当事務所の業務の範囲
当事務所は、相続税の申告及び納付の手続、延納又は物納の申請並びに税務に関するご相談を行っておりません。これらにつきましては、税理士にご確認ください。当事務所がお引き受けいたしますのは、遺産分割並びに会社及び他の相続人との間の法律上の紛争に関する事項でございます。
よくあるご質問
質問1 延納と物納のどちらが有利ですか。
有利不利の判断は、財産の構成、資金繰り、将来の見通し等により異なります。税務上の判断でございますので、税理士にご確認ください。
質問2 非上場株式で物納できますか。
物納の対象となる財産及びその順位につきましては、相続税法に定めがございます。個別の可否につきましては税理士にご確認ください。法律事務所としては、譲渡の制限、名義書換、株主名簿の整備といった法律上の状態を整えることを担当いたします。
質問3 遺産分割が終わっていなくても延納や物納はできますか。
財産の権利関係が確定していることが前提として求められる場合がございます。要件につきましては税理士にご確認ください。いずれにしても、遺産分割を進めることが先決となる場合が多うございます。
質問4 会社との交渉と納付の検討は、どちらを先にすべきですか。
並行して進めることをお勧めいたします。会社との交渉は結果が読めませんので、間に合わない場合に備えて納付の方法を検討しておく必要がございます。
本記事の根拠条文
会社法
- 第106条(共有者による権利の行使)
- 第136条・第138条第1号(譲渡等の承認の請求)
- 第140条(会社又は指定買取人による買取り)
- 第174条(相続人等に対する売渡しの請求に関する定款の定め)
- 第461条第1項(分配可能額による制限)
相続税法 第27条第1項(相続税の申告書の提出期限)、延納及び物納に関する定め
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本記事は一般的な制度の説明であり、結論は事案ごとに異なります。同種の事案において同じ結果となることを保証するものではありません。個別の事情については、弁護士にご相談ください。
必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。
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