株式譲渡による場合と組織再編による場合とで手段はどう変わるか
会社から封書が届き、臨時株主総会を開くという通知と、見慣れない書類が同封されておりました。会社が売却されるらしいのですが、何が行われようとしているのか、また自分が何をすればよいのかが分かりません。このようなご相談を、当事務所はしばしばお受けしております。
先に結論を申し上げます。少数株主が最初に判断すべきは、行われようとしている取引が株式の譲渡であるのか、事業の譲渡又は組織再編であるのかという点でございます。株式の譲渡であれば、自らの株式を譲渡する義務はございませんので、応じないという対応が可能でございます。他方、事業の譲渡又は組織再編であれば、株主総会の特別決議により手続が進みますので、株主総会に先立って反対する旨を通知し、かつ株主総会において反対した上で、株式買取請求を行う必要がございます(会社法第469条第2項、第785条第2項)。この事前の通知を欠きますと、買取請求ができなくなるおそれがございます。本記事では、見分け方と、見分けた後に直ちに行うべきことを整理いたします。
第1節 見分け方
| 目にするもの | 考えられる形式 |
|---|---|
| 株式譲渡契約書への署名を求められた | 株式の譲渡でございます |
| 株式譲渡承認請求に対する承認の通知が届いた | 他の株主が株式を譲渡しようとしております |
| 臨時株主総会の目的が「事業譲渡契約の承認の件」である | 事業の譲渡でございます(会社法第467条第1項) |
| 臨時株主総会の目的が「吸収合併契約の承認の件」等である | 組織再編でございます |
| 「反対株主の株式買取請求について」という記載がある | 事業の譲渡又は組織再編でございます |
| 臨時株主総会の目的が「株式併合の件」である | 株式の併合でございます(会社法第180条) |
| 「特別支配株主による株式等売渡請求」という通知が届いた | 10分の9以上を有する株主による請求でございます(会社法第179条) |
| 定款の変更(発行可能株式総数、種類株式)が目的とされている | 準備の段階である可能性がございます |
通知に添付される資料の表題を確認することが、最も確実でございます。「事業譲渡契約書の写し」「吸収合併契約書の写し」といった記載があれば、形式は明らかでございます。
第2節 株式の譲渡である場合に直ちに行うこと
1 署名を急がないこと
買主が会社の株式の全部の取得を望む場合であっても、少数株主が自らの株式を譲渡する義務を負うものではございません。したがって、条件に納得できないのであれば、応じないという対応が可能でございます。いったん譲渡が成立いたしますと、後にこれを覆すことは容易ではございません。
2 条件を書面で確認すること
価格、支払の時期、表明及び保証の内容、譲渡の後の責任の範囲を書面により確認いたします。他の株主に提示されている条件との違いの有無も確認いたします。
3 資料を請求すること
計算書類等の閲覧又は謄本の交付を請求いたします(会社法第442条第3項)。この請求について、法定の拒絶の事由は定められておりません。
4 後に採られ得る手続に備えること
少数株主が応じない場合、買主又は支配株主の側は、株式の併合(会社法第180条)又は特別支配株主の株式等売渡請求(会社法第179条)により整理を図ることがございます。これらには株主総会の特別決議又は10分の9以上の議決権が必要でございますので、自らの持株の割合を確認しておくことが有用でございます。
第3節 事業の譲渡又は組織再編である場合に直ちに行うこと
1 株主総会に先立って反対する旨を通知いたします
反対株主として株式買取請求をするには、株主総会に先立って当該行為に反対する旨を会社に対し通知し、かつ、当該株主総会において当該行為に反対することが必要でございます(会社法第469条第2項、第785条第2項)。
この事前の通知は、書面により行い、到達の記録を残します。内容証明郵便によることが有用でございます。株主総会で反対するだけでは足りませんので、最も注意を要する点でございます。
2 株主総会に出席し、反対いたします
議決権の行使書面又は委任状による場合には、反対の意思が明確に表示されるよう記載いたします。
3 期間内に株式買取請求をいたします
株式買取請求は、効力発生日の20日前の日から効力発生日の前日までの間に、その株式買取請求に係る株式の数を明らかにしてしなければならないものとされております(会社法第469条第5項、第785条第5項)。
4 価格の決定の申立てを検討いたします
株式の価格の決定について、効力発生日から30日以内に協議が調わないときは、株主又は会社は、その期間の満了の日後30日以内に、裁判所に対し、価格の決定の申立てをすることができるものとされております(会社法第470条、第786条)。
5 備置きの書面を確認いたします
組織再編においては、会社は一定の書面又は電磁的記録を本店に備え置き、株主の閲覧等に供しなければならないものとされております。取引の条件及びその相当性に関する事項が記載されておりますので、必ず確認いたします。
6 差止めの請求を検討いたします
吸収合併等が法令又は定款に違反する場合において、株主が不利益を受けるおそれがあるときは、株主は、会社に対し、当該吸収合併等をやめることを請求することができるものとされております(会社法第784条の2)。効力が生じる前に申し立てる必要がございます。
第4節 株式の併合又は株式等売渡請求である場合
株式の併合による場合には、株主総会の特別決議を要します(会社法第180条、第309条第2項)。決議の手続に瑕疵があれば、決議の取消しの訴え(会社法第831条第1項)を検討いたします。反対する株主が株式の買取りを請求することができる場合がございます。
特別支配株主の株式等売渡請求による場合には、会社の承認及び株主に対する通知の手続が定められております(会社法第179条以下)。売買価格の決定の申立て及び差止めの請求の制度が設けられておりますので、通知に記載された期限を必ず確認いたします。
第5節 取引の形式ごとに採り得る手段の対照
形式が分かりますと、採り得る手段も定まってまいります。次の表により、ご自身の場面を確認してください。
| 取引の形式 | 株主総会の決議 | 反対株主の側の金銭による回収の制度 | 実行を止める手段 | 自らの意思によらず株式を失うか |
|---|---|---|---|---|
| 株式の譲渡(相対の売買) | 要しません(会社は当事者ではございません) | 制度はございません。契約により定めるほかございません | ございません | 失いません。署名をしない限り、株式は手元に残ります |
| 事業の譲渡等 | 特別決議を要します(会社法第467条第1項、第309条第2項) | 反対株主の株式買取請求(会社法第469条第1項) | 組織再編におけるような差止めの請求の一般の制度は設けられておりません | 失いません。会社の中身が変わるにとどまります |
| 合併、会社分割、株式交換、株式移転 | 原則として特別決議を要します(会社法第309条第2項) | 反対株主の株式買取請求(会社法第785条第1項等) | 差止めの請求の制度が設けられております | 態様により、株式が他の会社の株式又は金銭に変わることがございます |
| 株式の併合 | 特別決議を要します(会社法第180条第2項、第309条第2項) | 1株に満たない端数が生ずる場合の買取りの請求の制度が設けられております | 差止めの請求の制度が設けられております | 端数となり、金銭に換えられることがございます |
| 特別支配株主の株式等売渡請求 | 要しません。会社の承認によります(会社法第179条以下) | 売買価格の決定の申立ての制度が設けられております | 差止めの請求の制度が設けられております | 失います。同意をしていなくとも株式を失います |
最も注意を要するのは、表の最も右の列でございます。株式の譲渡であれば、応じないという対応が可能でございます。他方、株式の併合又は株式等売渡請求による場合には、こちらの同意がなくとも株式を失いますので、期限の管理が決定的に重要となります。なお、効力そのものを争う手段としては、株主総会の決議の取消しの訴え(会社法第831条第1項)又は組織再編の無効の訴え(会社法第828条第1項)が定められております。
第6節 反対する旨の通知及び株式買取請求の書面
1 反対する旨の通知
事業の譲渡又は組織再編に反対する場合には、株主総会に先立って、会社に対し反対する旨を通知しなければならないものとされております(会社法第469条第2項、第785条第2項)。株主総会において反対の意思を述べるだけでは足りません。この点を見落とし、買取請求の機会を失う例が少なくございません。
- 宛先 会社の本店の所在地、代表取締役宛て
- 記載事項 株主の氏名及び住所、株式の種類及び数、対象となる議案の特定、当該議案に反対する旨
- 送付の方法 配達証明付きの内容証明郵便によることが相当でございます
- 時期 株主総会に先立って到達している必要がございます。招集の通知を受け取り次第、直ちに送付いたします
2 株主総会における対応
事前の通知をした上で、株主総会において当該議案に反対する必要がございます。やむを得ず出席できない場合には、委任状又は議決権行使書面により反対の議決権を行使いたします。議事録に反対の事実が残るよう、書面による記録を心がけます。
3 株式買取請求の書面
- 記載事項 株主の氏名及び住所、買取りを請求する株式の種類及び数、買取りを請求する旨
- 時期 効力発生日の20日前の日から効力発生日の前日までの間に行います(会社法第469条第5項、第785条第5項)
- 留意点 請求をした後は、会社の承諾を得た場合を除き、撤回することができないものとされております
- 価格について合意ができない場合には、裁判所に対する価格の決定の申立てを検討いたします
4 書面の控えと記録
通知の到達の日、株主総会の年月日、買取請求の到達の日は、いずれも後に争われ得る事項でございます。郵便物の受領証、配達証明の書面、送付した書面の控えを一括して保管いたします。会社が設定した期限と法定の期間とは、必ず区別して管理いたします。
よくあるご質問
質問1 どの形式か分からないときはどうすればよいですか。
株主総会の招集の通知に記載された目的である事項を確認いたします。「事業譲渡契約の承認の件」「吸収合併契約の承認の件」といった記載があれば、事業の譲渡又は組織再編でございます。判然としない場合には、直ちに弁護士にご相談ください。
質問2 株主総会で反対すれば買取請求できますか。
株主総会に先立って反対する旨を会社に通知することも必要でございます(会社法第469条第2項、第785条第2項)。事前の通知を欠くと、請求ができなくなるおそれがございます。
質問3 株式譲渡契約書に署名するよう急かされています。
少数株主が自らの株式を譲渡する義務を負うものではございません。条件を書面により確認し、検討の時間を確保してください。
質問4 通知が届いてから時間がありません。
株式買取請求の期間は、効力発生日の20日前の日から効力発生日の前日までとされております(会社法第469条第5項、第785条第5項)。事前の通知はそれより前に行う必要がございます。直ちにご相談ください。
質問5 招集の通知に「反対する場合は事前に通知が必要」と書かれていませんでした。
記載がないことは、事前の通知が不要であることを意味いたしません。会社法の定めによるものでございますので(会社法第469条第2項、第785条第2項)、記載の有無にかかわらず、事前の通知を行います。
質問6 株主総会に出席できません。
事前に反対する旨を通知した上で、委任状又は議決権行使書面により反対の議決権を行使することが考えられます。代理人による出席が認められるかは、定款により確認いたします。
質問7 株式の併合の通知が届き、自分の持株では1株に満たなくなるようです。
1株に満たない端数が生ずる場合には、買取りの請求の制度及び差止めの請求の制度が設けられております。通知に記載された効力発生日を確認し、期間内に手続を採る必要がございます。
本記事の根拠条文
会社法
- 第179条(特別支配株主の株式等売渡請求)
- 第180条(株式の併合)
- 第309条第2項(株主総会の特別決議)
- 第442条第3項(計算書類等の閲覧等の請求)
- 第467条第1項(事業譲渡等の承認)
- 第469条第1項・第2項・第5項(反対株主の株式買取請求)
- 第470条(株式の価格の決定)
- 第784条の2(吸収合併等の差止請求)
- 第785条第1項・第2項・第5項(反対株主の株式買取請求)
- 第786条(株式の価格の決定)
- 第831条第1項(決議の取消しの訴え)
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