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生前贈与された株式の遺留分減殺請求と、贈与の無効を争う間の消滅時効―東京地方裁判所平成28年2月26日判決

公開 2016年2月26日更新 2016年2月26日

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祖母が生前に会社の株式を子の一人に贈与していたところ、亡くなった親に代わって祖母の相続人となった孫たちが、その贈与は無効であるとして遺産であることの確認を求める訴訟を続け、敗訴した後になって、受贈者である子に対して遺留分減殺請求をした場面の判例です。東京地方裁判所平成28年2月26日判決は、遺留分減殺請求権の1年の消滅時効は、遅くとも、贈与の無効を争った訴訟の控訴審判決が言い渡された頃から進行していたとし、それまでの訴訟の提起や書面の提出は遺留分減殺の意思表示に当たらないとして、株式の引渡し等を求めた孫たちの請求をいずれも棄却しました。

本記事では、判決本文に基づいて、贈与の無効を訴訟で争っている場合に消滅時効の起算点がどのように考えられたのか、遺産分割案の提示を受けた日が起算点とされなかったのはなぜか、そして、遺産確認訴訟の提起や準備書面の記載、遺産分割協議に応じなかったことが、なぜ遺留分減殺の意思表示と認められなかったのかを整理します。親から兄弟姉妹の一人に会社の株式が生前贈与されており、贈与そのものに納得できない相続人の方にとって、贈与の効力を争うことと遺留分を請求することとをどのように並行させるべきかを考える材料になる判決です。

目次
  1. 裁判例の基本情報
  2. 当事者の表記
  3. 事案の概要
    1. 祖母が、会社の株式と上場株式を子の一人に生前贈与していた
    2. 遺産分割案が示され、株式は「三年以内生前贈与分」と記載されていた
    3. 原告NKT氏は、贈与は無効であるとして2件の遺産確認訴訟を起こしたが、いずれも敗訴した
    4. 敗訴の後、原告らは遺留分減殺の意思表示をし、本件訴訟を提起した
  4. 事案の経緯の時系列
  5. 当事者の請求と主要な主張
    1. 原告らの請求
    2. 争点
    3. 主要な主張の対比
  6. 結論を左右した争点
  7. 裁判所が認定した重要な事実と判断の枠組み
    1. 判断の枠組み―贈与の無効を争っている場合の起算点
    2. 判断の枠組み―遺留分減殺の意思表示は明確でなければならない
    3. 結論を支えた事実
  8. 第一審の判断
    1. 本件分割案が示された日は起算点ではない
    2. 遅くとも第一次訴訟の控訴審判決の言渡し頃には、減殺できる贈与があることを知っていた
    3. 第一次訴訟・第二次訴訟の提起は、遺留分減殺の意思表示に当たらない
    4. 遺産分割調停申立書の証拠提出も、意思表示に当たらない
    5. 準備書面の「遺留分」の文言も、意思表示とは認められない
    6. 遺産分割協議に応じなかったことも、黙示の意思表示とは認められない
    7. 消滅時効の抗弁を認め、その余の争点は判断しなかった
  9. 各主張を採用し又は排斥した理由
    1. 各主張の結論の一覧
    2. 原告らの「特段の事情」の主張が通らなかった理由
    3. 訴訟活動が遺留分減殺の意思表示と認められなかった理由
  10. 主文及び結論
  11. 審級ごとの結論の推移
  12. 改正前の民法が適用された事案であること(当事務所の説明)
  13. 判断の射程
    1. 参考となる点
    2. 一般化できない点
  14. よくあるご質問
    1. 親が兄弟姉妹の一人に会社の株式を生前贈与していました。贈与は無効だと考えて争うつもりですが、遺留分の請求は、無効の争いが終わってからでもよいですか。
    2. 遺留分の請求の1年の期間は、いつから数えるのですか。
    3. 贈与が無効であるとして遺産確認の訴えを起こしました。それで遺留分の請求をしたことになりますか。
    4. 訴訟の書面に、遺留分として計上してほしいと書いたことがあります。それで足りますか。
    5. 遺産分割案に納得できず、協議に応じていません。それで遺留分を請求したことになりますか。
    6. 令和元年7月1日より後に親が亡くなった場合も、同じように考えればよいですか。
  15. 関連する記事と御相談のご案内

裁判例の基本情報

審級 裁判所 裁判日 事件番号 裁判の形式 結論
第一審 東京地方裁判所 平成28年2月26日 平成26年(ワ)第25079号 判決 請求棄却。原告らの請求をいずれも棄却し、訴訟費用は原告らの負担

この判決に対する控訴の有無、及び判決の確定については、確認できていません。判決本文には、この判決に対する上訴に関する記載はありません。また、本件の別の審級の判決本文は割り当てられておらず、判決本文にも本件の別の審級の判決への言及はありません。判決本文には、本件に先立って原告らの一人が提起した2件の遺産確認訴訟(後記の第一次訴訟及び第二次訴訟)の経過が記載されていますが、これらは本件とは別の事件です。この表は、判決本文の冒頭、主文及び理由の記載に基づいて当事務所が作成したものです。

当事者の表記

判決に出てくる会社名・氏名は、本記事独自のイニシャルに置き換えています。判決本文が用いた仮名の氏名や符号も、そのままでは使わず、次の表記に置き換えています。

本記事の表記 立場
被相続人TKE氏 平成21年4月13日に死亡した方。生前、自分が所有していた会社の株式等を、子である被告YMD氏に贈与しました。原告らにとっては祖母に当たります
亡MRN氏 被相続人TKE氏の夫です。判決本文では、本件分割案(後記)は亡MRN氏の自宅で原告らに提示されたとされています。被告YMD氏は、亡MRN氏が平成24年12月3日に死亡したと主張しています
亡SGR氏 被相続人TKE氏の子で、原告ら3名の親です。判決本文では「亡」と表記されており、既に死亡しています
原告NKT氏 原告の一人で、亡SGR氏の子。本件に先立ち、贈与された株式が被相続人TKE氏の遺産であることの確認を求める2件の訴訟(第一次訴訟及び第二次訴訟)を提起し、いずれも敗訴しました
原告FJW氏、原告OHS氏 原告で、いずれも亡SGR氏の子。第一次訴訟では、原告NKT氏から被告として訴えられた当事者でしたが、被告側の贈与の主張を否認していました
被告YMD氏 被告。被相続人TKE氏の子で、被相続人TKE氏から株式の生前贈与を受けた方です
KBY氏 被相続人TKE氏の遺産について、「相続財産一覧(概算)と分割案」と題する書面(判決本文の「本件分割案」)を作成した方です。判決本文には、被相続人TKE氏や被告YMD氏との続柄は記載されていません
その他の親族3名 第一次訴訟で、亡MRN氏、被告YMD氏とともに被告側の当事者となった方々です。判決本文には、被相続人TKE氏との続柄は記載されていません(判決本文の身分関係図は省略されています)
株式会社RKS 被相続人TKE氏が3000株を所有し、被告YMD氏に贈与した株式の発行会社です。判決本文には、この会社の宅地建物取引業の免許申請書が証拠として出てきます。判決本文では社名が伏せられており、上場の有無、株主構成、事業の内容の詳細は記載されていません
上場株式等 被相続人TKE氏が被告YMD氏に贈与した、上場会社3社の株式です。判決本文では銘柄名が実名で記載されていますが、本記事では記載しません。判決本文が銘柄名を用いて定義した語も、本記事では「上場株式等」と置き換えています

判決本文は、株式会社RKSの株式3000株と、上場株式等を含む贈与の対象となった株式全体とを、それぞれ定義語で呼んでいます。本記事では、前者を「RKS株式」と、後者を判決本文のとおり「本件各株式」と表記します。判決本文を引用する部分では、当事者等の呼称を上記の表記に置き換え、置き換えた箇所を〔 〕で示しています。引用部分の数字は、判決本文の表記のままとしています。

事案の概要

祖母が、会社の株式と上場株式を子の一人に生前贈与していた

被相続人TKE氏は、平成21年4月13日に死亡しました。原告ら3名は、被相続人TKE氏の子である亡SGR氏の子らであり、被告YMD氏は被相続人TKE氏の子です。判決本文は、原告らと被告YMD氏がいずれも被相続人TKE氏の相続人であるとしています。

被相続人TKE氏は、生前、株式会社RKSの株式3000株(RKS株式)と、上場会社3社の株式(上場株式等)を、いずれも被告YMD氏に贈与していました。判決本文の前提事実では、被相続人TKE氏は死亡時に本件各株式を所有していたとも記載されていますが、同じ前提事実の中で、これらの株式を生前に被告YMD氏に贈与したことも記載されています。本件の争点は、この贈与があることを前提とした遺留分減殺請求権の消滅時効でした。

当事者双方の主張によれば、贈与された株式の評価額は次のとおりで、被告YMD氏もこの評価額は認めていました。

贈与された株式 株式数 評価額(当事者間に争いのない額)
RKS株式 3000株 1億2537万円
上場会社の株式(1社目) 3000株 956万4000円
上場会社の株式(2社目) 5000株 442万円
上場会社の株式(3社目) 5600株 538万1600円
合計(原告らの主張) ― 1億4473万5600円

相続開始時に被相続人TKE氏が有していた財産の価額は、原告らが6685万9001円と主張し、被告YMD氏は5654万1739円と主張していました。贈与された株式の中では、RKS株式の評価額が大きな割合を占めていました。

遺産分割案が示され、株式は「三年以内生前贈与分」と記載されていた

平成21年10月4日、亡MRN氏の自宅で、原告らは、KBY氏が作成した「相続財産一覧(概算)と分割案」と題する書面(本件分割案)の提示を受けました。本件分割案には、相続財産として、預貯金(6206万0557円)、現金(83万5000円)、貸付・未収金(384万0210円)、株式・有価証券、会員権、その他財産(貴金属・宝石、着物)等が記載され、また、「三年以内生前贈与分」として本件各株式が記載されていました。ただし、判決の認定によれば、本件分割案では、相続財産のうちの株式や会員権、その他財産、そして本件各株式については、資産価格が算出中又は調査中と記載されていました。

原告NKT氏は、贈与は無効であるとして2件の遺産確認訴訟を起こしたが、いずれも敗訴した

原告NKT氏は、平成22年、RKS株式が被相続人TKE氏の遺産であることの確認を求める訴訟(判決本文の「第一次訴訟」)を、亡MRN氏、その他の親族3名、被告YMD氏、原告FJW氏及び原告OHS氏を相手として提起しました。第一次訴訟では、被告側は、被相続人TKE氏が平成20年11月20日に被告YMD氏にRKS株式を贈与したと主張し、原告NKT氏は、贈与を否認して、被告YMD氏とKBY氏が被相続人TKE氏の実印を無断で使用して贈与契約書を作成したと主張しました。

第一次訴訟は、次の経過をたどりました。

  • 東京地方裁判所は、平成24年4月13日、原告NKT氏の請求を棄却しました。
  • 原告NKT氏は控訴し、東京高等裁判所での口頭弁論がいったん終結した後、その1か月後の平成24年9月24日に初めて、被相続人TKE氏が作成したとする委任状(判決本文の「本件委任状」)があるとして、弁論の再開を求めました。本件委任状には、被相続人TKE氏はRKS株式や上場株式等を譲渡・贈与・売却していない、名義を被相続人TKE氏に戻すこと、などの記載がありました。
  • 東京高等裁判所は、平成25年2月14日、控訴を棄却する判決(判決本文の「第一次訴訟の控訴審判決」)をしました。この判決は、本件委任状について、最初の口頭弁論終結までその存在に一切言及がなかった経過などから、「本件委任状が真正に成立したものと認めることはできない。」と判示しました。
  • 原告NKT氏は上告しましたが、最高裁判所第一小法廷は、平成25年7月24日、上告を棄却し、上告審として受理しない旨の決定をしました。

原告NKT氏は、平成23年にも、上場株式等が被相続人TKE氏の遺産であることの確認を求める訴訟(判決本文の「第二次訴訟」)を提起していました。第二次訴訟では、東京地方裁判所が平成26年3月28日に請求を棄却し、東京高等裁判所が同年8月21日に控訴を棄却し、事件は同年9月6日に確定しました。

なお、本件委任状の作成日付について、判決本文の前提事実には「平成二一年一二月三一日付け」と記載された箇所がある一方、第一次訴訟の控訴審判決を引用した部分や第二次訴訟での原告らの主張を記載した部分では「平成二〇年一二月三一日」とされています。被相続人TKE氏は平成21年4月13日に死亡しているため、本記事では、作成日とされる日を平成20年12月31日として扱います。

敗訴の後、原告らは遺留分減殺の意思表示をし、本件訴訟を提起した

原告らは、平成26年7月18日、被告YMD氏に対し、RKS株式について遺留分減殺の意思表示をしました。また、上場株式等については、平成26年10月23日付けの訴えの変更申立書が被告YMD氏に送達された平成26年11月11日に、遺留分減殺の意思表示をしました。これらの日に意思表示がされたこと自体は、当事者間に争いがありません。

これに対し、被告YMD氏は、平成26年12月12日の本件の第1回口頭弁論期日において、原告らの遺留分減殺請求権について消滅時効を援用しました。

事案の経緯の時系列

時期 出来事(判決本文の記載による)
生前 被相続人TKE氏が、RKS株式3000株と上場株式等を被告YMD氏に贈与(第一次訴訟で、被告側はRKS株式の贈与の日を平成20年11月20日と主張)
平成21年4月13日 被相続人TKE氏が死亡
平成21年10月4日 亡MRN氏の自宅で、原告らが本件分割案の提示を受ける(本件各株式は「三年以内生前贈与分」として記載。資産価格は算出中又は調査中)
平成22年 原告NKT氏が第一次訴訟(RKS株式の遺産確認)を提起(原告らは、提起日を2月17日と主張)
平成23年 原告NKT氏が第二次訴訟(上場株式等の遺産確認)を提起
平成23年3月24日 第一次訴訟で、遺産分割調停申立用紙の1枚目が証拠として提出される(原告らの主張による日付)
平成24年4月13日 第一次訴訟の第一審判決(請求棄却)
平成24年8月17日から平成25年1月17日まで 第一次訴訟で、原告OHS氏の答弁書・準備書面、原告FJW氏の陳述書が提出される
平成24年9月24日 原告NKT氏が、本件委任状の存在を理由に、第一次訴訟の控訴審の弁論の再開を求める
平成25年2月14日 第一次訴訟の控訴審判決(控訴棄却。本件委任状の真正な成立を否定)
平成25年7月24日 最高裁判所第一小法廷が、第一次訴訟について上告棄却・上告不受理の決定
平成26年3月28日 第二次訴訟の第一審判決(請求棄却)
平成26年7月18日 原告らが、RKS株式について遺留分減殺の意思表示
平成26年8月21日 第二次訴訟の控訴審判決(控訴棄却)。同年9月6日に確定
平成26年 原告らが本件訴訟を提起(事件番号による。提起の月日は判決本文に記載がありません)
平成26年11月11日 平成26年10月23日付け訴えの変更申立書の送達により、原告らが上場株式等について遺留分減殺の意思表示
平成26年12月12日 本件の第1回口頭弁論期日で、被告YMD氏が消滅時効を援用
平成28年2月26日 東京地方裁判所が、原告らの請求をいずれも棄却する判決

当事者の請求と主要な主張

原告らの請求

原告らは、遺留分減殺請求権を行使したと主張して、被告YMD氏に対し、原告ら各自に、RKS株式117株を引き渡し、1万9851円及びこれに対する平成26年7月20日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金を支払うよう求めました。

争点

判決本文は、争点を、①原告らの遺留分減殺請求権について消滅時効が成立するか(争点1)、②遺留分侵害額(争点2)の2つとし、争点1をさらに、消滅時効の起算点(争点1―1)と、原告らが遺留分減殺の意思表示を行った時期(争点1―2)に分けています。

主要な主張の対比

争点 原告らの主張 被告YMD氏の主張
消滅時効の起算点(争点1―1) 起算点は、第一次訴訟の敗訴判決が確定した平成25年7月24日である。本件分割案には評価額が不明なものがあり、遺留分算定の基礎となる財産に占める贈与株式の割合は約7割であるから、最高裁判所昭和57年11月12日第二小法廷判決(判決本文の「昭和五七年判決」)の理論は適用されない。仮に適用されるとしても、本件委任状や遺産分割調停申立書、亡MRN氏の発言の録音反訳書、株式会社RKSの宅地建物取引業の免許申請書、陳述書等を総合すれば、原告らは贈与が虚偽であると信じ、そう信じたことに客観的資料があり、遺留分減殺請求権を行使しなかったことがもっともと認められる特段の事情がある 起算点は、本件分割案が示された平成21年10月4日である。原告らはこの日、本件各株式が贈与されたことを認識し、本件各株式の評価額とその他のほぼ全ての財産の額を認識し、又は容易に認識し得た。被相続人の主要な財産が贈与され、その価格を知り又は容易に知り得た場合にも昭和57年判決の趣旨は当てはまる。原告らの主張は、真正な成立が否定された本件委任状のほかに客観的証拠がなく根拠薄弱であり、特段の事情はない。起算点は、遅くとも、本件委任状の真正を否定した第一次訴訟の控訴審判決の言渡日である平成25年2月14日である
遺留分減殺の意思表示の時期(争点1―2) 主位的に、RKS株式については平成26年7月18日、上場株式等については同年11月11日に意思表示をした。予備的に、遺産確認訴訟は固有必要的共同訴訟であるから、民事訴訟法第40条第1項により、第一次訴訟での原告ら3名のいずれかの行為によって原告ら全員が遺留分減殺請求権を行使したことになる。具体的には、(a)第一次訴訟の提起(RKS株式が贈与されたものであれば、予備的に遺留分減殺の意思表示を含む)、(b)遺産分割調停申立書の証拠提出、(c)原告FJW氏の陳述書の提出、(d)原告OHS氏の答弁書・準備書面の提出が意思表示に当たる。さらに、本件分割案に納得できず遺産分割協議に応じなかったことにより、黙示の遺留分減殺の意思表示があったものとみなされる 平成26年7月18日と同年11月11日の意思表示、及び第一次訴訟で各書面が提出されたことは認め、その余は争う。実際に遺産分割調停が申し立てられたことも、遺産分割協議の申入れがされたこともなく、遺産分割協議の申入れに当然に遺留分減殺の意思表示が含まれるともいえない。各書面の提出は意思表示に当たらない。遺産確認訴訟の法的性質と遺留分減殺の意思表示の効果とは関連しない。原告らは本件分割案に何ら異議を述べていない
遺留分侵害額(争点2) 原告らの遺留分割合は各30分の1である。亡MRN氏の遺留分権を原告らが相続した。原告らは相続により何も取得しておらず、遺留分侵害額は各490万9281円である 相続財産の評価額は5654万1739円である。仮に遺留分があるとしても割合は各60分の1である。亡MRN氏は贈与を承諾しており、その遺留分減殺請求権は時効で消滅した。予備的に、民法第1041条に基づく価額弁償の意思表示をする

上の表は、判決本文に記載された当事者の主張を当事務所が要約したものであり、裁判所が認定した事実ではありません。

結論を左右した争点

本件では、被告YMD氏が株式の贈与を受けたこと自体は、第一次訴訟と第二次訴訟の結果を経て、前提となっていました。結論を分けたのは、改正前の民法第1042条前段が定める1年の消滅時効の期間内に、原告らが遺留分減殺の意思表示をしたといえるかどうかです。

そのためには、第1に、1年の期間がいつから進行するのか(起算点)、第2に、原告らがいつ遺留分減殺の意思表示をしたのか(意思表示の時期)の2点を決める必要がありました。原告らが明示的に遺留分減殺の意思表示をした平成26年7月18日と同年11月11日は、当事者間に争いがありません。そのため、起算点が平成25年2月14日頃とされるのか、原告らの主張する同年7月24日とされるのか、そして、それ以前の訴訟活動等に遺留分減殺の意思表示が含まれていたと認められるかが、結論を左右しました。

当事務所の計算では、原告らの主張する平成25年7月24日を起算点とすると、RKS株式についての平成26年7月18日の意思表示は、1年以内にされたことになります。これに対し、起算点を平成25年2月14日又はこれに近い時期とすると、いずれの意思表示も1年を経過した後となります。起算点を数か月前後させるだけで、RKS株式についての結論が分かれる事案でした。

争点2(遺留分侵害額)、遺留分割合、亡MRN氏の遺留分の扱い、価額弁償の抗弁については、判決は、消滅時効の抗弁に理由があるとしたため、判断していません。

裁判所が認定した重要な事実と判断の枠組み

判断の枠組み―贈与の無効を争っている場合の起算点

判決は、改正前の民法第1042条の「減殺すべき贈与があったことを知った時」の意味について、次のように述べました。

「民法一〇四二条にいう減殺すべき贈与があったことを知った時とは、贈与の事実及びこれが減殺できるものであることを知った時と解すべきである。」

そのうえで、判決は、遺留分権利者が贈与の無効を信じて訴訟で争っている場合には、贈与の事実を知っただけで直ちに減殺できる贈与があったことまで知っていたと断定することはできないとしつつ、次のように述べ、この部分の判断について昭和57年判決を参照するとしています。

「民法が遺留分減殺請求権につき特別の短期消滅時効を規定した趣旨に鑑みれば、遺留分権利者が訴訟上無効の主張をしさえすれば、それが根拠のない言いがかりにすぎない場合であっても時効は進行を始めないとするのは相当でないと解すべきである」

つまり、判決の枠組みは、贈与の無効を訴訟で争っていれば時効が当然に止まるというものではなく、無効の主張が根拠を欠くことを認識し、又は認識し得る状態になれば、その時点から時効が進行するというものです(この整理は当事務所によるものです)。

判断の枠組み―遺留分減殺の意思表示は明確でなければならない

判決は、遺留分減殺の意思表示がされると法律上当然に減殺の効力が生じ、贈与等はその遺留分を害する限度で効力を失い、失った部分の権利は遺留分権利者に当然に移転するという効果を確認したうえで、次のように述べています。

「遺留分減殺の意思表示は、新たな権利関係を形成するものであるから、明確にされなければならないと解すべきである。もっとも、同意思表示につき、仮定的な主張もやむを得ない場合もあると考えられ、また、そうでなくても、黙示の遺留分減殺の意思表示が認められる場合もあり得ると解される」

判決は、この部分の判断について東京高等裁判所平成4年7月20日判決を参照するとしています。明確性を求めながらも、仮定的な主張や黙示の意思表示の余地を認めたうえで、本件の個々の行為がそれに当たるかを検討するという枠組みです。

結論を支えた事実

判決が起算点と意思表示の時期の判断で重視した事実は、次のとおりです(判決本文の要約です)。

  • 被相続人TKE氏の財産のほとんど全部が贈与されていたという事情はない
  • 本件分割案では、相続財産のうちの株式や会員権、その他財産、本件各株式の資産価格は、算出中又は調査中と記載されていた
  • 原告らが贈与の虚偽の裏付けとして挙げた遺産分割調停申立用紙の1枚目と亡MRN氏の発言の録音反訳書は、贈与が虚偽であると信じることについての客観的資料とは必ずしも評価し難いものであり、第一次訴訟の第一審判決は、これらを考慮したうえで請求を棄却した
  • 第一次訴訟の控訴審判決は、原告らが重要と認識していた本件委任状について、真正に成立したものと認めることはできないと判示し、株式会社RKSの宅地建物取引業の免許申請書に原告NKT氏の主張する不備があったことを考慮しても、贈与の主張が虚偽であるとの主張は採用できないとした
  • 本件分割案が示されてから第一次訴訟の控訴審判決までに相当の期間が経過し、原告らは、本件分割案で資産価格が記載されていなかった財産についても価値を把握し得る状態にあった
  • 本件各株式のうち、RKS株式の価値が相当程度の割合を占めていた
  • 遺産分割調停申立用紙の1枚目は作成日付が空欄の未完成のもので、実際に遺産分割調停が申し立てられたことはなく、その証拠提出の立証趣旨は、要旨、亡MRN氏が遺産分割調停の申立てに賛同していたことであった
  • 原告NKT氏は、第二次訴訟の本人尋問で、遺産分割(協議)はまだ始まってもいないと思っている旨、他の相続人に異議を唱えたりしたことはまだない旨を供述した

お手元の資料と経緯をお聞きし、進め方の順序をお示しします。

第一審の判断

本件では、判決本文から確認できる審級は、東京地方裁判所の第一審判決だけです。以下では、この判決の判断を争点ごとに紹介します。

本件分割案が示された日は起算点ではない

被告YMD氏は、原告らは本件分割案の提示を受けた平成21年10月4日に、贈与の事実と株式の評価額、その他のほぼ全ての財産の額を認識し、又は容易に認識し得たから、この日が起算点であると主張しました。判決は、次のように述べて、この主張を採用しませんでした(〔 〕内は本記事の表記への置換えです)。

「本件においては、〔被相続人TKE氏〕の財産のうちほとんど全部が贈与されていたという事情はなく、また、本件分割案において、相続財産のうちの株式や会員権、その他財産や、本件各株式については、資産価格につき、算出中又は調査中と記載されていたものである」

そして、原告らが平成21年10月4日に、贈与の事実及びこれが減殺できるものであることを知った、あるいはこれと同視すべき状況にあったとは認められないとしました。本件分割案には「三年以内生前贈与分」として本件各株式が記載されており、贈与の事実自体は示されていましたが、財産の価格が分からない以上、その贈与が遺留分を侵害する、つまり減殺できるものであることまでは知り得なかったと判断したものです。

遅くとも第一次訴訟の控訴審判決の言渡し頃には、減殺できる贈与があることを知っていた

判決は、原告らが贈与の虚偽の裏付けとして挙げた各証拠の内容と、第一次訴訟の第一審判決及び控訴審判決の内容、本件分割案の提示から控訴審判決までの期間の経過、RKS株式の価値が相当程度の割合を占めていたことなどに照らして、次のように判断しました。

「遅くとも、原告らが第一次訴訟の控訴審判決の主文及び判決理由を知った平成二五年二月一四日(同判決の言渡日)又はこれに近い時期においては、原告らは、贈与の無効ないし不存在に係る主張が根拠を欠くことを認識し、または、認識し得べき状態にあったというべきであり、遅くとも同時期には、原告らが、贈与の存在及びこれが減殺できるものであることを知っていたことが推認される。」

こうして、判決は、消滅時効の起算点を、遅くとも平成25年2月14日又はこれに近い時期であるとしました。原告らが主張した、第一次訴訟の敗訴が確定した平成25年7月24日を起算点とする考え方は採られませんでした。

判決は、第一次訴訟の控訴審判決が、原告らが重要な裏付けと考えていた本件委任状の真正な成立を否定したことを重く見ています。判決本文には、原告らが本件委任状について自らの主張の裏付けとして重要であるとの認識を有していたことが認められる旨の記載があります。決定的な証拠とされたものが控訴審判決で否定された時点で、贈与の無効の主張が根拠を欠くことを認識し得たと評価したものと読めます(この読み方は当事務所によるものです)。上告や上告受理申立てをしていても、時効の進行は確定の時まで待たないとされた点に注意が必要です。

なお、第一次訴訟を提起したのは原告NKT氏であり、原告FJW氏と原告OHS氏は第一次訴訟では被告として訴えられた立場でした(両名は、贈与の主張を否認していました)。判決は、原告ら3名について一括して起算点を判断しています。

第一次訴訟・第二次訴訟の提起は、遺留分減殺の意思表示に当たらない

判決は、原告らが明示的に意思表示をした平成26年7月18日と同年11月11日は、起算点から1年の時効期間が経過した後であるとしたうえで、それ以前に遺留分減殺の意思表示があったかを検討しました。

原告らは、第一次訴訟は、RKS株式が遺産であることの確認を求めるとともに、予備的に、RKS株式が贈与されたものであれば遺留分減殺の意思表示を含むものと解すべきであると主張しました。判決は、次のように述べて、この主張を退けました。

「遺留分減殺の意思表示は、具体的な財産について被相続人による有効な贈与等がなされていることを前提とし、その贈与等の減殺を請求するものであり、かつ、その意思表示によって、新たな権利関係を形成するものである。」

そして、原告NKT氏は第一次訴訟で贈与が無効であるとして遺産確認を求めていたのであり、その主張に照らしても、「同訴訟の提起は、遺留分減殺の意思表示とは内容が全く異なるものであり、同提起が遺留分減殺の意思表示を含むと解することはできない」としました。判決は、この部分の判断について東京高等裁判所平成12年7月13日判決を参照するとしています。同じ理由で、第二次訴訟の提起も、遺留分減殺の意思表示に当たらないとしました。

遺産分割調停申立書の証拠提出も、意思表示に当たらない

原告らは、平成23年3月24日に第一次訴訟で遺産分割調停申立用紙の1枚目を証拠として提出したことが、遺留分減殺の意思表示に当たると主張しました。判決は、この1枚目は作成日付が空欄で遺産分割調停申立書としては未完成のものであること、実際にも原告らが遺産分割調停を申し立てたことはないこと、その立証趣旨が、要旨、亡MRN氏が遺産分割調停の申立てに賛同していたことであったことに照らし、遺留分減殺の意思表示に当たるということはできないとしました。

準備書面の「遺留分」の文言も、意思表示とは認められない

原告らは、第一次訴訟で原告OHS氏が提出した答弁書・準備書面、原告FJW氏が提出した陳述書の提出が、遺留分減殺の意思表示に当たると主張しました。特に問題となったのは、原告OHS氏の平成24年11月15日付け準備書面(判決本文の「本件準備書面」)に、「祖母の相続財産遺留分として計上して頂き」との記載があったことです。

判決は、この記載を前後の文脈と併せて読み、本件分割案に記載された預貯金や現金のほかにも預金があると推測できるので、その所在を明らかにしてもらい、相続財産として計上して相続人で分けるべきであるという趣旨の記載であるとしました。そのうえで、次のように述べています(〔 〕内は本記事の表記への置換えです)。

「本件分割案に記載された財産とは別に〔被相続人TKE氏〕の財産が遺されているはずであり、これも計上した上で、分割すべきことを求めている趣旨と解される。」

判決は、本件準備書面には「遺留分」との文言は用いられているものの、株式の贈与が有効であることを前提として、それが原告らの遺留分を侵害するものとして遺留分減殺の意思表示をする趣旨ではないとし、本件準備書面の提出や陳述によって遺留分減殺の意思表示をしたと解することはできないとしました。その余の答弁書、準備書面、陳述書についても、記載内容や、第一次訴訟・第二次訴訟での原告OHS氏と原告FJW氏の主張に照らし、遺留分減殺の意思表示が記載されているとは認められないとしました。

遺産分割協議に応じなかったことも、黙示の意思表示とは認められない

原告らは、本件分割案に納得できず、相当額の遺産分割を求める趣旨で遺産分割協議に応じなかったことにより、黙示の遺留分減殺の意思表示があったものとみなされると主張しました。判決は、原告NKT氏が第二次訴訟の本人尋問で次のように供述したことを指摘しました(〔 〕内は本記事の表記への置換えです)。

「(〔被相続人TKE氏〕の遺産に係る)遺産分割(協議)はまだ始まってもいないと思っている。」

また、原告NKT氏は、他の相続人に対して異議を唱えたりしたことはあるかとの質問に対し、「まだないです。」と供述していました。判決は、これらから、原告NKT氏が、平成21年10月4日、黙示の遺留分減殺の意思表示がされたと認めるに足りるような態様で、本件分割案に基づく遺産分割を拒否するなどの言動に及んだ事実は認められないとし、原告FJW氏と原告OHS氏についても同様であるとしました。

消滅時効の抗弁を認め、その余の争点は判断しなかった

以上から、判決は、原告らが平成26年7月18日及び同年11月11日より前に遺留分減殺の意思表示をしたとは認められず、これらの日の意思表示は、起算点(平成25年2月14日又はこれに近い時期)から1年を経過した後であるとして、「被告の消滅時効の抗弁は、理由がある。」と判断しました。そして、「その余の点を判断するまでもなく」、原告らの請求はいずれも理由がないとして棄却しました。

原告らが予備的に主張した、遺産確認訴訟が固有必要的共同訴訟であることを理由に原告ら3名のいずれかの行為で全員が権利を行使したことになるという主張については、判決は、そもそも各行為が遺留分減殺の意思表示に当たらないとしたため、この点について個別の判断を示していません。

各主張を採用し又は排斥した理由

各主張の結論の一覧

主張 結論 理由の要点
起算点は本件分割案の提示を受けた平成21年10月4日である(被告YMD氏) 排斥 財産のほとんど全部が贈与されていたという事情はなく、本件分割案では株式等の資産価格が算出中又は調査中とされていた
起算点は第一次訴訟の敗訴判決が確定した平成25年7月24日である(原告ら) 排斥 各証拠の内容と第一次訴訟の各判決の内容、期間の経過、RKS株式の割合からすれば、遅くとも控訴審判決の言渡し頃には、贈与の無効の主張が根拠を欠くことを認識し又は認識し得た
起算点は遅くとも第一次訴訟の控訴審判決の言渡日である平成25年2月14日である(被告YMD氏) 採用(「又はこれに近い時期」として) 同上
第一次訴訟・第二次訴訟の提起が遺留分減殺の意思表示に当たる(原告ら) 排斥 遺留分減殺の意思表示は有効な贈与を前提とするもので、贈与の無効を前提とする遺産確認訴訟の提起とは内容が全く異なる
遺産分割調停申立書の証拠提出が意思表示に当たる(原告ら) 排斥 作成日付が空欄の未完成の書面で、調停の申立てもなく、立証趣旨も亡MRN氏が申立てに賛同していたことであった
答弁書・準備書面・陳述書の提出が意思表示に当たる(原告ら) 排斥 「遺留分」の文言があっても、贈与の有効を前提に減殺を求める趣旨ではなく、別の財産を計上して分割すべきことを求める趣旨
遺産分割協議に応じなかったことが黙示の意思表示に当たる(原告ら) 排斥 原告NKT氏自身が遺産分割協議はまだ始まってもいない、異議を唱えたことはまだないと供述しており、遺産分割を拒否するなどの言動の事実が認められない
消滅時効の抗弁(被告YMD氏) 採用 明示の意思表示はいずれも起算点から1年を経過した後
遺留分割合、遺留分侵害額、価額弁償の抗弁 判断せず 消滅時効の抗弁に理由があるため、判断の必要がない

原告らの「特段の事情」の主張が通らなかった理由

原告らは、本件委任状などを根拠に、贈与が虚偽であると信じ、そう信じたことに客観的資料があったのだから、遺留分減殺請求権を行使しなかったことにはもっともな事情があると主張しました。判決は、遺産分割調停申立用紙の1枚目と亡MRN氏の発言の録音反訳書は、贈与が虚偽であると信じることについての客観的資料とは必ずしも評価し難いものであるとし、第一次訴訟の第一審判決はこれらを考慮したうえで請求を棄却したと指摘しました。また、本件委任状は控訴審の口頭弁論終結後に初めて提出され、控訴審判決で真正な成立が否定されました。

判決は、第一次訴訟の第一審判決の時点を起算点とはしていませんが、控訴審判決によって、原告らが最も重要と考えていた証拠の価値が否定された段階で、もはや無効の主張に根拠がないことを認識し得たと評価しました。上告審の判断を待っていたという事情は、時効の進行を妨げる事情とはされませんでした。

訴訟活動が遺留分減殺の意思表示と認められなかった理由

判決の考え方の中心は、遺留分減殺の意思表示は、有効な贈与があることを前提として、その減殺を求めるものであるという点にあります。贈与が無効であるとして遺産であることの確認を求めることは、贈与が有効であることを前提にその効力を一部失わせることとは、前提が正反対です。そのため、贈与の無効を主張する訴訟の提起や、その訴訟の中で提出された書面に、遺留分減殺の意思表示が当然に含まれるとはされませんでした。

判決は、仮定的な主張もやむを得ない場合があることや、黙示の意思表示が認められる場合があることも認めていますが、本件では、各書面の記載内容、原告らの訴訟上の主張、原告NKT氏の本人尋問での供述からみて、贈与の有効を前提に減殺を求める意思が表れていたとは認められませんでした。「遺留分」という言葉が書面に書かれていても、その趣旨が別の遺産の計上を求めるものであれば、遺留分減殺の意思表示とはならないことが示されています。

主文及び結論

判決の主文は、次のとおりです。

一 原告らの請求をいずれも棄却する。

二 訴訟費用は原告らの負担とする。

「原告ら」は原告NKT氏、原告FJW氏及び原告OHS氏を指します。判決は、末尾で「以上によれば、その余の点を判断するまでもなく、本件各請求はいずれも理由がないので、これらを棄却することとし、主文のとおり判決する。」と述べています。原告らの請求は全部棄却されました。

この結果、RKS株式の引渡しも、金銭の支払も認められませんでした。原告らが受贈者である被告YMD氏に対して遺留分を主張する途は、消滅時効によって閉ざされたことになります。

審級ごとの結論の推移

項目 第一審判決(東京地方裁判所平成28年2月26日) 上訴審
消滅時効の起算点 遅くとも平成25年2月14日又はこれに近い時期 確認できていません
平成26年7月18日・同年11月11日より前の遺留分減殺の意思表示 否定 確認できていません
消滅時効の抗弁 理由あり 確認できていません
遺留分割合・遺留分侵害額・価額弁償 判断せず 確認できていません
請求(株式の引渡し及び金銭の支払) 全部棄却。訴訟費用は原告らの負担 確認できていません

判決本文には本件の上訴に関する記載がなく、控訴の有無及び判決の確定は確認できていません。本記事は、第一審判決の判断を前提としています。なお、上の表の「上訴審」は本件の上訴審をいい、本件に先立つ第一次訴訟・第二次訴訟の上級審とは異なります。

改正前の民法が適用された事案であること(当事務所の説明)

本件は、平成21年に開始した相続であり、令和元年7月1日に施行された民法の改正前の規定(遺留分減殺請求)が適用された事案です。以下は、判決本文に記載されたものではなく、判決の判断と区別して当事務所が説明するものです。

  • 令和元年7月1日以降に開始した相続では、遺留分減殺請求は遺留分侵害額請求に改められ、遺留分を侵害された相続人は、受贈者等に対し、侵害額に相当する金銭の支払を請求することになりました(民法第1046条第1項)。本件の原告らのように、株式そのものの引渡しを求める形にはなりません。
  • 遺留分侵害額請求権についても、遺留分権利者が相続の開始と遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは時効によって消滅し、相続開始の時から10年を経過したときも同様とされています(民法第1048条)。1年の期間制限が置かれている点は、改正の前後で変わりません。
  • 改正後の民法では、相続人に対する生前贈与は、原則として相続開始前の10年間にされたもので、婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与の価額に限り、遺留分を算定するための財産の価額に算入されます(民法第1044条第3項)。

改正後の規定の下で、本判決の起算点や意思表示に関する考え方がそのまま用いられるかどうかは、本判決からは分かりません。

判断の射程

以下は、判決の内容を踏まえた当事務所の評価です。判決が述べた事項と区別してお読みください。

参考となる点

  • 贈与の無効を訴訟で争っていても、遺留分の請求の期間は進行し得ること。本判決は、贈与の無効の主張が根拠を欠くことを認識し、又は認識し得る状態になった時点から時効が進行するとし、敗訴判決の確定を待たず、控訴審判決の言渡し頃を起算点としました。上告や上告受理申立てをしていることは、時効の進行を止める理由とはされませんでした。
  • 贈与の無効の主張と、遺留分減殺の意思表示とは別に行う必要があること。本判決は、遺産確認訴訟の提起は、有効な贈与を前提とする遺留分減殺の意思表示とは内容が全く異なるとしました。贈与の効力を争う場合でも、贈与が有効とされたときに備えて、遺留分を請求する意思を明確に表示しておく必要があることを示す例です。
  • 書面に「遺留分」という言葉があるだけでは足りないこと。本判決は、準備書面に「遺留分」の文言があっても、その趣旨が別の遺産の計上を求めるものであれば、遺留分減殺の意思表示とはならないとしました。誰に対し、どの贈与について、減殺(改正後は金銭の支払)を求めるのかを明確にする必要があります。
  • 遺産分割協議に応じないだけでは、遺留分の請求をしたことにならないこと。本判決は、遺産分割を拒否するなどの言動の事実が認められないとして、黙示の意思表示を否定しました。原告の一人が本人尋問で遺産分割協議はまだ始まってもいない、異議を唱えたことはまだないと供述していたことも、判断の根拠とされました。
  • 遺産分割案を示されただけでは、起算点とならない場合があること。本判決は、財産のほとんど全部が贈与されたという事情がなく、分割案で株式等の資産価格が算出中又は調査中とされていた段階では、減殺できる贈与があることを知ったとはいえないとしました。

一般化できない点

  • 本判決は、個別の事実関係を踏まえて起算点を遅くとも平成25年2月14日又はこれに近い時期と判断したものです。本件では、原告らが重要と考えていた委任状の真正な成立が控訴審判決で否定され、それ以前の第一審判決も請求を棄却していました。贈与の無効の主張に相応の根拠がある場合や、控訴審で判断が分かれた場合に、同じ時期が起算点とされるとは限りません。
  • 本件では、贈与の目的の中心が会社の株式であり、相続財産の全部ではないものの、贈与された株式の評価額が大きな割合を占めていました。財産の構成や、相続人がその価値を把握できた時期が異なれば、起算点の判断も異なり得ます。
  • 本判決は、遺産確認訴訟が固有必要的共同訴訟であることを理由に、相続人の一人の行為で他の相続人も権利を行使したことになるかという点については、判断していません。
  • 本判決は、遺留分割合、遺留分侵害額、亡MRN氏の遺留分の扱い、価額弁償の抗弁については判断していません。贈与された株式の価額の算定方法なども、本判決からは分かりません。
  • 本件は改正前の民法が適用された事案です。令和元年7月1日以降に開始した相続には、遺留分侵害額請求に関する改正後の規定が適用されます。
  • 判決に対する控訴の有無、及び判決の確定は、確認できていません。

よくあるご質問

親が兄弟姉妹の一人に会社の株式を生前贈与していました。贈与は無効だと考えて争うつもりですが、遺留分の請求は、無効の争いが終わってからでもよいですか。

本件では、贈与の無効を求める訴訟で敗訴が確定してから遺留分の請求をした相続人らの請求が、消滅時効を理由に棄却されました。判決は、遅くとも控訴審判決の言渡し頃には時効が進行していたとし、確定の時を起算点とする主張を採りませんでした。贈与の効力を争う場合でも、贈与が有効とされた場合に備えて、遺留分を請求する意思を早い段階で明確に表示しておくことが重要です(この説明は当事務所によるものです)。

遺留分の請求の1年の期間は、いつから数えるのですか。

改正前の民法第1042条について、本判決は、贈与の事実及びこれが減殺できるものであることを知った時から数えるとしました。贈与の無効を信じて訴訟で争っている場合には、贈与の事実を知っただけでは直ちに起算点とはならないものの、無効の主張が根拠を欠くことを認識し、又は認識し得る状態になれば、その時から進行するとしています。改正後の民法第1048条も、相続の開始と遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年としています(改正後の規定の説明は当事務所によるものです)。

贈与が無効であるとして遺産確認の訴えを起こしました。それで遺留分の請求をしたことになりますか。

本判決は、遺産確認訴訟の提起は、遺留分減殺の意思表示とは内容が全く異なるものであり、遺留分減殺の意思表示を含むと解することはできないとしました。遺留分減殺の意思表示は、有効な贈与があることを前提にその減殺を求めるものだからです。判決は、仮定的な主張もやむを得ない場合があり得るとしていますので、贈与の無効を主張しつつ、仮に贈与が有効であれば遺留分を請求するという意思を、相手方に対して明確に示しておくことが考えられます(この説明は当事務所によるものです)。

訴訟の書面に、遺留分として計上してほしいと書いたことがあります。それで足りますか。

本件でも、相続人の一人が提出した準備書面に「遺留分」の文言がありましたが、判決は、前後の文脈から、別の財産があるはずなのでそれも計上して分割すべきであるという趣旨であると解し、遺留分減殺の意思表示とは認めませんでした。書面に「遺留分」という言葉があるかどうかではなく、どの贈与について、誰に対して、遺留分に基づく請求をするのかが読み取れるかどうかが問われます。

遺産分割案に納得できず、協議に応じていません。それで遺留分を請求したことになりますか。

本判決は、遺産分割協議に応じなかったことによる黙示の意思表示の主張を退けました。原告の一人が、本人尋問で、遺産分割協議はまだ始まってもいないと思っている、他の相続人に異議を唱えたことはまだないと供述していたことなどから、遺産分割を拒否するなどの言動に及んだ事実は認められないとされました。協議に応じないという態度だけでは、遺留分の請求をしたと評価されないおそれがあります。遺産分割の協議や調停の場面でも、生前贈与について遺留分を請求する意思は、別に明確に示しておくことが重要です(この説明は当事務所によるものです)。

令和元年7月1日より後に親が亡くなった場合も、同じように考えればよいですか。

令和元年7月1日以降に開始した相続には、改正後の民法が適用され、遺留分減殺請求は、金銭の支払を求める遺留分侵害額請求に改められています。株式そのものの返還を求める形にはなりませんが、知った時から1年という期間制限は改正後も置かれています(民法第1048条)。本判決は改正前の民法を適用したものであり、改正後の規定の下で同じ判断がされるかは、本判決からは分かりません(この説明は当事務所によるものです)。

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